Fate/coin a term 東京模倣聖杯戦争 作:ひつあつ
/log:2014-12-22
オルガマリー・アニムスフィアに沈められたアリアケ埋め立て地の近くは、連日報道陣でいっぱいだ。その横を名探偵の英霊は傷ついた霊体を引き摺りながら進む。ホームズが死ねば、アレを解析することは地球上で不可能になる。
このままでは、人類に勝ち目はない。ただあっけなく███に滅ぼされるか、殺されるか。ここまでくるともはやどちらでも変わらない。思考には、痛みとは別のノイズ。まぎれもなく███が人類を”見始めた”証拠だ。
このままこの人類最大の殺人事件を為すすべなく見過ごすわけにはいかない。しかし、今の自分では謎を崩壊させる手立ては理解しても、破壊する手段だけがもぎ取られている。まったくもって不愉快この上なかった。
「めいたんていさん、でしょ?」
──それは、女神の声か。破滅の声か。ただ、ホームズに言わせれば
コレは、ホームズを知っている。しかし、彼は──コレをうまく解明できたとは思っていない。
「ねね、わたしって。なんだと、おもう?」
目の前の███は、まったく見当違いなことだけを彼に言って一歩、また一歩と近づく。それを止めることもできずにホームズは立っていた。なけなしの魔力と体力は、彼女を解明しようと全力で脳を回転させる。だが、███が近づけば近づくほど彼の記憶に穴は生まれ、知識が削ぎ落ちる。
「神の名は、みだりに唱えてはならない──そう決めたのは
マントの裾が魔力を受けてそれぞれが意思を持った生命体のようにはためく。明確な拒否を示したはずだが──彼女には通じない。ただ幼女のような無邪気な笑みを浮かべ、こちらに近づいてくる。なるほどセイバーというのも欺瞞だ。──それは、剣を持っていないからではない。そもそも、███は何も持っていない。ただ存在しているだけで、こちらに害を及ぼすモノ。███には、武器という概念そのものが不要。
「神? 私が?」
彼を、下からのぞき込む███。その抜け殻のような目に映るホームズは、ひどく疲弊していた。もうすぐ、魔力切れだと、全身が訴えている。きっと███との邂逅が──今回の現界の最期になるのだろう。
「では、聞こう。何故、世界の破壊者になり得るのだ──
目の前のバベルはその
「なんでだろうね? 判らないから、めいたんていさんにお願いするの」
裂けるように、溶けるように感じているでしょう。魔力なんてもう持ちやしないのに、バツを受けることを恐れずにわたしの名前を口にしてしまうなんて。貴方がこのまま消えてしまうのは、わたしには好ましくないから。もう一度、しぼんだ紙風船のような貴方に口づけをしてあげましょう。
わたしの意思をゆっくりと吹き込んで、あなたはわたしの傀儡となる。そうして、わたしを解明することにだけ従事するようにしてあげる。
「ごめんね、めいたんていさん。バベルはまだ成ってないから、完全じゃないけど。それでも、バベルはめいたんていさんを█せるよ」
あなたの
──ホームズはここに、いない。
……不明、不明不明不明! こんなことなど、あってはならない。
それは、寸分の狂いもない歯車に落とされた一滴の汚水のように、世界を裏切る一つの小さなノイズ。ただ、名探偵の言葉の通りにホームズは此処にはおらず、バベルはただ虚空を抱きしめているだけになった。
紛れもなく、彼は再びセカイを書き換えた。理解も、解釈もできない。彼にはそんなことをするだけの理由も理論もないとわたしは定義していたのに。これは、断じて許されるべき行為ではない。残念だが、世界が彼を存在させる理由はなくなった。そうなればもう彼に興味も何も存在しない。ただ、この世の異物としてセカイからじきに弾き出されるだけだろう。
解析、解明。──どれも必要のないこと。
〇*〇*
──さて、アレから離れたことでようやく自分の
だが、マスターの最期の
──アーチャー、最後のお願い。私のサーヴァントなら、世界の破滅だって止められるんでしょ?
彼女はどれくらい本気にして言ったのだろう。蟲に意識を呑まれる中で、私のマスターは最後に世界の破滅ではなく、救済を願った。その心の
だが。もう私に世界を救うほどの体力も力も残っていない。できることは、この
──これが、最後の情報。それは、切り分けられた最後の
今回の現界も、悪くはなかった。ただ、後悔があるとすればアーチャーで召喚されたというのに銃の一つも持てなかったことだろうか。
そうして、世界一の名探偵はこの
〇*〇*
「遅かったですね。セイバー。今日は何を?」
相変わらず塔の上から物見をしているだけのわたしのマスター。思えば彼女とはまともに話をしていない気がする。ただセカイとわたしの楔としてしか見ていなかったけど、これくらい何もない夜なら、話をしないというのももったいない。そもそも、彼女について知りたいのなら、別に話す必要もない。最初に契約を結んだ時から、彼女の旅のほとんどは既知になった。たとえ彼女が別の世界から来ようと、
「盾のおねえさん?」
そう呼ぶことが、彼女の気を一番引くとわたしは判断している。それだけだ。それなのに彼女はこのあだ名で呼ぶたびにひどく顔を
昔のことをおしえてよ、と言ったが、彼女は覚えていないと嘘で返した。ヒトの領分で言えばまだ二十年もないはずの身体はなるほど
「盾のお姉さん、とセイバーは私を呼びますが。何を根拠に?」
根拠も何も、彼女の旅において一番の比重を置いていたものだったのに、彼女はその美しい盾を白い
「──何故、知っているのですか、セイバー」
何故って、彼女がその事実を私の前に曝け出していたからだ。数万も人生を繰り返せば、そんなことは忘れちゃうのかな。
今日までに、還ったサーヴァントは三騎。まだ十分ではないが──これくらいあれば人間を崩すことは容易い。
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/log:2014-12-23
朝。妹の起こす声で目が覚めた。まだ眠い目をこすりながら、咄嗟に令呪を隠してしまった。部屋にはキャスターの気配はない。──珍しい、と思う。
「お姉ちゃんー? なんか通知来てるよ?」
そう言って妹は私に携帯端末を投げてきた。ブルーライトが起きたての眼にはかなりきついが、それでも我慢してみる。
差出人は、加藤先輩。昨日あの後どうなったか──でもこうやってメッセージが来た以上死んだという事は無いはずだ。
>@13seeeichi 俺はもう、聖杯戦争から降りる。無責任でごめん。
>@13seeeichi はあなたをブロックしました
──こうなることを、最初から分かっていた自分がいる。私はそうあったのが当たり前のように、そのメッセージをゴミ箱フォルダに入れることは──できなかった。
唇を噛む。いつも自分はキャスターに守られてばかりで、自分で何かを為せたことなんて一個もない。あの夜、キャスターのそばにいようって決めたのに、今だって私はキャスターのそばにいることだってかなわない。本当は私だって、世界がよくなるんだったら救世主になってみたい。でもそんなのは無理だってキャスターが教えてくれたのに。
でも。でも──キャスターだって、一回は飽き足らず、二回も世界を救っていたのをキャスターの記憶で見た。最初はどこにでもいる変哲のない
ふと、目を離した隙に世界が崩れてしまう、そんな感覚がした。──あり得ない、事。でも、私は知っている。魔術の破壊力を。そして、その最果てに在ったものも。この感覚が、聖杯戦争によるものなら。もし、キャスターがそれを止めに行ってるのなら──私はここでただ悠々と朝の時間を過ごすわけにはいかない。
朝ごはんもそこそこに家を飛び出す。感覚を研ぎ澄まして、自分のあるのかさえ分からない魔術回路の感覚を開く。
──魔術回路が開く感覚さえつかめば、立夏さんだって魔術を使えるようになるはずなんだ。
先輩の言葉を思い出す。少しずつ、何かがわかってきた気もする。何か、大切なものを開く。開く。開く。開く。開く。私の奥側から、せりあがってくる何か。
苦しい、とも思う。でも、いつもよりもずっと確かにキャスターの気配が掴める。あの、いつも私の事ばかり気にする彼女の事だ。きっと私を置いていくことが私にとって一番だなんて思ったのかもしれないけど、そんなの違う──!! 私は、ずっとキャスターの助けになりたいのに──!!
感覚だけを頼りにトウキョウの街を駆け回る。崩れる街……そんなものはない。揺れる境界……それも幻覚。キャスターとの距離が近づくたびに、頭に異物が押し込まれるよう。これが、キャスターの敵、なのか。一瞬、自分なんかじゃ手に負えもしないナニカじゃないかって、考えた。──やっぱり、怖い? 私のアタマのナカのダレかが囁いてくる。
──キミはただのオンナノコなんだし、こんなつらい思いをしなくてもいいんだよ。
しった、事じゃない。自分が砕けたってどうでもいい。ただ、私がそうしたいから、そうする。それの何がいけないの!?
転がるように走って、走って、走る。もっともっと、早く足を回転させなければ、腕を大きく振らなければ、もっとたくさんの酸素を肺に入れなければ。
この角を曲がれば、キャスターの居場所だ。
「キャスター!」
暗い袋小路に、キャスターがまるで加減の知らない赤ちゃんが遊んだ後みたいに、矢鱈めったらとした方向に腕が曲がった糸の切れた人形のように倒れている。それでも、死ぬことすらできなかったのか、肩は寒さに凍えるように震えている。
行き止まりには、小さな女の子がその様子を表情の読めない顔で見ている。楽しくもないし、悲しくもなさそう。ただ目の前にあるモノ、としてしか見ていない。あまりにも、見ているこっちが不安になる。私の声に気付いたのか、ゆっくりとそのよく言えばあどけない顔をこちらに向けてきた。深くて、蒼い目。小さいころに分厚い本で見た、宇宙の写真を思わせるような沈んだ蒼。
「キミは、誰?」
何故か、喉が渇く。自分が本当に声を出せたのかだって危うい。たった一人の小さな女の子の前で、私はただ掠れた声を絞り出すことしかできなかった。何故だか、彼女の周りだけが世界に嫌われているように、崩れていると思った。非現実でありながら、そこにある。そんな不思議な感覚に囚われて──
「いいから逃げて!」
今すぐにでも切れてしまいそうなか細い私とキャスターの間の
一歩、足を踏み出す毎に視界が幾重にも重なって見える。頭が、割れそうだ。身体を数ミクロン動かすだけで余りの圧力に全身の血液が沸騰する。血管が、筋肉が、皮膚が破れて、全身から血が滲み出る幻痛。神経が一つずつずれていって、“私”という個人を保てなくなる。もうとっくに死んでいてもおかしくない痛みなのに、私の足はただ“キャスターを助ける”、それだけで馬鹿正直に前へと動き続けている。
たった、それだけの。でも、私にとっては宇宙一の使命。
無限に引き伸ばされ時間の果てに、ようやくキャスターのもとに辿り着いた。まだ
「令呪をもって命ずる。キャスター、せかいを、すくってよ」
──なにも、おきない。一つでは 足りない
私の力じゃどうしようもないって事を、理解はしている。でも認めたくなんてなくて、私は何回も何回もキャスターの硬い体を叩いた。でも痛いのは私の手だ、腕だ、頭が全身が一つずつ壊れていって意識は何回も白紙になる。
「ねぇ、動いて、動いてよ。今やらなきゃ、今動かなきゃ、もう何もできないよ、ねぇ、起きてよキャスター」
なんどもなんどもなんどもゆすってもキャスターは眠ってしまったのか全然起きてくれない。腹が立つ腹が立つ腹が立つ私をおいて先に死んじゃうなんてそんなのは救世に許されてはいけない。救う人なら死んじゃいけない、もちろん私も諦めないしキャスターは聖杯戦争が終わるまで絶対に消えても死んでもいけないから、ここで消えてしまうのであればそれはキャスターじゃない。
「令呪を持って、めいずるから。
その言葉は暴力そのもの。私は知っていながら彼女の最も忌み嫌う名前を囁く。
心臓がうるさい。こうしているうちにも少女は私達のそばに寄ってくる。早く起きてよと何度揺すってもキャスターの
頭が一つの方向にだけ固定されて、それ以外の事なんて考えられない。ただセカイをスクわないといけないそれは私がフジマルリツカだからならわたしだってせかいをすくえるはずだ
「やめてください、先輩」
地割れのような耳鳴りの中で、誰かの声がした。懐かしい、凛とした響き。私はこの声にこれっぽっちも親しみを覚えていないくせに、私の魂はなぜか安心しきっている、でも、彼女は刃を持っている。なら死んでしまうのか、それは嫌だ、いやだいやだいやだ──彼女には、少しの殺意もない。それよりもずっと、悲しそうだった。こうなることをあらかじめ知っていたのに、止められなかった自分を恨むような。
自他の境界は曖昧で私とキャスターの意識なんて特に解け合った様だった。彼女は私達に一歩ずつ着実に距離を詰めてくる。私の身体はもう全部砕けて動きそうにないから、きっと死ぬ。死ぬのはいや、いやいやいやいやなのに、まだだれも助けられてないの! 死が近づいてくる。抵抗しようにももう指一本動かせない。距離が近づくごとに、何故か彼女の意識も私に流れ込んでくる。
全て見て、全て記憶して、決して忘却しない。
真っ白な宇宙のなか、数えきれない私の腹が裂かれ、生暖かいものが傷口からまろびでて、湯気を立てている。丁寧に、丁寧に私をぐちゃぐちゃに切り刻んでいるのは、肩口で切りそろえた紫の髪を揺らす少女。指先はいくら洗浄しても落ちない茶色で、汚れている。少女が訪れた世界で、全ての私が死んでいる。ごめんなさいごめんなさいとつぶやきながら、少女は私を殺していた。きっと、私もじきにこの無数の私のように殺されるのだろう。絶対に生き返らないように、魔術回路すら残さないように。
──解けた意識が、離れていく。耳鳴りも、頭痛も嘘のように引いていく──
「……よくも、あんな使い方をしてくれたわね」
耳元をくすぐるのはざらざらとした、どう考えてもご立腹なキャスターの声。
「一つ目はまだいいけど……どうして、令呪を使う時に真名を言ったの? ああなったら回り回って帰ってきて、永遠に貴女を苦しめ続ける」
いつの間にかキャスターの捩じれた手足は元に戻っていて、私の頬をその細い指が撫でていた。私の左手には、あと一つの令呪。キャスターの令呪は、全て無くなって赫い痕だけが残っていた。
「ほら、立って。世界を救うんでしょ立夏? それならこんなところで立ち止まってる暇なんてないから」
その言葉を、待っていたはずなのに。なぜかとても悲しくて、キャスターが手の届かない遠くに行ってしまったように感じた。息をつけば、白い
「待ってください先輩。先輩のその向こう見ずに世界を救う癖が治っていないのはいいのですが、先輩たちは本当に理解しているんですか?」
何を、なんて聞き返す必要もなかった。敵の、正体。その声は震えている。さっきまで、私を殺していたなんて信じられないほど、従順だった。
「
すう、と息を吸って、唇を噛む。その動作一つ一つが寒さとは違う何かに震えていた。遠くで、水のしたたり落ちる音。
「私はもう、先輩のサーヴァントでも何でもありません。寧ろ今まで先輩を殺してきました。だから言います。私はもう先輩を守りたくはないし、守ることもしません。でも、目の前に何がいるかくらいはちゃんと理解して下さい。先輩を殺せるのはもう──私だけですから」
湿っぽい声を路地裏に残して、何処かに跳躍していってしまった。キャスターの表情を恐る恐る流し目で見るが、闇に浸されてよく見えない。もう、何をすればいいのかわからずに、ただそっとキャスターの手を握って歩き出す。家に、帰るために。
〇*〇*
やけにしめっぽい路地裏を出て、最初に気が付いたのは、██がないこと。人々は██なんて概念すらなかったように、家族との会話を楽しみながら過剰にライトアップされた道を歩いている。行き交う人々の手に、携帯IRC端末はない。
きっと、██という概念を覚えているのが異常なんだ。その事実を覚えているのはきっと、
ほんまにめちゃ遅れてすまんのうという意
体調わるわる侍なもので……