Episode 31「狙撃」
廃ビルエリア。
三上は一人、崩れた路地を進いていた。
瓦礫。
崩れた外壁。
途中で放置された車両。
見通しは悪い。
だが時折、建物の隙間から長い射線が通っている。
その度に三上は足を止めていた。
「……嫌だなぁ」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもない。
ただ、口に出さないと妙な緊張に飲まれそうだった。
端末のマップを見る。
現在位置を確認。
黒瀬たちとはかなり離れている。
無線は静かだった。
その静けさが逆に嫌だった。
三上はゆっくり建物の角へ近づく。
すぐには曲がらない。
壁に背を預けたまま、少しだけ視線を出す。
誰もいない。
だが、それが安心材料にはならない。
相手は当真だ。
見えてからでは遅い。
三上は小さく息を吐く。
「マジでどこだよ……」
返事はない。
当然だった。
足元の瓦礫を避けながら進む。
できるだけ音を立てない。
だが、自分の立てる小さな足音すら妙に耳についた。
前方。
少し開けた通路が見える。
崩れた高架の下。
遮蔽物はある。
だが完全ではない。
三上は露骨に嫌そうな顔をした。
「射線通ってるじゃん……」
その時。
無線が小さく鳴った。
『三上先輩』
黒瀬の声。
三上が少しだけ安堵する。
「おう」
『そっち、何か見えますか』
「いや、何も」
三上は周囲を見回す。
静かだった。
風の音だけが聞こえる。
『そうですか』
黒瀬の声も静かだった。
『気をつけてください』
「言われなくても気ぃ張ってるっての……」
無線が切れる。
三上はもう一度、開けた通路を見る。
行くしかない。
このまま止まっていても仕方ない。
ゆっくり前へ出る。
身を隠せる場所を選びながら進む。
当真なら高所を使う。
三上は自然と上を警戒していた。
それらしい場所はいくつもある。
なのに。
どこにも姿が見えない。
数歩進む。
その瞬間。
乾いた銃声。
三上の視界が揺れた。
何が起きたか理解するより先に、胸部へ強烈な衝撃が走る。
「ッ――」
身体が崩れる。
撃たれた。
そう理解した時には、もうベイルアウト光が広がっていた。
最後まで。
どこから撃たれたのかは分からなかった
Episode 32 「誤認」
数時間前。
拠点。
水瀬が端末に廃ビルエリアのマップを表示していた。
建物配置。
高低差。
通路。
射線。
「当真先輩なら、多分この辺使いますね〜」
水瀬がいくつかの地点を指差す。
「完全には読めませんけど」
「三上先輩がこの位置まで来てくれれば、狙撃位置かなり限定されます」
「撃たれるかもしれませんけどね〜」
三上が嫌そうな顔をした。
「つまり俺が囮役?」
「お願いします」
黒瀬は静かに頷く。
「その位置で撃ってくれれば、位置が分かります」
三上が露骨に嫌そうな顔をした。
「……うわ、やりたくねぇ……」
「正面からやっても勝てないです」
黒瀬は静かに地図を見た。
「なので、多少無理してでも位置を割り出します」
水瀬が苦笑する。
「当真先輩相手ですので、仕方ないですよね〜」
黒瀬は否定しなかった。
――――
三上が落とされた。
乾いた狙撃音。
直後のベイルアウト。
水瀬が予想した狙撃地点の近くで待機していた黒瀬は、すぐに動き出した。
当真が移動する前に見つける。
そのために、この位置の近くで待っていた。
廃ビルの隙間を抜ける。
一直線ではない。
遮蔽物を挟みながら進む。
頭の中では、水瀬がマークしていた地点が浮かんでいた。
この位置を撃てる場所。
数は多くない。
無線が入る。
『黒瀬くん』
奈央の声。
『無理しないでください』
「大丈夫です」
短く返す。
崩れた階段を駆け上がる。
途中で足を止めた。
気配。
誰かいる。
少し先。
高所。
黒瀬はゆっくり壁へ身体を寄せる。
視線だけを出した。
いた。
フードを被った人影。
手にはイーグレット。
黒瀬の目が細くなる。
「……見つけた」
当真。
そう判断した。
位置も合う。
タイミングも合う。
黒瀬は静かにトリガーを起動する。
カメレオン。
姿が消える。
足音を抑えながら接近する。
ゆっくり。
慎重に。
相手は動かない。
黒瀬はさらに距離を詰める。
あと少し。
射程圏内。
黒瀬は静かにカメレオンを解除した。
その瞬間。
フードの人物が僅かに顔を上げた。
フードの奥。
一瞬だけ見えた横顔。
当真じゃない。
冬島だった。
黒瀬が気づいた瞬間。
乾いた銃声が響いた。
「ッ――」
衝撃。
視界が揺れる。
遠距離。
別方向。
撃ったのは別だ。
黒瀬は咄嗟に理解する。
身体が崩れる。
ベイルアウト光が広がった。
視界が白く染まる。
全部繋がった。
自分は誘い出された。
黒瀬は小さく息を吐く。
「……やられました」
「流石です」
ベイルアウト光が黒瀬の姿を包み込んだ。