Fate/coin a term   作:空白の端

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はじまり/舞台役者



蛍光不眠都市・トウキョウ 1

 

 ○*○*

 

 2014年・12月5日 トウキョウ上空

 

 みなさま、これよりこの飛行機は着陸態勢へ入ります。座席の背もたれ、テーブル、足置き──……。

 ぽーんぽーんという音とキャビンアテンダントの優しいアナウンスが私を目覚めさせた。ビジネスクラスであったことはやや不満だったが。

 私、オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは東の端、僻地(へきち)の日本で行われるとある魔術儀式に参加しに来たのだ。

 その儀式の名は、聖杯戦争。父の悲願のために私はこれから命を()して戦う。アニムスフィア家の【冠位指定(グランドオーダー)】達成。それだけのために。

 

 空港を出て、トウキョウにほど近いホテルの一室に入る。かつて聖杯戦争に参加したとあるロードは、三階分全てを貸し切ったそうだが、財政難に苦しむアニムスフィア家にそこまでの財力はないし、そこまでする必要もない。早速私は床にサーヴァントを喚び出すための魔法陣を敷設(ふせつ)する。

 

 ○*○*

 

 2014年・6月某日 トウキョウ某所

 

 この陰謀蔓延(はびこ)る暗黒都市トウキョウに、一つの兆しあり。

 

「あー、つまりこれは聖杯戦争の術式が生まれたってことで間違いないんだな?」

 タバコを燻らせて部下からの報告書を手繰るのは、トウキョウにある時計塔の支部長だった。

 高級そうな椅子にどっかと座り、周りには常人には理解できないような魔術道具が所狭しと並べられている。常人が考える典型的(ステレオ)な魔術師だ。

 

「意味がわからない。だが、我々は本部からは何も知らされていない。故に、我々が介入することもない」

 

 そう言い、支部長は書類にタバコの火を力任せに押し付けた。部下の手はやるせなさに強く握られる。その時、あろうことか彼の手にも令呪が宿されたのだ。

 

 教会も時計塔も見て見ぬフリをして、これが公式に話題に上ることはなかった。トウキョウのサンシタ魔術使いの中では噂は流れたようだが、誰も真面目に取り合うことはなかった。そうして、数年の時は流れた。

 

 ○*○*

 

 2014年・12月13日 シンジュク・スゴイタカイマンション群

 

 草木も眠るウシミツアワー。しかしこの暗黒都市は眠ることなく動き続けていた。ケバケバしいネオンの光は容赦なく中間サラリマン家庭のマンションを照らしている。そんな光の中珍しくカーテンを閉めずにいる部屋があった。

 

「やっぱり、令呪以外の可能性はないのか……」そう自分の手の甲を見つめる男がいた。加藤(かとう)正一郎(せいいちろう)である。彼はサラリマン家庭のモータル男子高校生──であり、ルーン系魔術家系の息子である。まあ、分家も分家であり魔術回路も母から譲り受けることができたのは一本だが。そもそも母親も一本しかなかった……。

 

「俺に願いなんてないし……でもまあ宿ってしまったものは仕方ないか」母さんの魔術関係の本棚に召喚ジツの本もあっただろうか、そう考えながら俺は部屋を後にした。

 

 ○*○*

 

 2014年・12月6日 トウキョウ郊外 ハネダ・エアポート外周

 

 アインツベルンの人形もまた、アニムスフィアの娘がトウキョウに到着したとき、時を同じくトウキョウの地に降り立った。聖杯戦争と聞き、前回敗北を味わった屈辱(くつじょく)を晴らすためだろうか。

 しかし彼女は急造品(まにあわせ)にすぎない。動きもどこか覚束ない、この世界にいないような──酷く淡い印象を持たせる。

 

 しかしこと魔術の腕でいうとこのトウキョウに息づく魔術使いや魔術師どもよりもずっと美しい。

 しかし、常識がない。さっきまで飛行機の中での振る舞いについて保安官に注意……というより指導をされていたくらい。

 

「うるさーい! セシリスフィールはこれくらいの場所に留められるようなおんなではないのよ!」

 

 そう言って彼女は解放された──のではなく空港の壁を魔術でぶち破って逃亡してきた。

 

「フン、あいつらアタシの生まれがどんだけすごいかもわからないくせに、お説教しようなんて!」

 

 そう言いながらずんずん進む──いや、どこに行くかは彼女自身にもわからないが。いやわかっているのか?

 

 〇*〇*

 

 2014年・同月同日トウキョウ・地下安アパート

 

 ようやくこの日がやってきた。私には今、令呪が宿っている。笹桐(ささぎり)セリは、このためのだけに生きてきたといっても過言ではない。全国にまことしやかに噂されていたトウキョウで行われる聖杯戦争。誰もがそんなものないと鼻で笑っていたが、私は本気だった。このためだけに暗黒メガコーポをやめて、トウキョウに来た。自分の嫌いな魔術とも向き合った。それが、ようやく認められる時が来たということ。

 

「これで、これでやっと()()()()()のね!」

 

 普段のダウナーな彼女からは想像もできないほどの興奮具合。いとおしそうに自分の令呪を撫で、窓の外を見る。

 

 けばけばしい、うざったいまでのケミカルの色彩、ネオンの輝きも、今日だけは私を祝福しているようだ。

 

 ○*○*

 2014年・同月同日 トウキョウ・五十嵐家屋敷

 

 五十嵐(いがらし)龍二(りゅうじ)は、今まで苦労をしたためしはあれど、それを他人には見せない典型的な漢だった。しかしそれはこのトウキョウを統べる暗黒経済組織、五十嵐組の旦那としての義務感の方が強い。

 彼は今、ヤクザ集団の本拠地にいる。狭ぜまじい家ばかりのこのトウキョウで、彼らの本拠地は途方もなく広い。しかし、昼夜問わず常に暗いアトモスフィアを感じさせる所だった。

 

「ハイ、旦那サマ。手筈はここに」

 

 そう従者に古ぼけた本を手渡される。思わず顔をしかめてしまった。しばらくアナログ的なものは読んでいなかったからである。だがこんなことで泣き言は言えない。この本から僕の運命を変える最初にして最後の儀式が始まるからだ。

 

「他の参加者は見つかったのか?」

 

「ハイ、旦那サマ。こちらに」

 

 今度従者が渡してきたのはデジタル的ファイルだ。これならすぐ読める。

 

「フム」網膜スクリーンに情報が流れ込む。「まだ五人しか見つかっていない……残りの一人はまだ補足できていないのか?」確か聖杯戦争は七騎七人で争われるものだが。

「ハイ、旦那サマ」「なぜだ?」「ハイ、単純に見つからなかったユエ」僕はこの従者に首でもってケジメさせてやろうと思ったが、ここでむやみにケジメさせても旦那の名が廃るというもの。強き者としてここは堪えなければならない。

 

「まあいい。最後の一人も探しておくんだな」

 

 そう言って僕は屋敷の端の地下に据えてある霊脈へと潜る。通り道は、朽ち果てたクローンヤクザの体液と満ちる魔力とで独特の腐敗臭を放っていた。

 

 〇*〇*

/log:2014-12-15 Tokyo

 

 運命の日。時をほぼ同じくして、6人により英霊召喚の儀が行われていたのは、この聖杯戦争がキセキに満ちたものだったからだろうか。

 

「──素に銀と鉄。礎に石と契約の大公──」

 

 支部長はアレを大して気にしていなかったが、俺は違う。ここに最強のサーヴァントを呼び出して、俺の願いを絶対に叶えて見せる。

 根源、莫大な魔力。全てこのトウキョウに巣くう薄汚いサンシタ魔術師どもに渡すつもりは毛頭ない。俺は完璧に敷設された召喚陣の前で詠唱を続ける。

 

「──降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ──」

 

 五十嵐(いがらし)は地下に隠匿している五十嵐家唯一の霊脈の元で召喚をしていた。慣れない紙の文書のはずだが、苦にもないように僕は詠唱を続ける。

 

「──閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する──」

 

 オルガマリーはホテルの一室で右手の令呪を掲げ、召喚のための詠唱を紡ぐ。薄いはずのこのトウキョウのマナも、今は私の体をパイプとして、召喚陣に流れ込む。

 お父様に託されたバルムンクの欠片が、回る魔力に暴れていた。

 セイバー、ジークフリート。それが私の召喚するはずのサーヴァント。

 

「────―Anfang(セット)

 ──────告げる────告げる

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に──」

 

 加藤正一郎は昼間、適当に作ったルーンをとりあえず触媒として置いて、自室の中心で召喚を行っていた。

 これである程度召喚されるサーヴァントは限られるはず。今まで経験したこともないような魔力が俺の体を蹂躙する。バリキドリンクを飲んだような感覚は一概に気持ちよいとは言えなかった。

 

「──聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ──」

 

 セシリスフィールは、適当にアインツベルンの城から盗んできた木片を陣の中心に置いた。完璧に描かれた魔法陣はまだ乾いておらず、高密度ネオン看板の光を反射して輝く。

 平たく言うと、彼女は道をうろついてた警察を1人拝借──というか、始末してその体液で魔法陣を書いた。

 

「──誓いを此処に

 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者

 汝三大の言霊を纏う七天──」

 

 笹桐セリがこのために借りたバリキドリンクの空き缶が散乱する1LDKのアパートの中で召喚のための詠唱を続ける。

 あんなに気持ち悪かった体内で暴れる魔力が今は気持ちいい。いまは私が魔術を行使できることに感謝する。

 

「──抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 

 俺/僕/私は力の限り叫ぶ。いわば、根源(かみさま)への叫び。膨大な魔力が英霊を現世に固定しようとする強大な魔術の圧は、風、光となって召喚者を襲う。

 

 詠唱が終わり、(まばゆ)いまでの輝きは収まった。召喚陣の中心の英霊は、召喚者に誰何(すいか)する。

 

「問おう。あなたが、私のマスターか」

 log end/

 

 そう、これは

 私が⬛︎るための第一歩だ。

 

 ○*○*

 

 2014年・同月同日 トウキョウ・トーカイドー線車両内

 

「は~あ。なんであんなこと折田(おりた)サンに言っちゃったんだろう、私」

 

 スシ詰めの電車の中で私──藤丸(ふじまる)立夏(りつか)は内省を繰り返していた。マッポー的なまでの大量の乗客に押され、沈む心とはうらはらに足は床から離れていく。

 

 ──次は、シンジュクでドスエ

 

 電子オイランの自動音声が次の駅を告げ、ドアが開く。乗客は波のようにうねる。この人波は、実は一つの生物で私はそれに取り込まれた漂流者なのでは? といつも思っている。

 

 私はやっとこのサツジン的な圧力から解放されて、駅のホームを歩きだした。

 

 すれ違うサラリマンはみな同じ顔、みな同じ方向、皆同じ体勢でゾンビめいて歩く。しかし彼らは実際ニホンイチ大きい超メガコーポで働くカチグミサラリマンだ。

 

 でも、私はいくらカチグミとはいえ、ハイスクールを卒業した後もこのトウキョウイチの地獄を毎日使いたいとは思えない。もっと、したいことをしたい、と思う。たとえば、好きな人とオハギ屋を開くとか。

 

「痛っ」

 

 そんなことを考えていたからか、誰かに当たってしまった。だけど、誰かにぶつかっただけの痛みではない。

 

「?」

 

 手には大きな赤い(あざ)。しかも何かに当たったというよりこれは──「文様?」

 

 でも、今立ち止まると向かってくる人に押されて潰されてしまう。私はこの文様のことは忘れたように、前を向いて早歩き。




しかし、この世界の主人公は学生二人なのです。次からは正一郎と立夏メインになります。
これはニンジャスレイヤーとのクロスオーバー作品ではありません!!!
これはニンジャスレイヤーとのクロスオーバー作品ではありません!!!
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