Fate/coin a term 東京模倣聖杯戦争   作:空白の端

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蛍光不眠都市?トウキョウ 12

 

「ねぇ、こ、れ……! いったいどこまで続くっていうの……!?」

 

 うねるように長く階段の続く塔の中を、二人……四人は登っていた。膨大な魔力が、この塔の中にとぐろを巻いてうずたかく積みあがっていた。

 延々と続く階段に文句を言うセシリスフィール、オドオドとしながらついてくるライダー、早く外に行ってランサーを殺すのよと息巻くセイバーに囲まれて、オルガマリーの精神はだいぶ参っていた。

 そこに。

 

 「オルガマリー・アニムスフィア……ですね」

 

 少し上から声がした。聞き間違えるはずもない。マシュだ。

 しかしセシリスフィールは気付いているのかいないのか、足を止める様子もない。

 

「ねぇ、セシリスフィール。ちょっと……止まってくれない?」

 

 私の呼びかけに答えることもなく、セシリスフィールはまだ登っていく。なによ、私の言葉なんて聞く価値もないってこと!?

 一段、一段。確実にマシュの元に近づいて行っているのを感じる。私は、殺されるのだろう。

 

「本当に来るとは……。自らの過ちを認められるのですか?」

 

 今までで一番広い踊り場。窓ガラスなんてそんな御大層なものはついていない、ただの大きい穴が開いていた。多分、頂上だ。

 私は、マシュの目の前までたどり着いてしまった。本当に予想外だ、という風に私の全身をくまなく見て──ため息をついた。

 セシリスフィールを止められなかったからって、こんな風に殺害予告をしてきた本人の前にのこのこ現れてしまうのも考え物だ、と自嘲してみるが。やっぱり、足の震えは隠せない。せめて、マシュの前だけでは少しくらいロードの娘である意地を見せたかったが。

 

「過ち……さ、さぁ。何のことかしら?」

 

 震える声。本当に情けない。私の答えを予想していたのか、それとも気に入らなかったのか、マシュはまた大きなため息をついた。顔を、見れない。(うつむ)くことしかできそうにない。

 俯いた先の、マシュの右手に。私は令呪の(あか)を見た。思わず、なんで、と口走ってしまった。

 

「ああ、これですか? 令呪です。貴女が一番よくお分かりの筈ですが」

 

 違う。そんなことは百も承知だ。問題は、何と契約したか、だ。もしかして、アサシンとか?

 

「契約したサーヴァントを知りたいんですか? そうですね……私も真名は知りませんが、セイバー、と名乗っていました」

 

 セイバー? セイバーが召喚された? おかしい。お父様はこの聖杯戦争にセイバーは召喚されないって言っていた。だからバーサーカーをセイバーと名乗らせることができたのに……! 私の中のものが、音を立てて崩れ落ちていく。認め、たくない。

 

「そろそろお喋りは終わりにしたいのですが……まぁ、まだ暇ですので、いくつか質問しても構いませんよ」

 

 その言い分は、どうせ死ぬのだから、と言外で物語っている。ここまで舐められては覚悟も決まったというものだ。絶対に、死にたくない。

 

「あなたは、私の知っているマシュ?」

「いいえ。違います。私はほんの少し未来から来ました」

「未来?」

「少し違う言い方でしたね。私はあまたある世界のうちの1つの未来からやってきました。貴女と、フジマルリツカを殺すために」

「なぜ殺す、なんてそんな物騒な言い方をするのかしら? ちゃんとした説明なしに殺されるこっちも、堪ったもんじゃないんだから」

 

 この質問は少し予想外だったのか、彼女の呼吸が一瞬止まったのが見えた。ここで倒す、まではいかなくとも何とか論理の隙を突いて、殺されないようにしないと──!

 

「そうですね。貴女に限って言うと、私は貴女が嫌い、とかそういう個人的な感情で動いているのではありません。もっと言えば貴女は悪くない。むしろ悪いのは貴女の父親、マリスビリー氏です」

「お父様が……? やっぱりあなた、あの実験のことまだ恨んでいるっていうの!?」

「いいえ」

 

 やけに食い気味に、マシュは否定した。しかも、いいえ、いいえ、と何回も繰り返し否定する。その顔は、私に対して怒っている、というよりもっと違う何かに対する……恨み。マシュにこんな表情ができるなんて、と心のどこかでは喜んでいる自分も、いた。

 

「ただ、あなたはココで死んだ方がずっとまし、というだけです。聖杯戦争が起きて、あまつさえ貴女が勝利するというのなら──まだ、ここで死んだ方がずっと、ずっと苦しまなくて済む。これ以上、先輩も苦しむこともない」

 

 多分、嘘はない。マシュの言う通りに、私がこの聖杯戦争で勝利した暁には、私の未来には死よりも苦しいナニカが待ち構えている、ということだろう。

 

「貴女が聖杯に求めるものは、前にも言っていましたね。巨万の富。そして、カルデアスの起動。私から言わせれば、あんなものはなくなってしまえばいいのです。あんなものさえなければ、私もこうはならなかった」

「──じゃあ、聖杯を手にしないってあなたと約束すれば、私は、殺さなくていいんじゃない?」

 

 たぶん、これで約束を取り付けられればこの塔を出られる、かもしれない。一縷の望みにかけて、私は問うた。

 

「本当に、そうするのならばいいですけど。貴女とあろう方がマリスビリー氏きっての()()()()に逆らえるとは思えませんが」

 

 う、見抜かれている。正直言ってお父様を裏切るのはあまりにも忍びない。ここはセシリスフィールに何とか手にしてもらって、ついでにお金ぐらい、と考えていたのまで見透かされていそうだ。

 ……待って、セシリスフィールはどこに消えたの!? とりあえず、私の目の届く範囲にはいない。

 

「まぁ、今日のところは見逃しても……ああ、あの人形を探しているんですね。私も知りませんが……大体貴女はここが何だか分かっているんですか? ここは、」

 

「盾のおねえさん、それいじょうはだめ! だよ」

 

 この陰鬱な塔には、あまりにも不釣り合いな明るい声。

 セシリスフィールとはまた違う系統の……元気な声だ。これがセイバー? あまりの光景に私は少し、自分の眼を信じ切れそうにない。なぜなら、そこにいたのは──ただの、少女だ。でも、ヒトとは全く違う生き物だということは、分かる。──セイバー、それしか考えられない。

 見たところ、10歳ぐらいの少女。でも、これがサーヴァントだなんて到底信じられない。だって彼女からは──ほとんど魔力が感じられないのだから。ただ、現界に必要最低限だけの魔力が細い細い糸のようにマシュと繋がっているだけ。

 

「おはなしはじゅんばんどおり、じゃないと。ね?」

 

 セイバーはそういってそっとマシュの手を握る。マシュの肩がわずかに震え、苦痛に口端を歪ませるのを、見た。

 何か、恐ろしい。私ではどうにもならないほどのナニカが、全方位から牙を剝いていた。

 

「セシリスフィールは、一体どこに行ったのかしら?」

 

 一言、やっと口をついて出た言葉はそれだけだった。目の前のセイバーは特に表情を変える事無く、ただにこにこと私を見つめている。純粋に、心の底からの悪意のない表情。でも、それが。今の私には、ひどく空虚で恐ろしい。

 

「んとねー、えーと。お外かな? さいしょから、ひとりでのぼってたんだよ?」

 

 最初から、一人で。にわかに信じがたい。でも、現にセシリスフィールもライダーもここにはいないのだから、そうでしかないのだろう。でも、まだ疑問は付きまとう。一体、いつから一人だった? 首筋に生暖かい汗が伝うのを感じる。二対一。クリームヒルトを出したとしても勝てるかどうかは分からない。むしろ、勝てる未来(ほし)なんて、一つも見えやしない。

 ──でも、多分。ここで逃げ帰っても誰も私を非難もしないし、けなしもしない。けれど、逃げるという選択肢は、私のプライドが許してくれそうにはない。そっと、令呪に触れる。死にたくない、逃げたくもない。勝利するしか私に未来はない。

 

「セイバー!」

 

 令呪を掲げる。すぐそばには、はぁい、と返事をして魔剣──バルムンクを携える私のサーヴァントがいる。これの何が不足だろうか。マシュは私が戦う意志を見せたのがそんなにも嫌だったのか、キッと私を睨みつける。上等だ。やってやろうじゃない──

 

「キャー!! たーかーいー!! あーでももっと早くして、ライダー!」

 

 不意に、塔がミシミシと音を立てて揺れる。直接壁を蹴りつける音、騒がしい声。この声は──セシリスフィール! 窓から直接ライダーごと頂上に突っ込み、あたたた、と衝撃でセシリスフィールは無様にセイバーの前に転がる。

 

「あっ!よかった~オルガちゃんが無事で! なんかセシリスフィールね、入り口から入っちゃいけないみたいで~、でも! 上の方に穴見えたからこれなら! って思ってライダーに運んできてもらったの!」

 

 えっへへ、と私に満面の笑みで笑いかけるセシリスフィールを見て。私はかつてないほど──嬉しかった。

 未来(ほし)が動き始める。今なら、勝てる気もする。もう一度、目の前の敵を見据える。敵愾心を隠そうとしないマシュ、終始表情を変えることのなかったセイバーの顔も──怒りに、満ちていた。

 

『なぜ ここに いる』

 

 たった一言、それは圧倒的な命令(言葉)。近くに立っていたマシュでさえも、苦しそうにしている。実際私も苦しい。心臓を握り潰されるような、死の感覚がまとわりついた声。でも、実際には──セイバーは、一言も発していなかった。

 そんなことも露知らず、という風にセシリスフィールはよっこいしょ~とか間の抜けたことを言って立ち上がった。セイバーの顔が、驚きに変わる。どうして、とその顔は言っていた。

 

 

『許しません 罪深い 創造物』

 

 

 さらにセイバーは”言葉”を続ける。アレが”言葉”を発するたびに、自分の中を丸ごと組み替えられるような精神攻撃を食らっている。どうにも正気を保てそうにもない。

 でも、セシリスフィールだけは、なんのこと、と言う風にしていた。それはまぎれもなくセシリスフィール自身に向けられている言葉だというのに、そのセシリスフィールが一番、何も気にしていなかった。

 

「もう! こんなところで立っててないで、戦うか逃げるか早く選んで! オルガちゃん!」

 

 セシリスフィールの一言で我に返る。待ちきれない、というふうに腕をばたつかせている。ちょっと喧しい。でも、覚悟は決まった。それに、分かったことがある。セイバーも”言葉”を発するたびに、セイバー自身もひどく消耗している風だった。これなら!

 

「……もう一度よ、()()()()()()! 今まで貴女をセイバーと偽らせていたことを謝るわ! 代わりに、このセイバーなんて倒しちゃって、もう一度()()()()()()()()()()!」

 

 星に間違いはない。私はまだ震える指先で自身の術式を起動させる。

 

星の形(スターズ)宙の形(コスモス)神の形(ゴッズ)我の形( アニムス)天体は空洞なり(アントルム)空洞は虚空なり(アンバース)。――虚空には神ありき(アニマ・アニムスフィア)

 

 それは、神代に取り残された理想魔術が一つ、星辰操作。

 

 今、この魔力に満ちた塔の中なら、発動できると信じている。自身を軸として、星そのものを私の魔術回路として従える。星は私一人のために、私を最大限支持する位置となるようにせわしなく動き続ける。窓の取り入れる光が弱くなったり強くなったりしている。順調に星の動いている証拠だ。

 魔術回路が周囲の魔術を吸って激動する。でも、その慣れた痛みは最早懐かしみさえある。

 欠けていたものが埋まっていく。すべてが、正しい位置に戻っていく。

 私の行使した星辰操作は惑星劫(わくせいごう)。私達は今、天の星に祝福されている。

 

 (未来)は定まった。今の私に、負ける道理はない。答えは簡単だ。星の運命に逆らえるはずなど、ないのだから。

 

「さぁ、やっちゃって、セシリスフィール! バーサーカー!」

 

 さっきまであんなにも恐ろしかったマシュが、今はただお父様に実験され続けるあのただの実験体のマシュに見えた。胸にチクリと罪悪の痛み。でも、今はそんなこと気にしている場合じゃない。

 

「どうして──!!」

 

 今日一番、と言っていいほどにセイバーが露骨な怒りに顔を染める。だが、何かの武器を取る気配もない。そこに慎重かつ無遠慮にライダーが斬りかかる。ライダーの馬が(いなな)き、セイバーをしたたかに踏みつけた。マシュはバーサーカーの猛攻にかかり切りになっている。むしろ、こっちが若干押しているまであった。

 だんだんと、塔が耐えられなくなってきたのかところどころからピシ、という音が聞こえる。

 

 ──ちょっと、まずいかも。でも、このせまっ苦しい部屋に天窓の一つくらい、何よ!

 決定打はバーサーカーの一振りだ。マシュにはじき返されたバルムンクは勢いそのままに天井を砕いた!

 

 崩れる、塔に、穴が開く。即席で作られた天窓からは、連日ガスに曇っていたトウキョウの空からは考えられないほどに──見惚れるほどに美しい星空がこちらを眺めていた。もう、こうなってしまえば戦うなんてことはできない。

 

「セシリスフィール、早く飛び降りて!」

 

 咄嗟に防御のルーンを刻み、窓から躍り出る。さしものマシュもこのいきなりの倒壊をすぐどうにかすることはできないはずだ。

 惑星劫の効果はまだ続いている。どんなに高いところから飛び降りても今ならちょっと足がしびれるくらいで済むはずだ。

 

 

 

 ──落ちていく。

 空のたかいところから、落ちていく。

 星空(理想)を眺めて、神の座所から遠ざかっていく。

 背中に風を受けて、落ちていく。まだ、少しだけ星空(理想)に未練はあったから。

 でも、決して不満でも何でもない。

 ただ、満ち足りた星が私の中で優しく光っていたから。

 

 ──お父様。私はアニムスフィア家の次期当主に、相応しいですか?

 今なら、胸を張って言える気がする。

 

     〇*〇*

 

 瓦礫に押しつぶされて、危うく私──マシュ・キリエライトは死ぬところだった。正式なサーヴァントとは違ってまだ肉体のあるデミ・サーヴァントの私は外部からの破壊に弱い。

 周りの気配を探る。オルガマリー、アインツベルンの人形、バーサーカー、ライダー。どの気配もなかった。

 ──逃げられた。周りには自分とセイバーの気配以外何もない。気持ち悪いほどに煌めいていた空も、今はすっかり元の味気ないガスの空に戻っていた。

 

「セイバー?」

 

「████」

 

 帰ってきたのは声にならないうめき声……というより、怨嗟。ひどくご立腹の様子だ。

 声の出所を頼りに、瓦礫を崩す。──見つけた。

 彼女は、泣いていた。

 

「わたしが、また、わたしが、また、████──!!」

 

 声にならない、というより”ない”言葉を、彼女は叫んでいる。それはきっと、孤独だろうと、私は思った。でも、ただのはぐれサーヴァントの心に踏み込むような無遠慮さはあいにく私は持ち合わせてなんていない。ただ、どうしようもない彼女を、見ているだけだ。

 

/log:2014-12-20 2?:09

 

 突如、塔の上空を中心として起きた異常気象と星空。アサシンによって時間を奪われることのなくなったトウキョウの人々は、皆同じ空を見上げていた。

 

 ──もちろん、IRC内もそれの考察で持ち切りだ。大体の人はクリスマス前の奇跡だなんだと考えているようだが。──ああ、君はIRC端末なんて持ってもいないしそもそも知りもしなかったかもしれないな。私もこの情報を得るのには苦労したとも。

 家電量販店のIRC端末売り場に置いてある端末を勝手に操作して、こう。まぁ、身も蓋もない言い方をすればネットニュース、なるものをいくつか拝見させてもらった。

 

 ミズ笹桐。君はアサシンとそのマスター、五十嵐龍二を覚えているかな。──覚えていない。まぁ大方私の予想通りだとも。君に落ち度はない。

 そもそもアサシンを知らない? それはどっちの意味かな。君は聖杯戦争を根本から理解していないというのか、それともそこまで欠落しているというのか。……しかし、君は五十嵐龍二への復讐を誓っていたはずだが、それは?──それも、覚えていない? 復讐したいという気持ちはあったが何に対してかは覚えていない? おかしいな。マキリという名に心当たりは?──無い、と来たか。

 ……何も驚くことではないな。五十嵐龍二も、アサシンも、存在自体が消えたとみていいだろう。誰も彼らのことを覚えていない。あそこまで深い感情を募らせていたマスターでさえもだ。

 私もこうして常に思い出しておかないと忘れてしまいそうだが。しかも、私は一度アレに睨まれている。少しでもアレに楯突こうとすれば今度は私ごと消されるかもしれないな。……名探偵も、謎を暴くための対象が消えてしまうとうまくはいかないな。

 何、解決できないんじゃないか? そう思われていたとは心外だな、ミズ笹桐。……私は世界一の名探偵だ。いくら捻じれた(オルタ)とはいえそう簡単に私の根本が変わることはない。

 

 ──まぁいい。これは平たく言えば殺人事件だ。しかも、犯人はおそらく”殺した”という意識もないだろう。ただアレからすれば、羽虫を払ったようなものだ。

 アレは、絶対的な殺害者だ、というより殺害の権利を持っている。あぁ、そういえば、霊長への殺害者といえば、すでに一ついるが……まぁ、今はいい。

 別に、アレの殺害対象は霊長に限った話ではない。おそらく()()()()()()だろう。現にアレは私の記憶……アサシンと、何だったかな。──ああ、五十嵐龍二だ。それに関する記憶そのものを消そうと試みた。今でも私の負担だ。正直言ってあの名前を口にするだけで霊核に相当な負担がかかってしまう。

 ──見てきたのはネットニュースだけなんかじゃないはず? 何、今日はずいぶんと鋭いな。それに免じてもう少し喋ろう。

 私が行ってきたのはあのビル()だ。今のアレは塔としか言いようがない。君もこの路地にいたのだから見ていただろう。

 

 あの煌めく星空を。

 

 このトウキョウでは彼が消えた後もなお、トウキョウに目立った異変は生じていない。存在は消えても、彼が造った物質はこの世界から消えていない。

 つまり、最初から五十嵐龍二達が無くなって、限りなく前の世界と同じ形に世界が再編成しなおされた、と言った方が正しいだろう。だからあの塔もまだ存在し続けているし、工場から排煙が止まることもない。

 そんなトウキョウに、確かに見ることのできる星空が現れた。これはどう考えてもおかしい話だろう?

 幸い、星空を展開した犯人は知れている。オルガマリー・アニムスフィアという時計塔の当主の娘だ。何? 時計塔は知っている。それなら話は早いな! 彼女は平たく言うと占星術師の一族だ。別に彼女について語るべきことは多いが──それはあとがきの方で済ませばいいだろう。

 

 君はもう覚えていないが、アサシンは時間を集めていた。彼らは時間を魔力に変換する何らかの能力を持っていて、それをマスターに還元していたのだろう。別に珍しい話でも何でもないがね。しかし、問題はその量だ。トウキョウに住む人間の数を考えたことはあるかい? マスター。正確な数は言わないが、まぁ8割の人間から時間を余すことなく徴収すれば聖杯に匹敵する量になるだろう。

 だがそれは──彼が犯人に(殺害)されてから丸ごと無くなった。

 君に完全に殺される直前まで彼は体の中に膨大な魔力を抱えていた。君が喰った魔力はあれのほんのひとかけらに過ぎない。魔力というものはいきなり消したり増えたりなんてのはできない。基本的に等価交換だ。それが()()()()()()()()()()というのはあり得ない。しかし、()()()()()()()()()()わけでもない。

 ならばどこへ? ということで私は再び塔に赴いたわけだ。

 しかし、塔は一夜にして変質していた。アレは、建造物ではなく、巨大な魔力炉……いや、魔力そのものと呼ぶべきものへ変質していた。しかも、中に入らずともわかる、ぐらいにだ。まぁ()()()()()()()()、何も違和感を抱かないようになっている。そういうものだ。

 そこにオルガマリーとその従者が入っていったわけだが、従者──おそらく、ホムンクルスは、弾かれて入れなかった様子だったな。あれは──私の推理の外側だ。まぁ、あの後彼女はライダーを使って壁から侵入する、という蛮行を果たしていたが。

 私は中に入らなかったのかって? それは君なりの冗談かな。名探偵は安楽椅子に座っているのが基本だろう。今回のように自ら実地に赴くことなど本来はあってはならないのだが。

 塔の頂上までを観測する手段は持ち合わせていなくてね。断片的だが、いきなり星空が展開して、その後に塔の上部に風穴が開いた。それからすぐにオルガマリーと従者が落ちてきて、去っていった。──それで今日は終いだ。

 何だね、ワトソン君。──いや、今のはふざけて言ってみただけだ。あまり気にしないでくれたまえ。

 それで、早く結論を言わないか、と。それを言われては困るな。まぁ良い。

 さて、これまでの事を通して一つ違和感があった事に気がついたかな。──しかし、今は語る時ではない。勿体ぶるなって? すまないが、これは私に課せられた制限のようなもので、自分から直接解答編を披露することはできない。相手に暴かせる──それが今の私にできる解決方法のようだ。

 ただ、答えはもうすぐそこだ。もう君の手の届くところまで来ている。──何、もっとヒントが欲しい? 仕方がないな君は。……あと一つならいいだろう。

 

 ──アレ自身は、崩れていないことが完成だと思っているが、アレは崩れて初めて意味を成すものだ。

 

 これで私からのヒントは全てだ。ミズ笹桐。私の口から直接犯人の正体を暴くことはできないが──君なら正解に辿り着けると信じている。

 

log end/




詠んでくださりありがとうございます!
感想、考察全裸待機です!

今回出てきたキャラのイメ画です。よければ……

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