映画ではかぐやのお金振り込みの時間は22:49になっていたので卒業ライブ開始は22もしく22:30だとは思いますが、この作品では19時でやっていこうと思います。
4週目で気づいたのは内緒。
日本、9月12日19:00。
ツクヨミにて超新鋭ライバー『かぐや』の卒業ライブが始まろうとしていた。
舞台はKASSENのSENGOKUフィールド。
重ねた数は11。67もの桃が鳥によって運ばれ、地上へと振り注ぐ。
『鬼あちー!かつて鎬を削った黒鬼が、かぐやのラストライブに駆けつけたぞ!』
ツクヨミ公式実況 忠犬 オタ公の涙交じりの怒鳴り声がマイクを通して会場全体に響き渡る。
それに応じてライブ会場が歓声で震えた。
桃から立ち上がった武内 湊は一目散に森へと駆け出した。
「湊さん!?」
「いい。アイツは自己判断で動かせた方が利になる」
『黒鬼だけじゃないぞ!赤松 宗全率いる盲目のバルティマイが駆けつけたー!
どういった縁かはまっったくの不明だ!』
湊の後に続くように、宗全、透さん、日出、大和、霙以外の面々はフィールド上に散らばっていく。
残された透さん、大和、霙はかぐやがライブをする高台周辺に位置取り、日出はBlack onyXと肩を並べる。
残る宗全は彩葉達へ一言残そうとゆっくり歩いていく。
「凄い人集りだな」
右手を軽く挙げ、挨拶代わりに声をかける。
1番に気づいた彩葉は会釈し、感謝を口にする。
「今日はありが―――」
「それは最後でいい。それよか、ようやく金に手をつけたな。パンケーキでも焼くのか?」
「えっ、なんでそれを知って·········はい。祝勝会で絶対にパンケーキを食べます」
勝ちを見据えたその目に宗全は声を漏らすことなく笑う。
雑談もそこまでに。最後に一言、彩葉へと託す。
「敵の不正は俺が封じる」
その言葉を最後にその場から姿を消す。
マップを確認すれば、フィールド内にある小さな池にかかっている橋の上に位置している。
「人類史上最大規模の竹取合戦、ここに開戦とする」
肘を直角に曲げ、手の甲を天に向け、手の平を地に捧げる。
手の平から止めなく流れ始める流動性の黒い液体。
それは枝分かれするように地に流れ、敵の出現位置に陣取っていく。
一に―――
夜空を模されたツクヨミの空に浮かぶミラーボールのような物が、姿形を変え、光を放つ。それはまるで現実の空で夜道を照らす月のようだった。
二に―――
月から現れるは菩薩のような月人。その大きさは高台と並ぶ程であった。慈悲に満ちたように見える顔は、その実暖かさなどない。
三に―――
主を守るように七福神のような月人達が立ち塞がる。大きさは菩薩の半分程と言った所だろうか。
四に―――
菩薩の掌からコラボライブの際に襲撃してきた灯籠頭の月人、リョウサン型の月人達が溢れるように流れ出す。そうして、フィールドを数で埋めていく。
五に―――
こちらのルールを読み取ったのか、三つの残機表示が宙に表示される。
あれ程の巨体を有する怪物を3回殺すなど、どれだけの苦労を労するのだろうか。
「不正を禁じる」
影が全ての怪物を斬り裂いた。
繰り返すに三度。全ての残機を無に返した。
しかし、それで終わらないのが月人。
こちらのルールに乗っかるのを止め、個としてツクヨミに再度顕現する。
これでツクヨミ、月に残存する全ての個体を殺し切れればこちらの勝ちとなる。
「後は頼むぜ、みんな」
自身の仕事を終えた宗全は、橋の欄干に肘かけ、ヤチヨへの通信を開きながら事の顛末を見守る。
これ以上のでしゃばりはない。
「GOGOGO!!!」
「一体でも多く倒せ!!」
「時間を稼げ!!!」
「歯を食いしばれ!!!」
「死ぬな死ぬな!!!」
「戦って生きろ!!!」
各地で戦いが勃発している。
そこら中から激が飛び交う。
自分を鼓舞するように、仲間を鼓舞するように、未来に希望を届けるように叫び続ける。
Black onyXもまたそれに加勢する。
1本の矢が戦場を駆け、ホテイ型に突き刺さる。と同時に氷が生成され、腹を突き破る。
これで1体。
帝はその氷を踏みつけ、更に加速。金魚のよう月人、ズイショウ型Aへ棍棒を振るう。
「盛り上がっていこうぜッ!!!」
炎を纏ったその一撃は容易くズイショウ型を袈裟に斬り裂いた。
これでまた1体。
帝の落下地点へ日出が入り、自身の刀身に帝の足を乗せる。
「行ってこいッ!!」
「おう!!」
全力で振るわれた事で、帝が急加速。
光線のように飛び、銃口から現れた刀をテンニョ型の月人の背後から貫通させる。
「チィ······!!」
勢いで突破できると過信していた帝は反撃されるより速く剣を抜こうとするが、中々抜けない。
早々に抜くのを諦め、飛び退きながら、銃の乱射で撃破を試みるが失敗。
テンニョ型が持つ琵琶が落下中の帝に振り下ろされる。
が、それよりも速く黒い衣を纏った青年によって中断せざるを得なかった。
「湊!!?」
「仕上げは俺がしよう」
突き刺さったままの刀の柄を桁外れの力で握り締め、落下と共にテンニョ型の体を裂きながら下っていく。
これでまた1体。
着地した湊は刀を帝に投げ返す。
「返す」
「助かった」
返すやいなや湊の体が薄れ、どこかに去っていった。
入手難易度が馬鹿げた装備なだけある。隠密性能だけはピカイチだ。
これで計三体。
だが、圧倒的な学習力で戦いに最適化されていく月人達に、少しづつであるが、前線が押し返されていく。
「負けるな!!」
「負けてたまるかって!!」
「勝て!!」
「勝ち続けろ!!」
「道を!!」
「誰かの道を!!」
変態したズイショウ型Bを10もの残機を払い滅ぼし、シンバルを手にしたコンゴウ型Aを5個の残機を代償に砕く。
これでまた2体。
前線を維持せんと多くの人が体を散らしながら叫び続ける。
高台の防衛を任されていた透さんは、リョウサン型の動きを見てとある事に気づいた。
すぐさま全員の回線に繋ぎ、怒鳴るようにして伝える。
「戦闘データが共有されてる可能性があります!!!」
『なら瞬殺するまで!!』
『完全に適応される前に一匹でも多く倒せ!!』
『数を減らし続けろ!!』
『勇斗さんが来るまでに灯籠を一匹残さず駆逐しろ!!』
『野蛮人しかいないな、ここ!!大好きだ!!!』
疲れ、恐怖を知らないのか、打倒数が更に加速する。
だが、それでも圧倒的な数の暴力に、遂に――
「ぐっ·······!」
『雷ッ!!』
背後を取られた雷が先端が瓢箪のようなメイスを持つコンゴウ型Bによって、その残機を1つ減らした。
続けざまに、竹筒のような銃器を持ったテンニョ型Bの狙撃によって乃依の残機が1つ消えた。
「乃、ッ―――、くそっ!!」
ズイショウ型Aの宙に浮かぶ2本の腕が振るった二刀を棍棒で受け止める。
助太刀しようと、彩葉が刃先に力を込め、緑色の斬撃として放つ。しかし、体から生えている腕が持つ剣によって、叩き落とされてしまった。
「お兄ちゃん!」
今にも押し潰されそうな兄のため、地を蹴る。
だが、兄のプライドとして妹に心配されるなどあってはならないのだ。例え、これが緊急事態だとしても。
「雷、乃依、使うぞ」
『御意』
『は〜い』
その言葉を皮切りに、Black onyX3人のアバターの顔に紋様が浮かび上がる。
力の奔流が3人の体から迸る。本来ならツクヨミ内で出せない出力なのは一目同然だった。
『チートモードだあ!たった今、ブラックオニキスの帝 アキラ、雷、続いて乃依にもチートモードの使用が確認されました!』
オタ公の宣言に会場全体がどよめく。
チートモードの使用とはそれ程のものなのだ。これが催しものだとしても、その使用には軽蔑の目がむけられる。多数の企業がスポンサーに入っているBlack onyXにとってそれの使用はどれだけの犠牲が必要なのか。
「おらあああぁ!!!」
ズイショウ型Bの二刀を押し退け、お返しにと言わんばかりに銃口から抜いた刀で胴体を裂きながら上がり、最後に首へ一太刀お見舞いする。
それを眺めていた宗全はと言うと、
「仲間だからな。身内贔屓はしてやる」
『お優しいねぇ。ヤッチョとしては、あんまりおいたはして欲しくないんだけどな〜』
チートによって身体能力を爆上げした3人は怒涛の勢いで戦場を突っ走り、盲目のバルティマイが交戦中だったホテイ型とテンニョ型A、コンゴウ型Aを蹴散らし、数多の灯籠を砕いていく。
そんな折、一向に動きが見れなかった菩薩が動いた。
侵入時と同じように掌から灯籠頭を生み出した。そこまでは同じだったが、生み出された灯籠頭を光の玉に入れ、かぐやがいる高台へ向けて謎の力で加速させた。
それに一速く気づいた透さんが、通話で即座に伝達する。
「皆さん!下がってください!!
新たな1軍が空を通って高台に来てます!!」
『なに!?』
『不味い!!』
『全員後退!!』
『彩葉ちゃん聞こえてる!!?』
『聞こえてます!今向かってます!』
『バルティマイ全員下がれーー!!』
『道だ!後退しながら道を作れ!!』
透さんの伝達を聞いた大和と霙は高台の階段をウルトを用いて上がりながら、大量購入した投槍を上空に向かって投げまくっていた。
「数が、多い·······ッ!」
「これじゃ、ほんとに········」
そく連れ去られることはないが、壁を作るように取り囲んでいく灯籠頭達。
このままでは本当に勇斗が来る前に終わってしまう。
その頃、下がってきている彩葉と盲目のバルティマイとは言うと、1人が彩葉と並走してとある作戦を伝えていた。
「ウルト発動!バケツリレー!オッケーか!?」
「えっ。ちょちょっと待っ―――」
返事を聞くより速く、ウルトを発動し、彩葉の腕を掴んだその人は回転し、高台の方向に目掛けて
「ッ―――、···――!!?」
「よし掴んだ!次の人頼んだ!!」
『了解!』
そうして前を走っていた人に受け止められ、また前の人へと投げる。
「ヤバっ、いちょ―――!!?」
「あ、暴投した」
『なにやってんだ、凪ぃ?!』
2番手に託されたはいいものの、なんと2回目にして暴投である。
前に、ではなく空へ投げ飛ばされた彩葉をキャッチする者など―――掻っ攫うようにして彩葉のフードが掴まれる。
「ぐえっ」
「お前ら楽しそうな事してんな。俺も混ぜてくれ」
掴んだ人は、まさかの宗全。
橋からここまで結構な距離があったと言うのに、どれだけの速度でここまで来たのだろうか。
しかし、これで一安心。宗全の速さを知っている彩葉は、このままフード掴まれて連れて行って貰えるだろうと安堵の息を零すが―――
「よし、高台まで投げるぞ」
「はっ?いや、そんな無理無理―――」
『いろP頑張って〜♪』
「頑張る」
「現金な奴だな、ほんとッ!!」
Gこそないものの、風を模倣されたものがあるため、口を閉じて薄目で着地点を見るが、どう着地すればいいのか。もし、このまま行けば地面に激突で残機が1つ減ることになる。
『大和!霙!受け止めろ!!』
「よしきた!」
「2人で受け止めれば大和さんが死ぬだけ!」
「なんで俺!?」
即切り捨てられたものの、時間がないため切り替える。
彩葉が来るであろう場所に腰を降ろし、レシーブの構えを取る。2人共元バレー部である。
彩葉の頭が前で体を張っていた大和の腹に突き刺さった。
「ぐふぅ」
「あいたっ」
「わわっ!すみません!」
「速く上がるんだ!」
「私達の屍を越えていけ·······」
「はいっ!!」
こうして2人の残機が1つ消えた。彼らの犠牲は忘れられないだろう。
そんな2人に感謝しながら、階段を駆け上がる彩葉。今なお歌い続けるかぐやの前に躍り出て、壁のように取り囲む灯籠頭へ斬撃を飛ばす。
しかし、彩葉が減らす数より増える数の方が多い。焼け石に水とはこの事なんだろう。
正しく絶体絶命。だが、宗全は既に橋に戻っており、何か行動を起こす気はない。
そんな暇している宗全の電話に知らない番号から電話がかかる。
『今、初期設定諸々ぶっ飛ばして白いのが見える所に走ってる。方向あってるか?』
その声に、宗全は頬を吊り上げた。
アマゾン、9月12日午前6時前頃。
朝早くから迷彩柄を着ている男性は、斧を振るい、木々をなぎ倒していた。切り株は手で力にものを言わせて引き抜く。
そんな人間離れした動きをしている男性の元にとある3人が近づいていた。
自身の名を呼ぶ声が聞こえた。
「·········ん?」
久しぶりの殺意がない人の声に首を傾げながら、斧を切り株に振るい、刺さった状態にしておく。
そして、声のした方向へ足を運ぶ。
暫く歩くと、大きなバックパックを背負った3人と出会った。
「え」
「oh」
「あーーー!!!!」
「その声·········岩太か!久しぶりだな!」
正体がわかるや険しかった顔を破顔させ、喜に満ちた顔で両腕を広げて近づいていく。そしてそのまま、習慣となったハグで歓迎の意を示す。
「久しぶりです!·······ちょっと軽くなりました?」
「最近はお腹一杯食べてないしな。って、宗武とレオか!」
岩太とのハグを終え、宗武、レオの順にハグをしていく。疲れがぶっ飛んだとは後の3人談である。
「ちゃんと食べなよ、まったく」
「はは。すまんすまん」
「Your health is your most important asset.」
“体は資本だぞ”
「Yeah, exactly.Be careful.」
“だよな。気をつける”
一言二言交わしたことで落ち着いた四人は、積もる話を喉底に押し留め、本題へ移る。
宗武は自身のバックパックを地面に降ろた。その中に手を突っ込み、手紙とスマコンが入った黒いケースを取り出し、勇斗へと手渡す。
「宗全からか」
「国境で審査通れるか心配でしたよ」
「スマコンを見たことないだろう」
一先ず黒のケースをポケットに入れ、手紙の封を切る。中には1枚の紙。内容は5行と、非常に簡素に書かれている。
「·········そうか、もう14年か。随分と早かったな」
「もう、俺達もおじさんって言われる歳ですよ」
「貴方をおじさんと言う人は少ないだろうがね」
「You'll start giving off that "old-person smell" someday, too」
“君もいつか加齢臭を放つようになるさ。”
レオのその言葉に4人は静かに涙を流した。
子からの臭いは何よりも効く。洗濯物を別けられた日には1人泣くことになるとは宗武談。
「んじゃ、俺は急ぐ。置いていくことになるが、いいか?」
「あと10分もありませんからね。是非急いでください」
「間に合わなくなる前に急ぐといい」
「Go.」
“行きなさい”
「またな!」
轟音。
まるでジェット機が真横を飛んでいったかのような音を鳴らしながら、その場を後にする。
この後、テキサス州でホテルの一室に泊まり、スマコンをつけ、壁に寄りかかった状態で瞳を閉じた。