Episode 40「近界」
遠征艇が止まった。
小さな振動が消える。
そして、重い音と共に扉が開いた。
熱風が流れ込んできた。
「うわ、暑っ……」
三上が顔をしかめながら外へ出る。
黒瀬も静かに外へ降り立った。
そこに広がっていたのは、砂だった。
見渡す限りの砂漠。
赤茶けた大地。
遠くには巨大な岩山。
空は高く、雲はほとんど無い。
乾いた風が砂を流していく。
水瀬が周囲を見回す。
「なんか異世界みたいですね〜」
「まるで地球じゃないみたいです」
奈央が少し笑った。
「まあ地球じゃないですからね」
「確かに」
三上が苦笑する。
奈央が端末を確認した。
「気温かなり高いですね」
「湿度は低いですけど」
「典型的な砂漠気候っぽいです」
水瀬が少し嫌そうな顔をする。
「これ夜めちゃくちゃ寒くなるやつじゃないですか〜?」
「多分そうですね」
「昼夜の寒暖差かなりありそうです」
「最悪だな」
三上が空を見上げる。
職員達も次々と外へ出てきた。
「まず周辺の安全確認をお願いします」
「はい」
黒瀬が静かに返事をした。
周囲を見回す。
建物は無い。
道路も。
電線も。
人の暮らしを感じる物が、一つも無かった。
見渡す限り、砂と岩山だけが続いている。
「今のところ問題なさそうですね」
「じゃあ設営始めましょうか」
職員が言った。
その間にも職員達が簡易拠点の設営を始めていく。
「……静かですね」
奈央が小さく呟く。
水瀬も少し声を落とした。
「人がいる感じしませんね〜」
三上が周囲を見回す。
「三門市って、どこ行っても何かしら音あるからな」
「車とか」
「人の声とか」
水瀬が砂を軽く踏みながら歩く。
「砂の感触も違いますね〜」
「今それですか」
奈央が苦笑した。
「だって気になりますよ〜」
「日本の砂浜と全然違います」
「そもそも砂浜じゃねぇだろここ」
しばらくして、安全確認は終了した。
異常なし。
黒瀬は少し離れた場所から遠くを見る。
どこまでも続く砂漠。
三門市では絶対に見られない景色。
空の広さ。
熱気。
静けさ。
知らない世界。
本物の遠征。
「黒瀬」
三上が隣へ来た。
「どうした?」
黒瀬は少し間を置いてから答える。
「……本当に来たんだなと思って」
三上が少し笑った。
「お前でもそういう事思うんだな」
「たまには」
「正直、俺も同じこと思ってたわ」
後ろから水瀬の声が飛んでくる。
「二人とも〜、設営手伝ってくださいよ〜」
「はいはい」
三上が苦笑しながら戻っていく。
黒瀬はもう一度だけ遠くを見た。
広い砂漠。
静かな世界。
まだ何も起きていない。
だが確かに、ここは三門市ではなかった。