Episode 28「ミッション」
数日が経過していた。
黒瀬隊の撃破ポイントはかなり積み上がっていた。
理由は単純だった。
レーダーがない。
それだけで黒瀬の奇襲は別次元の通りやすさになっていた。
相手は黒瀬がどこにいるか分からない。
気配を感じる手段もない。
気づいた時には目の前にいる。
あるいは気づく前に終わっている。
サイドエフェクトも機能していた。
相手が見えなくても、近くにいる感覚は分かる。
結果として黒瀬は一方的に奇襲を仕掛け続けていた。
連続撃破の影響で、黒瀬本人のポイントも大きく変動していた。
元々5ポイントだった黒瀬のポイントは、現在8ポイントまで上昇している。
それだけ、この環境で暴れているということだった。
三上のトリオン兵撃破による通貨稼ぎも順調だった。
水瀬の下見情報のおかげで、当真がいそうなエリアの目星もついてきた。
黒瀬隊にとって、これ以上ないほど有利な環境だった。
だが、ポイント表示を見る度に、奈央の表情が少し曇った。
「冬島隊、また上がってますね」
静かに言う。
三上がポイント表示を見る。
「……差が縮まらないな」
黒瀬隊のポイントはかなり稼いでいる。
だが。
冬島隊のポイントは、それを常に上回っていた。
特に当真の獲得ポイント量が異常だった。
黒瀬より高いポイントを維持したまま、さらに数字を伸ばし続けている。
それなのに、落とされた形跡がない。
三上が小さく息を吐いた。
「……どうなってんだよ、あの人」
その時だった。
端末に通知が届いた。
奈央が画面を開く。
「ミッションが来ましたね」
四人が覗き込む。
《任意ミッション発生》
《指定地点に存在するケースを回収してください》
《オペレーター同行必須》
《エリア内には監視役のボーダー職員が配置されています》
《監視員に発見された時点で失敗となります》
《戦闘行為は禁止です》
《成功報酬:高額試験内通貨》
《失敗時:報酬分の試験内通貨を減算》
《参加は任意です》
しばらく沈黙。
三上が先に口を開いた。
「……やらない方が良くないか」
「理由は?」
黒瀬が静かに聞く。
「今それなりにポイントあるだろ」
三上が続ける。
「無理にリスク負う必要ないんじゃないか」
「失敗したら通貨がごっそり引かれるし」
「今の流れ崩すのも勿体ない気がする」
確かに一理あった。
黒瀬隊は今順調だった。
わざわざハイリスクな選択をする必要はないかもしれない。
だが。
「やった方が良いと思いますよ」
水瀬が静かに言った。
三上が少し驚いて水瀬を見る。
「珍しいな、水瀬がリスク取る方向の意見出すの」
「だってこのミッション、黒瀬くんのサイドエフェクトをフルに活かせるじゃないですか」
水瀬が続ける。
「監視員に見つからず動くって、黒瀬くんが一番得意なことですよ」
「他の隊はこのミッション自体かなり難しいんじゃないかと思いますし」
「ここで一気にアドバンテージ取れるんじゃないですか」
三上が少し考える。
「まあ、それはそうだけど」
「問題はオペレーター同行必須ってことだろ」
三上が奈央を見る。
「奈央ちゃんを連れていくことになるけど」
「普段戦場に出てないオペレーターを庇いながら連れていくのはだいぶ難しいんじゃないか」
「奈央ちゃんが危ない目に遭う可能性もあるし」
「それはそうですね」
奈央が少し考える顔をする。
視線が黒瀬へ向く。
「黒瀬は?」
三上が聞く。
黒瀬は少し間を置いてから答えた。
「奈央さんがやれそうならやりたいです」
「自分のサイドエフェクトがあれば、ある程度カバーできると思います」
全員の視線が奈央へ向く。
奈央は端末のミッション内容をもう一度確認する。
戦闘禁止。
隠密行動。
オペレーター同行必須。
しばらく考える。
「黒瀬くんのサイドエフェクトがあるなら」
奈央が静かに言う。
「難しくなさそうですね」
「やってみましょうか」
三上が少し苦笑する。
「……奈央ちゃんがそう言うなら止めないけど」
「気をつけてくれよ」
「もちろんです」
奈央が頷く。
水瀬がのんびり言う。
「頑張ってきてくださいね」
黒瀬は静かに奈央を見た。
「行きましょうか」
奈央が小さく頷いた。