俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが…… 作:あじさいファン
投稿時間に悩んでます。
それから、ちょっとだけ時間が経過して。
パーティの再加入で少しばかり性質の変わった俺のパッシブ能力について、ひとつ重要な新事実が判明したんだ。
っつーのもな、『寝ている仲間はバフの効果が切れる』っぽいんだ。
バフ延長能力を持つはずの銀髪魔道士の子が、ギャン泣きしすぎて疲れて寝落ちしちまったことによって偶然判明した事実だ。
すやすやと寝入って元の状態に戻っている彼女を見て、ルージュがそう推察した。
んで、「もしかしたら、キミ自身が寝れば、今みんなにかけているバフが全部切れるんじゃないかしら?」と言ってた。
まだ試していないから推測の域は出ないけど、それだったら少なくとも俺の呪いのせいで、仲間たちの安眠が妨害されることだけは防げるだろうって思って安心したよ。
「私たちも寝ましょ。さあ、勇者様もキミもさっさとコレを吸ってちょうだい」
そう言って、ルージュが道具袋から取り出して俺らに差し出したのは、『睡眠効果のある粉』。
一度吸えば、死んだようにぐっすり寝られる代物で、普通は戦闘中に使用するのが目的の道具だ。
睡眠魔法を魔道士が使えちまうせいで、長らく荷物の中の肥やしになっていたんだが……まさか、自分たちの暴走を物理的に鎮めるための使い道があるとはね。
あ、ちなみにジョーヌなんだが、ルージュの機転によって、すでにその粉を吸わされてベッドで寝かしつけられていた。
お尻丸出しで上肌着だけという破廉恥な状態だったはずだが、いつの間にかしっかりとした寝巻きに着せ替えられていた。
なんでも「他人に服を着せたり脱がせたりするの、得意なのよね」とのこと。寝ている相手でも全く問題ないらしい。すげえよな。
うーん、もっとちゃんと目に焼き付けておくべきだったか?
無駄に理性を働かせてしまったのが、ちょっともったいなかったかもなあ、なんて。
「明日からは魔王城まで、しばらく野宿の行軍が続くわ。今のうちにふかふかのベッドで英気を養っておかないとね」
……そうなんだ。
俺たちはついに、この三年間に及ぶ旅の佳境を迎えたんだ。
思い返せば、本当に色んなことがあった。村を出た時は、まさか三年もかかる壮大な旅になるとは思ってもみなかったね。
海底の国でいっぱい泳いだり、火山の国で丸焦げになりかけたり、天空の世界から落っこちそうになったり、人間同士の血で血を洗う戦争に思いっきり巻き込まれたり……。
特に戦争のせいで、予定より一年以上余分にかかっちまったことは否めないな。
まあ、裏で魔族が糸を引いていて、その最中で四天王の一人を撃破できたから、決して無駄な戦いだったとは思わないんだけどさ。
その辺りの激動のエピソードを全部語ると、余裕で小説十巻分くらいの文量になっちまうから省かせてもらうぜ。
とにかく。あとはもう、魔王城に向かって魔王をぶっ倒すだけになってるってワケだ。
ずいぶん遠くまで来たもんだなあ。
そんなことをしみじみと思い返していると。
「……嫌だ」
不意に、勇者様がぽつりとそう呟いた。
あ、こいつ全裸だったわけだけど、とりあえず道具袋にあった布切れを腰にグルグル巻きにされている。これもルージュの機転だ。
ルージュは思いっきり勇者様の『聖剣』を見たわけなのだが、顔色ひとつ変えなかった。
いつもエッチなことを考えていると公言している彼女だが、こういう緊急事態の『時と場合』というのをしっかり
で。
アルジャンはその場でブルブルと震え、あろうことか泣き出し始めていた。
ま、まさか、今度は親友に『悲しさ』のバフが最大値でかかっちまったのか?
ついさっき魔道士にかかったばかりのステータスが、連続で選ばれるなんて、一体どんな確率だよ。
一瞬本気でそう心配したんだけど。全くの的外れだったっぽい。
「嫌だあっ! せっかく手に入れたこの理想の身体が!! 寝たら元に戻ってしまうなんて!! なぁドレ、固定化する方法はないのか!?」
いや、気に入りすぎだろ!!
その鋼鉄みたいにカチカチに仕上がった、ヤバいくらい筋肉質な身体を!!
王都で年に一度開催されるっつー筋肉コンテストに出たら、間違いなくぶっちぎりで優勝できちまうほどの超絶マッスルボディだ。
全ての部位が凶器になりそうで、無駄にテカテカとツヤツヤ輝いている。今のこいつに俺が素手で殴りかかったら、十中八九、貧弱な俺の腕の方が粉砕骨折するだろうね。
いつものアルジャンは、線が細くて『美男子の中の美男子』だと町行く女子がもれなく振り返るほどの顔とスタイルをしていてな。
パーティの女性陣は、そんなアルジャンが好きなはずなんだ。いや、別に見た目だけで好きになってるわけじゃないとは思うんだけどさ。
「後生だ! ドレ! 頼む! これこそ勇者パーティ崩壊の危機だろ! 頼むよ、
コイツさ、何かあると崩壊の危機を持ち出して来るよな。
あぁ、それで思い出したけど。
ルージュが加入してから一ヶ月くらいかけて、こいつは彼女から『正確な性知識』をいろいろと伝授してもらったんだ。子供の作り方すら知らんレベルなのは勇者として恥じゃないかと思ったんだと。
といっても、生々しい直接的な行為はしてないはずだぜ。教育の内容はだいぶ真面目だったし。
俺らが知らんとこで、コッソリやってたら知らんけど……って、いや、やってたら隠し事下手っぴな勇者様の態度でわかるな。
んでな、アルジャンがあまりにも『ぱふぱふを知りたい』と真顔で頼み込み続けるものだから、ついに折れたルージュが苦笑いしながら、実際にぱふぱふをやってみせたんだよな。俺とジョーヌの目の前で。
あの豊かな胸で、勇者の顔を優しく包み込んでた。……めちゃくちゃうらやましい。
でも当の勇者様本人は、ぱふぱふされた感触の喜びよりも、「ついに未踏の知識を得られた!」という純粋な喜びに満ち溢れている様子だったっけ。
ま、その一回で完全に満足しちまったようで、そこからコイツがぱふぱふの話を口にすることはなくなっていたんだけど。
あ……ちなみに。俺はルージュからぱふぱふをされたことがない。
なんでも、『戒律を破るため』に、俺にはあえてやらないことにしてるらしいんだ。
──教徒たるもの、他者に平等であらねばならない。
この戒律を破り『不平等』にするために、俺にはやらない、と。
「アルジャンにはしてないトクベツなことを、そのうちキミにはしてあげるね」とかなんとか言ってたが、結局うまく誤魔化されてるだけっぽいんだよな。
ほんとに……。
ふざけんなよなああああ!!
なんでアルジャンばっかいい思いをしてんだよ!!
当のアルジャンは性欲らしきものが欠落してるのか、その行為をしてもらったことに対する男としての喜びとか全然なかったしさ!!
せめて!! 喜べよ!! 喜び方がおかしいだろ!!
エッチなことしてもらったんだぞ、お前は!!
いやまあ、だからってマジでアルジャンを嫌いになることなんて絶対にないんだけどな。
そんないい加減な理由でパーティを抜けたくなるはずもねえし。でも、少しは俺だっていい思いしてえよ!
……と、これが当時思った感情ね。
で、だ。
当然、俺はいまだに『女の子からのぱふぱふ』を受けたことがねえんだわ。
なのに!
なんで親友のむさ苦しい大胸筋のぱふぱふを受けなきゃいけねえんだよ!! 地獄か!!
俺は無言のまま、ルージュへ、スッと目線を向けた。
俺の意図を察した優秀な僧侶様はすぐに理解してくれたらしく、深く呆れたような目をしながら静かに首を縦に振った。
そして、手にしている布に睡眠の粉をこれでもかと丹念にまぶしつけると。
一瞬の隙を突き、泣き喚くアルジャンの口元に、背後から強引に押し当てた。
「ん、んもぅ……ッ!」
「暴れないで! 暴れないでよ! お願いだから大人しく寝てよ……ッ!」
少しでもその剛腕がルージュの顔面に直撃したら、大怪我どころか首が飛びかねない。
ルージュもそれを理解して必死に押さえ込んでいるし、心優しいアルジャンも、筋肉に支配されつつも「大切な仲間を傷つけまい」と抵抗の動きが小振りになってた。
その優しさゆえに、ルージュは睡眠粉まみれの布を当て続けることができ……やがて、筋骨隆々の勇者様は自分のベッドに丸太のように倒れ込み、ついに眠りに落ちてくれた。
「……ふぅ。私たちも寝るわよ」
「あ、ああ……」
どっと疲労が押し寄せた俺たちは、その言葉を最後に、自分たちも粉末を浴びて速攻で泥のように眠ることにした。
あ、ジョーヌが床にぶち開けた巨大な穴のこと、気になってる?
とりあえず板を張って応急処置はしておいたよ。
ここの宿の人たちが俺らにめちゃくちゃ優しくて、本当に助かったよ。
『勇者一行が開けた穴として、むしろ目玉になるかもしれない』みたいなことを言ってた。
普通なら出禁どころか、損害賠償請求されて夜中に叩き出されてたとこだぞ。まあ、払うものは払うけどな。
*****
目が覚めたら、まだ外は薄暗い早朝だった。
どうも俺、この旅を始めてからというもの、全体的にあんまり寝つきが良くないんだよな。
だけど。
俺より早く起きてたヤツがいた。
「あ、ドレさん……おはようございます……ひぅっ!?」
銀髪魔道士の子だった。
俺が目を覚ました瞬間、切れていたパッシブ能力が再抽選されて発動したっぽい。
なんかね、割といつも奇声を上げる感じの子なんだけどさ、昨日のは特に酷かったじゃん?
だからこそ身構えちまうんだよ。
まさか、また『性欲』へのバフがかかっちまったんじゃないかって。
正直、アレは見ているこっちの理性がゴリゴリ削られるというか、妙に興奮しちまうから二度と引かないで欲し……いや待て、もう一回くらいなら……いやいや!
この子、もう身体の成長が完全に止まっちまってるのか、身長は五人の中で一番低くて体型も細身なんだが。
だからこそ逆に変な色気があるっつーか……このアンバランスさ、わかるか?
てか、命を預け合う大切な仲間を俺はなんつー目で見てんだ。二度とこういうクソみたいな評価すんのやめよう。
……いや、これも全部俺の呪いみたいなパッシブ能力のせいだ。そうだ、そういうことにしておこう。俺のせいじゃない。
で。
今度は何の能力が最大値になったのか、俺は冷や汗をかきながら身構えた。
ろくでもないバフを引いてたら、今日も旅どころじゃなくなっちまうからな。
「ドレさん!! 一緒に外出て朝の体操しませんか、朝の体操!! 朝日を浴びて身体を動かすと、すっごく気持ちいいですよぉっ!!」
陽と陰なら間違いなく『陰』寄りの彼女が、普段なら天地がひっくり返っても絶対に言わないセリフを、にこやかに放った。
恐らく、『ポジティブさ』──あるいは『健康志向』みたいなパラメータが最大値でバフの対象になったんだと思う。
……ほー、こういうのでいいんだよ、こういうので。
能力が上がるときはね、誰にも邪魔されず、健全で、なんというか、救われてなきゃあダメなんだ。
「さあさあ!! いきますよ!! もう起きている町の人たちと一緒に、広場で気持ちよく汗を流すんです!」
めちゃくちゃ朗らかな、太陽のような笑顔で、俺の手を引っ張って外へと連れ出していく。
ここまで極端なテンションじゃないにしろ、心を許した今では、普段も結構よく笑う子なんだ。
ただ……出会った当初は、全然違った。
今以上にめちゃくちゃ陰気っつーか、常に、この世の終わりみたいな絶望の顔をしてたんだ。
こんな風に無邪気に自分から迫るどころか、人の目すらまともに見られないほど人間不信で、いつもおどおどしていて……。
この子が五人目の仲間となったのは、ルージュをパーティに加入させてから、さらに四ヶ月後。
つまり、俺らの旅が始まって半年が経過してから入ってきた、パーティの最新参だ。
だが、俺たちが彼女と『出会った』のはもっと早かった。
ルージュと出会ってから、わずか一ヶ月半後のことだった。
銀髪魔道士ブラウ。
現在十七歳。俺らより二つ年下の女の子。
当時十四歳だった彼女は──。
俺たちの、明確な『敵』だった。
魔王軍に属する、強力な魔道士として俺たちの前に立ちはだかったんだ。
……気になるかい? そんな敵だった子が、どうして俺らの仲間になったのか。
もし、まだ俺の頭の中を覗いてくれている物好きな奴がいるなら。せっかくだから、もう少しだけ俺の昔語りに付き合っていってくれ。
あ、俺は脳内で回想に浸りながら、町の人たちと一緒に全力で朝の体操をやります。
ちなみに俺も運動がすこぶる好きなわけじゃないよ。特に朝っぱらから動くのはすげーめんどいんだけどね。
あんな満面の笑みで誘ってくるブラウを断れるほど、俺も鬼じゃないからさ。
女神「魔族の眷属だったのですか? そんな不浄なるものを加入させるなど、女神の使徒たる勇者パーティとしてありえないのですが……」