「ワートリ、ワールドトリガー」死角の銃手   作:黒星0214

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Episode 29

Episode 29 「隠密」

 

ミッションエリア入口。

 

黒瀬と奈央の二人は、静かな廃ビルの前に立っていた。

 

「準備いいですか」

 

「はい」

 

奈央が頷く。

 

黒瀬は少しだけ間を置いた。

 

「後ろ、ついてきてください」

 

「動く時は声かけます」

 

「……分かりました」

 

黒瀬が先に建物へ入る。

 

ドアの前で一度止まり、ゆっくり押し開けた。

 

ほんの少しだけ隙間を作る。

 

中を確認してから入っていく。

 

奈央はその背中を見ながら続いた。

 

廊下へ入った直後だった。

 

黒瀬が奈央の腕を軽く引く。

 

「そこ、踏まないでください」

 

「え?」

 

足元。

 

床の一部が金網状になっていた。

 

「音、鳴るかもしれないので」

 

奈央は思わず床を見る。

 

自分なら気にもせず踏んでいた。

 

黒瀬は端を選ぶように迂回していく。

 

奈央も慌てて後を追った。

 

少し進んだ先。

 

窓から夕方の光が差し込んでいた。

 

奈央がそのまま前へ出ようとした瞬間。

 

また腕を引かれる。

 

「……え?」

 

「こっちです」

 

黒瀬は壁際へ移動していた。

 

「窓の前だと、外から見えます」

 

言われて窓を見る。

 

ガラスに、自分の姿がうっすら映っていた。

 

奈央は小さく息を呑む。

 

自分は何も考えずに前へ出ようとしていた。

 

黒瀬は既に光の当たらない位置を歩いている。

 

角の手前。

 

黒瀬が突然止まった。

 

「待ってください」

 

奈央も足を止める。

 

「……誰かいます?」

 

「はい」

 

黒瀬は小さく頷いた。

 

数秒後。

 

廊下の奥をボーダー職員が横切った。

 

奈央は思わず黒瀬を見る。

 

まだ足音も聞こえていなかった。

 

黒瀬は何事もなかったように言う。

 

「行きます」

 

奈央は小さく息を吐いた。

 

角を曲がる。

 

そのまま進もうとした瞬間。

 

「こっちから行きます」

 

黒瀬が別の通路を指差した。

 

「……遠回りじゃないですか?」

 

「向こう側だと影が出るので」

 

奈央は少し黙った。

 

そこまで見て動いているのか。

 

次の部屋へ入る。

 

ケースが置かれていた。

 

奈央がそちらを見た瞬間。

 

黒瀬は先に部屋全体へ視線を走らせていた。

 

窓。

 

入口。

 

ロッカー。

 

机。

 

奈央は思わず聞く。

 

「……何見てるんですか?」

 

「一応」

 

黒瀬が小声で返す。

 

「逃げる場所と、隠れられそうな所確認してます」

 

まるで当たり前みたいな口調だった。

 

「……なるほど」

 

奈央は小さく呟く。

 

ケースを回収する。

 

その時。

 

黒瀬が奈央の肩を軽く押した。

 

位置をずらされる。

 

「……?」

 

窓から伸びた光。

 

自分の影が外へ出ていた。

 

黒瀬は最初から影の中に立っていた。

 

奈央は何も言えなくなる。

 

帰り道。

 

黒瀬の動きは変わらなかった。

 

止まる。

 

確認する。

 

光を避ける。

 

音を避ける。

 

その全部が自然すぎる。

 

サイドエフェクトだけじゃない。

 

積み重ねた技術だ。

 

入口へ戻った時。

 

奈央は小さく息を吐いた。

 

「……無事でしたね」

 

「はい」

 

少し沈黙。

 

奈央は黒瀬を見る。

 

「黒瀬くん」

 

「はい」

 

「これ、全部意識してやってるんですか?」

 

黒瀬は少し考えた。

 

「……半分くらいは」

 

「半分?」

 

「慣れてるので」

 

奈央は少し黙る。

 

自分が普通に踏もうとした場所。

 

普通に歩こうとした場所。

 

普通に曲がろうとした場所。

 

全部、黒瀬は先に危険として認識していた。

 

「すごいですね」

 

奈央が静かに言う。

 

黒瀬は少し困ったように視線を逸らした。

 

「慣れです」

 

「慣れでそこまで出来る人、あんまりいませんよ」

 

黒瀬は少しだけ苦笑した。

 

拠点へ戻る。

 

三上が顔を上げた。

 

「お、帰ってきた」

 

「どうだった?」

 

奈央がケースを軽く持ち上げる。

 

「成功です」

 

「マジか」

 

三上が少し驚く。

 

水瀬がのんびり笑った。

 

「流石ですね〜」

 

 

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