死角の銃手   作:黒星0214

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Episode 63

Episode 63「地獄」

 

村の中は、既に戦場と化していた。

 

あちこちから炎が上がる。

 

悲鳴。

 

怒号。

 

武器が激突する音。

 

黒瀬は走りながら周囲を確認していた。

 

敵兵の数が多い。

 

異常なほどだった。

 

今までの小規模な嫌がらせとは次元が違う。

 

三上が隣を走る。

 

周囲では炎が上がり続けていた。

 

「……これはヤバいな」

 

黒瀬も周囲を見渡す。

 

「はい」

 

「想定以上です」

 

村人達も応戦していた。

 

槍を持った男達。

 

農具を武器にした者達。

 

だが、数が違いすぎた。

 

一人、また一人と追い詰められていく。

 

「こっちだ!」

 

三上が叫ぶ。

 

追われていた村人の前に立ち、孤月を振る。

 

敵兵が弾かれる。

 

「走れ!」

 

「あ……ありがとう!」

 

村人が逃げていく。

 

だが。

 

次が来る。

 

さらに次が来る。

 

きりがなかった。

 

「多すぎます」

 

黒瀬が低く言う。

 

「分かってる」

 

三上が応戦しながら答えた。

 

「でもとりあえず、村人を逃がしながらリサ達の方へ向かうしかない」

 

「そうですね」

 

二人は戦いながら、少しずつ村の北側へ向かっていた。

 

その途中。

 

炎の向こうから叫び声が響く。

 

「助けてくれ!」

 

黒瀬が振り返る。

 

見覚えのある村人だった。

 

だが。

 

間に敵兵が立ちはだかる。

 

黒瀬が踏み込もうとした瞬間。

 

家屋が崩れ落ちた。

 

炎が視界を埋める。

 

声は聞こえなくなった。

 

黒瀬は僅かに目を伏せる。

 

だが。

 

立ち止まる事は出来なかった。

 

避難する村人達が走っていく。

 

その中には。

 

畑で話した老人もいた。

 

市場で会った女性もいた。

 

見覚えのある顔ばかりだった。

 

皆。

 

恐怖に顔を歪めている。

 

泣いている子供もいる。

 

それでも。

 

黒瀬達は全員を守れなかった。

 

三上が孤月を振るう。

 

敵兵が吹き飛ぶ。

 

だが。

 

別方向から悲鳴が上がる。

 

助けに向かおうとする。

 

今度は反対側から叫び声が聞こえた。

 

「くそっ……!」

 

珍しく三上が舌打ちする。

 

足りない。

 

人手も。

 

時間も。

 

何もかも。

 

その時。

 

アデルが走ってくるのが見えた。

 

「黒瀬君! 三上君!」

 

「アデルさん、無事ですか」

 

「はい」

 

アデルが息を切らせながら頷く。

 

「リサ達は?」

 

「避難所にいます」

 

黒瀬が答えた。

 

「無線で連絡が取れています」

 

アデルが少し安堵した顔をする。

 

「……良かった」

 

だが。

 

すぐに表情が引き締まった。

 

村全体を見渡す。

 

炎。

 

悲鳴。

 

逃げ惑う村人達。

 

「このままでは……」

 

アデルの声が低くなる。

 

「打つ手が……ありません」

 

誰も否定しなかった。

 

黒瀬達の実力でも。

 

限界がある。

 

相手は多すぎる。

 

広すぎる。

 

「奈央さん」

 

黒瀬が無線を開く。

 

『はい』

 

「今の状況は」

 

『避難所には何人か村人が集まっています』

 

『リサちゃんも一緒にいます』

 

『今のところは安全ですけど』

 

『……これから、どうすれば良いですか』

 

黒瀬は数秒考える。

 

炎がまた一つ家を呑み込んだ。

 

「そのまま避難所で待機してください」

 

『分かりました』

 

「こちらから向かいます」

 

『気を付けてください』

 

無線が切れる。

 

炎がまた一つ家を呑み込んだ。

 

三上が舌打ちする。

 

「最悪だな」

 

「はい」

 

黒瀬も頷いた。

 

村はもう限界だった。

 

それでも。

 

まだ諦める訳にはいかなかった。

 

「アデルさん」

 

黒瀬が呼ぶ。

 

アデルは燃え上がる村から視線を外した。

 

「……避難所へ向かいましょう」

 

その声は静かだった。

 

「リサ達が待っていますから」

 

三人は再び走り出す。

 

避難所を目指して。

 

燃え盛る村の中を。

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