「ワートリ、ワールドトリガー」死角の銃手   作:黒星0214

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Episode 52

Episode 52「アデルの部屋」

 

昼過ぎ。

 

「結姉ー!」

 

来客用の家へ、元気な声が飛び込んできた。

 

リサだった。

 

「おにいの部屋来る!?」

 

水瀬が目を輝かせる。

 

「行きます〜!」

 

「即答かよ」

 

三上が呆れる。

 

奈央も苦笑しながら立ち上がった。

 

黒瀬達は、そのままアデルの家へ向かう事になった。

 

二階。

 

アデルの部屋の扉が開く。

 

その瞬間。

 

水瀬が言った。

 

「うわ〜」

 

奈央も少し目を丸くする。

 

本。

 

本。

 

本。

 

部屋の至る所に本が積まれていた。

 

机の上。

 

棚。

 

床。

 

窓際。

 

しかも割と乱雑だった。

 

三上が笑う。

 

「片付いてねぇなぁ」

 

「うっ」

 

アデルが僅かに詰まる。

 

リサが即座に言った。

 

「おにい片付け苦手なんだよ」

 

「リサ」

 

「でも探し物はすぐ見つける!」

 

アデルは少し咳払いした。

 

「……一応、理由はあるんです」

 

奈央が首を傾げる。

 

「理由?」

 

アデルは困ったように笑った。

 

「僕のサイドエフェクト、探し物の位置が何となく分かるので」

 

「だから多少散らかってても――」

 

三上が即答する。

 

「片付けろ」

 

「……はい」

 

水瀬が笑っていた。

 

その時だった。

 

奈央が一冊の本へ視線を向ける。

 

他の本と違い、それだけは机の上へ丁寧に置かれていた。

 

何度も読まれているのか、かなり古い。

 

けれど、とても大切に扱われているのが分かる。

 

水瀬が本を見つめる。

 

「……大切な本なんですね〜」

 

アデルは少しだけ目を細めた。

 

「はい」

 

「父と母が、よく読み聞かせてくれてました」

 

部屋が少し静かになる。

 

アデルは静かに本を撫でた。

 

「リサはまだ小さ過ぎて、あまり覚えてないんですけど」

 

「僕は、今でもよく覚えてます」

 

奈央が静かに聞く。

 

「……アデルさんって、今いくつなんですか?」

 

「十九です」

 

「リサとは十歳離れてます」

 

三上が少し目を丸くする。

 

「そんな離れてんのか」

 

「だから、ずっと保護者みたいな感じでしたね」

 

アデルは静かに笑った。

 

リサは少しだけ胸を張る。

 

「おにい凄いんだよ!」

 

「料理も出来るし!」

 

「本いっぱい知ってるし!」

 

「あと優しい!」

 

「本当だもん!」

 

水瀬がニコニコしていた。

 

「良い兄妹ですね〜」

 

アデルは少し照れたように視線を逸らす。

 

それから。

 

静かに本を見る。

 

「今では、両親の唯一の形見でもあるんです」

 

その時。

 

黒瀬が本の表紙を見る。

 

黒い剣を持った英雄が描かれていた。

 

アデルがその視線に気付く。

 

「黒剣の英雄の剣って」

 

「この世に斬れない物は存在しないって言われてるんです」

 

「炎も」

 

「化け物も」

 

「絶望も」

 

「全部斬り裂いたって」

 

水瀬が少し笑う。

 

「何かブラックトリガーっぽいですね〜」

 

アデルが少し驚いた顔をした。

 

「……ブラックトリガー知ってるんですか?」

 

奈央が頷く。

 

「一応、私達も使う世界に居たので」

 

アデルは静かに息を吐く。

 

「ブラックトリガーは、この世界でも特別です」

 

「基本的に国が管理していて」

 

「一国に二、三本あるかどうかって言われてます」

 

奈央が少し驚く。

 

「そんなに少ないんですか」

 

「はい」

 

「だから、普通の兵士が持つ事はまずありません」

 

「英雄とか、国家直属の最強クラスだけです」

 

三上が腕を組む。

 

「へぇ」

 

アデルは少し考えるように言った。

 

「でも……」

 

「皆さんの武器、多分それに近いですよね」

 

水瀬が笑う。

 

「まぁ、結構特別製です〜」

 

その時だった。

 

アデルがふと黒瀬達を見る。

 

「あと、未だに信じられないんですけど」

 

「皆さん、あれ生身じゃないんですよね?」

 

三上が笑った。

 

「トリオン体な」

 

アデルは静かに頷く。

 

「こっちだと、トリオン兵器はあります」

 

「でも、人間そのものをトリオン化する技術なんて存在しません」

 

「あるとしたら、ブラックトリガーくらいです」

 

奈央が少し驚く。

 

「ブラックトリガーじゃないと?」

 

「はい」

 

アデルは静かに言う。

 

「だから、皆さんの技術は本当に凄いと思います」

 

「ボーダーって組織、相当進んでるんですね」

 

その声には、純粋な感心が混じっていた。

 

黒瀬は静かに部屋を見る。

 

乱雑な本の山。

 

その中で、一冊だけ丁寧に置かれた黒剣の英雄。

 

アデルにとって。

 

それがどれだけ大切な物なのか、何となく分かる気がした。

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