「ワートリ、ワールドトリガー」死角の銃手   作:黒星0214

59 / 61
Episode 54

Episode 54「寝物語」

 

夜。

 

村はすっかり静かになっていた。

 

窓の外では、風がゆっくり木々を揺らしている。

 

アデルの部屋。

 

ランプの灯りが、静かに部屋を照らしていた。

 

リサはベッドへ寝転がりながら、今日作ったアルバムを眺めている。

 

「えへへ」

 

嬉しそうだった。

 

写真立ても、ベッドの横へ大事そうに置かれている。

 

六人で撮った集合写真。

 

リサは、それを何度も見ていた。

 

アデルが苦笑する。

 

「本当に気に入ったんですね」

 

「だって宝物だもん!」

 

リサは即答した。

 

「結姉も奈央姉も喜んでたし!」

 

「三上も笑ってたし!」

 

「黒瀬ちょっと困ってた!」

 

アデルが少し笑う。

 

「そうですね」

 

リサはアルバムを閉じる。

 

それから、嬉しそうに写真立てを抱えた。

 

「ねぇおにい」

 

「この写真、ずっと残るかな?」

 

アデルは少しだけ目を細める。

 

「残りますよ」

 

「大事にしてれば、きっと」

 

リサは満足そうに頷いた。

 

それから。

 

ベッドへ寝転がったまま、アデルを見る。

 

「今日、黒剣の英雄読んで!」

 

「またですか?」

 

「好きなんだもん」

 

アデルは小さく笑った。

 

「……僕も好きですよ」

 

机の上から、本を手に取る。

 

擦り切れた黒剣の英雄。

 

何度も読まれた、大切な本だった。

 

アデルはベッドの横へ座る。

 

リサは嬉しそうに布団へ潜った。

 

ランプの灯りが、本を優しく照らしている。

 

アデルは静かにページをめくった。

 

「黒剣の英雄は」

 

「最初から強かった訳じゃありませんでした――」

 

穏やかな声だった。

 

まるで、昔から何度も繰り返して来たみたいに。

 

「怖がりで」

 

「失敗ばかりで」

 

「仲間に助けられてばかりだった」

 

リサが小さく笑う。

 

「そこ好き」

 

「強いだけじゃないもんね」

 

「はい」

 

アデルは静かに頷いた。

 

「でも」

 

「困ってる人を放っておけなかった」

 

「だから何度怖くても、最後には立ち上がったんです」

 

リサは静かに本を見る。

 

アデルは少しだけ目を細めた。

 

「僕は、童話の黒剣の英雄より」

 

「この“おとぎ話”の黒剣の英雄の方が好きなんです」

 

「弱くて」

 

「怖がりで」

 

「それでも最後には誰かの為に勇気を出せる」

 

「そんな英雄だったから」

 

リサが嬉しそうに笑った。

 

「私も好き!」

 

アデルも小さく笑う。

 

静かな時間だった。

 

昔。

 

まだ幼かった頃。

 

今度は自分が、その時間をリサへ繋いでいる。

 

アデルは静かにページをめくる。

 

リサは安心したように目を閉じ始めていた。

 

写真立ては、ベッドの横へ大事そうに置かれている。

 

まるで。

 

今日という一日を、忘れないようにするみたいに。

 

窓の外では、風が静かに木々を揺らしていた。

 

そして。

 

部屋の中には、優しい物語の声だけが、静かに流れ続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。