俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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……これは長くなるのではないか? ボクは訝しんだ。
お気に入り・評価・感想ありがとうございます。
単発ネタだったのに飽きるまで続きそう。


4.僧侶の話・その1

 俺たちの旅は常に順風満帆とは行かなかったが、それでも「この三人ならどこまでも行けるんじゃないか」と信じて、まずは二ヶ月ほどが経過した。

 

 俺の役割は、(もっぱ)ら情報収集だった。

 戦う二人のために、これから旅する地域に現れる魔物の弱点を文献を漁りまくって事前に伝えたり。

 ギルドの依頼でダンジョンに潜るとなれば、そのダンジョン攻略に必要なアイテムをリストアップして道具屋で買ったり。

 

 買い出し要員も大体俺だったな。「ドレばっかに押し付けちゃ悪いから」と二人がやりたがる時もあったが、勇者様は値切るという概念を知らないし、戦士様は口下手すぎて商人を困惑させてばかりだったから、結局俺が率先してやるしかなかったんだ。割と今もそうだけど。

 

 この二ヶ月、どんな旅をしていたのかを羅列するだけで小説が二巻分くらい出来上がっちまいそうな勢いだから、詳細は割愛させてもらうぜ。

 

 笑えて泣けて、みんな心身共に成長した、そんな王道の冒険活劇だったんだけどな。まあ、語る機会があるならそのうち語るよ。

 

 重要な点は一個だ。

 この戦いの中で、俺がただの情報提供係ではなくなっていたという点。

 

 そう、例のパッシブ能力が発現したんだ。

 当時は「勇者と戦士の攻撃力を僅かに高める」程度の、あってないようなささやかな代物だったんだが、幼馴染二人はそのことをまるで自分のことのように喜んでくれた。

 

『絶対にこれは、俺たち勇者パーティになくてはならない力になるぞ!』

『同感だ。良かったなドレ、自分がお荷物ではないかと気に病んでいただろう。私たちがそんなこと思ったことなど一度もないが……だが、これでお前自身が納得できる理由になるんじゃないか?』

 

 とまあ、そんな調子だった。

 

 結局、このバフは俺自身にはかからないから、戦闘になるとただ突っ立ってるだけなのは変わりないのに、二人ともそれでいいって笑ってくれた。

 

 新しい仲間が来ても文句は言わせないし、そもそも俺がいることに愚痴を言うような奴は勇者パーティに不適格だから絶対に入れないと、アルジャンもジョーヌも固く誓ってくれたんだ。

 

 

*****

 

 

 ……ここまで振り返ってみて再認識したんだが、どうにも愛されてんな、俺。ニヤケちまうね。恋愛的に縁がないとか、もはやどうでもよくなる。

 

 でも、そんな勇者様が認めてくれたパッシブ能力で、勇者パーティを半壊させかけてマジですまん。

 

 いや、雨降って地固まるってやつか?

 とりあえず現在の勇者様は、すっかり悦に入ったように姿見に夢中になっちまってまして。

 

「ああ……なんて素晴らしい筋肉だ。これぞ長年俺が求めていたもの……! 自分を抱きたい……自分を抱きしめたい……!」

 

 なあ。

 これ、自己愛レベルまで最大値になっちまってないかな? お前を慕う女たちが聞いたら、すげー複雑な顔しそうだぞ。

 

 って思ってたら、部屋の隅で魔道士がギャン泣きし始めた。どうやら勇者がムキムキになったのが嫌だと言っているらしい。

 

「うわあああ!! アルジャンさんは線の細い美形じゃなきゃ、アルジャンさんじゃないですもおおおおん!!」

 

 バフ延長効果のパッシブがついてるこの子、もしかしてずっとこの泣き上戸状態じゃないだろうな。なんか別のバフで上書きされて帳消しになってくれないと、マジでヤバそうなんだけど……。

 

 ちなみに、僧侶と戦士はギャーギャー言いながら、まだバタバタと取っ組み合いをしている。俺の視界には入れてない。入れない方がいい。

 

 あー、話が脱線したな。

 

 とりあえず、まだ興味を持って俺の頭の中を覗いてる奴向けに、昔語りを再開しよう。

 

 

*****

 

 

 旅を開始してから二ヶ月。数々の苦難を越え、俺らが出した『四人目をどうするか』の結論は、非常に切実なものだった。

 

 回復特化の僧侶が欲しい。

 

 回復魔法なら勇者も一応使えるんだが、あくまで必要最低限の応急処置レベルだし、何より毒だの暗闇だのという、いわゆる『状態異常』への対策手段がパーティには無かったんだ。

 

 かといって道具にばかり頼っていては金が尽きる。俺らも可能な限り節約したい一心で、この二ヶ月、装備を一新していなかったくらいだ。王様に与えられた初期装備が破格に強かったというのもあるがね。

 

 その節約という観点からも、専門の僧侶を入れようという判断は極めて妥当だった。

 

 というわけで、冒険者ギルドで僧侶を探すことになったんだが……俺らの理想が高すぎるのか、あるいは人材難なのか、なかなかいいのが見つからなくてな。

 

 一例を挙げると……。

 

 

『わたしは、そうりょ。たたかいはできませんが、ちりょうができます』

 

 経験豊かそうなお爺様。

 すまんが、論外だった。冒険者ギルドに登録しておいて「戦いは出来ません」はないだろ。

 

 攻撃を耐えたらしっかり成長することをしきりにアピールしていたが、そもそも老人という時点で伸び代には期待できるはずもない。

 

 丁重にお断りすると、神官にもリストラがあるらしく、世知辛い世の中になったと軽くボヤいた後、話を聞いてくれた礼にと傷薬をくれた。少し金が浮いてラッキーだった。

 

 

『僧侶はね、暴言なんか吐かないんだよ。僧侶はね、鎧なんか着ないし、攻撃魔法は使わないし、やること全部が回復に関係することじゃなきゃいけないの』

 

 やたら顔はいいが、そこはかとなく恐ろしげな雰囲気を醸し出す女。僧侶に対する異常なこだわりがあったんだろうか。

 

 魔物ハンターを自称し、近隣の魔物を根絶やしにすべく戦っているそうだが、ジョーヌの「目が怖い」という直感を尊重し、この人も断った。

 殺しても死ななそうなオーラがあって、俺もなんだか怖かったし。

 

 

『狂気の沙汰ほど面白い……!』

 

 超人的なオーラを放つ白髪の男。なんで僧侶やってるのかよくわからないほど、死と隣り合わせのスリルを楽しんでいる感じの空気が漂う危険な男だった。

 

 だが、会話の途中で年齢が十六歳未満であることが発覚し、未成年はギルドの仕事を受けられないという理由で、受付嬢にあっけなく摘み出されていった。

 表情ひとつ変えず『あらら』とだけ言ったのが印象的だった。さぞ何度も死線を潜り抜けてきたに違いない。

 

 

 ……とにかく。

 なんか逸材っぽいのはチラホラいるんだが、どうにも「この人だ!」と満場一致で言える人物がいなかったんだ。

 

 俺らが僧侶を採用するに当たり、設けた条件はたったひとつだけ。

 それは『俺らが全員、心の底から納得すること』だった。

 

 結局その日は決まらず、夕暮れ時、三人で宿にトボトボ帰ることになったわけなのだが。

 

 運命の出会いは、その帰路で唐突に訪れた。

 

『あらー、素敵な男の子たちね。どう? お姉さんとぱふぱふしていかない? そこの可愛いお嬢さんも大歓迎よ』

 

 すっげーエッチな格好をしていた紫髪の女性。

 胸も尻もでかく、腰がくびれていてスタイルも抜群。本人が言うには胸は94cmあるそうだ。

 で、肝心の格好だが……もうほとんど裸だぜ、裸。辛うじて肝心な部分は隠している程度の。紐みたいな感じって言えばいいのか? ちょっと指を引っ掛ければ全部見えちまいそうな危うさだ。

 

 だが、彼女は恐ろしく堂々としていた。

 何も恥ずかしくも、まして後ろめたいことなど一切していないとでも言うような、威風堂々とした(たたず)まいだった。

 

 そんな女の破廉恥な姿に顔を真っ赤にして、ジョーヌがあわあわと慌てふためいていたのは今でもはっきり覚えている。

 俺も思わず前屈みになっちまった。仕方ねえだろ、この二ヶ月、そういう刺激に一切触れてなかったんだから。

 

 だが。

 勇者様は俺たちに対して、真顔でこう言った。

 

『ぱふぱふってなんだ?』

 

 ……生真面目な奴だもんな。知らなくて当然だよな。

 いや、割と現代だとちょっと死語に近くて、知らない奴も増えてきたと文献に書いてあったような気もするが。

 

『ぱふぱふってなんですか? 強くなれるのでしょうか。頼れる男になれますか?』

 

 なんと勇者様は、今度は女に直接聞きやがったんだ。

 とりあえず俺は勇者様を引きずってこの場を立ち去ろうとしたが、一度知的好奇心に火がついたこいつは、留まるところを知らなかった。

 

『お前たち、ぱふぱふを知っているのか!? 知っているなら俺にやってくれ! ジョーヌ! お前なら出来るのか!?』

 

 名指しされた当の戦士様は、顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。

 

 物理的には出来そうではあるな。小さくもなく、大きくもない、そんな適度なサイズだし。

 ……でも、見たくはねえなあ。好きな女の子が親友にぱふぱふしてるとこなんて。

 

 一連の流れを見ていたぱふぱふ提案女は、あまりのやり取りに呆気に取られていたが、少し間をおいてから腹を抱えて大笑いし始めた。

 

『ごめんごめん、ウブな子をからかっちゃって。お詫びに普通に食事を奢ってあげるから許してくれるかしら?』

 

 ……これが。

 のちに俺らの生命線を支えることになる偉大な僧侶、ルージュとの出会いだった。

 

 酒場で食事をしながら話を聞いたところ、彼女は世界で幅を利かせる『アルカンシエル教』の教徒の娘として育ったのだそうだ。

 

 アルカンシエルってのは、この世界の女神様の名前だ。世界に安寧をもたらす救いの神だそうで、我らが勇者様に神託を授けたのもこのお方だね。

 

 しかし、その教徒の子は末代まで厳格な教義に則った生き方を余儀なくされる。それがルージュにはたまらなく嫌だったらしい。

 

 教徒たるもの、みだりに肌を曝け出してはならない。

 教徒たるもの、姦淫してはならない。

 教徒たるもの、飲酒してはならない。

 教徒たるもの、女神を冒涜してはならない。

 教徒たるもの、教徒たるもの、教徒たるもの……。

 

『ホンット、うんざり! 何が女神よ! 人をロクに守りもしないくせに! だからね、決めたの。私、教典に書かれてる戒律、ぜーんぶ破ってやろうってね!』

 

 敬虔な教徒が聞けば顔を真っ赤にして怒り狂いそうな宣言を、初対面である俺たちに堂々としてみせた。これにはどう反応したものか、さすがにわからなかったな。

 

 後で聞いた話だが、この時のルージュは相当酔っ払っていたらしい。まあ、目の前でジョッキを何杯も空けてたからな……。

 

 あ、ちなみに僧侶である彼女はパーティの最年長で、俺らより二つ年上なんだ。現在は二十歳、間もなく二十一をむかえるが、この時は十八歳だ。

 

 これを聞いてくれている人の常識と違う可能性があるから念のため言っておくが、この世界では十六歳で成人扱いになる。だが、飲酒は十八歳からと国法で厳格に定められているんだ。

 

 で、晴れて十八歳になったルージュは、宗教の戒律を破りまくる一環として、見事な酒豪になっちまってたわけだ。

 当然、厳格な両親と折り合いが良くなるはずもなく、大喧嘩の末に飛び出すように家出してきたんだと。

 

『はああ……どこかに私を(さら)ってくれる素敵な王子様とか、いないかしらね……』

 

 ジョッキを片手に、切実な悩みを特大の溜め息と共に吐き出していた。

 

 そんなルージュの境遇をどうにかしてやりたいと、真っ先に声をかけようとしたのは戦士ジョーヌだった。不愛想で不器用だが、誰よりも人を思いやれる、そんな健気な子なんだよなあ。

 

『あ、あの……』

 

 だが。

 俺とアルジャンは、ジョーヌが次の言葉を告げる前に、彼女にだけ見えるように胸元で両手の人差し指を交差させ、バツ印を作ってみせた。「パーティに勧誘するな」という合図だ。

 

 ジョーヌが「どうして」と言わんばかりに困惑しているのがわかったが、酔っ払いの前で説明するわけにはいかなかった。俺はアルジャンと咄嗟の思考が完全に一致したことに、少し感動を覚えていたっけな。

 

『んー? なーに?』

『ああ、いや……なんでもない。教徒というのは大変なのだな、と思ってな……』

 

 口下手なジョーヌにしては、うまく誤魔化せた方だ。

 ルージュも不審な態度を問い詰めることはせず、まあねー、と緩く笑って、テーブルに突っ伏しながら溜め息ばかりついていた。

 

 食い終わった後。

 彼女は俺らとは違う宿を取っていたんだが、三人掛かりでそこまで頑張って運んでやった。ベロンベロンに酔っていたから、酒場で食事代を払えていたのが奇跡なくらいだったな。

 

 てなわけで。

 これが、四人目の仲間(パーティメンバー)との『始まりの日』だ。

 

 ここからどうやって彼女が正式に俺らのパーティに入ったか、だが……。

 

 前もって言っておくと、あまり笑える話じゃないんだよな。結構シリアスな経緯なんだ。

 俺らにはとても大切な一日で、記憶から消えたことなんか一度もないんだけどさ。




女神「勇者に、ぱ、ぱふぱふを提案するなど……敬虔な信徒としてあるまじき存在。もはや今生に救いはありません。死をもって償うのです」
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