Fate/coin a term   作:空白の端

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蛍光不眠都市・トウキョウ 4

/now:2014-12-16

 

    〇*〇*

 

 今日も特に何一つ起きずにハイスクールの授業は終わった。私はどうしてもついていくと言ってきかない折田サンを連れて、学校前のマケドドナルドのノーレンをくぐった。

 

 ブンビンテレレ、ブンビンテレレテレレ。

 

 いつも通りに騒がしいBPM360の過剰なスーパーミュージックが私の耳に飛び込んでくる。店内は同じ制服を着た男女でいっぱいだ。私は制服のポケットから携帯を取り出して加藤サンにメッセージを送る。

 

>@14ritsukaF マケドドナルドのどこにいますか?

>@13seeeichi 2階の54番席です。

>@14ritsukaF わかりました。

 

「2階だって。じゃ、いこっか」後ろにいた折田サンの方を振り向くと、スマホを握りしめた彼女はなんだか気まずそうなアトモスフィアをかもしだしていた。

 

「本当にごめん! 立夏サン。なんか突然バイト入っちゃってさ……」

 

 そういって折田サンは胸の前で手を合わせて、極めて謝罪のポーズをとる。彼女は夢を叶えるための第一歩として調理師学校に入学するために、たくさんの厨房(キッチン)バイトをカケモチしていた。

 

「大丈夫、折田サン。もともと一人で行く気だったし」折田サンの手を取り、自分の方に引き寄せる。「そろそろ冬休みも近いし、今度私になんかご飯作ってよ」

 

「あったりまえじゃん。じゃーね! 立夏サン!」言うや否や、足早に折田さんはマケドドナルドを去っていった。

 私は折田サンを見送り、サババーガーを一つ買った。マケドドナルドの階段を軽やかに上がる。

 

   〇*〇*

 

 一方そのころ。加藤正一郎はマケドドナルドの2人席で項垂(うなだ)れていた。もはや藤丸サンからのメッセージが届いたという通知も俺を安心させることはできない。

 本当に、年下の相手を呼びつけてしまった。しかもこの相手は俺のことを疑うことなく本当に来ているようだ。一応周りに聞かれても誤解しか生まない話だから、壁に囲まれた席を選んでおくという配慮は見せる。

 

「マスター、来ました。令呪の気配です」ランサーの落ち着いたアティチュードが俺を少し安心させた。わりと側に絶世の美女がいるという事実に俺も慣れてきた気もする。

 

「遅れてすみません!」サババーガーを咥えた少女が、正一郎の座るテーブルに転がり込んできて、「ドーモ、1年生の藤丸立夏です! 加藤サン、今日はよろしくおねがいします!」その勢いのままに90度よりも深いオジギをした。

 

 ちょっと抜けてるけど、丁寧な後輩。それが正一郎の藤丸立夏に対するファーストインプレッションであった。

 

「ドーモ、加藤正一郎です。藤丸サンはとりあえず座って。サババーガー代は俺が出すよ。ああ、あと。俺に対しては敬語とかはあんまり気にしなくていい」俺は財布から490円を取り出して、藤丸サンの前に置いた。

 

「それで、いきなり本題で悪いが。藤丸サンの手にあるそれは令呪っていうなんだろう……命令権ってやつ」「めいふぇい? だえに?」バーガーをほおばりながら立夏サンは聞き返す。予想通りの返答だ。

 

「君は巻き込まれたんだ。聖杯戦争っていう魔術儀式に。ランサー」俺はランサーの霊体化を解除させる。目の前の藤丸サンには……「???……きれいなひとだね?」疑問符が大量に浮かんでいた。

 

「俺は、彼女と契約した。たとえば彼女が言うことを聞かないときに、この令呪を使うと。強制的に言うことを聞かせられる」今のところ、使うつもりもないのだが。「ランサー、霊体に戻っていい」

 

「待って。ちょっと待って。私魔術とか魔法とか、そんなこと全然わかんない一般人だよ? それが何で? 魔術儀式?」

 

 なぜ彼女のような魔術のまの字もしらない一般人に令呪が宿ったのか? それはこっちも聞きたい。あの時、IRC-SNSに投稿しなかっただけマシである。全世界に公開したが最後、彼女は令呪そのものを狙うマスターのなり損ないの魔術師やら魔術使いに生きたまま殺される可能性もあったのだから。

 

「それも説明する。藤丸サンには悪いけど、全部本当のことだって聞いてほしい。でも俺にだってわからないことはある」

 

 ずず、と目の前の少女はジュースを啜った。

 

 〇*〇*

 

 すっかり日は落ちて、窓から見える景色はどっぷりと暗くなっていた。

 

「つまりさ、私もなんかサーヴァント? ってやつ、召喚しなきゃいけないってこと?」

 

 立夏サンの飲んでいたケモドリンクの紙カップは過剰に温められたこの店では汗をかくどころか、完全に乾いている。少々詳細に話し過ぎたみたいだ。いや、それはことあるごとに立夏サンが質問をしていたのもあるが。

 

「そうだな。でも、俺が無理強いすることじゃない。藤丸サンがこのまま誰にも知られることなく聖杯戦争が終わるまで過ごせるなら、大丈夫かもしれないけど」

 

「でもさ、願い。叶うんでしょ? たとえばさ、先輩はどんな願いを叶えてもらうの?」そうカップの端を指でいじりながら目の前の少女は俺に問いかける。

 

「俺は──」そこで俺は今まで願いとかいうものを考えていなかったことに気付いた。とりあえずぱっと思い浮かんだのは、「──母さんに、もう一度会いたいかもな」

 

 初対面の人間に対して今日、俺はどれだけ重い話をしてきたのだろう。思えば聖杯戦争から魔術世界の基礎的なところまで、ずいぶん話した気もする。

 

「今日はもう遅いから帰ったほうがいい。聖杯戦争がもう始まってるとしたら、君ももしかしたら巻き込まれるかもしれないからな」この究極なまでに平和ボケした少女に自分を守れるとも俺には思えない。「俺が最寄駅までランサーと着いていくよ。そもそも俺が呼びつけたんだからな」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 立夏サンはキラキラと目を輝かせて俺に言う。まあ、悪い気はしない。

 

「じゃあ、行こうか。あんまり待たせると立夏サンの家族も心配するだろ」俺はそういいながら荷物を纏めて立ち上がり、階段を下る。

 

「私の願い、か……。今は折田サンが自分の夢を叶えてほしい、になるのかな……」

 

 後ろを歩く立夏サンがそう小さく呟いた。自分の命を賭して戦うというのに願うのは友人の進路? 本当に彼女は聖杯戦争を理解しているのだろうか……。一抹の不安を抱きながら、俺たちはノーレンをくぐった。

 こんな時間でも学校の周りは浮浪者がうろついていることはないが、駅の近くまで行くとそうはいかない。俺はさりげなく立夏サンを庇って歩いた。

 この路地裏に入れば少し近道ができる。今日はいつもより道がガスっていた。少し吸い込むだけで頭がくらくらして──

 

 ──君たちは、時間というものをさらに欲しいとは思わないか?

 ──君たちは、無駄な時間をもっと有効に扱いたいとは思わないか?

 ──君たちは、その無駄な時間を我々に預け、増やしたいとは思わないか?

 ──我々はアサシン、時間貯蓄銀行。我らの能力をもって、この都市を発展させることを約束しよう。

 ──君たちは、令呪を持っているのか。では、我々のマスターの指示に従い、君たちを殺すしかあるまいな。

 

 殺される!? その一言で俺の意識は一瞬だけ明瞭になった。周りには、大量の煙草を(くゆ)らせる黒い男たち! 敵か!?「ランサー! 殲滅しろ!」「行きます」

 ランサーが振るうナガモノが暗い路地裏で(またた)く。一回。一回振るっただけで、目の前の男たちは霧となって消えた。しかし、何十にも重なった声はまだ続いている。

 

「我々の肉体の有り無しなぞただの些事。この人間の溢れた都市こそ、我々の心臓」

「時間を、魔力を。有効に使うことのできない君たちから譲り受ける、それだけの契約だ。なぜ結ばない?」

「我々は人間を殺すことはない。人間の方から死ぬのだ」

「さあ、契約しろ」

 

 とてもじゃないけど鬱陶(うっとう)しい! つまりお前たちは攻撃はできないってことだろう!? 俺はとりあえずアサシンの声は無視して立夏サンに駆け寄った。

 

「立夏サン! 大丈夫か!?」

 

 彼女は壁に寄りかかり、はあはあと浅い呼吸で胸を激しく上下させていた。肩をつかんで立つように促す。

 しかし、あまりの衝撃に腰を抜かしたのかうまく立ち上がれないようだ。シッキンもしている。当然だ。ただの女子学生の心がこんなことに耐えられるはずもない。

 

「だい、だいじょうぶ……です」どうみても大丈夫ではない。「それより、もっと違う、何か、くる」肺から絞り出すように苦しんで立夏サンは言う。あの煙を吸い過ぎたのだろうか。

 

 ざっ、ざっ、ざっ

 

 規則正しい靴の音がこちらに近づいてくる。今の俺には死神の行進のように聞こえた。まだ頭の中にはねちっこいアサシンの声が反響していて鬱陶しい。 

 

 ざっ、ざっ、ざっ

 

 路地裏に現れたのは──マッポだ! 誰かが助けを呼んでくれたのか? 俺は安心しきってマッポにこのことを話そうとして──

 

「危ない! マスター!」

 

 ──ランサーのナガモノの切っ先が、俺とマッポの間の空間を迷いなく両断した。ややあって、からん。と乾いた金属音が続いて二回聞こえる。

 

「──は?」

 

 目の前のマッポは俺の眉間まっすぐにチャカを突き付け、その銃口からは白い煙が立ち上っていた。生暖かい液体が俺の(もも)を伝う。間違いなく、俺は撃たれて死んでいた。ランサーがいなければ。

 

   ○*○*

 

 酩酊する意識の中、大量の靴の音が私のニューロンを踏みつける。ざっ、ざっ、ざっ。私の思考を妨害(ジャミング)するように入り込む。ざっ、ざっ、ざっ。

 

 足音は目の前で止まった。私はこの時初めて、チャカというものを真剣に見た。

 

 確実に、一発で私を死に至らしめるために。チャカの口は私の脳天を確実に捉えている。このままマッポが引き金を引けば、完膚なきまでに私は死ぬ。そう。死ぬのだ。

 

 でも。

 

 私はこんなところで死にたくない。だってまだ、折田サンの料理、食べてないから。

 目の前の男は引き金を引こうとしていない。なぜ? 理由はいい。

 今、私に戦う権利(令呪)があるのなら。それを使ってでも。最後まで生きるべきだ──!

 

「──素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 私は、さっき先輩に教わったばかりの呪文を紡ぐ。魔法陣とかがなくても、なんとなく。今は誰かが来てくれる気がしていた。

 

「──閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 Anfang(セット)

 ──────告げる────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天」

 

 長くて自分が何を言っているのかもよくわからない。息継ぎもしないで言うものだから、私の視界がどんどん色褪せていく。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!」

 

 吐く空気に、血が混じろうとも。私は“死にたくない”、ただ一心で叫ぶ。

 

 

──何も起きない。失敗したのか。ああ、死ぬんだ。選ばれたなんてただ舞い上がって、何にもできずに結局死ぬんだ。いやだなぁ。最後に、私を殺す相手をしっかりと目に焼き付けておこう。目の前にいる、フードの女を。

 

 

 

 ──フードの女?

 

「召喚に応じ参上した。サーヴァント、キャスター。

 問おう、藤丸立夏よ。」

 

 口元しかはっきりと見えない彼女は私に問う。

 

「あなたが、私のマスターか?」

 

 答えなんて最初から決まっている。

 

「ハイ。よろしく、おねがいします」

 

 うっすらだけど、キャスターの口元が笑ったのを見た。「わかった。今、全部片付ける」

 

 そう言った彼女は右手を掲げ──「Summon(来よ)」──たったそれだけ。それだけを呟いた。瞬間。キャスターの後ろから人の様な影が何個も飛び出し、マッポを全て殺した! その殺し方はてんでバラバラだったが、さっきまで十数人いたマッポは全てこの一瞬で地面のシミになっていた。しかし人影は再びキャスターのところへ戻る、と言うこともなくただ空間に溶けてゆく。

 

「すごい──すごいよキャスター! でも、これって本当に大丈夫なの?」マッポ達はどくどくと血と臓物を地面に流し続けている。私が何かしても消えるものでもない。

 

「安心して、立夏。彼らは人間じゃない。ほら。見て。全部顔、同じだから」確かに。落ち着いてみると顔の残っているマッポは大きさも顔も似通っていた。「暫くしたら全部蒸発するから。安心して」

 

「そうだ! キャスターのお名前って……」何ですか、と言い終わるより前に、彼女は私を抱きしめていた。あまりの唐突さにちょっとついていけない。「今も先も、ずっと言えない」キャスターはそう言って私をもっと強く抱きしめる。「何としてでも聖杯が欲しい。願いなんて自分のためにしかならない。あなたの為になんて絶対にならない。でも協力してほしい」

 

「うん、いいよ」何も解らずに。私はキャスターを抱き返す。存在しないヒトのはずなのに、そのボロボロのフードの生地は確かにそこにあった。

 

「帰ろう、先輩。キャスターはどうしても聖杯が欲しいんだって。協力、してくれますか?」そう問いかける私の前には、少し呆れた様子の先輩がいた。

 

「いいさ。ただ、俺の願いも叶えてもらうから」「当たり前じゃないですか!」

 

そう言って、私たちは帰路についた。




初めて某スレで晒してみました! もっとボコボコに言われたりすると思ったんですけど皆さん優しくて涙が出ました(´;Д;`)
お気に入りもついてとっても嬉しいです!!
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