死角の銃手   作:黒星0214

74 / 75
Episode 69

Episode 69「帰還」

 

数日後。

 

リサは、正式に国の使者へ返事をした。

 

「ブラックトリガーとして、力をお借りします」

 

その言葉に、村人達から安堵の声が広がった。

 

国からの支援が、すぐに動き始める。

 

物資が運び込まれ、職人達が村の再建に向けて動き出した。

 

完全な復興には、まだ時間がかかるだろう。

 

それでも。

 

確かに、希望は戻っていた。

 

黒瀬隊が、ボーダーへ帰還する日が決まった。

 

最後の夜。

 

村人達が、避難所の周りに集まっていた。

 

「本当に、世話になった」

 

老人が、深く頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

子供達が、口々に声をかける。

 

「また来てね!」

 

水瀬が、少し涙ぐみながら笑った。

 

「また来ますよ〜」

 

「約束です」

 

三上も、苦笑しながら頭を撫でる。

 

「元気にしてろよ」

 

奈央は、静かに頭を下げた。

 

「皆さんも、お元気で」

 

黒瀬は、静かに村を見回していた。

 

焼け跡は、まだ残っている。

 

それでも。

 

人々の顔には、少しずつ生活の光が戻っていた。

 

そして。

 

リサが、皆の前に立った。

 

「……短い間だったけど」

 

少し笑う。

 

「本当に、ありがとう」

 

水瀬が、すぐに涙を堪えきれなくなった。

 

「リサちゃん……」

 

「結姉、泣かないで」

 

リサが、苦笑する。

 

「私の方が、泣きそうなんだから」

 

奈央が、静かにリサの手を取った。

 

「リサちゃん、無理しないでくださいね」

 

「うん」

 

リサが、頷く。

 

「奈央姉も、結姉も」

 

「いつか、また会いに来てね」

 

「もちろんです」

 

奈央が、優しく答えた。

 

三上が、リサの頭を軽く撫でる。

 

「お前なら、大丈夫だ」

 

「うん」

 

リサが、しっかりと頷いた。

 

最後に。

 

黒瀬の前に立つ。

 

「黒瀬」

 

「はい」

 

「……おにいのこと」

 

少しだけ間が空く。

 

「ありがとう」

 

黒瀬は、少し間を置いてから答えた。

 

「自分も」

 

「リサさんと、村の皆さんに」

 

「色々と、教えてもらいました」

 

リサが、小さく笑った。

 

「また、会えるよね」

 

「はい」

 

黒瀬は、静かに頷いた。

 

「必ず」

 

リサは、ペンダントをそっと握る。

 

その中には。

 

六人の笑顔が、今も静かに眠っていた。

 

「……またね」

 

リサが、静かに言う。

 

黒瀬達は、静かに頷いた。

 

「また今度」

 

飛行艇の乗降口が閉じる。

 

ゆっくりと機体が浮上を始めた。

 

強い風が吹く。

 

村人達の髪が揺れる。

 

リサはペンダントを握りながら、空を見上げていた。

 

村人達も。

 

皆、飛行艇を見送っている。

 

やがて。

 

飛行艇は少しずつ高度を上げていく。

 

黒瀬は窓越しに村を見る。

 

焼け跡は、まだ残っていた。

 

それでも。

 

人々は前を向いていた。

 

避難所の前には。

 

リサの姿が見える。

 

小さくなっていく。

 

それでも。

 

最後まで手を振っていた。

 

黒瀬も静かに手を上げる。

 

その姿が見えていたかは分からない。

 

だが。

 

そうしたかった。

 

やがて。

 

村は遠ざかる。

 

山々の向こうへ消えていく。

 

黒瀬は静かに目を閉じた。

 

脳裏に浮かぶ。

 

アデルの最後の言葉。

 

『リサを』

 

『この村を』

 

『どうかお願いします』

 

黒瀬は窓の外を見ながら、小さく呟く。

 

「……ちゃんと大丈夫ですよ」

 

誰にも聞こえない声だった。

 

飛行艇は雲を抜ける。

 

そして。

 

故郷へ向けて飛び続けた。

 

ボーダー本部。

 

飛行艇が格納庫へ着陸する。

 

ハッチが開く。

 

見慣れた景色が、四人を迎えた。

 

「……戻ってきたな」

 

三上が小さく呟く。

 

「はい」

 

黒瀬が静かに答える。

 

奈央が端末を見ながら言った。

 

「そういえば」

 

「ブラックトリガーの出現を受けて、両国が一時休戦に入ったそうです」

 

長く続いていた戦争が、ブラックトリガー一つで、大きく揺らいだ。

 

それだけ、その力は規格外だった。

 

「……そうか」

 

三上が、静かに頷く。

 

少しの間でも。

 

リサや村人達が、穏やかに過ごせる時間が生まれたのなら。

 

それだけで、意味があると思えた。

 

奈央が、静かに息を吐いた。

 

「色々、ありましたね」

 

「ですね」

 

水瀬が、頷く。

 

その声は、いつもより少し小さかった。

 

四人は、しばらく無言で、見慣れた本部の景色を見ていた。

 

知らない世界から。

 

知っている世界へ。

 

帰ってきた。

 

それでも。

 

何かが、確かに変わっていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。