深夜過ぎ、ツクヨミ内のミーティングルームにて。
彩葉によって集められたBlack onyXの三人、芦花、真実、ヤチヨの六人。かぐやの生誕秘話と運命を静かに聞いたヤチヨ以外の面々は、何故か納得したかのような表情で頷いている。それ程までに怪しい言動が散見されているのだからしょうがない。
そうして話題は流れ、議題はかぐや防衛に移り変わる。
「ヤチヨ、かぐやを守ることってできないかな?」
「調べてみたけど、どこからアクセスしてるかもわからなかったんだよね~。ごみん」
「なに言ってやがる。月からに決まってんだろ」
誰でもない声が室内に木霊する。
すぐさま周囲を警戒するが、それらしき人影は見えない。
「満月まで待たず今日やろうってのか?」
自身を装うように獰猛な笑みを浮かべながら、相棒であるこん棒を取り出し、鞘を抜くようにして刀と銃の二刀流に切り替え―――それよりも速く、鞘に手が置かれる。
「血気盛んなのは大いに結構。だが、落ち着け。俺は敵じゃない」
「「「ッ―――!!?」」」
まるで最初からそこにいたかのように登場した白衣を身に纏った男性。
武器を抑えられた帝はすぐさまその場から飛び退き、二刀流に今度こそ切り替え、銃を男性へと向ける。それと同時に他二名の黒鬼も武器を構える。
最も遠い位置にいた彩葉は正体を探ろうと凝視し、プレイヤーネームを確認する。
「満祐·········?」
「流石に本名じゃないがな。俺の苗字と縁があるから使っとこうって言う軽いノリだ。別に裏切る気も嘉吉の乱起こす気もねえよ」
月人ではなくライバーであることは分かったが、尚も警戒体勢は外されない。
ここにいるという時点で警戒対象なのだ。
「俺の名前は赤松 宗全。
ブラック・ジャックだのヤバい二人のヤバい方だのドクターXだの言われてる医者だ。これで十分だろ?」
「根拠がない」
「そう言われると弱いな。じゃあ彩葉」
「········なんですか」
「俺の電話番号渡したろ。今かけてくれ」
三人の方位網を抜けるのは至難の技だと信頼している彩葉はウィンドウを出し、とある電話番号を打ち込む。
少しして、男性の近くに電話がかかってきた事を伝えるタブが表示された。
「『もしもし』」
「········はあ。心臓に悪い登場すんなよ」
直接発せられた声と電話から聞こえる声が重なる。
その光景から赤松 宗全その人だと信じた帝は武器をしまった。それに続いて乃依と雷も武器をしまう。
「彩葉、あの人と知り合い?」
「あんな有名人とどうやって知り合ったの?」
「いやあ·······ちょっとね」
事態が収束したのを見て、芦花と真美が彩葉に詰め寄る。しかし、あまりにもな知り合い方なので言うに言えず言葉を濁すしかなかった。
「それとお前、まだ1円も使ってないな。あと10日の内に使わなかったら、本当に総資産譲渡するから覚悟しておけ」
「お気は確かで!?」
「俺は贅沢するために金を稼いでんじゃないんだわ。例え、所持金0になろうが生きていける俺にとっては、どう消費するか悩みの種だ」
成金が増えたと彩葉は頭を抱えながら、打開策を必死に探す。
見返りを求められない施しほど怖いものない、と言うのは世の常だ。
「なんだ、金借りてんのか?」
「いやちがっ」
「無利子、いや、この場合は増えるから負利子か。と言うか、帝。兄貴なら妹が遊ぶ金ぐらい渡してやれよ」
「ん?それならばっちゃん達が送ってるって聞いたが?」
「手つけてないぞ、こいつ。自立が云々言うが、まだ17の奴ができる訳がない。勇斗が母の遺産+奨学金ありきでようやくだぞ。アレと同じ化け物になりたいのか?」
「はあ!?ばっちゃん、じっちゃんがなんのために仕送りしとる思てんのや!?」
「ひぃん········」
これには彩葉も返す言葉がない。
言ってしまえば彩葉が仕送りに手を出さなかったのは、ただの自己満足。母と同じ道を送るために極限状態を演じただけの結果だ。
帝や宗全から言わせて見れば、ただの無駄である。
仕送りを使って息抜きをするのも良し。生活費、学費にして自身の勉強時間を増やすのも良し。
使わないと言うのは明らか非効率。
「まあいい。今は作戦会議が先だ」
宗全がそう言うと、全員が何か言いたげな顔をしながら視線を向ける。
その視線を無視しながら、勝手に司会進行役となって話を進めていく。
「ここで迎え撃つと決めたのなら話は単純だ。
KASSENのSENGOKUモードを使う。3対3、総勢6人。それを重ねるようにして人数を増やしていく」
「人数を増やす?ここには8人しかいませんけど·······」
芦花の言う通りこの場にはヤチヨ、宗全含めても8名。試合を同時多発させてもあまり意味がないように見える。
「戦争には人手が必要だ。それも月からの侵略者となら、精鋭がいる。
―――総勢67名。人類史史上最多の竹取合戦、見たくないか?」
満月まであと9日の夜。
発言が稀な70名程のチャットグループにコメントが落とされた。
『手伝ってくれ』
赤松 宗全という名のアイコンからの発信のようだ。
その投稿を皮切りに物凄い勢いで既読がついていく。まだ一分もしていないと言うのに53もの既読がついている。
『勇斗さん絡みですか?』
『もちろん』
最初に一人が一番重要な点を赤松に問いかける。もしも、これが勇斗絡みでなかった場合は即解散となっていたことだろう。
『二週間空けました』
『いつ何処集合?』
『勇斗さんも来る?』
『jpon?』
『I booked a flight ticket to Japan.』
『予約した所悪いが、そこからでも大丈夫だ』
様々な人種、十人十色なチャットメンバー達が一人の為に全力を尽くしている。世界広しと言えど、こんな事ができるのは黒耀 勇斗のみだろう。
『場所はツクヨミ、日時は9日後の夜19時』
『名前だけなら聞いたことがあります』
『スマコン注文した』
『12万!?』
『ふぁー』
『奢ってくれたりとかは·······』
『oh my god.』
『Tu vas devenir streamer ?』
『C'est assurément mon préféré !』
スマコン所持者は驚きの3名。それもその筈、このチャットグループに所属している大半が40代なのだ。勇斗と出会ったのが20代だったと言うのに、時間の流れとは非常である。
『スマコンはもう送ってある』
『助かります』
『注文取り消した』
『二つ目ありがとうございます』
『大和、お前には送ってない』
『もうお古だったのに!』
『お見通しってことか』
『あれ?確か推奨は15歳以上だったよな。守は大丈夫か?』
『もう大学生です!』
社畜になると時間の流れがゆっくりと感じてしまう。それこそ、小学生の少年が大学生になっているのに気づかない程に。
『勇斗はレオと宗武、岩太が南米を探してる』
『Is he in South America?』
『あの三人なら南米でも安心ですね』
『確証はないが、いる可能性が高いのは南米だ』
その投稿と共に南米と言えばのアマゾンを映した衛星写真が貼られる。
その写真にはこれまでなかった立派な道が映し出されている。おそらく、彼がインフラ整備を進めているのだろう。
『間違いないですね』
『どこぞのアイドルグループ*1より大工してる』
『that's incredible!』
『飢餓をなくして、紛争を終わらせたと思ったら、次は道か』
『ただ、勇斗がログインして行動できるのは5分だけだ』
その投稿にチャットしていた全員が肩を落とした。最早、勇斗ファンの集まりではなかろうか。
その発言の真意にいち早く気づいたのが一人。
『つまり、これは勇斗さんを手伝うのではなく、勇斗さんが手伝いたいと思った人を手伝うんですね』
『話が早くて助かる』
『何回目だと思ってんだか』
『3』
『two』
『un』
『4』
『マウントうざい』
『俺うん百回』
『それでも武内さんが1位だろうけど』
『かっつーは殿堂入りだから』
『柚葉さんは元気そうでなにより』
『惜しい人を亡くした』
『寿命には抗えませんよ』
本当にここは勇斗ファンクラブなのだろうか。会話の内容からそうとしか思えない。
10分程マウント合戦が続きはしたが、亀裂が生まれず無事に終わりを迎えることとなった。
『一先ず、スマコンが届き次第ツクヨミにログイン。初期設定諸々終わったら俺にメール。そこで詳細は話す』
『わかりました』
『はい』
『ok』
『oui』
『俺はスマコン持ってるので、今から行きますね』
『私も』
『俺はもう寝る』
『寝るのはや!』
『日出くんは不良に見せかけた健男児ですよ』
『それじゃあ、大和と霙以外は解散』
その合図により、それぞれ自分のタスクに戻ったのかそれ以降のチャットはなかった。
本当に勇斗関連しか話し合わなかったな。チャットグループ名を「盲目のバルティマイ」から「黒耀 勇斗ファンクラブ」に改名した方が良いんじゃなかろうか。
『年齢的に無理そうだから、かわいい孫送るねー』
最後に、柚葉さんがそうコメントを残して、その日のチャットは今度こそ終わった。
外国人は私生活のメールやチャットで1番最初の文字は大文字にしないと聞いたので小文字です。あと、私はマルチリンガルではないので、全てGoogle翻訳です。勘弁してください。