ようこそ軍神至上主義の教室へ   作:あおいなり

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ようこそ実力至上主義の教室への世界にFGOの上杉謙信みたいな子がいたら面白いかなーっと思い作ってみました‼︎


白銀の転校生

 

第1話

 

白き影は夏の終わりに現れる

 

夏休みが終わった。

 

高度育成高等学校の廊下には、久しぶりに生徒たちの声が戻っていた。

 

無人島での特別試験。

船上での優待者試験。

 

普通の高校生なら、夏の思い出として語るような出来事も、この学校では違う。

 

それらはすべて、クラスの順位、個人の評価、そして将来に直結する“戦い”だった。

 

そして、その戦いを経て、1年Cクラスの空気は以前よりもさらに重くなっていた。

 

支配者がいる。

 

誰もがそう理解している。

 

龍園翔。

 

Cクラスにおいて、彼の言葉は命令に等しい。

 

逆らえば潰される。

従えば利用される。

それでも多くの生徒は、逆らうより従う方が楽だと知っていた。

 

そんなCクラスに、夏休み明けの朝、ひとつの噂が流れた。

 

「転校生が来るらしいぞ」

 

教室の隅で、石崎が小声で言った。

 

「この時期にか?」

 

「知らねえよ。でもマジらしい」

 

数人の生徒がざわつく。

 

伊吹澪は窓際の席で、つまらなさそうに外を見ていた。

 

「どうでもいい」

 

短く吐き捨てる。

 

転校生が来ようが、来まいが、このクラスの空気は変わらない。

龍園がいる限り、Cクラスは龍園のものだ。

 

そう思っていた。

 

少なくとも、その扉が開くまでは。

 

担任が教室に入ってきた。

 

「静かにしろ。今日は転校生を紹介する」

 

教室のざわめきが、わずかに大きくなる。

 

龍園は机に足を乗せ、退屈そうに頬杖をついていた。

 

「くだらねぇ」

 

そう呟いた彼の視線だけは、扉の方を向いていた。

 

担任が廊下に声をかける。

 

「入れ」

 

扉が開いた。

 

その瞬間、教室の空気が変わった。

 

入ってきたのは、白い少女だった。

 

白銀に近い長い髪。

整いすぎた顔立ち。

透き通るような肌。

赤みを帯びた瞳。

 

まるで現実感がなかった。

 

人形のようにも見える。

けれど、その瞳だけは異様なほど生きていた。

 

少女は黒板の前に立つと、静かに一礼した。

 

「はじめまして」

 

声は明るかった。

 

「上代影と申します」

 

彼女は微笑む。

 

「影と書いて、えいと読みます。皆様と同じ教室で学べること、心より嬉しく思います」

 

丁寧な言葉。

柔らかい表情。

綺麗な所作。

 

だが、Cクラスの生徒たちは誰もすぐには声を出せなかった。

 

その美しさに見惚れた者もいた。

不気味さを感じた者もいた。

そして何より、彼女はまったく緊張していなかった。

 

このクラスに入ってきて、龍園の視線を受けてなお、少しも揺らいでいない。

 

龍園が口元を歪めた。

 

「おい、新入り」

 

教室の空気がさらに固まる。

 

影はゆっくりと龍園の方を見る。

 

「はい。何でしょうか?」

 

「随分と余裕じゃねぇか」

 

龍園は笑う。

 

「このクラスで好き勝手できると思うなよ」

 

普通なら怯える。

あるいは、愛想笑いでごまかす。

 

だが、影は違った。

 

彼女はほんの少し首を傾げ、楽しそうに笑った。

 

「ご忠告、ありがとうございます」

 

そして、静かに続ける。

 

「ですが、私は好き勝手をしに来たわけではありません」

 

「じゃあ何しに来た?」

 

龍園の声が低くなる。

 

影は即答した。

 

「戦場を見に来ました」

 

教室が静まり返った。

 

その言葉が冗談なのか、本気なのか、誰にも分からなかった。

 

だが影だけは、心から楽しそうに笑っていた。

 

龍園は一瞬だけ沈黙し、それから喉の奥で笑った。

 

「ククッ……面白ぇ」

 

彼は足を机から下ろし、影を真正面から見た。

 

「お前、何者だ?」

 

影は胸に手を当てる。

 

「ただの転校生ですよ」

 

少し間を置いて、彼女は付け加えた。

 

「今は、ですが」

 

龍園の笑みが深くなった。

 

Cクラスの誰もが理解した。

 

この転校生は普通ではない。

 

そして、龍園もまた、それを理解していた。

 

 

影の席は、伊吹の近くになった。

 

授業が始まるまでの短い時間、クラスメイトたちはちらちらと影を見ていた。

 

誰も簡単には話しかけない。

 

綺麗すぎる。

落ち着きすぎている。

そして、龍園に怯えなかった。

 

それだけで、このクラスでは十分に異物だった。

 

伊吹は横目で影を見た。

 

「ねえ」

 

「はい」

 

影はすぐに振り向いた。

 

「さっきの、何?」

 

「さっきの、とは?」

 

「戦場を見に来たってやつ」

 

伊吹の声には苛立ちが混じっていた。

 

「格好つけてるつもり?」

 

影は少しだけ考えるように視線を上げた。

 

「いいえ。どちらかというと、本音です」

 

「は?」

 

「この学校は素敵です。表向きは自由で平等。けれど、その内側では点数、評価、順位、支配が動いている」

 

影は教室を見渡す。

 

「人の本性を見るには、とても良い場所です」

 

伊吹は眉をひそめた。

 

「気持ち悪い」

 

「よく言われます」

 

影はにこりと笑う。

 

その笑顔がまた、伊吹の神経を逆撫でした。

 

「……あんた、龍園が怖くないの?」

 

「怖い、ですか」

 

影は龍園の方を見る。

 

龍園はすでに別の生徒に何か命令していた。

その一言で、周囲の生徒が慌てて動く。

 

影はその様子を見て、嬉しそうに目を細めた。

 

「怖いというより、面白い方ですね」

 

「意味分かんない」

 

「王様のように振る舞っています。けれど、王というには少し泥臭い」

 

伊吹は思わず影を見る。

 

影は笑っていた。

 

本当に楽しそうに。

 

「そこが、とても人間らしくて良いと思います」

 

伊吹は小さく舌打ちした。

 

「やっぱり気持ち悪い」

 

「ふふ。伊吹さんは素直ですね」

 

「名前で呼ばないで」

 

「では、何とお呼びすれば?」

 

「呼ばなくていい」

 

「分かりました、伊吹さん」

 

「聞いてた?」

 

影はまた笑った。

 

明るい。

礼儀正しい。

けれど、どこか噛み合わない。

 

伊吹は直感した。

 

こいつとは合わない。

 

それと同時に、もうひとつ思った。

 

こいつは、龍園に従うような人間じゃない。

 

 

昼休み。

 

龍園は影を屋上へ呼び出した。

 

同行していたのは、石崎と数人の男子生徒。

伊吹も少し離れたところにいた。

 

影は呼び出されたにもかかわらず、まるで散歩にでも来たかのような足取りで屋上に現れた。

 

「お待たせいたしました」

 

「遅ぇ」

 

「申し訳ありません。校舎の構造を少し見ておりました」

 

「観光気分か?」

 

「はい。初めての場所は、見ていて楽しいので」

 

龍園は影の前に立つ。

 

身長差はある。

威圧感もある。

 

それでも、影は一歩も下がらなかった。

 

龍園は低く笑った。

 

「お前、自分の立場分かってんのか?」

 

「Cクラスの転校生、でしょうか」

 

「違ぇな」

 

龍園は影の肩に手を置いた。

 

石崎たちの顔がこわばる。

 

「このクラスでは、俺がルールだ」

 

影は龍園の手を見た。

それから、彼の顔を見る。

 

「なるほど」

 

「従え。そうすりゃ使ってやる」

 

龍園の声は命令だった。

 

影は少しだけ黙った。

 

そして、笑った。

 

「はい。必要であれば従います」

 

石崎たちが少しだけ息を吐く。

 

だが、次の言葉で再び空気が凍った。

 

「あなたが私に命じるだけの価値を示してくださるなら」

 

龍園の目が細くなった。

 

石崎が顔を引きつらせる。

 

「お、おい……」

 

伊吹も思わず視線を向けた。

 

完全な挑発だった。

 

だが、影の声に敵意はなかった。

むしろ、純粋だった。

 

本当にそう思っているだけ。

 

龍園はしばらく影を見つめた。

 

そして、笑った。

 

「ククッ……いいな、お前」

 

肩に置いていた手に力がこもる。

 

「いつか、その余裕ぶった顔を歪ませてやるよ」

 

影は嬉しそうに目を細めた。

 

「楽しみにしております」

 

彼女は一歩、龍園に近づいた。

 

「ですが、私を壊すなら、半端な力では足りませんよ?」

 

屋上に風が吹いた。

 

白銀の髪が揺れる。

 

龍園と影。

 

黒い王と、白い影。

 

その場にいた誰もが、言葉を失っていた。

 

龍園は影から手を離す。

 

「お前はしばらく俺の近くにいろ」

 

「観察対象、ということでしょうか?」

 

「駒だ」

 

「ふふ」

 

影は楽しそうに笑った。

 

「では、よく磨いてくださいませ。使い方を間違えると、手を切りますので」

 

龍園は笑みを浮かべたまま、影に背を向ける。

 

「行くぞ」

 

石崎たちは慌ててついていく。

 

伊吹だけが、その場に残った影を見た。

 

「……あんた、本当に何者?」

 

影は空を見上げた。

 

夏の終わりの空は、少しだけ高く見えた。

 

「ただの影ですよ」

 

彼女はそう言って、伊吹を見る。

 

「光が強いほど、濃くなるだけの」

 

伊吹は何も言わなかった。

 

ただ、少しだけ苛立った顔で屋上を出ていった。

 

 

放課後。

 

廊下には、部活へ向かう生徒や寮に戻る生徒たちが行き交っていた。

 

影は龍園の少し後ろを歩いていた。

 

石崎たちは相変わらず龍園の顔色をうかがっている。

伊吹は少し離れて、面倒くさそうについてきている。

 

その時だった。

 

廊下の向こうから、Dクラスの生徒たちが歩いてきた。

 

須藤が大きな声で何かを言っている。

池と山内がそれに反応して笑う。

櫛田桔梗は周囲に笑顔を向けている。

堀北鈴音は少し離れて、ひとりで歩いている。

 

そして、そのさらに後ろ。

 

目立たない男子生徒がいた。

 

綾小路清隆。

 

影は足を止めた。

 

龍園が気づいて振り返る。

 

「何してんだ、影」

 

影は答えない。

 

視線は、綾小路の背中に向いていた。

 

彼は何もしていない。

誰よりも目立たない。

歩き方にも、表情にも、特別なものはない。

 

普通。

 

あまりにも普通。

 

だからこそ、影は笑った。

 

「あら」

 

小さく声が漏れる。

 

龍園が眉を動かす。

 

「何を見てる」

 

影はゆっくりと口元に指を当てた。

 

「綺麗なものを見つけました」

 

「ああ?」

 

「いえ、正確には……」

 

影の瞳が、楽しそうに細くなる。

 

「とても上手に隠れているもの、でしょうか」

 

その言葉に、龍園の目つきが変わった。

 

「誰のことだ」

 

Dクラスの生徒たちは、そのまま廊下の角を曲がっていく。

 

綾小路もまた、何事もなかったかのように姿を消した。

 

影はしばらく、その先を見つめていた。

 

そして、静かに微笑む。

 

「まだ、内緒です」

 

龍園は舌打ちするように笑った。

 

「面白ぇ。お前、やっぱり何か見えてんだな」

 

「見えている、というほどではありません」

 

影は振り返る。

 

「ただ、影は光の位置に敏感ですので」

 

龍園は彼女を見た。

 

白い髪。

赤い瞳。

丁寧な言葉。

壊れたような笑み。

 

こいつは使える。

 

同時に、危険だ。

 

龍園はそう判断した。

 

だが、危険な駒ほど面白い。

 

「影」

 

「はい」

 

「俺の邪魔はするなよ」

 

影は明るく笑った。

 

「もちろんです。あなたが私を退屈させない限りは」

 

龍園は笑った。

 

伊吹は呆れたように目を逸らした。

 

石崎たちは顔を引きつらせていた。

 

夏休み明け。

 

Cクラスに現れた白い転校生。

 

上代影。

 

彼女はまだ、何もしていない。

 

ただ笑い、観察し、そこに立っているだけ。

 

それでも、確かに何かが変わり始めていた。

 

Dクラスに隠れる少年。

Cクラスを支配する王。

そして、白く笑う影。

 

高度育成高等学校の盤面に、新しい駒が置かれた。

 

その駒が誰の味方なのか。

 

あるいは、誰の敵なのか。

 

まだ誰にも分からない。

 

ただひとつだけ確かなことがある。

 

上代影は、この学校を戦場として見ている。

 

そして彼女は、戦場でこそ最も美しく笑う。

 

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