俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが…… 作:あじさいファン
『ケケケ、馬鹿かてめェは! オレ様が纏っているこの闇のオーラが見えてねえのかよ! ほォら、手がイかれ始めてンぜ!!』
醜悪な嘲笑を浴びせながら、急降下の勢いそのままにジョーヌへ体重をかけていくスラジャン。
ヤツの言う通り、その凶悪な突撃を素手で受け止めているジョーヌの両手が、闇の瘴気に染まっていくのを示すかのように、紫色にじわじわと変色していく。
それでも彼女の腕が腐り落ちずに耐えられているのは、俺の防御パッシブが機能しているからだ。
だがそれは、あくまで直接的な物理や魔法のダメージに対する話であって、猛毒のように体力を徐々に削り取ってくる瘴気や呪いの類に対しては、有効な防壁にはなり得ないんだ。それを歴戦のジョーヌだって、痛いほどわかっているはず。
なのに、何故、唯一の防ぐ手段であるはずの斧を高々とブン投げて、わざわざ素手で対応しちまったというのか。
『安心してくれ、ドレ。そもそも、カウンターというのは本来は体術でするものなんだ。斧などの武器を介してするのは邪道。……私が今まで見せていたのは、あくまで擬似カウンターだったんだよ』
当のジョーヌは、事も無げにそんなとんでもない解説をしながら、しかしその額にはじっとりと脂汗を浮かべている。
彼女のカウンター技術は本来のダメージを完全に無効化できるはずなのだが、身体に直接触れている闇のオーラがもたらす痛みだけは、猛毒にかかっているのと同じ状態で、どうしようもないらしい。
安心してくれと言われても、無理な話だ。それとも何か。今から放つ正道のカウンターとやらで、この途方もない魔力の塊であるスラジャンを吹き飛ばしてくれるというのか。素手で受け止めるだけで、もう精一杯そうに見えるのに。
いや……きっと、吹き飛ばしてくれるはずだ。俺はジョーヌを信じた。
この女がヤケになって自暴自棄の敗北を選ぶなんて、絶対に有り得ないことだってな。
『コイツの攻撃力だけでは、跳ね返しても致命傷に至らない可能性がある。……そこで私は考えた!』
その直後。俺たちの頭上から、ジョーヌとスラジャンの間を目掛けて飛来してくる何か……死の影のようなものが見えた。俺は思わず、その正体を確かめるために上を見上げてみた。
──ジョーヌがさっき真上に放り投げた斧だ!
だが、尋常じゃねえ状態だった。スラジャンの纏う禍々しい紫色のオーラと真っ向から相反するかのように、落下してくる斧は淡く澄んだ水色を強烈に纏っていたのだ。
これまでの戦いで何度も見てきた代物を見間違えるはずもない。あれは、戦士様が誇る究極の力の結晶……『闘気』だ。
ジョーヌの気高い精神そのものを象徴するような神々しい光に包み込まれながら、斧はまるで自らの意志を持っているかのように凄まじい速度で急降下してきた。
ただし、標的であるはずのスラジャンに向かって行ってはいない。
斧は、攻撃対象をジョーヌ自身に定めていた。
『ぶっつけ本番なんだ! うまく行ったら、私が望むご褒美をくれよ、ドレ!! それと……名付けのセンスには目を瞑ってくれ!!』
そのまま剛斧は、持ち主である戦士様を真っ二つに両断するかの如く、すさまじい勢いをつけて直撃する。
だが、それは彼女に一切の傷を与えなかった。ジョーヌ自身もまた、身体に極限の闘気を纏わせており、その自らの斧の一撃を浴びたことで、さらに闘気を爆発的に膨れ上がらせたのだ。
『な……なんだッ!? なんかわからねえが、やべえッ!』
鍔迫り合いのように組み合っていたスラジャンが、真っ先に異変に気づいたらしい。
一旦距離を取って再び反撃の機を窺おうと考えたんだろう、ヤツが一瞬だけジョーヌから目を逸らし、逃げようとしたのを俺は見逃さなかった。
だが。全ては遅すぎた。
『食らえ、スラジャン!
ジョーヌの気迫に満ちた絶叫と共に。水色の闘気と紫色の魔力が混じり合った、目を焼くような強烈な光の奔流がスラジャンを襲った。
彼女はカウンターを放ったんだ。上空からの自分の斧による攻撃と、スラジャンの急降下攻撃。その二つの絶大な威力を、自らの身体を媒体にして二重に乗せて。
驚異的な威力が二つ分ともなりゃ、相乗効果によって反射できるダメージが跳ね上がる寸法なのだと、後でジョーヌ本人が得意げに教えてくれたっけな。
彼女の手に侵食していた紫の瘴気すらも、その究極の光の波動を放った影響からか、すっかり浄化されて元通りになっちまっている。あるいは、その瘴気すらも今放った究極カウンターの威力に上乗せしたに違いない。
斧の扱いだけでなく体術も……いや、いっそ武器を捨てた体術の方が強いのではないか。そう思わせられるくらい、俺たちの戦士様ってのは戦闘センスがずば抜けている。
かつてアルジャンが、村の歴戦の大人たちではなく、この少女をパーティの戦士に勧誘したのは大正解だったと、俺は改めて認識した。
同じ視点でものを見られる対等な友だというだけでなく、純粋な戦力としても、果たしてこの世界にジョーヌを超えられる人物がそうそういるとは思えないね。
……さて。そんな究極完全戦士の圧倒的な一撃を、真正面からモロに喰らっちまったスライム族の英雄とやらだが。
『あ……が、があっ……なんだよ、てめェ……チー、ト、じゃ、ねェか……そん、なん……』
怨嗟の呪詛を吐きながら、その水色の身体がバラバラの肉片に千切れちまっていた。
焼け焦げた断面からは、ジョーヌが放った闘気の光の残滓がこびりついていて、間違っても再び融合して元通りにはならねえだろうなっつーのが、俺にも一目で分かった。
……ちょっと甘いんだろうな、俺は。
確かにスラジャンは色々暴言を吐き散らし、女王様ごとこちらを理不尽に殺そうと向かってきたわけだが。それでも奴に故郷の村を滅ぼされたわけでもなければ、親を殺されたわけでもない。個人的な深い恨みがある相手じゃないんだ。
だから、どうしようもなくなって、苦しみに呻きながら辛うじて生き長らえちまってるアイツの残骸を見ると、可哀想だ、なんて思っちまってる自分がいる。
わかってるさ、これは圧倒的な強者側に立っている、勝者ゆえの傲慢な見下しだ。そもそも、何もかもジョーヌの力に任せきりだった俺が、勝者面をしてそんな感傷に浸るなど、傲慢にも程があるってもんだよな。
それでもな。いつも目の前で何かの命が消え去るたび……それが仲間たちの正当な活躍による功績だったんだとしてもだ。思わずにはいられねえんだ。血を流さずに済む、他に道があったんじゃねえのか、ってな。
パーティの中心であるアルジャン自体が、いつもこんな思想で苦悩している男だから。脇を固める俺ら四人だって、こうなのさ。
だからね……「ざまあ」とか「もう遅い」とかとは無縁だよ。勇者パーティ、どいつもこいつも良いヤツしかいないんだもん。
いや……いくらバフで貢献していると自分に言い聞かせても、直接自分の手を汚して下したことのない俺が良いヤツなわけないか。
汚い仕事、血生臭い殺しは、ぜんぶ大好きな仲間たち任せ。俺はその後ろに隠れているだけの、ダニみたいなヤツだよ。
こんな自己嫌悪の思考を抱くたび、俺は必死に思い直すことにしている。
それでも構わないだろ、と。魔王を打ち倒してこの理不尽な世界を平和に導くのが、俺たち勇者パーティに課せられた絶対の使命なんだから。
知性を持つ相手を殺して、その死体の上に得られる平和なんてなんなんだ──そんな理性なんて持ってちゃ、この過酷な旅なんか続けられない。頭じゃわかっちゃいるが……だからと言って、そう簡単に割り切って捨てられるようなもんでもないんだよね。
『今度は、殺され……海底の……クソっ、バグに、なんて……生まれ……ちま……』
スラジャンの声はどんどん弱々しくなり。そして、光の粒子に包まれるようにして完全に消えちまった。
まるで、最初からこの
──悪いスライムじゃないよ、か。
ここに封印される前のヤツが、一体どれほど残虐な悪行を繰り返し続けたのかは俺にはわからない。しかし、少なくとも今日俺らと出くわしたスラジャンは、ただ自分に降りかかる火の粉を必死に振り払おうとしただけに見える。
その必死な生存本能を、単純な良い悪いの二元論で語ることなんて、俺には到底出来ない。
俺に出来るのは、ただひとつだけだ。こうして、ヤツがこの世界で確かに生きていた証を、俺の魂の奥底に刻みつける。絶対に忘れない。そして、いつか誰かに語り継ぐ。それだけさ。
そんな、ひどくノスタルジックで切ない気持ちになっていた、最中の出来事だった。
『ぐああああああああッ!?』
耳を
四天王、イヴォアールだった。
ヤツが激突して開けられた、巨大な風穴の向こうには、怒りのままに剣を振り下ろし終わった勇者様が立っているのが見えた。
ルージュの強固な結界で全身を包まれ、力強く握るその愛剣には、ブラウの極大の魔力でエンチャントされたのだろう、灼熱の炎が激しく波打っている。
幻影を駆使する面倒極まりない戦法を取ってくるイヴォアールの実体を、三人の完璧な連携によって、アルジャンがしっかり捉えて斬り伏せたということだ。
封印されていた魔物改め魔族のスラジャンも倒し、厄介なイヴォアールも壁をぶち抜いて吹き飛ばされているということは……俺たちの完全な勝利だ。
感傷を吹き飛ばす親友の最高にカッコいい勇姿に、俺もジョーヌも、顔を見合わせて歓喜の声を上げた。
血を吐きながらイヴォアールは俺らの傍の地面に叩きつけられた。相当追い詰められて重傷に見える。だけど、ここからの巻き返しも有り得るのが魔族四天王の連中だ。
ジョーヌは、落下した愛用の斧を拾い上げて、イヴォアールを踏みつけながら切先を首元にあてがう。ぼそりと『手応え、いや、足応えがある』と言っていた。今度こそ幻影ではない……そう考えていいのだろう。
処刑人のような冷たい目で見下ろす彼女とは真逆に、ただただ哀しそうに彼を見つめる人物がいた。それは、海底の女王アジュールだった。
『貴方は、じいやの推薦で宰相の座に据えられましたわね。わたくしも貴方の言葉を信じた。人間も魔族もない世界を作るのだと。何もかもが嘘でしたの?』
アジュールの縋るような言葉に、イヴォアールはしばらく痛みに呻きながら沈黙を貫いていたんだけど。
何かが彼の中で壊れてしまったのだろうか。身体を震わせながらクククと笑った後。腹の底から、それはもう人生で最も愉快な瞬間だとでも言うかのように、大声で笑ってみせた。大袈裟なくらいに、祠の中を反響し尽くすように。
『ワタシは最初から嘘をついてなどいない……! 全ては現陛下の……アン・コロール様の大願が為。誰もが住み良い世界を作るのです。女神の加護をかなぐり捨て、異物も消し去った上で』
だが俺は知っていた。魔王は異物どころか、世界の大半を消し去ろうと考えてやがる。本人から直接聞いたんだから、間違いはないだろう。
だったら住み良い世界も何もあったもんじゃないじゃないか。俺はそう強く反論しようとした。
『女王アジュール! キサマは満足なのか!? 人間どもや女神の都合でこんな海底に押し込められ! 色を見る力を失い! あまつさえ地上の王の施しを受ける始末! プライドはないのか!? 仮にも魔族の王として──』
『わたくしの下らないプライドなんかで、皆の腹が膨れるならそういたしますわ』
イヴォアールの激昂に対して、女王が屈することはなかった。それどころか凛とした姿勢で言い返してみせたのさ。
彼女は為政者としては幼い。後から聞いた話だが、このときまだ十六になったばかり。俺らよりは年下で、ブラウとそう変わらない年齢だ。だけど、彼女はしっかり身に纏っていた。王族としての威厳を。
俺らに武器を与えてくれ、俺の見舞いに馳せ参じてくれた名君は白髭を生やした見るからに『王』といった感じの風格があったが、あの方に負けないくらいの威風堂々っぷりだと俺は感じたね。
『具体的に今の魔王様が何をなされようとしているのかは存じ上げませんが……少なくとも、これだけは断言できますの。貴方がた魔王軍がやろうとしているのは、弱者の切り捨てですわ。違いまして?』
『否! ワタシは、弱者をなくそうとしているのだ! 強者のみが闊歩する世界となれば、争いは起きぬ! あくまで研鑽のみである! 争いは同レベルの者で発生するのではない! 弱者がいるから、起こり得るのだから!』
なんつーか、思想が強すぎるし、そんなはずねえだろって思った。
これは俺の持論だが、争いが起きるのは、生きているからだ。生きるためには血肉を食らわなきゃならないから、どうしてもそこに暴力が発生する。自然な行為に強い弱いは関係ない。確かに強い者が勝ち残る傾向があるが、窮鼠猫を噛むという言葉が示すように、必ずしも強いイコール生き残る、じゃないってことは、歴史が証明している。
そんな弱肉強食の摂理と相反する概念があるとすれば、それは蹂躙だ。生きるためではなく、自身の目的のために他者を殺す。時としてそれは賞賛されるべき行為となることもあるが、一方的な虐殺の大義名分に掲げるのは違うだろう。
まあ、この世界においちゃ発言力を持つのは、それこそ誰にも負けない力を持つ者だけ。他者を撥ね付けられない俺みたいなのが吠えても、負け犬の遠吠えに等しい。
とはいえ、仮に力があったとしても、俺は自分の主義のために誰かを虐げるような発想はきっと持たない。そういう人間でありたい。あくまでも大切な誰かを守り、ささやかな幸せを築くためのものでありたいんだ。
これまでにたくさん敵を葬ってきた親友アルジャンもこの気質だ。客観的に見れば矛盾しているが、俺はそんなダブルスタンダードな勇者様を支えると決めてここにいる。同じ思想を掲げてね。
『……だったら殺すなよ』
何かを言ってやろうとしながら、それでも女王様の邪魔をするまいと抑えていたが、思わず口から零しちまった。
ジョーヌもアジュールも驚いたように俺を見てくる。イヴォアールもだ。しまった、と思ったが、一度吐いた言葉を飲み込んでなかったことにする真似は不可能だ。
ならば、と俺は腹を括った。思っていることを四天王様にぶちまけてやろうってね。
『てめえも、魔王も! 最初から話し合う気なんかねえ! 暴力でしか解決できないと思ってやがんのか!? なんでだよ! 知性のねえ魔物じゃねえだろ? 俺らは話し合うことが出来るはずなんだ! 互いに譲歩し合えるかもしれねえじゃんか! なのに、なんで殺そうとするとこから入るんだ!? 理由を言えよ! なんか悲しい背景があるんなら、俺らに察してもらおうとするんじゃなくてさあ! 話せよ! 全部!!』
この叫びの整合性など、いちいち考えちゃいなかった。特に察してもらおうのくだりだが、魔王軍が酔っている感じには、正直に言わせてもらうと、見えない。どちらかと言えば、正しい意味での確信犯に見える。悪いと思ってやってないって方の。
俺のしっちゃかめっちゃかな怒りに、イヴォアールは唖然とした様子だったけど。何がおかしかったのか、朗らかに笑い始めた。アジュールに向けていたのとは性質が異なる、まるで童心に戻ったかのような無邪気なものだった。見下されている風にも感じなかったんだ。
『クク……支援者ドレ。アナタは国に来て早々、牢獄にぶち込まれましたね。地上では見たこともない虫が湧いていたでしょう。いかがでしたか?』
『……いかが、と言われてもな』
『その虫と同じなのですよ。世界には増え過ぎてしまったのです。見たこともない虫が。アナタが牢獄の虫を慈しまぬのなら、ワタシを糾弾する権利はない』
ブラウが怯え、ルージュが踏み潰していたやつだ。それが世界の縮図なのだと言われてしまえば、そうなのかもしれない、と俺は思っちまった。次の反論をしようと言葉を探しても、ロクなのが見つからない。
歯噛みする俺とは対照的に、ジョーヌの表情は冷ややかだ。冷酷な眼差しでイヴォアールを見下ろしたまま、斧を握る手に力を込めている。
『詭弁だな。貴様の話はつまらん。そろそろ終わりにしよう』
『……どのあたりが詭弁だと?』
『私は、論理立てて誰かを論破する弁舌などかなぐり捨てている。貴様みたいなのから見れば私なぞ、脳筋の馬鹿だろう。よくわからんから、貴様は首を切り落とされて死ね。楽しい話し合いは、あの世で同志を見つけてやってろ』
本人が言う通りジョーヌは、基本的には理屈をこねるのが苦手だ。少し込み入った話になると、大抵黙り込んでしまう。それでも会話の相手が俺らなら話題に入ってきて、笑顔でいてくれるが、熱が入った談義の最中に
そんな彼女にとって、口先だけでどうにかしようとするイヴォアールは致命的に相性が悪いのだろう。彼がもたらす哲学的な話に乗ろうともしていない。
『……野蛮なサルめ』
明確な暴言をジョーヌに吐いて。
イヴォアールは地面に向かって、掌をバシッと打ち付けた。
やべえ、と思ったが間に合わない。間に合ったところで俺が何か出来るワケじゃねえが。
『爆ぜろ』
最大級の呪詛を込めて、ぼそりと呟くイヴォアールの手が赤色を発したのを俺は見逃さなかった。
揺れ始めるこの空間。まともに立っていられなくなる。体幹の強いジョーヌすら、斧で奴の喉元を切り裂くのに失敗して、アジュールと支え合っているだけで精一杯のようだ。よくあの至近距離で逃れられたな、アイツ。
亀裂が入っていく地面。アルジャンたちが、さっきイヴォアールが突き破ってできた風穴を抜けてこちらに向かっているところだったみたいなんだけど、この揺れに耐えきれず転倒しちまっている。
絶体絶命のピンチだが。俺は、動じることはなかった。
ピンチのときほどふてぶてしく笑う、ってヤツだね。この窮地にあって異様な表情を見せている俺に対して、イヴォアールが珍しく
『馬鹿な。何故余裕でいられる。何故笑っていられる!』
『……信じてんだよ。仲間ってヤツをよ!』
俺はアルジャンたちの方を見た。そして、想像していた通りのことが起こっていたんだ。
『話が長いんですよねええ、お父様にそっくりで!! おかげで、たーっぷり詠唱する時間、いただきましたよお!!』
そう。
俺らの魔道士様はもう既に、俺がさっき見た時には転移魔術の詠唱が最終段階に入っていた。狡猾なイヴォアールも瀕死の状態で、ブラウの様子を見ている余裕なんかなかったらしい。
ほどなくして転移魔術は発動した。ここは祠の内部。彼女が発動するそれの原則その二が発動する。すなわち、ここから出て最も安全な場所への転移を。海の中だが、海全体が敵性領域と判断されていることはないはずだ。そうならば、外を歩き回っている際もそういう判定になっているはずだからな。
俺の予測は正しかった。
祠自体の出入口の目の前に、俺ら勇者パーティと女王アジュールは転移。脱出に成功したんだ。
これは仕方ねえことだったけど……死にかけのイヴォアールも一緒だったけどな。
女神「争いが起こるのは感情を持つからです。だからといって感情を捨てろとまでは思いませんが、知性ある生き物は己を律することが出来るはず。故に魔族は愚かです。律せられないのですから。律せられない者を断罪するのは、女神の使徒として当然。己を恥じることなどありませんよ、勇者パーティの皆様」
次回更新:未定。今月中目途。咳が酷いためちょっと休養に入ります。
最終話まで書き溜めてから放出するかも。