閑話休題「水瀬と作戦室①」
「……え、ここですか?」
水瀬が扉の前で止まる。
職員が頷いた。
「はい。黒瀬隊専用作戦室になります」
水瀬は数秒黙った。
それからゆっくり扉を開ける。
「……わ」
思わず声が漏れた。
広い。
今まで使っていた共有スペースとは全然違う。
大型モニター。
壁一面のホワイトボード。
立体マップ投影機。
棚。
ソファ。
しかも奥側、少し空間が区切られている。
水瀬の目が少し輝いた。
「……秘密基地じゃないですか〜」
「作戦室な」 後ろから三上が突っ込む。
「いやでも秘密基地ですよこれ」 「めちゃくちゃ良くないですか?」
水瀬はもう部屋の奥を見回していた。
「ここ絶対照明暗めの方が良いですよ〜」 「あと棚置けますね」 「ラグも欲しいです」 「観葉植物も合いそうです〜」
水瀬が珍しくかなり早口で喋る。
ここまで露骨にテンションが上がっている水瀬を、三上はあまり見たことがなかった。
普段の水瀬は、のんびりしている。
感情の起伏もそこまで大きくない。
だが今は違った。
完全に目が輝いていた。
「お前もう住む気だろ」
「居心地大事ですよ〜」
奈央が少し笑う。
「でも、水瀬さんずっと欲しがってましたもんね」
「欲しかったです」 水瀬が即答する。
「自分達専用の作戦室」
そう言いながら、壁際へ歩いていく。
ホワイトボードを指で軽く叩く。
「ここに地図貼って〜」 「この辺にモニター増設して〜」 「射線メモ書けるようにして〜」
「もうレイアウト考えてんのか」
「当然です〜」
水瀬は完全にテンションが上がっていた。
奥側のスペースを覗き込む。
「ここ、休憩スペースっぽく出来ませんかね〜」
「だからお前は何を目指してんだ」
「秘密基地です」
即答だった。
奈央が少し肩を震わせる。
「水瀬さん、今日ずっと楽しそうですね」
「だって楽しいですもん〜」
水瀬はそう言いながら、また室内を見回す。
今までは違った。
共有スペース。
空き部屋。
使うたび片付け。
資料を広げても、途中で撤収しなければいけない。
でも、ここは違う。
自分達の部屋だ。
「……良いですね〜」
水瀬が小さく呟く。
珍しく、本当に嬉しそうだった。
黒瀬は静かに部屋を見回していた。
「……広いですね」
「黒瀬くん絶対そういう感想だと思いました」
「いや、嬉しいですよ?」
「もっとこう、テンション上げてくださいよ〜」
「水瀬さんほどじゃないです」
「当然です〜」
三上が苦笑する。
「まあでも、遠征試験頑張った甲斐はあったな」
「ですね〜」
水瀬が頷く。
それから、ふと思い出したように言った。
「そういえば、他の隊って結構自由に使ってるらしいですよ〜」
「自由?」
奈央が首を傾げる。
「はい〜」 「作戦室に麻雀卓置いてる隊もあるみたいです」
「何してんだその隊」
「なので、多少レイアウト変えても問題ないと思います〜」
その瞬間。
三上が少し嫌そうな顔をした。
「……お前、絶対変な部屋にする気だろ」
「失礼ですね〜」
水瀬は少し頬を膨らませる。
「ちゃんと隊の雰囲気にも合わせますよ〜」
「信用ならねぇ……」
奈央が少し笑った。
「でも、水瀬さんなら凄く凝りそうですね」
「凝ります」
即答だった。
「作戦室って、居心地と集中しやすさかなり大事ですし」 「せっかくならちゃんと作りたいじゃないですか〜」
黒瀬が静かに部屋の中央を見る。
まだ何もない空間。
けれど、水瀬の頭の中ではもう完成形が出来上がっているんだろうなと、何となく分かった。
「……楽しそうですね」
黒瀬が静かに言った。
水瀬は少し得意そうに笑う。
「いい秘密基地にしますよ〜」
三上が深くため息を吐いた。
「もう秘密基地で通す気なんだな……」