Episode 30「強制ミッション」
端末に通知が届いたのは午前中だった。
《強制ミッション発生》
《黒瀬隊は指定エリアへ移動してください》
《対戦形式ミッションです》
《対戦相手:冬島隊》
《撤退条件:相手を2人以上撃破、または1時間生存》
《条件達成後、撤退可能となります》
奈央が端末を見たまま固まった。
「……冬島隊ですね」
三上が画面を覗き込む。
「マジか」
水瀬がのんびり言う。
「来ましたね〜」
黒瀬は端末を静かに見ていた。
冬島隊。
当真勇。
スナイパー1位。
この試験で誰よりもポイントを稼いでいる隊員。
三上が落とされた時のことを思い出す。
森林地帯で射線を気にして慎重に動いていた。
それでも落とされた。
「指定エリアは廃ビル市街地ですね」
奈央が続ける。
「自分たちが得意なエリアですね」
黒瀬が静かに言う。
「でも当真先輩にとっても射線が通る場所はありますよね〜」
水瀬が少し渋い顔をする。
「そうだな」
三上が腕を組む。
「廃ビルとはいえ開けてる場所もあるし」
「当真さん相手だと先に見つかったら終わりだな」
三上が少し真顔になる。
「こっちが先に見つけるしかないですね」
黒瀬が静かに言う。
「レーダーがない分、お互い条件は同じです」
「ただ向こうはトラップもある」
「慎重に動かないと足元を掬われますね」
「当真さんの狙撃だけじゃなくて冬島さんのトラップも警戒しないといけないですね」
奈央が静かに言う。
「二方向から来るのが厄介だな」
三上が苦笑する。
水瀬が端末を操作しながら言う。
「廃ビルエリア、下見した時のデータありますよ〜」
「当真先輩が使いそうな狙撃ポイント、いくつか目星つけてあります」
「それ、共有してもらえますか」
黒瀬が静かに言う。
水瀬が端末を差し出す。
黒瀬が画面を見る。
建物の配置。
射線が通るポイント。
死角になる場所。
しばらく見てから頷いた。
「参考になります」
「ただあくまで私目線なので〜」
水瀬が少し申し訳なさそうに言う。
「当真先輩が想像できない場所にいる可能性もありますし」
「それは分かってます」
黒瀬が静かに答えた。
奈央が撤退条件を見ながら言う。
「撤退条件が2人以上撃破か1時間生存ですから」
「1時間逃げ切るのも一つの手ですけど」
水瀬がのんびり言う。
「でも今のポイント差を考えると」
黒瀬が静かに言う。
「ここで冬島隊に勝たないと逆転は難しいですね」
三上が小さく笑う。
「言うのは簡単だけどな」
「当真相手にそれをやるのか」
黒瀬は答えなかった。
ただ静かに、廃ビルエリアの地図を見ていた。
移動時間になった。
三人が拠点を出る。
廃ビル市街地へ向かいながら。
奈央が小声で言う。
「緊張しますね」
「しますね」
黒瀬が静かに答えた。
廃ビルの入口が見えてきた。
建物が密集した入り組んだ路地。
どこかに当真がいる。
そしてどこかに冬島のトラップが仕掛けられているかもしれない。
黒瀬は静かに周囲を確認した。