巡礼の途中で出会ったウミウシに約束する話   作:王勇を示す者

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通りすがりの医者

 

 

 

 

 ヤチヨカップ1位に向けて日々邁進し続けるかぐやいろP。誰もが目を見張るスピードでファンを獲得していき、現在進行系で順位を上げていっている。

 

 だがしかし、毎日が休日のかぐやと違い、日々詰め詰めのタイムスケジュールを過ごしていた酒寄(さけより) 彩葉(いろは)にとっては最早超無理現界ギリだったことだろう。

 そんな中でも、彼女らは初ライブを大成功で納めた。偉業の中の偉業、大偉業だろう。

 

 しかし、人には人のキャパオーバーがある。どれだけ超人であろうと、無理をすれば疲れは溜まり、体を蝕んでいく。

 そう、だからこれは当然の帰結だ。

 

「彩葉〜?なにか見つけたの?」

 

 炎天下、突然の目眩に堪らずその場に足を折る。立ち上がろうとも足に力は入らず、意識が遠のいていくのを感じていくいろは。

 そんな少女の心配をしてか、かぐやは背を擦ろうと手を当てるが

 

「いろ――アツっ!体アツアツだよ!?

 彩葉、彩葉!」

 

 どれだけ揺さぶっても返答はない。

 彩葉にはもう周りの声など聞こえてないのかもしれない。

 そんな折、一人の男性が二人の前で立ち止まった。

 

「病人揺さぶる奴があるか」

「誰!?」

 

 黒髪、赤目のいたって普通の男性。推定30歳前半ぐらいだろうか。

 唐突に声をかけられたことに驚いてか、唯一動けるかぐやはヘンテコなファイティングポーズを取る。と言っても、不審な輩であるのなら宇宙人パワーを使うのだろうが。

 

「ただの通りすがりの医者だ」

 

 そう言って、男性は不適な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 日が暮れ始めた頃、酒寄 彩葉は目を覚ました。

 寝ぼけ眼で何かを作っているかぐやの後ろ姿をぼんやりと眺めながら、成長を実感するが、それも束の間バイトがあることを思い出した。

 

「やばい、バイト!」

 

 絡みつくように重い毛布を何とか退けるも膝に力が入らず、布団に顔から落ちる。

 彩葉が起きたことに気づいたかぐやは手を止め、彩葉に駆け寄る。

 

「彩葉、しんどい?」

「平気、すぐ出るから」

 

 かぐやが近寄ってきたために虚勢を張り、再度膝に力を込めるがそれでも立てない。

 せめて休む連絡をと思い、スマホを探す。

 

「バイト休む連絡入れたから。彩葉、休んで?」

「········え、かぐやが?」

 

 信じられない言葉を聞き、こんがらがっていた考えが全て吹き飛ぶ。

 彩葉は自身のスマホを手に取り、確認すると店長からのメールが1件来ており、こちらを労う趣旨のものだった。これには彩葉も目を何度も瞬きしながらかぐやを見るしかなかった。

 

「あと、いっぱいふかふか置いといたから、いっぱいふかふかしてね」

「ふかふか?ああ、ふかふかか········ありがと」

 

 ふかふかという言葉に見当がつかなった彩葉だが、布団の周りに置かれている選りすぐりのぬいぐるみ達を見て、納得する。

 1番手近にあったぬいぐるみを一つ抱きしめながら、違和感を感じた机に視線を移す。

 そこには朝は置いていなかった封筒と1枚の紙、そして薬局で貰えるだろう薬の袋が2つ置かれていた。

 

「あっ、お薬!彩葉、これ飲んで!」

 

 今思い出したかのように、かぐやは1番上に置かれていた薬の袋から二錠を取り出し、彩葉へと渡した。追加で水が入ったコップを机に置かれる。

 

「これもかぐやが?」

「通りすがりのお医者さんがくれたの。目が覚めたら飲ませろ、って!」

「そうなんだ·········」

 

 運がいいこともあるもんだ、と片付け、二錠を口に含み水で流し込む。

 すぐ効き目はないにしても、これである程度は楽になるだろう。

 

 この時、彩葉もかぐやも本来なら有り得ない事に気づいていない。

 どんな医者であろうが薬は携帯できない。薬は厳重に管理されており、記録された薬の数が保管されている薬の数と合わなければならない。

 それこそ、今回の医者が、高熱を出した少女に出会うことがわかっていなければできない行動だろう。

 

「請求書·········じゃ、ないか」

 

 口元を拭った彩葉は、薬袋の下に敷かれている1枚の紙に目を通す。

 請求書だろうと覚悟を決めて確認するも、手紙のようなものだとわかり一安心。おそらく、お医者からの状態説明的なものだろうと思い、目を通していく。

 

 

 今回熱が出たのは睡眠不足による疲労困憊が原因だろう。勉強やバイト、趣味で忙しいだろうが最低5時間は睡眠を取ること。そして、成人していないのにエナジードリンクを摂取するのは非常に身体に悪影響だ。全て没収とする。眠いなら寝ろ。あと、クーラーを渋るな。熱中症で倒れれば10万とかかかるのに対して、1日中クーラーをつけて300円代だ。これぐらいを渋るなら祖父母からの仕送りに手をつけろ。熱中症でうちに運ばれても蹴り返すからな。

 栄養がしっかり取れているのは好ましい。同居人の宇宙人に感謝することだ。これに免じて解剖するのは勘弁しておく。

 最後に、宇宙人のDNA採取に協力してくれた礼として25万置いていく。1ヶ月以内に1円でも使われてなかったら、俺の総資産全てをお前に譲渡する。覚悟しておけ。

 

「はあ?!!」

「えっなに!?どうかした!?」

 

 手紙を最後まで読み切る前に、衝撃の事実に素っ頓狂な声を上げる。これには料理をしていたかぐやも体が跳ねるぐらい驚く。

 すぐさま彩葉は這い這いの体で机をよじ登り、机の上に置いてあったエナジードリンクの在庫を探すも手紙通り本当になくなっていた。

 次に、布団近くのいつも食事などしている机に置かれた封筒の中身を覗き込む。

 

「いっ―――」

 

 1万円札が数十枚。きっと、25枚あるのだろう。彩葉の2カ月文の給料が封筒の中にはあった。

 これには、不安を通り越して恐怖である。

 封筒を震える手でそっと机に置き、手紙の続きを読む。

 

 そうそう、その封筒の中の25万の1万は既にお前の同居人が食材を買うために使わせたが、お前が使わなければ先述の通り総資産を譲渡する。

 

「ひゅ」

 

 驚愕の新事実に息を吐くが、そんなことしても過去は変えられない。

 

「か、かかかぐやさん?この封筒の中身使いました?」

「うん?あっ、その封筒のなら使ったよ。良いもん食わせとけって言われたから!」

 

 手で目を覆い、天井を仰ぐ。

 1円も使っていないのなら、そのまま返すこともできたが、もう使っているのなら返すとなれば貯金から1万足して返さなければならない。

 まあそもそも―――

 

 こちらに返そうとしても総資産譲渡する。期限は定めないが、全額使い切ってくれ。高校生なんだから、いくらでも金はいるだろ。

 

 逃げ道は全て絶たれた。

 最早未来予知でもしてるかのような内容だ。こんな手紙アニメとかでしか見たことがない。

 一体この人物は何者かと、彩葉はお医者という情報から頭の中を掘り出す。しかし、一向に出てこない。

 そんな考えもお見通しか、手紙の1番下にこう書いてある。

 

 俺の名前は赤松 宗全。俺のことが知りたければネット検索すれば出るし、お前の兄に聞けば親友含めて出てくるだろうよ。もっと知りたければ、この電話番号にかけてこい。時間があれば対応する。

 XXX-XXXX-XXXX

 

 

「赤松 宗全、どこかで聞いたことがあるような·········」

 

 手紙からして有名人なのは間違いない。テレビ番組でゲスト出演してるタイプ、もしくは物凄い権威を持った医者だと目星をつけるが、最近あまりテレビを見てないことも相まって、思い出せずに頭を捻る。

 一先ず、今は休むのを最優先にし、手紙を勉強机の方に移して、布団に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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