戦いが始まり3分。圧倒的な物量に今にも押しつぶされそうな状態。
Black onyXが使用していた奥の手であったチートコードは検出され、修正されてしまった。これでこちら側の手は尽きた。
そんな絶望しかない場面に、一筋の希望もとい一本の電話が宗全へとかかる。
『今、初期設定諸々ぶっ飛ばして白いのが見える所に走ってる。方向あってるか?』
けたたましいアーラム音と水上を走る音、そして穏やかでありあながらも覚悟を秘めた声。
その声を聞いて宗全はニッと頬を上げる。
「ヤチヨ!外郭からこっちに走ってきてる奴をスクリーンに出せるか!?」
『かしこまっ!』
円卓のようになっている観客席の中央、今まさにかぐやのお別れライブを映し出しているスクリーンの上にもう一つ同じ大きさのスクリーンが現れる。
そのスクリーンには、水上を凄まじい速度で走る30代程の男性が映し出された。
ツクヨミ独特の煌びやかな格好ではなく、むしろその逆。
頭に緩くターバンを巻き、靴、ズボン、上が一体となった迷彩柄の服を身に纏う姿は土木業を営んでいるのかと訝しんでしまう。そして、首には白のタオルが巻かれ、口元を隠している。
そんなタオルとターバンは、走る速度が速すぎたためか、風によって外れてしまった。それによって、スクリーンに男性の顔がはっきりと映ることとなる。
『おーっと!?水上を走るこのライバーは一体何者なんだあ!!?』
「クライマックスだぜ。すっ飛んできやがれ」
『あい了解!』
突然の意外な人物の登場に観客、コメント欄がざわつき始める。そんな中でも事態は加速していく。
スクリーンに映し出された男性、―――黒耀 勇斗の手にどこからともなく波を打ったような剣が現れる。
「白いのが敵だ、勇斗っ!!」
親友の言葉で目標を定めた勇斗は、それらを滅するべく十二の輝剣を自身を中心に円陣させるように出現させる。
目的地まであと10km以上あるであろう水上から、彼は口上を言祝ぐ。
『輝ける十二の剣、色彩放つ王剣。
一時の閃光なれど、これは未来照らす神威である。
その名は、―――』
水上に大きな波紋を残し、今まさに危機的状況な場所へと飛び立つ。
十三もの光の筋はまるで流れ星のようで、あらゆる憂慮を打ち払う希望の光。これこそ、今を生きる英雄と謳われた黒耀 勇斗の姿である。
「『
一瞬にして距離を縮めた極光は異敵である月人を消滅させ、かぐやへと近づいていた月人の棟梁ボサツ型を退けた。
危機をひっくり返した張本人はことなさげにライブ会場に降り立つ。
「約束守りに来たぜ」
最早、勝負はついたと勇斗を知っている者達は確信したが、月人は月がある限り際限なく沸いてくる。しかし、もう誰も絶望などしていなかった。それだけの希望が到着したのだから。
大小様々な月人が勇斗めがけて襲いかかる。が、それらを新たに虚空から取り出した草薙剣とジュワユーズによって斬り刻まれ、姿が掻き消えた。
しかし、一向にキリが見えない。その原因の根源たる天で輝く月を金色の瞳が捉えた。
「月が源流か」
目に映る月人を手当たり次第に刻んで処理していく。それだけでキル数はBlack onyXの総数を超えた。だが、それでもほんの一握り。
原因を潰すべく、目標を口にする。
「なら砕くまで」
目標を設定したにも関わらず、あまりの物量に攻めあぐねる勇斗。このままでは制限時間である5分に間に合わない。
「邪魔だな·········」
怒気を多分に含まれた呟きが落ちる。
その珍しい姿に視聴者と盲目のバルディマイの面々が固唾を呑む。
この戦い、ここまでしても尚負ける可能性があるという考えが浮かんだのだろう。しかし、そんな事で止まる者はここにいない。
勇斗の元に光を頼りに人が集っていく。
「勇斗くん!手伝いますよ!!」
「透さん!?久しぶりです!元気でしたか!」
「おかげさまで!そちらも息災そうで!」
「絶好調ですよ!」
ズイショウ型Bを二刀で下しながら挨拶を交わす。透さんもつけ焼き刃の槍で雑魚を散らしていく。
駆けつけた一人に続き、また一人参陣する。
「勇斗さん、僕もいますよ!!」
「おお、大和じゃん!!社会人慣れたか!」
「そりゃもう7年目ですから!子供もいるんですから!!」
「めでたい!!時間あったら飯奢るぞ!」
「焼肉で!!」
「おっけーだ!」
草薙剣を投擲し、月破壊を試みるが立ち塞がった月人の肉壁によって勢いを殺されてしまった。
草薙剣が力なく地面へと落下していくが、完全に地面に刺さる前に自律的に勇斗の手へと戻っていく。その際に何匹か轢き裂いていった。
その結果に舌打ちを零し、眉間に皺を寄せるがまたまた参陣してきた者によって笑顔に戻る。
「霙です!覚えてますか!?」
「もちろん!また道に迷ったなら、送っていくぜ!!」
「婚活迷子中なので結婚してください!」
「すまん、既婚者だから無理だ!」
「奥さん2人いるのにですか!?」
「年の差!!!」
奥さん2人という爆弾発言が会場をどよめかせるが、それだけで済めばいい話。もし、今のやり取りがどちらかの奥さんに聞かれていたのなら超不味いだろう。
不倫ではないのだが、更に増えたり、他の女性に粉をふっかけていると思われでもしたら本当に終わる。朝日を拝むことはないだろう。
透さん、大和、霙の3人では終わらない。
「「「勇斗/勇斗さん!!」」」
「生きてやがったな、この野郎!!」
「何処で何してたんですか!?」
「生存確認よし!」
「宗全はあっちだ!顔見せてこい!」
「ああ!積もる話は終わった後で!!」
降りかかるホテイ型を難なく十字に裂く。
残機を削りながら倒していた強敵をああも易易と倒されては顔がない。
面識がある人にとってはいつもの事なので、あまり驚きはしないが、初めての彩葉達にとっては度肝を抜かれたことだろう。
高台から飛び降り、着地の隙を完全に消し去り、森を一直線に駆けていく。
様々な月人が彼の進行を止めようと立ち塞がる。が、それよりも速く彼に並走するように十二勇士が集結し、ジュワユーズと共に光輝いていく。
「万夫不当の騎士達よッ!我が意志と共に駆け抜けろッ!!
目の前に迫る月人、進路にある木々が光に呑まれる。
光が晴れた先には何も残らず、ただ破壊の跡が刻まれるのみ。
その跡を目の当たりにした高台へ向かっていた帝 アキラは目を見開いた。
「人が出していい破壊力なのか·········?」
「呆けてないで急ぐぞ」
「あ、ああ」
日出の言葉になんとか頷き、また走り出す。
その間も光は突き進んでいき、小さな池にかかる橋の前で止まった。
彼の視線の先にいたのは、ただ橋の上で立ち尽くすだけの赤松 宗全。約4カ月ぶりの再会である。
「久しぶりだな、宗全!」
「電話ぐらい寄越せよ、勇斗。それで今何処にいる?」
「南緯3度西経60度!それよか、いろはって子は誰だ?」
「高台の階段あたりにいたろ。狐耳の奴」
「あー!あの子か!んじゃ戻る!」
「あと3分ちょいだ。決め切れ」
「わかってる!」
宗全からの小言と激励を受け取り、すぐさま来た道を戻る。
『········』
「予想以上だったろ。死にかけの勇斗しか見たことないお前にとっては。
アレに賭けるか賭けないかは自由にしろ。俺は、俺の言葉を訂正したりはしない」
そんな宗全とヤチヨのやり取りを露知らず、勇斗は高台へひた走る。
途中で鬼が2体襲いかかってくるが、通りざまに一閃。瞬きのような一瞬でBlack onyXが苦戦していた敵を処理する姿に視聴者は笑うしかなかった。
高台まであと1kmとなった所でジュワユーズに光が収束していく。
足に力を溜め、飛翔。ロケットかと見誤る程の速度で空を駆ける。
「王の威光に屈せよッ!
最高点に達してこそいないものの、そこらの雑兵を散らすには十分の聖光を放ちながら高台に舞い戻る。
そして、ほんの一瞬しゃがんだ姿が見えたかと思えば、次の瞬間には狐耳のライバー、いろPの前に立っていた。
「―――えっ!?」
こちらに興味など持っていないだろうと思っていた人物がこちらに近づけば、そんな声も出る。
いろはの心情など知らない勇斗は、少し早口気味に語りかける。
「アンタがいろはか!元気そうでなによりだ!
ただ、今は時間がない。説明する時間もない。だから、これだけは言っておく。
―――この一時、アンタの志を俺の志にする。例え、アンタが道半ばで倒れようが、俺は駆け抜ける。逆も然りだ。覚悟はいいか?」
「はいっ!!」
一寸の迷いなく賛同するいろはの姿に、勇斗は圧迫面接さながらの表情を緩める。
洗脳あるいは洗礼。
彼の覚悟は伝播し、あらゆる者の夢を後押しする。それが、黒耀 勇斗の人たらしの所以であり悪癖だ。
止まることを知らない、というのは最も死に近づいているということ。常に崖っぷちなのだ。
話は短く、すぐさままた戦場に戻ろうとする彼の所にまた一人参陣する。
「勇斗さん!また女性を引っ掛け―――」
「すまん、琴葉!話は後だ!草薙剣頼む!!」
「――えっ、ちょっと待ってください!」
左手で持っていた草薙剣を新たに来た赤松 琴葉に投げ、自身は高台へと一飛び。
避けてるだろと言わんばかりの俊敏さだった。
「集えよ、十二勇士ッ!!」
その一声で、彼と肩を並べるように十二の輝剣が駆けつける。
十二勇士の長本人ではないけれど、それに認められた者として彼は聖騎士帝たり得る存在だ。本物と遜色ない輝きが彼にはある。
「虚構の色彩、虚飾の王剣よ。
不条理に怒り!圧政者を喰らえッ!!
その剣、これこそが―――」
矛先を向けるは未だ輝き続ける狂気を垂れ流す月。
輝きが最高潮に達したその剣は、弱きも強きも見境なく喰らう王の剣。守るべきを傷つける全てを砕くその剣の名は―――
「
そう、放たれた極光は月を呑み込まんと奔ったまでは良かった。しかし、肝心の月にまで届いていない。まるで途中に遮蔽物があるような遮られ方をしている。
無情にも極光が段々と威力をなくし、霧散していく。そうして開けた視界の先にいるのは―――
「ヤチヨ·········?」
誰よりも速く彩葉が呟いた。
傘で全貌が見えないが、確かに遮蔽物はヤチヨその人だった。しかし、そうは言ってもあの一撃を受けて耐えれる筈がない。
「絶対破壊不能オブジェクトか」
橋でことの成り行きを見届けていた宗全が答えを漏らすも誰かが拾うことはなかった。
残り30秒なため回線を繋げ、伝令を飛ばす。
『勇斗、残り30秒だ。目を開けろ』
「·········宗全、すまん」
『は?何言って―――』
宗全の言葉で現実に戻ろうと試みる素振りをしたが叶わず。目を細めながら自身への凶刃を受け入れる。
ダンッ、と衝撃が勇斗の左肩に落ちた。
あまりの勢いに体勢を崩され、左膝を地面につく。視線を左にずらせば、僧帽筋あたりがパカリと割れている。
もし、ここがツクヨミでなく現実であるなら、肉や骨が見えていたことだろう。
『勇斗、何してる!!目を開けろ!!!』
「スマコンに細工されてるんだと思う。目を開けても変わらない。何とか一撃目を逸らせたが、二撃目はもう無理だな、コレ·········」
『――――――くそッッ!!!!』
肌に当たった空気の揺れで一撃目の狙いを頭部から逸らせたが、次はない。肩に逸らせたことすら奇跡なのだ。そう上手くいかないのが現実。
ツクヨミ内でどうこうする事を諦め、すぐさま目を開けた宗全は、解決のため禁じ手を使用する。
「世界に末法満ち、人おらずけども―――ただ、空はそこにある」
病院の一室から世界が切り替わる。
これで外敵から守ることはできるが、血の流血を止めることはできない。1秒が命取りとなる。
映された建物を壊しながら、勇斗がいる場所まで一直線で進行を始めた。
現在公開可能な情報
▼黒耀 勇斗の第二宝具「???」
あらゆる可能性を引っ張り出す宝具。
過去現在未来、世界軸問わず、彼が手にした力を扱うことができる。これによって、ジュワユーズや草薙剣を振るうことが可能となっている。
今現在、彼は生きているため、正しくは宝具と言える代物ではない。ただ、分かりが良いため宝具と呼称されている。