Episode 41「砂嵐 」
翌日。
黒瀬隊は調査へ出ていた。
職員から指定された区域を回りながら、地形データや周辺環境を記録していく。
砂漠の中を歩く。
遮蔽物はほとんどない。
岩山が点在しているだけで、あとは砂が続いていた。
「昨日より暑くないですか〜」
水瀬がのんびり言う。
「気のせいじゃないと思います」
奈央が端末を確認する。
「気温上がってますね」
「地獄じゃん」
三上が額を拭う仕草をした。
もっとも、トリオン体である以上、実際に熱中症になるような事はほとんど無い。
それでも、不快な暑さそのものは普通に感じる。
黒瀬は無言で周囲を確認しながら歩いていた。
サイドエフェクトに引っかかるものはない。
静かだった。
しばらく歩き続けた頃。
奈央がふと空を見上げた。
「……あれ」
「どうした?」
「空の色、変わってきてます」
全員が視線を上げる。
地平線の向こう。
茶色い壁のようなものが、こちらへ迫ってきていた。
「何ですかあれ〜」
水瀬が目を細める。
次の瞬間。
奈央が声を上げた。
「砂嵐です」
「来ます!」
「マジかよ」
三上が舌打ちする。
「遮蔽物は?」
「岩山があります」
黒瀬が即座に動き出した。
「走ってください」
四人が駆け出す。
風が一気に強くなる。
砂が顔へ叩きつけられた。
「前見えねぇ!」
三上が叫ぶ。
風の音で声すら掻き消えそうになる。
砂が全身へ叩きつけられた。
「目が……!」
水瀬が腕で顔を庇う。
奈央も端末を守るように抱え込んでいた。
砂嵐は想像以上だった。
数メートル先すら見えない。
どこが前か。
どこが後ろか。
岩山がどこにあるのかすら分からなくなっていく。
三上が咄嗟に近くにいた黒瀬と水瀬の腕を掴み寄せる。
その瞬間、水瀬が強く三上の腕へしがみついた。
それに気付いたように、黒瀬も奈央の腕を掴む。
離れれば終わりだった。
四人は互いを支え合うように、砂嵐の中を進み続ける。
どれくらい歩いたのか分からない。
やがて。
少しずつ風が弱まっていく。
砂埃がゆっくり落ちていった。
四人が立ち止まる。
荒い息を吐きながら周囲を見回した。
だが。
そこにあった景色は、どこまでも続く砂だけだった。
奈央が端末を確認する。
「……通信が繋がりません」
「砂嵐の影響ですかね」
奈央がもう一度端末を操作する。
端末の画面には、ノイズのような表示が広がっていた。
「嘘だろ」
三上が周囲を見回す。
「帰り道分かるか?」
奈央が少し間を置く。
「……現在地が出ません」
沈黙。
三上が深く息を吐いた。
「……迷子か」
誰も否定しなかった。
見渡す限り、砂しか無い。
四人だけが、砂漠の中へ取り残されていた。