ここから先は、少しシリアス寄りの展開になる予定です。
自分の中でもずっと描きたかった部分なので、丁寧に書いていけたらと思ってます。
ある程度ストックも出来て、区切りの良い所まで進められたので、今日からまた毎日投稿に戻ります。
これからもよろしくお願いします。
Episode 38
Episode 38「遠征」
呼び出しを受けたのは、サバイバル試験が終わって少し経った頃だった。
場所は以前と同じ、本部の会議室。
席に着くと、担当職員が静かに口を開いた。
「まず結果からお伝えします」
「黒瀬隊、遠征任務への参加が決定しました」
奈央が小さく息を呑む。
三上が少し姿勢を正した。
水瀬はいつも通りのんびりしているように見えて、目だけが真剣だった。
黒瀬は静かに頷く。
「ありがとうございます」
職員は資料を配りながら続けた。
「ただし、今回の任務は通常の遠征とは少し異なります」
「まず前提として、近いうちに大規模遠征が予定されています」
その瞬間、空気が少し変わった。
だが職員はすぐに付け加える。
「なお、この件は極秘事項です」
「口外は控えてください」
三上が資料を見ながら言う。
「……その大規模遠征とは別ってことですか」
「はい」
職員が頷いた。
「冬島隊を含むA級部隊は、大規模遠征側の準備に入っています」
「そもそも通常の遠征は、A級部隊を中心に編成されます」
「特に今回予定されている大規模遠征では、多くの主力部隊がそちらへ回る予定です」
「そのため、今回の任務では別方向のデータ収集を目的としました」
三上が資料を見ながら言う。
「別方向?」
「はい」
職員が頷く。
「今回の先行偵察任務では、大規模遠征に伴う長期活動時のデータ収集を目的としています」
「遠征先でどのような問題が発生するのか」
「補給、生活、現地での活動」
「そういった部分を事前に確認する意味合いが強い任務になります」
「そのため、大規模戦闘能力よりも、“少人数で安定して長期間活動できるか”を重視しました」
水瀬が少し首を傾げる。
「だから私達なんですね〜」
「はい」
職員が静かに頷く。
「黒瀬隊はサバイバル試験での継戦能力、生存能力に加え、閉鎖環境試験での長期活動時における精神的安定性、共同生活適性の評価も高く、今回の任務目的と一致しました」
少し特別な感じがした。
A級でもない。
大規模遠征でもない。
それでも、自分たちだけに声がかかった。
職員が続ける。
「そして、もう一つ重要な説明があります」
空気が少しだけ張る。
「遠征先ではベイルアウトが使用できません」
沈黙。
三上が顔を上げた。
「……使えない?」
「はい」
「トリガー体が破壊された場合、その場でトリガーオフになります」
奈央が静かに聞く。
「トリガー体の回復はどれくらいですか」
「通常であれば、一日程度で再構築可能です」
「ただし、その間は戦闘への参加は難しくなります」
三上が少し考え込む。
黒瀬は資料を見たまま静かに聞いていた。
「そのため」
職員が落ち着いた声で続ける。
「これまで以上に慎重な行動が求められます」
「本部側でも安全面への対応は最大限行いますが、遠征環境そのものが未知数です」
「十分注意してください」
その後は細かな説明が続いた。
遠征期間中の規定。
現地活動時の制限。
給与面での特別手当。
緊急時対応。
機密保持。
普段の任務よりも細かい説明が多かった。
机の上には契約書類も並べられている。
「こちらにもサインをお願いします」
職員に言われ、四人は順番に書類へ目を通していく。
三上が途中でぼやいた。
「急に大人の話増えたな……」
「遠征ですからね〜」
水瀬が苦笑する。
奈央は真面目に契約内容を確認していた。
黒瀬は静かに最後のページへサインを書き込む。
遠征。
その言葉が、少しずつ現実感を持ち始めていた。
全ての説明が終わった頃には、会議室の空気も最初とは少し変わっていた。
会議室を出る。
廊下。
四人が並んで歩く。
しばらく誰も喋らなかった。
最初に口を開いたのは水瀬だった。
「……怖いですね〜」
「まあ、ベイルアウト無しは普通に嫌だな」
三上が苦笑する。
「今までと全然違いますね」
奈央が静かに言った。
黒瀬は少しだけ考えてから答える。
「……でも、本物の遠征って感じはします」
三上が小さく笑った。
「お前、ちょっとワクワクしてんだろ」
「少しだけです」
「してんじゃねぇか」
少しだけ空気が緩む。
遠征。
本物の。
まだ実感は薄かった。
だが。
確かに、自分達は今までとは違う場所へ進もうとしていた。