俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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この回が理由で残酷な描写タグを追加することに。


5.僧侶の話・その2

 ルージュを宿まで運び終え、俺たちが自分たちの宿へ帰る道すがらのこと。

 さっきの酒場で俺たちが見せた『勧誘NG』のバツ印について、戦士ジョーヌは納得いかない様子で明らかに表情を強張(こわば)らせていた。

 

『何がダメだったんだ。アルカンシエル教徒であれば、小さい頃から回復魔法を徹底的に叩き込まれているものらしいぞ。これ以上ない逸材だと思うが』

 

 さも合理的な判断だったのだと彼女は主張するが、俺らにはわかっていた。

 あの、いたたまれない背景事情を聞かされて、すっかり同情してしまったのだということを。

 他人の痛みを、まるで自分の痛みのように受け取れるところがジョーヌの美点ではあるけれど、同時に欠点でもあるのだと思えた。

 

『いや、だって。実際に回復魔法を放ってるとこ、まだ見てないじゃないか。ギルドでの紹介と違って、最低限の基準を満たしてる保証もないんだぜ』

『まあ……それは……そうなんだが』

 

 俺の真っ当な指摘に、ジョーヌは言い返すことが出来なくなっていた。

 ……まあ、狂気の沙汰がどうとか言っていた、未成年を通しちまってる時点でギルドの信用は危ういんだけどさ。

 

 いや、わかるんだ。

 その背景を可哀想と思っちまったのもあるんだろうけど、それ以上に、女のカンって奴なんだろうな。「この人となら仲良くなれる」という感覚があったんだろう。

 

 男二人に囲まれているむさ苦しい生活に、女をもう一人追加しておきたいのかな、とか。

 俺もアルジャンも、幼馴染の『女としての悩み』を生物学上どうしても理解してやれないから、そういう意味では次に加入させるべきは女がいいだろうな、とは俺も思っていたんだ。

 

 でも、それ以上に、世界を救うために神託を受けている勇者パーティだという認識を外してはいけないと思ったんだ。

 一時の情に(ほだ)されて仲間を選んでいたんじゃ、いつかそのせいで足元を(すく)われちまうかもしれないじゃん?

 

 勇者アルジャンが俺たちを選んだ時のように、しっかりとした理由を説明できなければならないんだ。

 

『……すまん、そうだな。全員が納得しなければ新しい仲間として認められない……そんな大事な約束を、感情でぶち壊してしまうところだった』

 

 猛省した様子のジョーヌ。

 それに対して、勇者様はひどく深刻そうな顔をして、加入させなかった彼なりの理由を口にした。

 

『彼女は結局、ぱふぱふについて教えてくれなかった。人が教えて欲しいと頼んでいるものをまったく教えてくれないのは、ひどく印象が悪い』

 

 ……まだ言ってんのかよ、このエロ勇者様は。

 いや、真顔で言っているあたり、それがエロい用語であることすらわかっていないのは事実なんだろうけど。

 俺もジョーヌも、加入を拒否したあまりにも突飛な理由に呆れて、思わず白目を剥いてしまった。

 

 いや、最大限好意的に噛み砕けば、こういうことだったんだと思うぜ。

 素直に仲間の質問に答えられないような奴は、絆を重んじる勇者パーティにおいて不適格、って意味なんだって。

 

 でもなあ……内容によるだろ。

 この勇者様、これがエスカレートすると最終的には「性感帯を全部教えろ。そこを重点的に守る必要があるからな」とか言い出さないか、マジで怖くなってくるな。

 

 こいつのために、どこかで官能的な本も貸してやるべきだった。「読んだ後に感想会を強要されるから気恥ずかしくて貸せない」とか、そんなこと言っている場合じゃなかったかもしれない。

 

 ……宿屋に到着しても、この勇者様はしきりに、その柔らかそうな四文字が何なのかについて俺らに問いただそうとしてきた。

 

 あ、これを聞いている酔狂な人、俺らのケチっぷりについては理解してるよな。もうちょっと良い言い方をすれば、節約家だ。与えられた金は、可能な限り使いたくない。

 そういう観点もあって、男と女で部屋を分けていない。五人体制になった今でもそれは変わらない。

 着替えるときは、もう一方の性別が部屋を出ることで対処している。俺たちは全員、完全なるプラトニックな関係なわけだ。

 

 で。話を戻すけども。

 

『おい、お前ら。ぱふぱふについて知ってるならちゃんと教えてくれ。このままじゃ夜しか眠れない』

 だの、

『勇者パーティ崩壊の危機だぞ。俺がぱふぱふについて知らないと、気になって戦闘どころじゃなくなる』

 だの、

『ジョーヌがやりたくないのなら、それは尊重する。なら、ドレが俺にやってくれ』

 だの。

 

 マジでうるさかった。夜しか眠れないなら別にいいだろうが。

 あまりにもうるさかったから、ジョーヌがイライラを限界突破させて、ついにこう吼えた。

 

『ドレ!! お望みどおり、お前がアルジャンにぱふぱふをやってやれ!! このままでは私たちが眠れない! 私がしっかりレクチャーしてやるから!!』

 

 ……いやー、耳を疑ったね。

 ジョーヌはお前、知ってて言ってるだろ。ぱふぱふが何なのか。

 

 普通は、男が持たぬ、その柔らかい二つの代物を、顔に挟み込んだりする甘美な遊びなんだぞ。

 男が男に対して行うことも、まあ、文献によると出来るっちゃ出来るらしいんだけど。

 受ける側もやる側も、強烈な精神ダメージを負うらしいんだよね。

 

 俺は親友にそんな真似をしたくない。というか、男にそういう真似をしたくない。

 

『わかったよジョーヌ。そこまで言うなら、俺がお前にやってやるよ。俺のぱふぱふを受けてみろよ』

『は?』

 

 見事なまでの困惑。

 なんかほんのり顔が赤くなっていた気がするが、あのときガチギレしてたのかな。

 いやー、今思うと申し訳ないね。深夜テンションだったんだと思う。

 

 やいのやいのと言い合っている最中に、疲れて俺らはそのまま寝に入ってしまっていた。

 

『誰か……ぱふぱふを、教えてくれ……』

 

 一番最初に寝てしまっていた勇者様が、寝言でも懇願していた。

 そもそもは、あのルージュって女が悪いんだから、明日にでも責任もってぱふぱふを伝授してやって欲しいと切に思ったよ、俺は。

 

 やがて、闇の静寂が町を包み込んでいた。

 俺らはそのまま朝まで――

 

 

 

――眠ることはできなかった。

 

 

 バァァァァァァン!!

 

 

 そんな、耳をつんざくような強烈な爆裂音が町の中央の方から聞こえてきて、俺もアルジャンもジョーヌも、強制的に起床を余儀なくされてしまったんだ。

 まだ天が黒一色に染まっていて、陽の光が差し込んできそうにない。そんな、深夜真っただ中の出来事だった。

 

 どうするか、なんていちいち相談する必要もなかった。

 俺らは阿吽(あうん)の呼吸で、壁に立てかけていた武器を手に、すぐさま街中へと飛び出していった。

 

 ……あ、俺自身の武器が何なのか気になっただろ。

 ないよ。俺に武器なんかない。ステゴロ……なんて言えば聞こえはいいけど、要するに無手だ。武器、なし!

 いちおう王様は俺にも切れ味の鋭いナイフをくれてたんだけどね。

 料理用に使ってるんで、それで魔物を殺したことは一度もありません。

 

 町の中に辿り着くと、そこには阿鼻叫喚の地獄が出来上がっていた。

 炎上している家、瓦礫の山。泣き喚く町民たち。

 怪我人も多くいた。軽傷者もいれば、どう見ても助からなさそうな重傷者の姿も。

 

 町にいる回復魔法の心得のある者たちは、何故か回復魔法の行使に二の足を踏んでいた。

 理由は……町の中央でふわふわ浮いている、幼女のような見た目で紫色の肌をしたヤツのせいだった。

 

『回復魔法、使わない方がいいよー? 使った分だけ自分にダメージが入るからねえ! 身動き取れないねー? あんたら信徒は教典に従うしかない能無しだから! プークスクス!』

 

 こいつがそのときかけた呪いは、町全域に広がる高度な術式で、宣言した内容通りのものだった。回復魔法を行使すれば、その効果量に比例して術者自身が傷ついてしまうというものらしい。

 

 昼間にギルドで出会った()()()()()は、俺らの視界の片隅で伸びていた。

 あの説明を受ける前に僧侶としての仕事を果たそうとして、あまりのダメージに気を失ってしまってたんだ。

 仮に説明を受けていても、怖い雰囲気の女と、死のリスクを楽しんでいる白髪の男は平気で回復を使っていたような気もしなくもないが……。

 

 とにかく。こうなると、アルカンシエル教に殉ずる僧侶たちは何も出来ない。

 何故なら、教典にこのように書かれてるからだ。

 

――信徒たるもの、自分の命を最優先にすべし。

 

 普段であれば、あまりにもご立派な思想だよな。

 回復魔法を撃つ者が真っ先に倒れてしまえば、その恩恵を受けていたパーティは瓦解してしまう。無謀を戒めるための一文なんだろうと思うが、今回の呪いは、その教えの隙を突いたというわけだろう。

 

 だから、子供が大怪我して大泣きしているのに、応急手当は出来ても回復魔法を放つ者がいない。()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 『教典に載っている』から、という、ただそれだけの理由で、多くの僧侶が自分の命を懸けられないんだ。

 

 頭が固い連中で呆れちまうだろ? 俺もそう思う。

 だが、それがこの世界なんだ。これに対して誰もが文句を言えない空気が出来上がっちまっている。

 

 勇者様は、そんなもの関係ないと言わんばかりに子供のところへ駆けつけようとした。

 もちろん、会得している回復魔法を放つためさ。これこそが勇者様というものだろ。

 

 だが、空中から飛来した魔法の刃がその動きを遮った。

 アルジャンは即座に剣を抜き、それを弾き返す。

 

『あははっ! アナタが勇者サマ? まだ未熟なのね、かわいそーに!』

 

 そこで奴の自己紹介が行われた。

 魔王に従う魔族四天王の一人、邪鎖(じゃさ)のノワール。

 

 呪術を得意としている奴なんだが……そう、未来の俺に『永久沈黙(エターナルサイレンス)』をかけやがった因縁の相手だ。女神アルカンシエルを全否定するため、今ある世界をぶち壊す気なのだと言っていた。

 

 この町に勇者がいると聞き、人々を人質に取ることで、勇者を確実に始末する算段なのだと。

 

『アナタが自殺してくれたら、この呪い、解除するんだけどナー?』

 ニヤニヤ笑いながらこちらを煽ってくる四天王ノワール。

 

 当然、こういう手合いが、まともに約束を果たしてくれるはずがないよな?

 俺とジョーヌは勇者様に並び立ち、女魔族に対して明確な拒絶の意を示した。

 

『お前が死ねば解除されるのだろう? 呪いの類とはそういうものだ』

 斧の切っ先を向け、勇ましく戦士様が処刑を告げた。

 

 だが、ノワールは怯まない。

 まるで自分が死ぬとは一切考えていないような、圧倒的な余裕っぷりを見せてきた。

 

『いいのカナー? こうして睨み合っている間にも、馬鹿な信徒サマたちはただ見ているだけ。怪我人が次々死んでいくんだよねー! プークスクス!』

 

 嘲笑を上げるこのクソ女に、俺らの怒りは限界だった。

 んで、真っ先に動いたのは勇者様だ。

 恐るべき速さで肉薄し、衝撃波を伴ってノワールとかいう奴を叩きのめそうとする。

 

 ……俺らは、この旅を始めて割とすぐに「勇者は町の中で安易に剣技を見せるべきではない」と忠告してあった。

 それくらいアルジャンの剣は常人離れしていて、一度見せた際に「魔族の眷属ではないか」と恐れられたエピソードを経験しているからだ。そういう連中には「勇者だ」と説明をしてもダメだった。信じたいものだけ信じる、ってヤツだね。

 

 しかし今回、勇者様はそれを躊躇(ためら)わずに放ってみせた。周りから恐れられることなどどうでもいいと言わんばかりにね。

 

 だが、その渾身の一撃を奴はあっさりと避けやがった。

 攻撃を避けること、それに関してはもう神懸かり的というか、やべえんだよアイツは。

 その代わり、放ってくる攻撃の弾速は遅くて、戦闘能力が低めな俺でも対処できそうなほどなんだけどさ。

 

『おーこわ♡ 当たったら死んじゃうねー。この短期間で物凄い攻撃力を得たんだ? ()()()じゃん、()()()

 

 チート、という言葉の意味がそのときはわからなかった。

 少なくとも勇者の攻撃力の高さを象徴する単語であるらしいのは確かなのだが、聞きなれない言葉だった。魔族の中での共通用語なのか、と俺は分析していたんだけどね。

 

 とにかく。

 一撃で仕留められなかった以上、どれほど高い攻撃力を持っていても意味を成さない。

 隙を作って、確実に避けられないような連撃を叩き込む以外に方法はないのだが。

 

 奴の言う通り、こうして睨み合っているだけでも、町の人々の命が失われていく……。

 そんな危機的な状況に、俺ら三人は焦燥感に駆られ続けていった。

 

 

 と、そのときだった。

 

 

 教典なんかに縛られ、身動きが取れない僧侶陣の中で。

 たった一人だけ、動けてしまう人物がいた。

 

 まあ、ここまで引っ張ったんだ。言わなくてもわかるだろ。

 

『自分の命惜しさに、指くわえて見てるだけ!? だから嫌なのよ、女神を崇めてるバカみたいな宗教が!』

 

 裸の一歩手前の、娼婦だと言われてもおかしくないような恰好をしている紫髪の女。

 

 ルージュだった。

 

 教典に書かれている戒律を、全部破る。

 そう宣言していた彼女は、本当にそれを成し遂げてしまう程、とことん狂っていた。

 

 命が削られると公言されているにもかかわらず。

 両手を広げて、淡い光を放ち始めたんだ。

 それは、この場にいる怪我人全員を回復するに十分な魔力量であるように思えたね。

 

『はあああああああああっ!!』

 

 闇の魔力が、彼女の身体を侵食していくのがよくわかる。痛ましい姿だったが、本人はそれを無視して魔力を収束し続ける。

 彼女自身にダイレクトに跳ね返ってくる強烈な痛みを、必死に(こら)えるように咆哮を上げながら、その強大な回復魔法を放ってみせようとしてた。

 彼女が倒れるのが先か、回復魔法が放たれるのが先か。そんなギリギリの状況だった。

 

『バ……バカじゃないの!? 頭おかしいわ、あの下着女!!』

 

 ノワールが今すぐやめさせようと意識を一瞬そちらに向け、魔法弾を放ってきた。

 弾速が遅くとも、魔力を溜めながら激痛を受けているルージュに避ける術はない、そう思った。

 

 これを庇うため、咄嗟に飛び出したのは。

 

 そう、俺だった。

 

 勇者様と戦士様は、高笑いを上げている幼女みたいな魔族をぶんなぐらなきゃいけないから、俺以外に適任はいないだろ?

 だから、俺がルージュを守る盾になったんだ。対象が俺になれば、ルージュの回復魔法は確実に放たれると踏んでね。

 

『ぐああああああああああああああああっ!?』

 

 魔法の弾が直撃する。あまりに痛い。

 だが、俺は必要以上に痛がるように、大きな声でその痛みを訴えてみせた。

 

 その様子に、魔族の女が一瞬、呆気に取られてくれるのが狙いだったんだよ。

 そして……その狙いは完璧に叶った。

 

 勇者様と戦士様が無言でノワールの胸元にまで飛び込んでいた。

 奴がその接近に気づいて回避をしようと試みるが、一瞬、反応が遅れちまったらしい。

 

 剣と斧による同時攻撃。

 致命傷には至らなかったが、見事、奴の両の腕を切り落とすことに成功したんだ。

 

『う、腕が……腕があああ!?』

『へへ……勝ち誇ってるからこうなるんだぜ。子供の教育には、ちょっと過激すぎたか?』

 

 その場に膝をつきながら、俺は勝ち誇ったようにニヤリと笑ってみせた。

 いやあ、痛快だったね。自分が絶対的に強いと思ってる奴の鼻を明かす瞬間ってヤツがさ。

 

 当時のノワールの呪術はまだ未成熟だったらしく、術者の痛みで簡単に解除されてしまう代物だったようなんだ。

 それまで町を支配していた、回復魔法に代償を与える結界みたいなものは、ガラスを粉々にするような音を立てて消失してくれた。

 

 ああ、俺たちは強い。

 俺のバフ能力がどれほどの影響を与えているかはわからないが、少しでも寄与できているというのなら。

 俺たちの剣は、確実に魔王とやらの首にも届き得る。そう確信した瞬間だったね。




女神「何故、破廉恥で教典に従わぬ愚か者に(ほだ)されるのでしょう。誰よりも自分の命を最優先にせよ、それを守らぬ者など自殺志願者に等しいというのに。理解に苦しみますね」
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