俺、最強のバフ要員。パーティからのクビを宣告されたんだが…… 作:あじさいファン
強烈な爆裂魔法の一撃。
森までまとめて吹っ飛ばされたわけだからさ、普通なら四人とも木っ端微塵になって死んでいてもおかしくなかった。
じゃあ、なんで生きてたかだけど。
実は、ここまでの数々に渡る狂った強敵との死闘で、勇者パーティのレベルもだいぶ高まってたっぽいんだ。
その結果、俺のパッシブ能力にも知らず知らずのうちに磨きがかかってたわけ。
それまで「攻撃力微増」だけだったバフの効果が、防御力の方にもかかるように成長してたらしいんだ。
今までそれに気づけなかったのも、無理はないと思うぜ。
なにせ最近戦ってきたのは、『月光』とかいうこっちの防御力を完全に無視するオーラを使ってくる重装騎士や、シンプルに一撃の火力がオーバースペックすぎる片翼の剣士、そして掠っただけで生命力を削り取ってくる骨とか。
こっちの防御力そのものの概念すら忘れちまうような、防御バフがまったく意味を成さない相手ばっかだったからね。
で、久々にそういうイカれた『貫通』持ちじゃない、真っ当な純粋火力の魔法攻撃を食らったもんだから、ここで初めて判明したわけだよ。
俺のバフは戦闘中にしか発動しない仕様なんだけど、相手が爆裂魔法を発動する直前に、戦闘状態と認識してくれたことも功を奏したんだ。
まあ──ここまでは、勇者様と戦士様が軽傷で生きてた理由の説明だよ。
このパッシブ能力、発動者である俺自身にはまったく効果がないからねえ。
あ、僧侶様は自前のパッシブと俺との相乗効果で無傷だったそう。
じゃあ、次からは俺がギリギリ生きてた理由の説明するね。
『運』です。
もうちょい正確に言うと、魔道士の子に話しかけたときの隊列が、アルジャン、ジョーヌ、ルージュと続いて、最後尾に俺がいたんだけど。その位置関係が奇跡的に良かったんだろうね。
前衛の三人が、爆発の威力をまともに受け止めるクッションになってくれた形で、威力がだいぶ殺されてたって感じだ。
なのに、バフの恩恵がないせいで一番重傷を負ってたのは俺っていうね。
でも、それで良かったよ。ルージュはともかく、俺のバフがなけりゃあ、幼馴染の二人はあの不意打ちで確実に死んでただろう。
それでも、かすり傷ってわけにもいかなかった。
身体中が焼けるように痛かったし、あちこち火傷を負ってたし。地面に激しく叩きつけられた衝撃で、立ち上がることすらできなかった。
四肢がもげていなかったことだけが、ホントに不幸中の幸いだったね。
激痛で呻いていると、ガサガサって、草むらから嫌な音がした。
『トドメ』
端的に自分のやりたいことを表現できる、あの銀髪の女の子だった。えらいね。……いや、えらいねじゃないが。
俺らが吹っ飛んだ先を追ってきて、一番最初に俺のとこに着いちまったっぽい。
もうどうしようもねえ、と思ったね。
俺は四人の中で一番戦闘能力が低く、情報収集と買い出しとバフの専門家だぜ? 戦闘中は、立ってるだけが仕事の。
モンスターの一匹も殺したことのないようなヒョロガリの体たらくで、まともに戦えるわけないじゃんか。
しかも全身痛くて動けねえし。大声で仲間を呼ぶ気力も湧き上がるはずがなく。
女の子は無機質な瞳で
確実に俺を殺すための魔法攻撃。それを避ける方法はなく、俺はただ死を覚悟して目を
──すまねえ、アルジャン、ジョーヌ、ルージュ。やっぱ俺、最後まで役立たずだったわ。
死ぬと思った瞬間に俺の脳裏をよぎったのは、そんな情けない謝罪だった。
だけど。
俺を刺し貫くはずの魔法は、いつまで経っても発動する気配がなくてさ。
不思議に思って、おそるおそる目を開けてみると。
『あ、あぁ……痛い……あ、ああ……』
その子は、小さな自分の身体を必死に抱きしめて、その場にうずくまり、ガタガタブルブルと激しく震えていたんだ。
顔は極限まで真っ青になっていてよ。目を見開き、今にも死にそうになっている俺以上に、苦痛で死にそうな顔になっていた。
俺さ、それ見たら、思わず這いずるように駆け寄っちまった。
自分も激痛で立ち上がれなかったとか、こいつは俺を殺そうとした敵だとか、もうそういう理屈は全部かなぐり捨ててさ。気合だよ、気合。
また爆発魔法を撃ってくるための不意打ちの予兆なんじゃないか、とも考えなかったね。
だって、そんな面倒な真似をする理由がないだろ。ついさっきまで、俺を殺すための魔力を完璧に溜めてたんだから。
なんか恐ろしく吐きそうにしてたから、俺は痛む腕を伸ばして、彼女の小さな背中をさすってやったんだけどさ。
『ごめんなさい……ごめんなさい! 魔王様、あたし、ちゃんとやります……ちゃんとやりますからぁ……!』
とにかく魔王に対する恐怖心が強いらしく、虚空に向かってしきりに謝っていた。
んで、どれだけ背中を撫でてやっても無駄で、ずっとうめき声を上げて痛がっていたから、俺にはどうしてやることもできなかった。
『大丈夫!? ドレ!』
それから割とすぐに、ルージュが俺を見つけて駆け寄ってくれたのは幸運だったよ。
勇者たちとははぐれたままで、彼女も一人だった。
傷ついてボロボロになっている俺に、ルージュはすぐさま回復魔法をかけてくれて……そして、未だに痛みに
アルジャンのこと、「呆れるほどのお人好し」とかいつも心の中で評価してっけどさ。俺らも大概変わらないな、ってその時思ったね。
ルージュの高度な回復のおかげで、その子もようやく痛みが引いてきたみたいだけど、それでも完治はしていなかった。
優秀な僧侶様の見立てでは、「外傷じゃなくて、回復魔法じゃどうしようもない、何か特殊な状態による痛み」っぽいとのことだった。
『どうして……回復を? あたし、あなたたちの敵だよ』
痛みが和らぐと、怯えたような眼差しで俺たちを見上げながら、魔道士の子はそう呟いた。
このとき詳しい事情は聞かされていなかったが、その声の響きから「少なくとも、こいつは自ら進んで魔王軍に心酔してるわけじゃないだろうな」ってことだけは、俺もルージュも察した。
で、ルージュは、敵であるはずの彼女に回復を撃った理由を堂々と、端的に説明した。
──教徒たるもの、決して魔物や魔族に情けをかけることなかれ。
この戒律を破る最高のタイミングを見計らっていたんだと。
でも、本当に殺しにかかってくる残虐な魔族連中にまで情けをかけていたら、あっという間に勇者パーティは瓦解しちまう。
だから、自分の判断で「回復をかけてあげたい相手」を選びたかったと。
キミはその対象になっただけだから、お礼なんていらない……そう、ルージュは言い切った。
魔道士の子は不思議そうな顔をしていた。
まあ、俺もルージュの行動原理を知らなければ、同じようにポカンとしてたと思うよ。
でも、戒律を違反するのが目的じゃなかったとしても、この僧侶様は迷いなく回復をかけてたと思うけどね。
俺らが認めたルージュって女は、そういうヤツなんだ。
『そもそも……あたし、魔族じゃ、ないです』
まだ痛む身体を震わせながら、彼女は回復をかけてくれた礼代わりにと、ポツリポツリと自己紹介をしてくれた。
名前はブラウ。俺から見て二つ、ルージュから見て四つ年下の、十四歳。
王都の外れにある「強力な魔道士だけが住む集落」に住んでいたが、七歳のとき、賊の襲撃を受けて自分以外の家族や村人が全員死亡。
その後、魔王軍に拾われ、七年ほど軍属の魔道士として従事させられている。そして今回、勇者を殺す指令を受けてここに立たされていたんだって。
『でも、魔王に怯えているんでしょ? ホントはこんなこと、嫌なんじゃないの?』
『それは……その』
ルージュの問いかけに言い
何かのっぴきならない事情があるってことだけはわかるんだが、それが何なのかは、この時点では判明しなかった。
発作のような痛みと関係があるんだろう……俺たちの中では、まだその程度の認識でしかなかったね。
と、そのときだ。
ビリビリとした邪悪な波動が、森の空気を重く包み込んだ。
『ホンット、愚図! 与えられた仕事もまともに出来ないなんて!!』
四天王の一人を自称する『
攻撃の
俺もルージュも戦々恐々と身構えたが、意外なことに、今回ノワールは俺らと戦う気はないと告げた。
一ヶ月半も経つというのに、アルジャンたちに切り落とされた腕がまだ完全にはくっついていなくて、勇者たちとは戦いたくないこと。
そして、今回ここに姿を見せたのは、ブラウのお目付け役みたいなものをやらされてるせいだと不満げに話した。
『あんたらも、わたしと戦いたくないでしょ! 見逃すのは今回だけだから!』
アルジャンたちがここにすぐ合流してくれれば四天王の一人を潰せるチャンスだと思ったんだが、なかなかうまくはいかないものだ。
互いに睨み合ったまま、俺らはヤツと事を構えないという選択を取らざるを得なかった。
いくら強力でもルージュによるメイスの一撃だけで、四天王をしっかり仕留めきれるかどうかわかんなかったしな。
『これだからダメなんだよねー、人間は! せっかくのパッシブ能力を、魔王サマのために活かすことすら出来やしない! ほら、さっさと帰りましょ。みっちり調教し直してあげなきゃね!』
『ま、待って──』
ノワールの言葉に心底怯える様子のブラウだったが、その弱々しい懇願が聞き入れられるはずもなく。
いつか町で見たときのように、闇の球体みたいなものに包まれて、ノワールと共にこの場から強制的に転移で消え去っていった。
森を駆け回っていたアルジャンとジョーヌが俺たちを見つけ、この場所に合流できたのは、それから少しだけ経ってからのことだ。
二人は爆発魔法を直に浴びておきながら、驚くほど軽傷だった。親友たちの命に別状がなくて、心底良かったと思ったね。
あまりに魔王軍からの刺客が多すぎるから、町の宿屋で寝ていたら他の客に迷惑がかかる。
だから、僧侶様が張ってくれる強力な結界の下で、この時期は野宿することが多かった。
その日も、森の奥でそうすることにしたんだ。
パチパチと燃える焚火を囲みながら。
俺らは、アルジャンたちが見ていない出来事について報告した。
銀髪の魔道士の女の子、ブラウのこと。俺にトドメを刺せずに苦しがっていたこと。
そしてノワールが現れて、戦闘をせずにブラウを回収して帰っていったこと。
『……俺たちがかつて、港町の酒場で収集した情報と食い違っているな』
一通り話を聞き終えた勇者様は、神妙な顔をしてぽつりとそう言った。
別の場所で同じ情報を耳にしていたジョーヌも、同意するように深く首を縦に振る。
『ああ。七年前、魔道士の集落を襲撃したのは「賊」ではない。魔族の仕業だったはずだ』
二人が集めた情報が正しいのであれば。こんなシナリオが思い浮かぶだろ?
魔族は強力な魔道士たちの力を軍に引き入れようとしたが、当然拒否された。
交渉決裂の後、魔族は集落を容赦なく壊滅させる。
唯一生き残ったブラウだが、恐怖でその状況をちゃんと見ていなかったとかで、真実をすり替えて言いくるめられる余地が生まれていたのだろう。
彼女の潜在能力をアテにした魔族たちは、己を「賊から魔道士たちを助けに来た善意の者たち」ということにして、幼い彼女に恩を着せ、魔王軍の所有物として今日まで洗脳し酷使してきた……。
どこまで合っているかはわからないけど、ブラウの怯えきった様子を見た感じ、当たらずとも遠からずな気がしたね。
なるほどね。マゾクの仕業から「魔」を抜いて、ゾクの仕業に、ねえ。
まぬけが。
『彼女が真実を知れば、魔王軍から抜けられるのではないかしら』
ルージュの言葉は、この場にいる俺ら幼馴染組の心境を完全に代弁してくれるようなものだった。
彼女自身が本当に望んで俺らを殺したいと思っているのなら、こちらも全力で返り討ちにしなければならない。
けど、どうにもあの涙からはそのようには感じられなかった。
ノワールの言っていた、「パッシブ能力がどうたら」というのもひどく気になる。
何か彼女には魔王軍にとって都合のいい能力があって、その目的のためだけに、使い捨ての道具として使われている気がしてならなかったんだ。
あれほど健気そうな女の子を、愚図扱いして酷使している魔王軍の連中に腹が立った。
なんとかしてあの子をあの地獄から救い上げたいと考えるのは、人情ってモンだよな。
『今後また、彼女と出会う機会が必ずあるはずだ。そのときは……』
焚火を見つめる勇者様の瞳の奥には、確固たる信念の炎が宿っているように見えたね。
それに同調することを示すように、俺ら三人も力強く、首を縦に振ってみせたんだ。
*****
ここまでが、彼女との最初の出会いだったってワケ。
ルージュの時とは違って、明確な『敵』としての登場だったのさ。
そんな、痛ましい奴隷みたいだったブラウだけど。
今はというと。
「はーい、次は腕を前から上に上げて! 大きく背伸びの運動!! はあいっ!!」
俺のバフのせいで色々と吹っ切れちゃってる彼女は、朝日の中で、俺と町人たちに『朝の体操』を強制している。
この体操はループし続けており、とりあえず第一と第二があるんだが、さっきから第一だけを延々と繰り返しててね。今、驚異の六周目に突入している。
「ホントは幻の第三もあるんですよ!」
と、ブラウが自慢げに教えてくれたが。へー、知らなかったよ、そんなの。
あまりにも繰り返されるキツい体操に、ギブアップしてへたり込む町人も続出。
仕事があるから、とそそくさ逃げていく者もいたし、遠巻きに体操を続けている人たちの見学に回る者もいた。
俺もギブアップしたかったんだよね。三周目に突入したあたりで。
でも。
「ドレさんはダメです!! これから魔王城に向かう過酷な旅が始まるんですから!! 今のうちにいーっぱい動いておいた方がいいです!! お日様もこんなに気持ちいいんですから!! ね!?」
いや、これ繰り返してると筋肉痛で旅どころじゃなくなる気がするんだけど。
一週目はスッキリして気持ち良かったんだけどな。
あ、俺の頭を覗けてる人がまだいて、もし似たような体操に覚えがあるなら、起き抜けにやってみるのはいいかもしれないぜ。健康になれそう。
「腕を胸の前で曲げて、開いて、胸を反らせます!!」
朝日を浴びて、元気いっぱいに胸を張るブラウ。
加入する直前も、加入してからしばらくの間も、怯えて縮こまってばかりだった彼女の背中を思うと、なんか、ちょっと感慨に
……じゃあ、また回想に戻ろうか。
ブラウとの出会いから二ヶ月半をざっくりと、そして彼女の加入で何が起こったのかを。
相変わらず笑える話じゃないと思うから、そこんとこだけは、よろしくな。
女神「七歳で魔王軍所属ですか。そこから七年も悪行を働いているのであれば、容赦なく断罪すべきでした。何を考えているのでしょうか? 勇者アルジャンには、しっかり教義を叩き込まなければいけなかったかもしれません」