死角の銃手   作:黒星0214

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Episode 62

Episode 62「散歩」

 

夕方。

 

来客用の家。

 

「結姉ー! 奈央姉ー!」

 

リサが元気よく飛び込んでくる。

 

「散歩行こー!」

 

水瀬が顔を上げる。

 

「散歩ですか〜?」

 

「うん! 森の近くまで!」

 

「いいですね〜」

 

水瀬が立ち上がる。

 

奈央も端末を置いた。

 

「私も行きますね」

 

「やった!」

 

リサが嬉しそうに笑う。

 

その後ろから、アデルがゆっくり入ってくる。

 

「すみません、付き合わせてしまって」

 

「いえいえ〜」

 

水瀬が手を振る。

 

「リサちゃんとの散歩、楽しいですよ」

 

三上が少し伸びをした。

 

「俺らは残るぞ」

 

「夕飯の準備でもしとくか」

 

「お願いします」

 

奈央が頷いた。

 

水瀬、奈央、リサの三人が外へ出る。

 

夕方の空気は少し涼しかった。

 

「今日は何して遊びますか〜?」

 

水瀬が聞く。

 

「えっとね」

 

リサが少し考える。

 

「森の近くに、綺麗な花があるところがあるの!」

 

「見せてあげる!」

 

「楽しみです〜」

 

奈央も微笑む。

 

「もうすぐ夜ですし、長くは居られませんけどね」

 

「分かってるよ!」

 

リサが元気に答える。

 

三人は村の外へ向かって歩いていく。

 

森が近くなる。

 

夕日が木々の間から差し込んでいた。

 

「ここ!」

 

リサが指差す。

 

小さな草地に、白い花が一面に咲いていた。

 

「わぁ……」

 

水瀬が思わず声を上げる。

 

「綺麗ですね〜」

 

「綺麗でしょ!」

 

リサが嬉しそうに笑う。

 

「奈央姉も写真撮って!」

 

「いいですね」

 

奈央が端末を構える。

 

「リサちゃん、こっち向いて」

 

「うん!」

 

パシャ。

 

小さな音。

 

「もう一枚撮りましょうか」

 

「うん!」

 

しばらく、三人は花畑で過ごした。

 

写真を撮ったり。

 

花を摘んだり。

 

のんびりした時間だった。

 

やがて。

 

空が少しずつ暗くなり始める。

 

「そろそろ帰りますか」

 

奈央が言う。

 

「うん」

 

リサが頷いた。

 

三人は村へ向かって歩き出す。

 

その時だった。

 

水瀬が、ふと足を止めた。

 

「……あれ?」

 

「どうしました?」

 

奈央が振り返る。

 

水瀬の視線は、村の方向へ向いていた。

 

奈央も視線を向ける。

 

息が止まった。

 

村の上空に、煙が上がっていた。

 

それも、一箇所ではない。

 

複数の場所から。

 

赤い光が、夜の空を染めていた。

 

「……火事?」

 

リサが呟く。

 

その声が、震えていた。

 

水瀬の表情が変わる。

 

「……奈央ちゃん」

 

「分かってます」

 

奈央が即座に端末を操作する。

 

無線を開く。

 

「黒瀬くん! 三上先輩!」

 

返事がない。

 

もう一度。

 

「黒瀬くん!」

 

『……奈央さん』

 

黒瀬の声が返ってきた。

 

緊張していた。

 

『状況は』

 

「村が……燃えてます」

 

奈央の声が震える。

 

「私達は今、村の外にいます」

 

『そちらは安全ですか』

 

「今のところは……」

 

リサが奈央の腕を掴んだ。

 

「……おにいは?」

 

その声は、今までで一番不安そうだった。

 

『アデルさんは近くにいます』

 

黒瀬の声が返ってくる。

 

リサは少しだけ息を吐いた。

 

だが。

 

『ただ……家が』

 

その言葉に、リサの顔が強張った。

 

無線の向こうで。

 

何かが崩れる音が響く。

 

リサとアデルの家。

 

本が積まれた部屋。

 

机の上に置かれていた写真立て。

 

大切に保管されていたアルバム。

 

炎は容赦なくそこへ届いていた。

 

写真立てのガラスが割れる。

 

中の写真が炎に巻かれていく。

 

六人の笑顔が。

 

少しずつ黒く染まっていく。

 

アルバムのページも。

 

何気ない日常を写した写真も。

 

一枚。

 

また一枚と。

 

炎に呑まれていった。

 

まるで。

 

当たり前だった日常そのものが。

 

炎の中へ消えていくようだった。

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