俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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も、もうちょっとだけ続くんじゃ……。
割とこの五人が気に入ってしまって。そういうことってあるよね。
でもあんまり続くとギャグじゃなくなっていくから……。


3.はじまりの話

 勇者だが、どうやら今かかった『筋肉量』へのバフがとても気に入ったらしい。

 

 こいつの性格上、当然、俺を(おもんぱか)って「絶対に嫌だ」と言ってくれた部分もあるのだろう。

 だが、それよりも今のムキムキマッチョマンになっている状態に対して目を輝かせ、部屋の片隅にある姿見に向かって色々と変なポーズを取り続けている。これを解除したくないんだな。

 

 ずっと「頼れる感じの男になりたい」って言ってたもんなあ。

 俺ら四人は最初からずっと「お前は十分に頼れる男だろ」というスタンスだったが、こういう肉体派になりたいという願望があったのなら、俺らの言葉にどこか納得いっていなかった理由も、今なら理解できるわ。

 

 てか、それ一時的なバフの効果だけどいいのか? 

 時間が切れたら、雨に濡れた子犬みたいにシュンとなっちまうんじゃないのか。

 

 しかも素っ裸になっちまっているのだが……こいつを恋愛的に好きなはずの女性陣三名は、誰一人として今の勇者を注視していなかった。

 

 銀髪魔道士は、『悲しさ』に最大値までのバフが入ってしまったのだろう。

 部屋の隅で膝を抱えて、ぐすぐすと泣き続けている。

 

 とりあえず思ったのは、『性欲』にバフが入ったままじゃなくて本当に良かった、ということだ。

 もしそのままだったら、裸になった勇者になりふり構わず襲い掛かっていた可能性がある。他人の情事ほど、見たくないものもないぞ。

 

 普段から淫猥な話題に造詣の深い僧侶はというと、異常に暑がって今にも服を全て脱ぎ散らそうとしている戦士を、必死に背後から取り押さえている。

 今の戦士は上に肌着だけ着ていて、下はお尻を丸出しにしているのだが……。

 いや、見ないでおこう。見ない方がいい。見るべきじゃないんだ。

 

 俺は自分の理性の数値を最大値にした。そういうことにしてくれ。

 ……まあ、したと言って任意でできるものではないが。俺のパッシブ能力は完全自動発動なのだし。

 

 こんなバタバタしている惨状を、俺一人だけがのんびりと眺めているわけだが。

 不意に思い出しちまった。

 

 俺たちが、この五人のパーティになるまでの過程ってやつをさ。

 もし俺の頭の中を覗けてる奴がいるなら、少し興味を持って聞いていってくれるかい。

 

 

 *****

 

 

 この旅が始まったのは、今から三年ほど前。俺らが十六になる年だ。

 

 最初は僧侶と魔道士はいなかった。

 そりゃあそうだよな、この二人は幼馴染じゃなくて、旅の途中で入ってきた奴らなんだ。

 

 俺と勇者、んで薄茶髪の戦士は、名前もない小さな村に住んでいた。

 別に魔王軍に焼かれたりなんかしてないぜ。今も普通に健在で、農業を営みながら国に税を納めている、至って慎ましい村だよ。

 

 この世界では十六歳になると、女神像のところまで足を運び、成人になった喜びを神に感謝するという風習がある。

 俺らの村には女神像がないから、わざわざ遠く離れた町まで行かなきゃいけなくて億劫(おっくう)だったんだが、幼馴染二人が一緒だったから、その面倒さも吹き飛んだ。

 

 で、この祈りの最中に『女神の神託』が聞こえてくると、そいつはもれなく勇者になるという伝説があったんだ。

 どうせ尾ひれがついたただの御伽噺(おとぎばなし)だろって、みんなが思ってたんだが。

 

 でもそうじゃなかった。俺の親友は、本当にその神託を受けちまったんだ。

 

 単なる本人の幻聴だと思われないように、という、女神様のはからいなんだろう。

 その声はその場に居た連中にも、もちろん俺にも、後に戦士になる幼馴染の子にもバッチリ聞こえていた。

 

 

『アルジャンよ。貴方が魔王を打ち滅ぼすための勇者です』

 

 

 もう少し色々と(おごそ)かなことを言っていた気がするが、概ねこんな感じだった。

 アルジャンってのは俺の親友で、勇者の名前ね。名前からしてもう勇者っぽいだろ。

 

 それを傍で聞いてた俺ら二人には、なんつーか、驚きはなかったね。

 ああ、こいつなら勇者になってもおかしくないだろうなっていう、日ごろの行いからの説得力がありすぎたんだ。

 

 村での小さい頃からの振る舞いは、そりゃあもう絵本で語られる勇者そのものだった。まさに(かがみ)だね。

 村でイジメられている子がいれば、いじめた側をこっぴどく叱りつけ、それでも尚、歯向かおうとする者には、致し方なしとばかりにきっちり鉄拳制裁を行っていた。

 

 (いわ)く、「殴られっぱなしでは相手をつけあがらせるだけだから、言葉で言ってわからないようなら、自分の心を押し殺してでも制圧しなければならない」とのことだった。単なる綺麗事だけの男じゃないんだよな。

 

 ちなみに俺はイジメられていなくて、何なら村の子供連中から興味すら持たれていなかった。

 ずっと王都から取り寄せた本に噛り付いているだけのヒョロヒョロだったし、からかわれて罵声を浴びせられても全く気にしてなかったからな。イジメの対象にするには反応が薄くてつまらなかったんだろう。

 

 そんな俺のことを、アルジャンは常に気にかけてくれていた。

 それはもう、しつこいくらいに。

 

『ドレ! 一緒に外で遊ぶぞ! 日が落ちるまでジョーヌと三人で走り回るんだ!』

 

 とか、

 

『ドレ! お前が読み終わっている本を、今度は俺が読みたい! 感想会しよう!』

 

 とか。

 俺の何がいいのかわからないが、いたく俺を気に入っていたらしくて、そりゃあもう毎日のように遊びまくっていたんだ。

 

 そこには、ジョーヌ──戦士の子も一緒だった。

 この子は小さい頃から力仕事をしていて、斧で薪を割ることにかけては大人顔負けだった。

 それに加えてあの不愛想な空気感だから、村の子供連中は誰も話しかけようとしなかったんだが、だからこそ、やっぱりアルジャンの気にかける対象だったのだろう。

 

 俺はこの子のことが好きだったんだが……まあ、好きな女の子の目線が『誰』に向いているのかくらい、男ならわかるものだよな。それが俺じゃないことくらい、とっくにわかっていた。

 それでも、友達だと言ってくれるだけで嬉しかった。一緒に居て楽しいと笑ってくれていたしな。

 

 ま、俺らの村での生活の中心には、常にアルジャンが居たわけで。

 

 だから「こいつが勇者です」と言われても、すんなり納得するしかなかったんだ。

 俺にとってもジョーヌにとっても、とっくにこいつは勇者だったからな。

 

 

 

 そんな神託を受けた以上、大人たちはてんやわんやだった。

 

 その話はほどなくして遠く離れた王都まで伝わり、すごい数の護衛を引き連れて王様自らが村にやってきた。すぐに『勇者パーティ』を結成するよう、手練れの戦士や魔道士を用意する準備があると申し出てきた。

 

 ほら、パーティは魂の契約だからな。

 リーダー含めて最大五人まで組めるという世界のシステムを、利用しない手はないから。

 

 だが、その王様による厚遇な準備を、当の勇者様は頑として突っぱねた。

 

 

『もう二人は決まっています。残り二人は、旅の最中で、私自身が信頼に置けると思った人物を仲間として引き入れたいと思います』

 

 

 私、だって。

 いつも『俺』としか言ってない幼馴染の(かしこ)まりっぷりに、遠巻きで見ていた俺とジョーヌはクスクスと面白がった。

 

 だが、すでに決まっているという「二人」が誰なのかは、すぐにはわからなかった。

 村の大人たちの中には過去に冒険者だった者もいるようだから、その人たちの中の誰かかな、なんて頓珍漢(とんちんかん)なことを思っていると。

 

『ジョーヌ! ドレ! お前らだよ! さあ、パーティの契約って奴をやろうぜ!』

 

 その言葉に、俺らは心底驚いた。

 

 いや、ジョーヌに関しては、俺の中で選ばれるのではないかという漠然とした予想はあった。

 彼女の腕っぷしは、磨きをかければ誰にも負けない攻撃力を発揮するだろうと思っていたからだ。

 

 だけど、なんで俺? 

 まさか、本をいっぱい読んでいるから魔道の才能があると思ってる? 

 

 いや、ないぞ。

 一度試したけど結局火の粉一つ出なくて、「俺には才能皆無」って結論が出ているのを、アルジャンが知らないわけないだろ。

 

 俺らは兵士に囲まれてニコニコしている勇者様のところに近づいた。

 ジョーヌ自身は、自分が選ばれるとは想定していなかったようだが、その嬉しさは表情の端々から零れ落ちていた。

 

 当の俺は、喜びよりも困惑の方が強かった。

 どう考えても足手まといにしかならないはずだったからだ。

 

 もちろん、バフ能力をアテにされているわけではない。

 何故なら、このときには俺のパッシブ能力の存在なんて、俺自身もまったく知らないものであったからだ。

 

『アルジャン。やめておいた方がいいぜ。村の周りでのかけっこじゃないんだ。魔王討伐なんだぞ。世界の命運を揺るがす大事な旅に、俺みたいな使えない奴は採用すべきじゃない』

 

 そんな俺の忠告に。

 勇者様は、俺に対しては人生初めての「怒りの表情」を向けた。

 

『ドレ、話も聞かずに否定するのか? 使えない奴だと? 自分を侮辱するのも程々にしたらどうだ』

『いや、だって……』

『世界の命運を揺るがす大事な旅……お前はそう言ったな。恥ずかしい話だが、俺は、それすらもピンと来ていないんだ。この旅の意味するところが何なのか、とんと理解できていない』

 

 アルジャンは至って真面目な表情だった。

 少なくとも、「友達だから一緒に連れて行こう」という浮ついた気持ちで俺やジョーヌを選んだわけではなく、確たる信念がそこにあるような、そんな強い目をしていた。

 

『私もそうだ。この旅の重たさなんて、何一つ……。なのに、何故私を選ぶのか、聞いてもいいか? 村の大人たちではなく、私を選んだ理由を』

 先に選択の理由を、ジョーヌが聞いた。

 

『対等な目線で戦える戦士が必要だと思ってな。大人たちじゃダメなんだ。いざという時に連携が取れる相手、それは対等に意見をぶつけ合える気心が知れた相手である必要がある。だからジョーヌなんだ。お前の斧の腕には心底期待している』

 

 ああ、なるほど、と俺は思ったね。

 

 かつて俺が読ませた本の中にそんな感じの一節があったから、それの受け売りなのだろう。

 自分が導いてもらうばかりの立場であれば、真に強くなれない……そんな感じの内容だった。

 それを愚直に実行しようとしていた、本当に生真面目な奴さ。

 

『では、ドレに対して期待している点。それは、知識だ』

『知識?』

『お前は俺たちより先に、この旅の重い意味を知っていたくらいだ。それはお前がたくさんの本を読み漁ってきたことによるものだろう。その豊富な知恵こそが、俺には必要なんだ。戦闘能力の有無じゃない。どれだけ俺たちが強くなっても、知識不足で足を(すく)われて死ぬかもしれないだろ? お前なら、俺たちの不足を支えてくれる。俺にはその絶対的な確信がある』

 

 あまりにも真っ直ぐすぎる眼差しに、思わず、涙が出てしまった。

 勇者様は心根まで勇者様なのだと、強く納得せざるを得ないほどの、こちらに対する強固な信頼。

 

 ここまで言われて、「でも俺じゃあ無理なんだ」と答える真似は、確かに彼に対する侮辱にも程がある。

 

 ならば、その知識を極限まで磨き上げよう。

 出てくる魔物の急所を全て調べ上げ、道行く村や町の特色を知り、ダンジョンの特性を知り尽くし、勇者様の行く道から危険という危険を全て取り除くのは俺の役目だ。

 そんな覚悟が、俺の胸に生まれた瞬間だった。

 

 そしてそれは、隣に立つ不愛想だが可愛らしい少女も同じ感情だったらしい。

 道中で戦闘能力を限界まで高め、勇者が倒せぬ敵は、女らしからぬ馬鹿力で粉砕してやると、そういう意気込みがあったのだそうだ。

 

 俺ら三人の固い絆を見ていた王様たちは、それをとても気に入ってくれた。

 近日中に上質な装備と、しばらく旅に困らぬほどのまとまった金を用意してくれる、と言ってくれたのだ。

 

 んで、それが本当に届いたのはたった三日後だ。

 あの行動力の早さ、あの王様が『名君』と言われていたのにも心底納得したね。

 

 

 

 ……これが、俺らの旅の始まりだったってわけ。なかなか感動的だろ? 

 そこから銀髪魔道士と紫髪の僧侶が加入して、今の五人体制になったのは、そう遠くない未来の話だった。




女神「最初から強いメンバーを組むべきだと思いますがどうなんですかね」
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