いつもと変わらない日常。仲間と語らい、鍛練し、外敵を駆逐する。争いは絶えず、仲間が傷つくこともあったが、いつも仲間に囲まれていた。仲間の表情はいつも、笑顔だった。そんな平和とは言い切れない日々に私は幸せを感じていた。
これからもこの日常が続いていくのだろうと、誰も保証できるハズのないことを、ましてや外敵が多く、争いが絶えない環境に身を置く私が。漠然と、私は思っていた。
けれど、幸せはずっとは続かない。
日常が壊れるのはいつも突然で、抗いようのない理不尽が壊してくる。
ソレは、本来ここには存在しない者。ここから離れた地区を治める者が、私たちを襲った。
当然、私達は抵抗した。日常を奪われないために剣を振るった。盾で攻撃を受け流し、カウンターを何回も入れた。
しかし、その攻撃はどれも効かず、燃え盛る拳に悉くを蹂躙され、ただ仲間を減らすだけに終わった。
『このままでは全滅……。なら、ここは私が……ッ!』
『いえ、貴女はお逃げください』
『何を言っているんですか!?この場で最も強いのは私です!であれば私が囮になれば貴方達は——『だからです』……え?』
私は仲間を逃がすために囮になろうとするが、言葉を遮られる。
『貴女は優しい。きっと、我々を逃がす事に命までも捧げようとするのでしょう』
『しかし、生きてほしいと思うのは我等も同じです。我等は、最も尊敬している貴女に生きてほしい』
『だから、貴女がお逃げください。此処に居る我等の為に』
『我等の分まで生き、新しい日常を見つけてください』
『それが、それこそが………。今、我等が望む事ができる願いなのです』
その言葉を最後に、私はダンジョンの外に繋がるゲートへ突き飛ばされる。
私がゲートの範囲に入れば周囲は光り始め、仲間たちの姿が視界から消えた。
消えて、しまった。
ーーーーー
「ん……?エースじゃないか。こんなところで会うとは奇遇だな」
「え、ソニアさん!?」
ドロップ・インパクトが発生したダンジョン、ラギ火山に行ったエース達三人は、先に到着していたソニアと遭遇した。この人ドロップ・インパクトが起きた時の遭遇率高いな。
「丁度良かった。お前も手伝ってくれないか?」
「あれ?エースとソニアさんって知り合いだったの!?」
「マジかよ……!こんな超有名人とどこでお近づきに……」
エースとソニアが知り合いとは知らなかったチャロとタイガー。困惑やら驚きやら羨ましさやらでエースを問い詰めるが、今は緊急事態。ソニアは3人に気を引き締めろと注意する。
「それにしても……、なんだか空気が重くて苦しいような……」
「オレも此処に来るのは久しぶりだけどよ……。こんなに重苦しい雰囲気は初めてだぜ……」
「この辺り一帯にあるドロップのバランスが激しく乱れているからだろう」
ダンジョン内の空気が重い理由をソニアが説明していると、ダンジョンの奥からモンスターの咆哮が響き渡る。
「今の声って……、もしかして……。メテオボルケーノドラゴン……!?」
「おいおい!唸り声で大合唱してんぞ!?なんかヤバいんじゃねーのか!?」
「他のモンスター達に語りかけてるみたいな感じが……」
「……どうやら、山の外へ出ることを仲間達に呼びかけているようだな」
ドロップ・インパクトの影響で凶暴性が増したモンスターが外へ出ればどうなるか、そんなものは想像するまでも無いだろう。
幸いにも、ボスモンスターであるメテオボルケーノドラゴンを倒せば他のモンスターも大人しくなるようだ。
「おっしゃあ!じゃあオレは先に行かせて貰うぜ!」
「あっ、タイガー!そんなに慌てたら危ないよ〜!」
「…………では、私も先に行く」
「…………分かりました。お互い気をつけましょう」
先に突っ走っていったタイガーを追いかけてチャロも奥へ進んでいき、ソニアも呆れながら後を追った。
協調性って必要だよね、マジで。
「連絡が付かないけど、アルスは無事なのかな……?」
一人、未だに連絡が取れていない幼馴染のことを気に掛けつつ、エースもダンジョンの奥へ進んで行った。
ーーーーー
時は遡って数時間前。
知る人が限られた秘湯で寛いでいたアルス。一人だけだと油断していたら、すぐ背後から女性の声———エルドラの声が聞こえてきた。
因みに、アルスは温泉の真ん中で寛いでいた。その真後ろということはつまり、サービスシーンである。視聴者は歓喜する光景だが、当事者であるアルスは冷や汗が流れ続けていた。
何故居るのかとか、自分が入っていることに気付いていながら何で入浴したのかとか、色々思うことはあるが一先ず……。
「いや〜、お久しぶりですね。積もる話もありますが今はお疲れでしょう、エル姉もゆっっくり温泉に入りたいだろうし俺は先にあがるね!じゃっ!」
「させませんよ?」
温泉からあがって逃げようとするが、失敗……ッ!
腰が上がりきる直前に首に腕が回り、強制的に再入浴させられる。背中にとてつも無く柔らかいナニカが当たってるが全力で無視する。気合いを入れ直そうと深呼吸すれば、温泉特有の匂い以外の匂いが鼻の奥にダイレクトアタック。追撃とばかりに腕の締め付けが強くなり、背中に当たるモノの主張が強くなる。アルスの気合いやら何やらは全て儚く散った。
「エエエエル姉頼むから離れてててて」
「なんで」
「……?」
「なんで、今まで何も、連絡をくれなかったんですか。無事なら無事だと、一言だけでも伝えて欲しかったです。私やソニアがどれだけ心配していたと思ってるのですか……」
「………ごめん」
昔、アルスはドラゴーザ島に住んでいた。その頃に保護者をエルドラがしていて、ソニアやタイガーと交流があったのだが……。
この話は、今語ることではない。
「私を心配させた罰です。今日以降、暫くは私と寝泊まりしてもらいます」
「それ罰になっていない気g「お風呂は勿論、寝る時も同じベッドで寝てもらいます」あかんわこれ罰なんてもんやない」
思春期の少年にはあまりにも刺激が強く、色々と歪められたり理性がゴリゴリ削られるような罰。男の夢と言っていいのかちょっと悩むな、これ。
「まぁ、冗談ですよ」
「あ、流石に?良かったぁ……」
「嘘ですけど」
「詰んだなこれ」
「流石に可哀想なので罰の内容を変更しましょうか。大変不本意ですが」
命の危機と言うより貞操の危機が迫っていたが、運良く免れたようだ。期待していた諸君には悪いが、ここは健全な世界(?)なのでな。
「ソニアから聞いています。龍喚士になったのでしょう?なら龍喚士らしい仕事をしてもらいます」
「未確認ダンジョンの調査?」
「そんな危険なことではありません。………いえ、危険なことには変わりませんね」
エルドラは息を一度吐き、告げた。
「他のダンジョンボスが乗っ取ったダンジョンの攻略です」
そして、ドロップ・インパクトが発生する数分前。
アルスは件のダンジョンの前に辿り着いた。
「此処がアニマが襲撃したダンジョンねぇ……」
『…………』
「君が言ってた特徴と一致してるけど、此処で間違いない?」
『っは、い………、此処です……
私が居たダンジョンです……!』