Fate/coin a term 東京模倣聖杯戦争 作:空白の端
/log:11BA-10-19 9:█6
私は生きたままサーヴァントになったからでしょうか。未だに睡眠を必要としません。
でも、たまにあの契約したセイバーを名乗るサーヴァントの意識のようなものが私の中に入ってきます。
ただひたすらの虚無、真っ暗でなにもない永遠の空間。私が閉じ込められていた永遠の2016年のようにも見えます。まぁ、私はいろいろあってその輪からはじき出された上に宇宙からもはじき者にされてしまったのですが。
これが先輩の言っていた、契約者は契約したサーヴァントの生前の様子をユメに見るというものでしょうか。それでしたら、彼女が英霊として登録されることはあり得ません。本当にセイバーが生前この空間にいたのなら、死ぬわけがないからです。この空間には、彼女を脅かすものや危害を加えるものは何も。私と同じように、彼女は死をここで得られるはずがないのです、先輩。
エミヤさんのように生前に英霊の座と契約した英霊もいますが──ここにはその英霊の座すら存在しないようです。
ですが。もし、仮定の話として。ここがあの根源の渦、アカシックレコード、「 」と呼ばれる場所であったなら──。
「どうしたの? マ・ス・ター」
いやにご機嫌なセイバーの声で、一気に思案の海から現実に引き戻される。ここは、塔の上。目の前に広がるのはビルの光に呑まれる海。
「いいえ。なんでもない」
今まであなたのユメを見ていた、なんて言えるわけがない。
それに、セイバーの発した“言葉”に呑まれた感覚がまだ残っているのか、いまいち緊張が解けない。貴女は、何者か。今すぐにでも問い詰めたい気分だが──生憎それをする体力も、もう残っていなかった。
「そういえばさ、なんでお姉さんはみらいからきた、なんていってるけど。ほんとうはそんなこと、ゆるされちゃいけないんだよ?」
ゆるされちゃ、いけない。そんなことは私が一番よく分かっている。私だってこんな
──何故、
楽しいから?
嫌いだから?
じゃあ、なんで?
「ウソつき」
何故、このサーヴァントですらでない何かが、私の中を勝手に覗き見るのか。真名を、なぜ名乗らない。
──判っている。目の前にいるのは人知を超えたナニカで、私の手には負えないモノ。大体、先輩とオルガマリーを殺すだけならこんな風にはぐれサーヴァントと契約する必要なんてなかったのに。でも、あの時のセイバーは──何故か、助けなきゃいけない気がして。
〇*〇*
『見つける 手を 握る』
不意に、セイバーに出会った日のことを思い出す。
あれは現界してしばらくたった日。正確な日付なんて、もう覚えていない。ただ、何か強烈な事が起きたような気がする。
ただ、あいも変わらずに曇っていた夜。
月明かりも、自分が歩いていた道も
路地裏の向こうから、強烈な呼び声が聞こえた。私の心臓を握って離さない声。それは多分──先輩に、初めて助けられたあの日の私の声みたいだったからだろう。
『……足りない 消えたくない 死にたくない』
……今は痛いほど、その気持ちをわかっている。目を閉じれば、いつも浮かぶのはあの光景だ。
燃える管制室、真っ赤なカルデアス。そして──私の手を、握ってくれた
目の前に私を見上げて座り込んでいるのは、ただの寝間着を着たような幼女。今すぐにでも消えてしまいそうで、世界に拒絶されたような雰囲気だった。それを、私は見捨てることだってできた。でもその深い宇宙の底をそのまま救い上げてきたような目は、私にそんな感情さえ抱かさせてくれなかった。
いつも、思っていた。
もしも私があの時、先輩に手を握ってもらわなければ。こんな風にはならなかったんじゃないかって。
──もしも。
私の頭の中にあるのはそればかりだ。もしも。もしも。
こうだったらよかったのにな。あんなこと、しなければよかったのに。
それでも、私は差し出された手を──握ってしまうのだ。
「うん、感謝の感情、なのかな」
目の前の幼女はそれだけ言って、私と短く契約の儀を済ませた。
私の手に、
彼女の名乗ったクラスはセイバー。今のところ、セイバーが剣を抜いたところなんて、見たことない。そもそ彼女がほんとうにサーヴァントかどうかなんてわかりもしないのに。
log end/
/now:2014-12-2Ⅰ 0Ⅰ:12
眠れない夜、というのは誰にでもある。
今日はその魔の手は自室に2日ぶりに帰ってきた藤丸立夏の元にあるようだ。
アサシンが消えて……五十嵐█二も消えて。私たちの目下の脅威は大体過ぎ去っていた。それでも、立夏の頭の中には言いようのない不安がひしめき合っている。
後は、オルガマリーとセシリスフィール。そして、未だに存在すらつかめないマスターが、あと二人。
──アニムスフィアに、聖杯を渡さないでください。──
あの時の真剣な眼を、私は忘れられない。きっと彼女が言いたかったのは──私達が聖杯を手にしろということだ。
でも、どうやって? 聖杯戦争、という名前は分かっても聖杯がどんな形をしているのかわからなきゃ探しようもない。先輩は確か──最後の一組になったら現れる、とか言っていたけど。現れるって言ってもどこに? そもそも最後の一騎ってことは……キャスターか先輩のランサーのどちらかは死ぬ、ということだ。
キャスターを失う──考えただけで胸が沈む。
でも、キャスターを守るためにはランサーを殺さないといけなくて。
──何かを得るために、私はあとどれだけの何かを失えばいいのだろう?
考えれば考えるほど思考は深みに
「眠れない?」
相変わらずキャスターは寝ずの番だ。今日も窓の外を眺めている。
何を見ているの。さっきも眠れなくてそんなことを聞いた気がする。キャスターは──笑ってごまかしていた。ただの観察、そんなものだって。自分が嘘をついている顔はあんなに分かりやすかった事を、知った。
「怖いの?」
怖いに決まっている。今までだってキャスターたちが戦っている時は自分達も死と隣り合わせだ。自分が傷つくならまだ耐えられる。でも誰かを失う、なんて。考えただけで寒気がする。
そして、自分が奪う側になることも──耐えられない。
「怖いよ、すごく。自分から誰かを傷つけるなんて、私にはできない」
「……そう」
口に出して、後悔した。
自分は一体何を見てキャスターを知った気でいたのだろう。キャスターはそんなことを私に言われるのが一番つらいんだって──わかってたつもりなのに。
「ごめん……そんなつもりじゃ、なかった」
キャスターは私に怒りもしない。特に気にしているのかいないのかといった風に窓の外を眺めていて、逆光でキャスターの表情はよく見えない。
今日はいつもより少し雲の切れ目が多かった。そういえば、昨日見えた馬鹿げてるくらいに綺麗としか言いようのない星空。あれはもう見えなかったけれど、代わりに月の蒼い、深く蒼い帯の光が切れ間から腕のように地上を抱いていた。
「立夏はもっと私のこと、知りたい?」
「え?」
布団の隣、ちょうど私の顔の横に音もなくキャスターが立っていた。私の部屋の中ぐらいではコートを脱いでもらうことにしたけど……このアングルは、まずい。でも、キャスターは私の動揺に構うことなく顔の前でしゃがんでくる。
白い足が月の光を受けて淡く光っているのが視界の端に見えた。
「きっともう、夢で見てるんでしょ? 私が何をしてきたか」
見てない、とは言えないし、知らない、とも言えなかった。ただ、キャスターのスカートの中を見ないように、反対の方を見続けるしかない。
「やっぱり、話した方がいいよね? 隠し事はやっぱり苦手だな」
ねぇ、こっち見てよ、とキャスターが私の耳元に囁きかけた。でも倫理的に良くない気がして私はキャスターの方を向けなかった。
──キャスターの方からスルスルと衣擦れの音がする。もちろん私は布団の中で服を脱いだりするほど寝相は荒くない。この部屋で今服を動かす音を出せるのは──キャスターしかいない。……キャスター!?
「ちょっと!?」
慌てて布団を跳ねのけて起き上がる。もう深夜とはいえ、あまりにキャスターの行動は──大胆過ぎる!
でも、起き上がって何をする? これじゃまるで──キャスターの服の下を見たいから起き上がった、みたいじゃない!
「えーと、キャスター? 服、脱いでるよね? 早く着て、くれないかな? さ、寒いよ?」
なにもみてませんよー、という感じで目を覆う。見ちゃダメ、私! しかし、再び衣擦れの音は起きそうにない。
ず、と布団の上を這う音。ゆっくりと、私の上に重さがのしかかる。見なくてもわかる。私の体を、キャスターの両足が挟んでいた。
「見てもらわないと困るの、立夏。だって、これがあなたのなれの果て。最悪の
そういってキャスターはそっと優しく、目に当てた私の手を降ろす。その手はあまりにも、無機質に固くて冷たかった。目を、ゆっくりと開く。
信じ、られない。
服の下。それは、人間じゃない。
──ただの、黒鉄。
人間の肌なんてどこにもない。あまりにも黒いその金属に、目を奪われてしまった。一瞬でもやましいことを考えていた自分が恥ずかしいくらいだった。陶器のような艶やかさも何もない、直線的な身体。
足と、顔。それと掠れた令呪の残った手だけ。それがキャスターに残された最後の人間らしい部分だった。他は全部黒鉄に覆われて、人間らしさなんてかけらも無い。何を言ってもキャスターを傷つける気がして、私はただとめどなく出てくる生唾を飲み込むことしかできなかった。
「どう思った? かっこいいとか?」
「……違う、かな」
「じゃあ、かわいそう、とか?」
「……それも、違うと思う」
そっか、立夏は優しいんだね、と言ってキャスターが冷え切った手で私の両手首を取る。決して機械なんかじゃない。どちらかと言うと金属がヒトの形をとっているようなものだ。だからか、キャスターの力は、私なんかよりも変わらない。──むしろ、ずっと弱かった。
そうして、キャスターは私の手を胸に当たる部分に押し当てた。ふくらみも何もない、ただざらざらとした金属の感触だけが手に伝わる。
いくら魔力で出来ているとはいえ、サーヴァントにだって体温とかはあるはずだ。でも、そんなのはキャスターにはない。ただ底抜けに冷たい金属があるだけだった。
「何があったらこうなるか、知りたい?」
キャスターは私の手を見つめている。黒い金属と白い私の手。その目が醒めるようなコントラストから、私も目を逸せない。
自然に顎を引いていた。キャスターに、きちんと向き合わないといけないと思ったから。
「自分に記憶を渡すなら……直接がいいか」
キャスターの顔がずいと近づく。余りにも近すぎて、今まで隠されていたキャスターの素顔全てが私の視界を埋め尽くす。私の鏡写しのような存在とはいえ──余りにも人間離れしている顔だった。温度のないはずの頬は少し上気して見えたし、長いまつ毛は私に当たりそう。
美しい、とかではない。どちらかというと寂しさを直接閉じ込めたような彫像のようだった。
キャスターの額が私の額の上に重なる。抵抗しようにも、両方の手は完全にキャスターに掴まれていてどうにもならない。そして、その勢いのままゆっくりと視線が傾き──後ろに倒れ込む。そこで“私”の意識は途切れた。
○*○*
初めに見たのは、私を心配そうに覗き込む少女と星の獣。
そのあとに響いた爆発音、騒々しい悲鳴を上げるサイレン。そして、炎の中に倒れる少女と、赤に染まったカルデアス。
思えば、始まりはきっと少女の手を握ったところからだった。
何度も死地を潜り抜けた。それでも、私は決して少女の手を離さなかった。そうして、私達は”善”を打倒し、一人の
でも。
その権利は、すぐに奪われてしまった。
襲撃された基地。奪われた地球と人理編纂。
幾千もの人類を見殺しにした。立ち止まりそうな時も、世界は私に暇さえくれなかった。ただ、地球を取り戻すために、私は奉仕しつづけた。対抗するものはすべて排除した。いくつもの英霊を失っても、もう心は痛まなかった。きっとそれが、フジマルリツカとしての終わりだった。
あの煉獄特異点でマシュが死んでも、私たちは立ち止まらなかった。いや、立ち止まれなかった。誰も、ギャラハッドに勝てなかったマシュを、責めなかった。
寧ろ、カルデアの技術者たちは喜んでいた。
もはや、誰も止めなかった。あの人理の
もう人間としての機能も果たせなくなっていた
「手術は終わったよ、藤丸ちゃん。マシュが君の中にいるのがわかるかい?」
そうとだけ人造英霊は言った。そんなのは全く分からない。あの日、私の中で何かが完全に止まってしまったから。
姿見で自分の姿を見て、絶句した。これを受け入れられるほど、私の心はよくできてはいなかった。カトラリーで、何度も自分を刺そうとしたが、鉄に傷はつかず、ただ足元に粉々になって落ちただけだ。サーヴァントに令呪で強制させて、自分を殺させようとした。
──全部、無駄だった。
ただ、もう私はヒトとして死ぬことなんてできなくなったという事実だけが、私の目の前に横たわっていた。
「白紙化現象を解決して──白紙化地球上で起こっていたすべてのことが汎人類史において
アトラス院の魔術師はそう言っていた。やるしかないと私はこの体を引き摺ってでも立ち上がるほかなかった。私の手を握ってくれた少女を、救えるならば。
「カルデアスを破壊したら、全てが元通り? ええ、そうですね。
そう
とおくにかがやくひとつのほしを、私の濁り切った眼は写せなかった。すべてが
「しかし、ヒトの
その
だいいち、貴女の身もすでに──
それに、私は貴女の一番楽しかったあの時で再現することだって構いません。貴女にはこんな魅力的な事、否定なんてできないでしょう?」
否定はしない。否定もできない。ただ私はもう、そこに在るだけの機構で、もはや私という存在の主導権は、
そうして、私は人理のため、孤独に駆動する
私が最後に交わした契約は、世界を救い続けること。英霊の集う盾をその身に宿した人類最後のマスターという現象は、座に登録されたが最後、他の宇宙の抑止としても奔走することになった。結局、一度も
覚えている。最後に燃えた唯一の感情は何だったか。私は結局──全てを憎いと思った。復讐したいと思った。
カルデアスも。
カルデアも。
そして、自分自身さえも、何もかも許せなかった。
でも、それの果てがこれだ。復讐心は永遠に
〇*〇*
私の手はまっかに染まっている。
もう、あなたの手なんて握れやしない。
──数えきれないほど、他の世界の
〇*〇*
「っく……」
気が付いた時には、かなり汗をかいていたらしく、冬だというのに部屋はじめじめとしていた。流れ込んできたものは、私という個人を打ちのめすには十分なもので、ようやく終わって目を開けると、まだキャスターが私に覆いかぶさっていた。額と額をゆっくりと離すと、私とキャスターの今まで繋がっていた意識は急激に離れていく。私の中から、消えていく感覚。
行かないで、欲しい。もっとキャスターのそばに、いたい。
「ちょ──立夏!?」
夢中でキャスターの背中に手を回し、全力で抱きしめる。固い感触が全身を覆った。キャスターの息遣いなのか、私の息遣いなのかはもはやどうでもいい。今はこの目の前の
「キャスター、絶対に聖杯にお願い叶えてもらおうね。私もそのためならなんだってするよ」
キャスターの今までしてきたことを、全部が全部正しいなんて言えないけど、それでもキャスターの事は否定したくない。むしろ、今から私だけでもキャスターの隣にいてあげたかった。
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