ようこそ軍神至上主義の教室へ   作:あおいなり

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白き影は差し替えられた紙を見る

 

第10話

 

翌朝。

 

Cクラスの教室は、いつもより静かだった。

 

試験当日。

 

それだけで、生徒たちの表情は自然と硬くなる。

 

机に向かって最後の確認をする者。

何も見ずに天井を眺める者。

落ち着かない様子でシャーペンを何度も握り直す者。

 

石崎は机に突っ伏したまま、小さく唸っていた。

 

「やべぇ……緊張してきた」

 

金田が隣で眼鏡を直す。

 

「石崎氏、今さら焦っても仕方ありません。昨日までに確認した範囲を落とさないことです」

 

「それが難しいんだよ」

 

「だから昨日まで確認したのです」

 

「正論が痛い……」

 

小宮が苦笑する。

 

「まあ、ここまでやったんだから何とかなるだろ」

 

「何とかならなかったら?」

 

「金田に怒られる」

 

「退学より先にそっちかよ」

 

そのやり取りに、教室の空気が少しだけ緩む。

 

椎名は静かに参考書を閉じていた。

 

アルベルトは無言のまま、英単語のメモを眺めている。

 

時任は腕を組み、窓の外を見ていた。

 

影は自分の席から、教室全体を見ていた。

 

そして、龍園へ視線を向ける。

 

龍園はいつも通り、退屈そうに座っていた。

 

だが、昨日とは少し違う。

 

昨日、龍園は端末を見た後、教室を出ていった。

 

「少し外す」

 

そう言い残して。

 

誰に会ったのか。

 

何を話したのか。

 

影は知らない。

 

だが、今の龍園の顔を見れば、何かがあったことは分かる。

 

勝利を確信した顔ではない。

 

罠を仕掛けた者の顔でもない。

 

罠の形が変わることを、すでに受け入れた者の顔。

 

影は静かに目を細めた。

 

「龍園さん」

 

「あ?」

 

「昨日は、何か収穫がありましたか?」

 

龍園は一瞬だけ影を見た。

 

そして、口元を歪める。

 

「さあな」

 

「そうですか」

 

影はそれ以上聞かなかった。

 

問い詰めても、答える相手ではない。

 

それに、今聞く必要もない。

 

答えは、おそらく試験の後に分かる。

 

そう感じた。

 

龍園は頬杖をつきながら、低く呟いた。

 

「紙の試験ってのは面倒だな」

 

石崎が顔を上げる。

 

「龍園さんでも緊張するんすか?」

 

「するわけねぇだろ」

 

「ですよね」

 

「ただ、紙は燃える」

 

龍園は笑った。

 

「燃えれば、何が書いてあったか分からなくなる」

 

石崎は意味が分からないという顔をした。

 

「えっと……燃やすんすか?」

 

「例えだ、馬鹿」

 

「すんません」

 

影は龍園の言葉を聞きながら、静かに考える。

 

紙は燃える。

 

文字は消える。

 

問題は、差し替わる。

 

昨日の夜、龍園は何を見たのか。

 

誰と会ったのか。

 

そして、何を受け入れたのか。

 

白き影は、まだ見えない答えを待っていた。

 

 

試験開始の時間が近づく。

 

教室には、監督の教師が入ってきた。

 

普段とは違う張り詰めた空気。

 

配られていく問題用紙。

 

紙が机の上に置かれる音。

 

鉛筆を握る手。

 

沈黙。

 

体育祭とはまるで違う。

 

歓声はない。

砂埃もない。

走る足音もない。

 

けれど、ここも間違いなく戦場だった。

 

影は問題用紙を伏せたまま、前を向いていた。

 

少し離れた席に、時任がいる。

 

視線が一瞬だけ合った。

 

時任は面倒そうにしながらも、小さく口を動かす。

 

「足は引っ張らねぇ」

 

声には出ていない。

 

だが、そう言っているように見えた。

 

影は小さく頷いた。

 

その少し後ろでは、石崎が深呼吸をしている。

 

金田は落ち着いた様子で眼鏡を直していた。

 

椎名は静かに鉛筆を持ち、問題用紙が開かれるのを待っている。

 

アルベルトは無言で前を見ていた。

 

龍園は、楽しそうに笑っている。

 

教師が言った。

 

「始め」

 

その一言で、紙の上の戦場が始まった。

 

影は問題用紙をめくる。

 

最初の問題に目を通す。

 

難しい。

 

だが、解けないほどではない。

 

事前に確認した範囲から外れているわけでもない。

 

影は鉛筆を走らせる。

 

一問ずつ、落ち着いて解いていく。

 

試験中、誰も話さない。

 

誰も動けない。

 

それでも、人は表情で語る。

 

石崎は苦しそうではあるが、完全には止まっていない。

金田は落ち着いている。

椎名も静かに進めている。

アルベルトは時折止まりながらも、メモを思い出すように鉛筆を動かしている。

時任は苛立つように眉を寄せつつ、手は止めていない。

 

そして龍園は。

 

龍園は、問題を解きながらも笑っていた。

 

その笑みは、Cクラスの問題に対するものではない。

 

もっと別のもの。

 

試験の外側で動く何かを見ている顔だった。

 

影はすぐに視線を戻す。

 

見すぎる必要はない。

 

今は、目の前の問題を解く時だ。

 

だが、思考の奥では別の問いが動いていた。

 

櫛田から流れたはずの情報。

龍園が手にしていたはずのDクラスの問題。

昨日、龍園が会いに行った誰か。

 

そして、X。

 

もしXが本当にいるなら。

 

この試験は、もう始まる前から書き換えられていたのかもしれない。

 

影は最後の問題に答えを書き込み、静かに鉛筆を置いた。

 

 

試験終了の合図が出ると、教室の空気が一気に緩んだ。

 

「終わった……」

 

石崎が机に突っ伏す。

 

小宮が苦笑した。

 

「毎回それ言ってるな」

 

「今回は本当に終わったんだよ」

 

金田が答案の回収を見ながら言う。

 

「石崎氏、空欄はどの程度ありましたか?」

 

「……少し」

 

「具体的には」

 

「少しだって」

 

「その少しが問題なのですが」

 

石崎は顔を上げない。

 

「金田、今は優しくしてくれ」

 

「結果が出るまでは保留します」

 

「保留って何だよ……」

 

椎名が横から柔らかく言う。

 

「でも、最後まで解こうとしていましたね」

 

石崎は少し顔を上げた。

 

「椎名が言うなら、ちょっと救われるわ」

 

金田が眼鏡を押し上げる。

 

「私も同じ意味で言っています」

 

「金田は言い方が硬いんだよ」

 

教室に小さな笑いが起きた。

 

影は時任の席へ向かった。

 

「お疲れさまでした」

 

「そっちもな」

 

時任は軽く息を吐く。

 

「足は引っ張ってねぇと思う」

 

「はい。そう見えました」

 

「また見てたのかよ」

 

「少しだけ」

 

「ほんと、嫌なやつだな」

 

「よく言われます」

 

時任は呆れたように笑った。

 

だが、その顔には試験前ほどの刺々しさはなかった。

 

「お前は?」

 

「問題ありません」

 

「だろうな」

 

「信用していただけているのですか?」

 

「違ぇよ。そういう顔してるだけだ」

 

「なるほど」

 

影は小さく笑う。

 

ペアとは、助け合いの形であり、縛りの形でもある。

 

だが時に、相手を見るきっかけにもなる。

 

時任との距離も、ほんの少しだけ変わったのかもしれない。

 

その時、龍園が教室を出ていくのが見えた。

 

試験が終わった直後。

 

誰かの反応を見に行くためか。

 

あるいは、誰かに確認するためか。

 

影は追わなかった。

 

昨日と同じだ。

 

追えば見えるものもある。

 

けれど、追わないからこそ見えるものもある。

 

今、龍園を追えば、糸に触れてしまう。

 

糸は、触れ方を間違えると切れる。

 

影は静かに、龍園の背中を見送った。

 

 

放課後。

 

Cクラスの教室には、数人が残っていた。

 

石崎、金田、影。

 

少し離れてアルベルト。

 

椎名は本を手に席に残っている。

 

時任は窓際で腕を組み、距離を置いて聞いていた。

 

やがて、龍園が戻ってきた。

 

口元には笑みがある。

 

だが、それはただの勝者の笑みではない。

 

何かを確かめた者の笑みだった。

 

龍園は机に腰を下ろすと、低く言った。

 

「問題が差し替えられた」

 

その一言で、空気が変わった。

 

石崎が眉をひそめる。

 

「差し替え……?」

 

金田も表情を引き締める。

 

「Dクラスが作成した問題のことですか」

 

「ああ」

 

龍園は笑っていた。

 

怒っているようには見えない。

 

むしろ、楽しんでいる。

 

影は静かに問いかける。

 

「想定外だったのですか?」

 

「半分はな」

 

「半分」

 

龍園は影を見る。

 

「Xが接触してきた」

 

教室の温度が下がった。

 

X。

 

顔の見えない存在。

 

名前のない相手。

 

龍園が探していた、Dクラスの裏にいる誰か。

 

石崎が目を見開く。

 

「接触って……誰なんすか?」

 

「分かってたらXなんて呼ばねぇよ」

 

龍園は苛立つでもなく、楽しそうに答えた。

 

「だが、確かにいる」

 

金田が慎重に言う。

 

「そのXが、問題の差し替えに関わったと?」

 

「そういうことだ」

 

龍園は机に座ったまま、端末を指で軽く叩いた。

 

「Dクラスの裏切り者が流した問題。そのまま使えば、櫛田は勝てるはずだった」

 

櫛田。

 

その名前が落ちた瞬間、影は目を細めた。

 

Dクラスの穴。

 

龍園へ情報を流していた者。

 

石崎が小さく言う。

 

「やっぱり、Dクラスにも裏切り者が……」

 

「いる」

 

龍園は短く答えた。

 

「櫛田は堀北を潰すつもりだった。数学で勝負を仕掛けてな」

 

影は黙って聞いていた。

 

堀北と櫛田。

 

表向きは同じDクラスの生徒。

 

だが、その間には深い亀裂がある。

 

櫛田は龍園と組み、堀北を追い詰めようとした。

 

そのために、問題を流した。

 

本来なら、その策は通るはずだった。

 

だが。

 

「Xはそれを読んでいた」

 

龍園は楽しそうに言う。

 

「そして俺に接触してきた」

 

石崎は困惑している。

 

「えっと……つまり、Xは龍園さんに頼んで問題を変えさせたってことっすか?」

 

「頼んだ、なんて可愛いもんじゃねぇ」

 

龍園は笑う。

 

「取引だ」

 

影は静かに口を開く。

 

「龍園さんは、その取引に乗ったのですね」

 

「ああ」

 

「なぜですか?」

 

石崎がぎょっとしたように影を見る。

 

だが、龍園は怒らなかった。

 

むしろ、面白そうに笑った。

 

「決まってんだろ」

 

龍園は低く言う。

 

「Xに近づくためだ」

 

教室が静まる。

 

「櫛田を勝たせるより、Xの尻尾を掴む方が価値がある。あいつが自分から盤面に触れてきたんだ。なら、その指先を見ねぇ手はない」

 

影はその言葉をゆっくり飲み込んだ。

 

龍園は、櫛田を利用していた。

 

Xは、その利用を読んだ。

 

そして龍園は、さらにそれを利用しようとした。

 

罠が、罠のまま終わらない。

 

仕掛けられた罠を、別の形へ変える者がいる。

 

それがX。

 

「面白いですね」

 

影が小さく呟く。

 

龍園が笑う。

 

「だろ?」

 

影は続けた。

 

「龍園さんが一方的に狩っているのではなく、向こうもこちらの盤面に触れている」

 

龍園の笑みが深くなった。

 

「そうだ」

 

「そして、触れたのに姿は見せない」

 

「ああ」

 

龍園は楽しそうに言った。

 

「だから引きずり出す」

 

その声には、明確な熱があった。

 

体育祭の時とは違う。

 

勝利を楽しむ熱ではない。

 

獲物を見つけた狩人の熱。

 

X。

 

その見えない存在は、龍園の中でただの疑念から、確信へと変わっていた。

 

椎名が静かに本を閉じた。

 

「まるで、姿の見えない登場人物ですね」

 

龍園は椎名を見る。

 

「登場人物?」

 

「はい。物語の中で、名前だけ先に出てくる人です」

 

影は椎名を見る。

 

「名前だけが先に出ると、読者はその人物を想像します」

 

椎名は頷く。

 

「そして、実際に登場した時に、その想像が合っていたか分かるんです」

 

龍園は鼻で笑った。

 

「なら楽しみにしとけ。俺がそのページを無理やり開いてやる」

 

椎名は困ったように笑う。

 

影はその会話を聞きながら、静かに思った。

 

龍園は、ページを破ってでも開こうとする。

 

椎名は、破れないように読もうとする。

 

そして影は。

 

影は、そのページに何が書かれているのかを見たいと思った。

 

 

数日後。

 

ペーパーシャッフルの結果が発表された。

 

Cクラスに退学者は出なかった。

 

石崎は結果を聞いた瞬間、大きく息を吐く。

 

「生きた……」

 

金田が隣で言う。

 

「最低限の点は取れていました」

 

「金田のおかげだわ。マジで」

 

「次回は、もう少し早くから準備してください」

 

「次回の話はやめろ」

 

小宮が笑い、椎名も少しだけ微笑んでいた。

 

時任は自分の結果を確認し、影の方を見る。

 

「足は引っ張らなかっただろ」

 

「はい」

 

影は頷く。

 

「ありがとうございました」

 

「礼を言われるほどじゃねぇよ」

 

「ですが、ペアでしたので」

 

時任は少しだけ黙った。

 

それから、顔を背ける。

 

「……そうかよ」

 

その反応に、影は小さく笑った。

 

Cクラスは、無事に試験を越えた。

 

だが、龍園の目的はそれだけではなかった。

 

Dクラスにも退学者は出なかった。

 

櫛田と堀北の勝負は、堀北に軍配が上がった。

 

龍園が手にしていたはずの情報は、最後の最後で意味を変えられた。

 

「やっぱりいるな」

 

龍園は低く呟いた。

 

石崎が近づく。

 

「Xっすか」

 

「ああ」

 

龍園は笑っていた。

 

だが、その笑みは勝者のものではない。

 

獲物を逃した者の笑み。

 

次は逃がさないと決めた者の笑みだった。

 

「堀北じゃねぇ。平田でもねぇ。櫛田でもねぇ」

 

龍園は一人ずつ候補を削るように言う。

 

「Dクラスのどこかに、表に出てこねぇやつがいる」

 

影はその言葉を聞きながら、静かに目を伏せた。

 

Dクラスのどこか。

 

表に出てこない誰か。

 

体育祭の時、一瞬だけ見た静かな男子生徒の姿が、影の中に薄く浮かんだ。

 

騒がず、焦らず、必要以上に動かない。

 

目立たない場所にいて、空気に溶けていた。

 

だが、影はまだその名前を口にしない。

 

確信には遠い。

 

そして、今ここで口にする理由もない。

 

「影」

 

龍園が言った。

 

「お前、何か考えてるな」

 

影は目を開け、いつものように微笑んだ。

 

「結果について、少し」

 

「言え」

 

影は少しだけ考えた。

 

「Xは、龍園さんと違う種類の方かもしれません」

 

「どういう意味だ」

 

「龍園さんは相手を引きずり出そうとする。ですが、Xは引きずり出される前に、相手の手を別の方向へ向けさせる」

 

教室の空気が静まる。

 

「今回も、龍園さんは櫛田さんを使ってDクラスを崩すはずでした。ですが、Xはその流れを利用して、逆に櫛田さんの策を崩した」

 

龍園は黙って聞いている。

 

影は続けた。

 

「つまり、Xは正面から勝つ方ではない。相手が勝とうとする形そのものを、別の意味に変える方です」

 

龍園の口元が歪む。

 

「気に入らねぇな」

 

「はい」

 

影は微笑む。

 

「龍園さんが嫌いそうな相手です」

 

龍園は低く笑った。

 

「だから潰す価値がある」

 

その声には、楽しさと苛立ちが混ざっていた。

 

影は、それを美しいとは思わなかった。

 

だが、面白いとは思った。

 

龍園とX。

 

力で引きずり出す者。

影から糸を引く者。

 

その二人が交わる時、何が壊れるのか。

 

何が残るのか。

 

影はそれを、見たいと思った。

 

 

放課後。

 

影は一人で廊下を歩いていた。

 

試験が終わった後の校舎には、独特の緩みがある。

 

張り詰めていた空気がほどけ、誰もが少しだけ気を抜く。

 

けれど、影の中ではむしろ違和感が濃くなっていた。

 

X。

 

顔の見えない存在。

 

真鍋グループを動かした者。

Cクラスの情報を抜いた者。

櫛田の策を読んだ者。

龍園と取引し、問題を差し替えた者。

 

その人物は、どこまで見ているのか。

 

どこまで読んでいるのか。

 

そして、なぜ表に出ないのか。

 

「上代さん」

 

声をかけられ、影は振り返った。

 

椎名がそこにいた。

 

手には一冊の本を持っている。

 

「椎名さん」

 

「試験、お疲れさまでした」

 

「お疲れさまでした」

 

二人は廊下の端で並んだ。

 

しばらく、何も言わない。

 

先に口を開いたのは椎名だった。

 

「龍園くん、楽しそうでしたね」

 

「そう見えましたか?」

 

「はい。怒っているというより、面白い本を途中まで読んだ時みたいな顔でした」

 

影は少しだけ笑った。

 

「椎名さんらしい表現ですね」

 

「上代さんも、似たような顔をしていました」

 

「私もですか?」

 

「はい」

 

椎名は静かに微笑む。

 

「続きを読みたがっている顔です」

 

影は答えなかった。

 

代わりに、廊下の先を見る。

 

「まだ、ページは閉じられていません」

 

「そうですね」

 

椎名は本を胸元に抱える。

 

「でも、急いでめくると破れてしまうこともあります」

 

その言葉に、影は真鍋たちの反応を思い出した。

 

火を近づけすぎれば、糸は焼き切れる。

 

椎名の言葉は、まるでその考えをなぞるようだった。

 

「椎名さん」

 

「はい」

 

「あなたは、本当に不思議な方です」

 

「上代さんほどではありません」

 

二人は小さく笑った。

 

その穏やかな空気の奥で、影はXのことを考えていた。

 

龍園は狩りを始める。

 

Xは、まだ姿を見せない。

 

真鍋グループは、怯えたまま糸に繋がれている。

 

そして影は、その糸を切らずに見ている。

 

この学校では、勝敗が終わっても戦いは終わらない。

 

ペーパーシャッフルは終わった。

 

だが、そこから浮かび上がった名前のない存在は、むしろここから濃くなっていく。

 

白き影は、廊下の窓に映る自分の姿を見た。

 

そこにいるのは、ただの観察者か。

 

それとも、すでに盤面に足を踏み入れた一人なのか。

 

答えはまだ出ない。

 

ただ、ひとつだけ分かる。

 

X。

 

その見えない名は、影の中に確かに残った。

 

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