俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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27.戦士の話・その5

 裁判所を脱出してからすぐに俺らは、弁護団の二名と合流した。

 リーダーの無茶には思うところがあったらしいが、どうにも昔からやけに直情径行な面があるらしく、俺らの救助のため単身イヴォアールに立ち向かっていることについて、さして驚いている様子はなかった。

 

 意外だったのが検察の方々の行動だった。

 

 裁判に姿を見せていなかった、渋カッコいい感じの検事局長さんが来ていたんだけど、その人はあの青スーツの弁護士さんの親友であるらしい。

 若い時から変わらぬ無茶に呆れながら、すぐさまイヴォアールを女王誘拐犯と国家転覆犯として始末するよう兵の編成を速やかに行い、精鋭部隊を裁判所に差し向けていた。俺らから事の顛末を聞いてから行動を起こすまでが迅速だった。

 

 勇者パーティこそが女王誘拐犯だと主張していた他の検察たちも、職務上当然のことをしただけだと言いながらも、俺らをもう犯罪者だと糾弾するような真似はしなかった。それどころか、証拠品として保管してくれていた俺らの所持品を全部まとめて返してくれた。当然のことながら、金もくすねられてなんかいなかった。

 

 その上で、下着姿でいるジョーヌに対して、鞭を持ってる女検察官がローブを取り寄せてくれて着せてくれたんだ。キツい性分なのは法廷での姿でわかってたけど、根は優しいんだろうな。

 

 で、だ。

 城下の安全な場所まで移動した後、弁護団の二名と検察官の方々により『海鳴りの(ほこら)』だとかいう場所が実際どこにあるのかを、懇切丁寧に教えてもらったんだ。城下町周辺の地図を見せてくれたんだけどね、海底にもこういう地図があるんだなって驚いたな。

 

 腕輪をしていた、いかにも熱血そうな弁護士の赤ジャケットを着たお兄ちゃんが、その(ほこら)について説明してくれた。

 

『人間も魔族も容赦なく食う太古の魔物が封印されているという伝説がある場所なんですよ。王族関係者以外は入れないように、厳重に鍵がかけられていたはずなんですけど……』

 

 それを聞いた俺らは思った。

 イヴォアールの目的のひとつには、その魔物を解き放つってのもあるんじゃないだろうかってね。

 

『有り得ない話じゃないかもですね。わたしたちは、その方法はまるでわかりませんが……何せ宰相という立場であれば、王家の書庫にもアクセス出来たでしょうし……』

 

 俺らの推測に、黄色いスーツの女弁護士さんも同意してくれた。

 

『だから縁故採用には反対だったんだよ。前のじいさんもそうだったんだがなァ、地上にいる魔王軍の連中なんざ信用するべきじゃねェって女王様にも進言したんだがねェ……』

 

 法廷内で手刀を放ち弁護団を遠距離攻撃してた、ちょっと怖い雰囲気の検察官が、怒りを隠す様子もなくそんなことを言っていた。

 

 このときに俺らは聞かされたんだが、海底の魔族というのは、魔王軍の主張とやり方について行けずに逃れてきた者達が一国を形成して寄り集まっているらしいんだ。

 

 ときどき、同じような結論に至って、水の中で生きる術を身につけてから地上からやってくる者もいるみたいなんだけど、そのほぼ全部が、ここでの生活が合わなくて結局、地上に戻っちまってるらしい。

 

 長くここに住むと目が色を識別出来なくなっちまうのが嫌なんだと。……貝殻から発せられてる光のせいじゃないだろうな。俺ら、大丈夫かな。

 

 どちらにせよ、その多くは戦闘能力をロクに持たない者ということらしくてね。今、裁判所でイヴォアールの鎮圧に向かっている精鋭部隊なんかは、結構貴重らしいよ。

 

『お前たち海底の民が魔王軍に恨みがあるということなら、何故、四天王を要職に置いていたのだ』

『クッ……! それはな、女王様に似たお嬢ちゃん。コーヒーは水なしには作れない、ということ、だぜ』

 

 ジョーヌの疑問に答えたのは、弁護団にコーヒー投擲攻撃をしていた、ガタイがよくて目の周りに妙なデザインのマスクをした男。色を識別できない海底の魔族の中でも一際(ひときわ)目が悪いらしい。そのマスクがないと何も見えないみたいなことを言っている。

 

 そんな彼の例え話はちょっとよくわからなかったが、頑張って紐解くと、四天王は単体でも一個師団を凌ぐ戦力であるから、それが庇護してくれてようやく国が他からの干渉を受けずに住む磐石(ばんじゃく)な状態を作れてたって話っぽいね。

 

 実際、前の宰相であるグリーズなる魔族は、魔王軍にとっての裏切り者に等しい海底の者達を糾弾するのではなく、自らの意志で守るために、四天王としての職務と二足の草鞋(わらじ)で海底国のために尽くしてくれていたのだそうだ。

 

 当初は四天王に逆らったらどうなるかわからないから怯えていた国民も、彼の長年の献身により互いに信頼していったらしい。

 

 そんな人物からの後任として、直々に当てがわれたのがイヴォアール。もちろん期待の声も高かったらしいのだが、見事に裏切られたというわけだ。

 余談だが、例のクマもイヴォアールが就任してからの裁判官抜擢だったらしい。地上から来てたヤツだそうで、どおりで色が判別出来てたんだね。

 

『弁護士も検察官も、貴重な情報を教えてくれてありがとう。乗り掛かった船だ、俺たちが女王アジュールを救出に向かう。(ほこら)の鍵というのは、どうすればいいんだ?』

 

 戦闘能力のある弁護士たちも検察官たちも、宰相の裏切りという国を揺るがす一大事に、持ち場を離れるわけにはいかない。

 かつ、兵たちも裁判所で対応に追われているのと、他の襲撃者に備えて城や城下の警護を務めなければならず、身動きが取れないだろう。

 

 女王救出の折には最悪、イヴォアールの手の者と戦闘になることが予想されるが、そうなっちまうと戦力的な話、俺ら五人以外に来られても足手まといになりかねないと思ったんだよな。

 海底に降り立ったときに百人くらいの魔族に囲まれたわけだが、そのときの武器の構えで察するものがあって。

 そういった思考から、他に協力者は不要だと正直に伝えたんだけど、検察官たちは怒ることもなく了承してくれた。

 

 俺らの希望に沿って戦力は派遣せず国の防衛に当てるが、女王様を救出できた時のために備えて、裁判所の対応が終わり次第、動ける者を後で寄越すって。何もかも勇者パーティに対しておんぶにだっこじゃダメだと。気持ちはよくわかるから、それについては拒否する理由もなかったね。

 

『鍵ですが……拙僧が予備の鍵を管理しております。一応、王族の血縁でしてね』

 

 数珠を投げて弁護団の行動を封印してた、優雅な佇まいの検察官。

 一人称が指し示す通り僧侶もやっているらしく、回復魔法などの心得もそれなりにあるとのことで、状態異常を付与する魔法も使えると豪語していた。

 

 彼が鞄の中から小さな箱を取り出し、呪文を唱えて開錠すると、中から豪華な鍵が現れた。それこそが、(ほこら)の錠を解く為の代物らしい。

 

『女王様の救出を、外部の、しかも勇者一行に頼まなければならないというのは、あらゆる意味で心苦しい事態です。しかし、貴方がたに頼らなければもはやどうしようもないのも事実。鍵を託しましょう。どうかアジュール様をお救いください』

『……いいのか? 貸しちゃっても』

 

 腕輪をした赤ジャケットの弁護士は、この僧侶検察の人と友人らしく。俺らに鍵を渡すという判断が、国にとって重たいものだと知っていたからか、そんな風に心配そうな声を上げていた。

 

 だけど、僧侶検察はニコリと微笑んでこう返したんだ。

 

『国にとって最善の行動こそが拙僧らに求められるもの。諦めてはなりません。何があっても』

 

 そんな彼の言葉に深く感銘を受けて。

 悪い想像を何もかも吹き飛ばしながら、俺らは見送られながら城下町を出発した。

 

 

*****

 

 

 城下町から離れた途端、俺たちは海中に生息するモンスターたちと何度も接敵することになった。

 元々の海洋生物が凶暴化したものがほとんどだったが、中には本来地上に住んでいたはずなのに、海で生きることに適応してしまった奇妙な連中も混じっていた。

 

 海の中を人間が歩き回っているという異常な状況は、モンスターたちにとっちゃ、ご馳走がぶらついているようなもんだろう。

 もちろんだけど、大人しく食われてやるつもりは毛頭ない。俺たちは体力の消耗を抑えつつ、勇者様と戦士様の物理攻撃をメインに据えて群がる敵をぶっ飛ばしていった。

 

 法廷で無力感に苛まれていたアルジャンは、愛剣を手に取ったことで完全にいつもの調子を取り戻していたし、ジョーヌも激しい水流の音を立てながら剛斧を豪快に振り回していた。

 あ、そうそう。ジョーヌが羽織ってたローブは検察官のお姉さんに返却して、証拠品の中にあった普段着を身に付けてたよ。やっぱいつもの動き慣れた衣装が一番みたいだ。防御力も結構高くて安心なのだとか。

 

 物理攻撃が効きにくい連中は、魔道士様が景気よく爆裂魔法で粉砕していき、三人の高火力をもってしても撃ち漏らしが出れば、僧侶様がメイスで的確にトドメを刺していく。

 

 俺の仕事は、相変わらず突っ立ってるだけだ。でも、悲観しちゃいない。

 俺がそこに立っているだけで、勇者パーティの戦力が底上げされ、多大な貢献が出来ているという実感は、確かにあったからね。

 

 ただ、いかんせんヒマなもんで、色々と余計な思考を巡らせていたな。

 

 水ん中で普通に歩けて、持参した水筒の飲み物も飲めて、さらにはブラウの魔法で火まで出せるって、一体どんな原理が働いてるんだろう、とか。

 改めて、海中で息が続くこの術式っつーのはすげーな、とか。

 一度かかれば人間の場合、寿命が尽きるまで消えない見込みだと筆頭魔道士の彼は言っていたが、もしその見立てが間違ってて不意に術が解けたら、俺たち全員一瞬で溺死するんじゃないか……とか。

 

 っていう下らない想像ができるのも、今の状況にまったく危険がなくて安全な証拠だ。

 それだけ俺ら勇者パーティが最強だってこった。俺自身が直接攻撃に参加できないことに、歯痒さを全く覚えてないと言えば嘘になっちまうけどな。

 

 ……そんなこんなで。

 直前に弁護団から貰った地図を頼りに、目印になるものを追いながら東へ東へと進んできたんだけど。

 

『見えましたよお! あれが多分、「海鳴りの(ほこら)」じゃないですかあ!?』

 

 ブラウが指差した先には、いかにもな古めかしい石造りの建物が鎮座していた。

 長い年月を海底で耐え抜いてきたような、苔むした不気味な外観。弁護団の方々から聞いていた特徴と完全に一致しているから、場所は間違いないだろう。扉らしきものはなく、ぽっかりと口を開けた地下への階段が覗いているが、果たしてあの暗がりの先に女王様は囚われているんだろうか。

 

『どうにも怪しいわね。一国の(あるじ)を捕らえているというのに、見張りの一体も置いていないなんてこと、有り得るのかしら?』

 

 俺らの僧侶様が、しきりに周囲を窺いながら(いぶか)しんでいた。

 そう、ここまで来る道中では嫌ってほど魔物たちと交戦してきたわけだけど、肝心の(ほこら)の前には敵の影も形もない。つーか、俺ら以外に誰もいないのだ。パーティの中で一番冷静な思考を持つルージュじゃなくたって、何かしらの罠の存在を疑っちまうのは当然ってモンだよな。

 

 しかし、ここで豪胆なセリフを言い放つのが我らが戦士様だった。

 

『罠だろうと関係ない。何に引っかかろうとも、全てぶち壊してしまえば済むことだ。いつものようにな』

 

 ルージュが警戒し、ジョーヌが力強い言葉で俺らを勇気づける。

 もはやこれは俺ら勇者パーティのお約束と言ってもいいやり取りだったが、最終的な行動決定権は当然、リーダーであるアルジャンに委ねられている。勇者様が進むと言えば進むし、止まると言えば止まる。そこに不平不満を言う者は、俺らの中には皆無だ。

 

『少し接した感じ、あのイヴォアールという男はひどく周到だった。ルージュの言う通り、何もないはずがない』

『そもそも……今更だけど。あのクマの魔導人形が、本当のことを言ってくれているという保証もないものね』

 

 ルージュの懸念は俺の懸念でもあった。最悪の想像を働かせることにかけては俺も得意だからね。

 

 例えばさ、あのクマはイヴォアールを裏切ったように見せかけて、(ほこら)の情報を俺らに提供した。そして、まんまと信じ切ってやって来た俺らを、ここで一網打尽にする策。女王様はここにはいない。……十分考えられるだろ?

 とはいえだ。あの裁判官が放った地名以外に、ロクな手掛かりがないのもまた事実だ。海底国の兵士たちが血眼になって探し回っても見つからず、まだ捜索の手が入っていないめぼしい場所と言えば、この(ほこら)くらいなものなのだから。

 

『行くぞ。もし罠だったとしても、俺ら五人なら突破できる。魔王軍に連なる戦力をここで削ぎ落せる戦いだと考えればいい』

 

 勇者アルジャンという男は、俺らを奮い立たせる台詞や、その理由づけの説明が本当に上手い男だ。今回も御多分に漏れない。

 剣の矛先を(ほこら)の入り口へ向ける、頼もしい彼の背中に続いて、俺らも地下へと足を踏み入れることにした。不可視の結界が張られているとか、そういった魔術的な仕掛けもなく、ただただ底知れぬ不気味な雰囲気ばかりが漂ってた。

 

 

 

 地下は不思議な空間だった。深い海底からさらに下へと降りて行ったはずなのに、まるで地表に上がっちまったかのように、周囲から海水が消え去っててさ。

 肌にまとわりつくような重々しい湿気と、骨まで凍りそうな冷気。今にも亡霊が目の前に現れてきそうな威圧感に、ブラウがガタガタ震えながら先頭を行くアルジャンにしがみついてた。

 

 なげー階段を降りている最中に、これまたでかくて荘厳な扉が現れた。中央には鍵穴がある。僧侶検察の方が俺らに託してくれた鍵がバッチリとハマりそうな感じだった。

 

『開けるぞ』

 

 アルジャンの短い意思表示に俺らは頷き、鍵穴に鍵を差し込むと。

 ズゴゴゴゴ……と、地鳴りのような物凄い音を立てて、扉が動き始めた。分厚い石の扉が真っ二つに割れるような感じで、左右にゆっくりと開いていく。

 

『……不安になってきたな。本当に女王はここにいるのか?』

 

 急にアルジャンがそんな心配をし始めた。

 やめてくれよ、お前がビビったら、俺らも怖くなっちまうだろうが、なんて思ったね。

 

『イヴォアールが本鍵を手に入れていて、ここに女王様を閉じ込めた……有り得ることだと思いますけどねえ』

 

 珍しくブラウがアルジャンを安心させるようなことを言っている。

 いつもは逆だし、アルジャンが日和(ひよ)るとフォローを入れるのはルージュなことが多いんだけどね。その珍しさに、アルジャンが思わず目を見開いたくらいだ。

 

『そうだな。足を踏み入れると決断したのは俺だ。すまん、不用意な発言をして』

 

 自省した後、アルジャンは意を決して前進する。当然、俺らも続いた。勇者を置いて逃げるなんて選択肢はあり得ない。

 

 扉の奥は、とてつもなく開けた大空間になっていた。

 空間の周囲を取り囲むように、海水が轟音を立てて滝のように流れ落ちており、その先は一筋の光も届かない底なしの奈落へと続いている。吹き飛ばされたり、足を踏み外したりしたら一巻の終わりだろうなと、覗き込んだだけで背筋が凍る思いだ。

 

 太古の化け物を封印しているという伝説だけど、それらしき巨獣の姿はまったく見当たらない。

 巨大なモンスターが格納されていてもおかしくないほどに広々とした空間なことは間違いないんだけど。

 

 ただ、その広間の……中央に。誰かが倒れていた。

 

 突っ伏しているから顔は見えないが、絢爛(けんらん)なドレスを着た、白よりの青髪の女性だということは確かだった。

 

――女王アジュールだ。俺らが全員、一瞬にしてそう認識したよ。

 

『大丈夫か! 助けに来たぞ!!』

 

 真っ先に声をかけたのは戦士ジョーヌ。一番最初に弾かれたように駆け寄ろうとしたのも彼女だ。

 そんなジョーヌにつられて、俺も思わず走り出していた。一瞬反応が遅れて、女王様を治癒すべきルージュが、それに続いてアルジャンとブラウが俺らを追うようにして足を動かした。

 

 そのときだ。

 強烈な轟音と共に、足元の地面が大きく揺れた。気のせいじゃない、明確な地鳴りだ。

 

『なんだ!?』

 

 ゴゴゴゴゴッ、と凄まじい音を立てて盛り上がっていく地面。俺らは突然の揺れに体勢を崩し、身動きが取れなくなった。

 そして。気が付けば……。

 

 俺とジョーヌ。そして後続の三人の間に。分厚く、そそり立つような、巨大な地面の壁が出来上がっちまっていた。

 そう、俺たちは完全に二手に分断されちまったんだ。アルジャンたちが入口の近くに。そして俺とジョーヌが……女王の近くに。




女神「魔族の女王を助けるのに必死過ぎますね。命をかけるべき相手ではないのですが……。そうだ、豆知識ですが、魔族と魔物は結託している場合とそうでない場合があります。魔族も手を焼く魔物、という存在もあるみたいですよ。この(ほこら)に封印されているという化け物はそれに当たるのでしょうね」

次回更新:2026年7月16日予定(やや執筆ペース落ち気味なので前後するかも?)
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