俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが……   作:あじさいファン

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とりあえず毎日18時05分更新とします。


8.魔道士の話・その1

 僧侶ルージュが、運命的なパーティインを果たして一ヶ月半。

 俺たち勇者パーティにとって欠かせない絶対的な基盤(インフラ)そのものだったね。

 

 回復役に必要とされるスペック、そのすべてを兼ね備えてた。

 負った傷のダイレクトな回復、厄介な状態異常の治療、戦闘不能からの戦線復帰。

 そんな、聖職者なら持っていて当然の魔法が高水準なだけじゃない。

 

 近寄ってきた敵を撲殺できる程度には、まあまあな物理攻撃力もあってさ。

 鋼鉄製のメイスを無造作に振り回してたんだが、勇者と戦士だけではどうしても不足しがちな火力面を補うという意味では、十分すぎた。

 

 これには、俺の立っているだけで自動発動する攻撃力微増バフとの相乗効果もあったらしい。

 俺もちゃんと仕事ができてるんだな、って実感できて、最高に嬉しかったのを覚えてるよ。

 

 さらに、敵からかけられる状態異常に対しても滅法強かった。

 彼女が『沈黙』の呪いにかかって呪文を封じられている姿なんて、ただの一度も見たことがない。

 

 魔法を使う者にとって、沈黙がどれだけヤバいのか、説明しなくてもわかるだろ?

 僧侶を無力化される不安要素のひとつを、心配しなくていいって事実に、俺たちがどれだけ救われてきたことか。

 

 そして。何より、嘘みたいに文字通りの鉄壁の防御力があった。裸同然の格好をしているのに、だ。

 これは俺ら勇者パーティに加入した際に入手した、彼女自身のパッシブ能力によるものだったらしい。

 パーティのレベルに比例して、彼女の防御力にプラス補正がかかるという。

 

 物理攻撃にも攻撃魔法にも完璧な抵抗力を持つその頑丈さは、王都で必死に重い鎧を身にまとい、盾を構えて命懸けで戦っているエリート騎士たちが、裸足で逃げ出して涙目になるレベルだったんじゃないかな。

 

 固い、強い、速い

 完全無欠で天才的な僧侶様が後ろに控えていてくれるお陰で、俺たちは以前とは比べ物にならないくらい、無茶な未開のダンジョン探索が出来るようになったんだ。

 

 つっても、ルージュ自身の魔法力にも当然限界はある。

 それが枯渇すると一気に詰むっていう意味で、決して完全無敵ってワケじゃなかったんだけどね。

 

 ……これほど偉大な僧侶様だが。

 俺ら幼馴染三人のパーティに少しでも早く馴染もうと、すげえ努力をしてくれた。

 移動中も積極的に会話を振ってくれたし、俺たちの知らない高度な知識をいっぱい話して聞かせてくれてさ。

 

 先述した通り、ウブすぎる勇者様に正しい性教育を施したのもその一環だった。

 俺とジョーヌは年齢相応にその辺りの知識はバッチリあったんだが、おさらいも兼ねて、彼女の講義を三人で並んで受けてみたんだ。

 まあ、受講してみた本当の理由としては、ジョーヌが「パーティ内でいかがわしい男女の不純異性交遊が始まったら旅どころじゃない!」って妙に警戒してカリカリしてたからなんだけどね。そこに俺も付き合わされたワケ。

 

 ルージュは、その性教育を、驚くくらい真面目に、(おごそ)かに施してくれた。

 無知な勇者を誘惑するためのダシに利用するような、ある種、卑怯な女の計算は、彼女の中には微塵もなかった。

 普通の人なら口にするのも躊躇(ためら)うような赤裸々な単語の数々を、医療用の書物をめくるように、丁寧に、丁寧に噛み砕いて教えてくれた。

 

 そして、「お互いの純粋な合意のない行為がいかに勇者らしくなく、理不尽に人を傷つけてしまうか」ということもな。

 アルジャンが旅の途中で無知なままで町の女性を無自覚に傷つけてしまわないようにという、彼女なりの懇切丁寧な、親心のような指導だったな。

 

──教徒たるもの、性についてひけらかしてはならない。

 

 こんなお堅い教義がアルカンシエル教にはあったから、「戒律を破るため」の反逆教育だったんだろう。

 だが、それ以上に、命を救ってくれた勇者にその恩を自分なりの方法で返そうと、必死だったんだろうね。

 

 内心でエッチな妄想をしてニヤニヤしながら受講していた俺の思考が、いかに浅ましく不純だったかを思い知らされて、すげえ恥ずかしくなったよ。

 それは妙に身構えていたジョーヌも同じだったらしく、「自分を恥じた」ってことを、後から俺にだけこっそり教えてくれたっけ。

 

 てなわけで、我らが勇者様は、彼女の献身的な教育により極めて健全で正しい性知識を入手した。

 まあ、それでも『ぱふぱふ』への執念だけはどうしても捨てきれなかったみたいだけどな。

 良かったなアルジャン、本当に。最終的にはやってもらえてさ。

 

 ルージュの加入によって、確実にパーティには最高の風が流れていた。

 勇者様の、無知、っつー「致命的な弱点」も補強され、魔王討伐の旅は順風満帆に進んでいった。

 

 ただ。

 世の中そんなに良いことばかりでもなかったんだ。

 

 まず、肝心の「魔王」とやらの実態が、どれだけ旅をしても一向に掴めなかった。

 魔王城という本拠地にいる、凶悪な魔族たちを使役している。本当にこれくらいしか情報がわかんなかったんだよ。

 

 一番肝心の「魔王城が世界のどこにあるのか」がサッパリ分からないから、ぶっちゃけ、ずっと雲を掴むような旅だったし。

 なんで神託をくれた女神様は、最初に住所くらい教えてくれなかったんだろうな。

 

 あれかね、「自力で魔王城に辿り着けないようなヌルい奴は成長もしないから、勝手に道中で野垂れ死ね」みたいな?

 コエー女神様。

 

 ……そして、厄介だったのは、魔王軍の尖兵どもだ。

 

 ほら、ルージュの一件で襲い掛かってきた四天王がいただろ。

 紫肌の、『邪鎖(じゃさ)のノワール』とかいう、あの生意気な幼女。腕を切り落とされてたのに繋げてたアイツだ。

 アレがどうも魔王に対して、俺たちの想定外の強さとヤバさをきっちり報告しやがったみたいなんだ。

 

 こっちを明確な脅威として認識した魔王は、それ以降、ことあるごとに俺たちの行く手に刺客を送り込んできやがった。

 その当時の絶望的なメンバーと、遭遇した最悪のシチュエーションの一部を紹介させてくれ。

 

 

『……貴様らごときに私の相手が務まると思ったか? 身の程をわきまえよ』

 

 全身を漆黒のフルプレートアーマーでガチガチに固めていて顔すらも見えない、やべー重装騎士みたいなやつ。

 黒い鎧の上に赤いマントを羽織っていて、見た目は男の子心をくすぐる超絶カッコいいデザインだった。

 

 だが、まず持っている大剣の威力が尋常じゃなくやべえ。

 軽く一振りしただけで、こっちに向かって空気を切り裂く衝撃波が飛んでくるんだ。

 アルジャンが全力で放つ剣技の衝撃波によって、相殺するのがやっとというレベルの、誰が見ても一目でわかる次元の違う強者だった。

 

 次に、持っている固有能力がさらにやべえ。

 その身体に青白いオーラを纏う瞬間、こっちの防御力を完全に無視して消し飛ばしかねないような、一撃必殺の強撃が飛んでくる。

 超防御力を誇るルージュが真っ向から食らって、「本気で死にかけた」レベルだ。本当にイカれてた。

 

 しかも技を使っている本人が、親切にも「これが真の『月光』だ。今ので私の力が五倍になった」とか実況説明してやがった。

 防御貫通が発動してるだけで十分すぎるだろ、ふざけんなよ。

 

 極めつけは、こいつが出現したあまりにも不条理なシチュエーションだ。

 俺たちがとある港町で平和に情報収集していると、何でもない一般民家から、のそっと現れやがったんだ。

 最初は散歩を楽しむかのように、ゆっくりと地面を踏みしめて歩いていたが、俺たちの姿を補足した瞬間、恐るべき爆速で距離を詰めてきやがった。

 

 それだけの戦闘力がありながら、不思議と周りの町民にはいっさい危害を加えない、妙にストイックな武人気質の奴だった。

 俺たちをギリギリまで徹底的に追い詰めた後、虚空から何かの呼び出し音が聞こえたらしく、「……時間か」とだけ残して転移魔法で消え去ってくれたから命拾いしたものの、あれは生きた心地がしなかったね。

 

 ちなみに後日、夜の暗い森を四人で探索してたら、暗闇からまた唐突に出くわして、みんなで「ぎゃああああ!?」と情けない悲鳴を上げたっけな。

 そんときは別の標的がいたらしく、俺らは無事に逃げられたけど。

 

 驚くべきことに、この絶望的な強さの重装騎士でさえ、四天王の一人ではないっていうんだから、当時の俺は魔王軍の層の厚さに本気で絶望したよ。

 

 

『お前たちへの贈り物を考えていた。絶望を贈ろうか……』

 

 強烈に長い細身の剣を、常に抜き身のまま持ち歩いている、長髪で超絶イケメンのお兄ちゃん。

 背中に一本だけ、禍々(まがまが)しい黒の片翼が生えていて、カッコよさを極めたような剣士だった。

 男なら誰もが、ちょっとあんな感じのクール系になりたいって憧れるタイプ……いや、勇者様から見たら違うな多分。

 

 さっきの重装騎士の人と並んで、コイツの戦闘能力も完全に人間の領域を逸脱してやがった。

 まず剣のリーチが尋常じゃなく長すぎて、そこから繰り出される神速の攻撃力も普通じゃない。

 

 どんな伝説より……凄かった。

 アルジャンとジョーヌの、二人がかりの連撃を、なんと完全に(さば)き切ってみせたんだ。異次元にも程があんだろ。

 

 その上で、高度な魔法までガンガン使ってきた。炎を爆発させる広範囲魔法がめちゃくちゃ得意らしく、俺たちは終始、なす術なく燃やされかけて非常に苦しめられた。

 ルージュの回復魔法がなければ、あの時点で確実に全滅してただろうね。魔王軍の戦力高すぎだろ。

 

 最悪なことに、こいつは「あの僧侶のせいでこちらの攻撃が阻まれている」と瞬時に見抜くや否や、ルージュを真っ先に排除しようと遥か高空へと跳躍。

 その長い剣の切っ先を下に向け、必殺の急降下突きを繰り出してきやがった。

 

 ルージュの腹が容赦なくぶっ刺される最悪の絵面が脳裏(のうり)(よぎ)った俺は、考えるより先に身体が動き、咄嗟に彼女の身体を全力で突き飛ばして庇った。

 刃の軌道があと数センチ横にズレてたら、俺の脳天が真っ二つに叩き割られてただろうね。

 今思い出しても背筋が凍る。ルージュは戦闘が終わった後、半泣きになりながら俺にめちゃくちゃ感謝の言葉を言ってくれたっけな。

 

 ひとしきり派手に暴れまわって俺たちをボロボロにした後、彼は、()()()()()()へ行くとか呟いて、そのまま空の彼方へと去っていった。

 率直に言って、最初から最後まで関わっちゃいけないタイプの狂ってる奴だった。

 こんな大災害みたいな奴も四天王じゃねえとか、ホント勘弁してくれよ。

 

 

『おまえらみたいなヤツは……地獄で燃えてしまえばいい』

 

 そして、こいつなあ……。

 青い上着を着た、ただの骨。いわゆる最弱モンスターの代名詞であるスケルトンってやつだ。

 

 普通なら、物理攻撃を一発ポコんとぶち当てれば粉々に崩れ去る、「もっともラクなてき」だし、攻撃力だって低い……はずなんだが。

 なぜかこちらの攻撃が異様なほど、物理法則を無視して一切当たらない。

 

 しかも、こいつの攻撃方法、最初は骨を素手でポイポイぶん投げてくるだけだったんだけどさ。

 その辺の小石を投げるようなモーションのくせに、ちょっとでも身体にかすり傷を負うだけで、こちらの生命力がゴリゴリと消し飛んでいくんだ。

 

 ただ骨をスナイパーばりに投げてくるだけならまだしも。

 なんか背後に巨大な獣の頭骨みたいな化け物を何体も召喚して、その口から極太の魔導砲を連射してくるやべー戦術を使い始めてさ。

 あれ、どう考えても攻撃範囲が広すぎるんだわ。もう防戦一方、どうしようもなかった。

 

 一番最初にそいつが放ってきた不意打ちの先制攻撃がとにかく苛烈を極めててさ。

 うまく避け切れていなければ、俺たちはあの開幕の一瞬で全員が即死して消滅してただろう。

 

 こっちがそれなりに旅で鍛えられていて基本の防御力があるとか、そんなの全く無関係だもん、無関係。

 気を抜けば文字通り骨にされる。

 

 みんなの絶望的な苦戦を目の当たりにして、非力な俺も焦って、無手で殴りかかったり、いつも料理用に使ってるナイフ(注釈つける必要もないと思うけど、オモチャじゃないぜ!)で背後から斬りかかってみたりしたんだが。

 悲しいかな、俺のヒョロガリモヤシ攻撃が当たるわけもなく、ただ虚空を切り裂くだけだった。

 

 結局、俺たちの渾身の攻撃は一発たりともその骨に当たらないまま全滅寸前まで追い込まれたんだが。

 

 後からドタドタと現場に駆けつけてきた「別の見知らぬ冒険者」が、そいつをボコボコに叩き潰して救ってくれた。

 やけに普通の村人っぽいラフな格好の男の子で、細目なのが印象的だったんだが、アホほど強かった。

 

 そいつが使っていた得物、なんだと思う? 剣でも斧でもない、ただの『フライパン』だぜ、フライパン。しかも、なんか焦げてた。

 あと、ドス黒いオーラを(まと)ってて、ラブ? がどうとか言ってた。あの骨を倒して最大値になったとかなんとか。ラブってなあに。愛情?

 

 ある種、魔族より恐ろしかったんだけど……。

 あれ、以前ジョーヌが怖がってた、近隣の魔物を根絶やしにすべく戦っているとかいう『魔物ハンターの僧侶』の仲間か何かだったのかな?

 

 

 ……てな感じでね。

 魔王の奴はさ、出し惜しみなんて一切せずに、常にトップクラスに強い奴ばかりをピンポイントで俺たちの元へ派遣しやがったんだよ。

 

 いや、戦略的にはこれ以上なく当然の判断だぜ。

 もし俺が魔王の立場で、勇者を確実に殺そうとしたら、絶対に同じように手持ちの最強戦力を最初から一斉投入するしな。

 

 ま。

 こんな理不尽極まりない超強敵との戦いが続いたもんだからね。

 俺たちが心身ともにボロボロに疲弊していくのは、至極当然だろ?

 

 どこの町に行っても枕を高くして眠れる安全な場所なんて、なかったよ。

 

 普段通り、戦々恐々としていながら旅を続けていた……そんな、昼間のことだ。

 いつ襲撃されるかと、極限まで周囲を警戒しながら街道を歩いていた俺たちの前に、立ちはだかったのが。

 

 

──そう、のちの仲間(パーティメンバー)五人目となる銀髪魔道士、ブラウだったってワケだ。

 

 

 背は低いし、肌も普通の人間と同じ。

 武器らしきものすら持っていなかったから、俺たちは完全に油断しちまってた。

 すげー暗い顔をして(うつむ)いていたもんだから、親とはぐれて途方に暮れている迷子なんだって、すっかり思い込んじまったんだよね。

 

 お人好しの勇者様を先頭にして、心配そうに声をかけようと近寄った瞬間──。

 

()ぜろ』

 彼女はただぽつりと、一切の感情がない声で、それだけを呟いた。

 

 ドゴォォォォォォォンッ!!!

 

 っていう、凄まじい轟音と、全身を焼く強烈な熱と痛み。

 一切の事前詠唱すらなく放たれた理不尽すぎる超威力の爆裂魔法を、俺たちは至近距離からまともに喰らっちまったんだ。

 

 そのまま数十メートル後方にある鬱蒼(うっそう)とした森の中まで、四人まとめて吹き飛ばされてさ。

 見事に全員バラバラの場所に墜落して、完全に分断されちまったってわけだ……。




女神「コエー女神? コエー女神と言いましたか? 当然でしょう。最近の若者は軟弱すぎます。目的地レーダーがなければまともに冒険も出来ない者ばかり。少しは苦労すべきなんですよ。わかりますか?」
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