ようこそ軍神至上主義の教室へ   作:あおいなり

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白き影は強がる少女を見る

 

第12話

 

ペーパーシャッフルが終わり、校内の空気は少しずつ日常へ戻りつつあった。

 

だが、影にとっては違った。

 

龍園が口にした名前。

 

軽井沢恵。

 

その名前が、教室のざわめきの中でも、廊下の足音の中でも、妙に残っていた。

 

Dクラスの女子。

 

真鍋たちと過去に何かがある生徒。

 

そして、龍園がXを引きずり出すために目をつけた存在。

 

影はまだ、軽井沢のことをほとんど知らない。

 

ただ一つ分かっているのは、龍園が彼女を「餌」として見始めていることだった。

 

それは合理的だ。

 

Xが軽井沢を守るなら、軽井沢を揺さぶればXが動く。

 

動かなければ、それまで。

 

龍園の考えは分かりやすい。

 

けれど、分かりやすいものほど、時に乱暴だ。

 

影はそう思いながら、昼休みの廊下を歩いていた。

 

 

Dクラスの女子たちは、廊下の一角で集まっていた。

 

軽井沢恵を中心に、佐藤、松下、篠原、森が話している。

 

明るい声。

 

軽い笑い。

 

何気ない会話。

 

表面上は、どこにでもある女子グループの空気だった。

 

「だから、それは絶対ないって」

 

篠原が呆れたように言う。

 

「えー、でも少し分かるかも」

 

佐藤が笑いながら返す。

 

森も控えめに笑っていた。

 

松下は会話に入ったり、少し引いて周囲を見たりしている。

 

軽井沢はその中心で、自然に笑っていた。

 

「いやいや、普通にないでしょ。あれ信じる方がやばいって」

 

言葉は軽い。

 

声も明るい。

 

周囲との距離も上手く取っている。

 

誰かが話しすぎれば軽く流し、空気が止まりそうになれば冗談を入れる。

 

軽井沢は、その場の中心にいるように見えた。

 

だが、影には少し違って見えた。

 

中心にいるのではない。

 

中心から落ちないようにしている。

 

その笑顔は自然に見えて、どこか作られている。

 

強いから笑っているのではない。

 

笑っていなければ、強く見えない。

 

そんな薄い膜のようなものが、軽井沢の周囲にある気がした。

 

影は立ち止まらずに、その横を通り過ぎようとした。

 

その時、佐藤が影に気づいた。

 

「あれ? Cクラスの……」

 

軽井沢たちの視線がこちらへ向く。

 

影は足を止め、軽く頭を下げた。

 

「失礼いたします」

 

軽井沢が少し警戒したように目を細める。

 

「……Cクラスの人だよね?」

 

「はい。上代影と申します」

 

「上代……」

 

軽井沢は名前を確認するように呟いた。

 

松下が横から静かに見る。

 

篠原は少し不審そうな顔をしていた。

 

森は会話の流れをうかがうように、佐藤の少し後ろに立っている。

 

「何か用?」

 

軽井沢の声は軽い。

 

だが、視線には警戒がある。

 

影は穏やかに答えた。

 

「少し、通りかかっただけです」

 

「通りかかっただけで、そんな丁寧に挨拶する?」

 

「癖です」

 

「変なの」

 

軽井沢はそう言って、少し笑った。

 

周囲の女子も軽く笑う。

 

けれど、その笑いは完全には緩んでいなかった。

 

Cクラス。

 

龍園のクラス。

 

ペーパーシャッフル後の今、その肩書きだけで警戒する理由は十分にある。

 

影は軽井沢を見る。

 

「軽井沢さん」

 

「何?」

 

「あなたは、周囲を見るのがお上手なのですね」

 

軽井沢の眉がわずかに動いた。

 

「それ、どういう意味?」

 

「そのままの意味です。会話の流れや、人の反応をよく見ていらっしゃる」

 

佐藤が軽く笑う。

 

「それ分かるかも。軽井沢さんって空気読むの上手いよね」

 

「ちょっと、何それ」

 

軽井沢は軽く返す。

 

だが、影の方を見る目は緩んでいない。

 

「褒めてるの?」

 

「はい。半分は」

 

「半分って何」

 

軽井沢の声が少し低くなる。

 

影は穏やかに続けた。

 

「もう半分は、少し疲れそうだと思いました」

 

空気が、ほんの少し止まった。

 

佐藤は笑顔のまま固まり、森は不安そうに軽井沢を見る。

 

篠原は眉をひそめた。

 

松下だけが、静かに影を見ていた。

 

軽井沢の表情も、一瞬だけ固まった。

 

本当に一瞬。

 

だが、影は見逃さなかった。

 

「……意味分かんないんだけど」

 

軽井沢はすぐに笑った。

 

「私、別に疲れてないし」

 

「そうですか」

 

「そうだけど?」

 

「失礼いたしました」

 

影は軽く頭を下げる。

 

それ以上は踏み込まない。

 

ここで触れすぎれば、軽井沢はさらに強く膜を張る。

 

龍園なら破ろうとするだろう。

 

だが、影はまだ破るつもりはなかった。

 

ただ、見たかった。

 

その膜の向こうに何があるのかを。

 

篠原が一歩前に出る。

 

「ちょっと、それ普通に失礼じゃない?」

 

「申し訳ありません」

 

影は素直に頭を下げた。

 

「軽井沢さんを傷つける意図はありませんでした」

 

「いや、そういう問題じゃなくて……」

 

篠原はまだ何か言いたそうだったが、軽井沢が軽く手を上げた。

 

「いいって。別に気にしてないし」

 

その声は明るい。

 

けれど、少しだけ早かった。

 

松下はその変化を見逃していないようだった。

 

軽井沢は影を見たまま、少しだけ声を落とす。

 

「あんた、何が言いたいの?」

 

「何も。ただ、そう見えただけです」

 

「ふーん」

 

軽井沢は口元だけで笑った。

 

「Cクラスって、変な人多いね」

 

「よく言われます」

 

「それ、自分で言うんだ」

 

その場に小さな笑いが戻る。

 

しかし、完全には元通りにならなかった。

 

軽井沢の目が、さっきよりも影を警戒している。

 

影はもう一度頭を下げた。

 

「お時間を取らせました」

 

そう言って、その場を離れる。

 

背中に軽井沢の視線が刺さっているのを感じた。

 

影は振り返らない。

 

軽井沢恵。

 

強く見える少女。

 

いや、強く見せることに慣れた少女。

 

龍園が彼女を狙う理由が、少しだけ分かった気がした。

 

 

その日の放課後。

 

影はCクラスの教室に戻る途中、廊下の端で松下とすれ違った。

 

松下千秋。

 

昼休みに軽井沢の近くにいた生徒だ。

 

松下は影を見ると、少しだけ足を止めた。

 

「上代さん、だっけ」

 

「はい」

 

「昼休み、軽井沢さんに何か言ってたよね」

 

「少しお話を」

 

松下はじっと影を見る。

 

表情は柔らかいが、目は冷静だった。

 

「CクラスがDクラスに興味持つの、あんまりいい感じしないんだけど」

 

「そうでしょうね」

 

「否定しないんだ」

 

「否定しても、不自然ですので」

 

松下は小さく息を吐いた。

 

「正直だね」

 

「よく言われます」

 

「それ、本当に言われてる?」

 

「はい」

 

松下は少しだけ笑った。

 

だが、すぐに表情を戻す。

 

「軽井沢さんに変なことしないでね」

 

その言葉に、影は少しだけ目を細めた。

 

軽井沢を守るような言い方。

 

少なくとも、松下は軽井沢をただのグループの中心として見ているわけではない。

 

何かを感じている。

 

あるいは、薄々気づいている。

 

「松下さんは、軽井沢さんのことをよく見ていらっしゃるのですね」

 

「友達だからね」

 

松下は短く答える。

 

「でも、それを言うなら上代さんもでしょ」

 

「私は、まだ少し見ただけです」

 

「少し見ただけで、ああいうこと言うんだ」

 

「失礼でしたか?」

 

「少しね」

 

松下はそう言った後、ふっと笑った。

 

「でも、完全に外れてるとも言えない」

 

影は黙って松下を見る。

 

松下は廊下の先へ視線を向けた。

 

「軽井沢さんってさ、強く見えるけど、たまに無理してる感じあるから」

 

その言葉は、軽いものではなかった。

 

友人としての観察。

 

あるいは、同じクラスで過ごしてきたからこその感覚。

 

「それを、本人に言いますか?」

 

影が尋ねると、松下は首を横に振った。

 

「言わないよ。言ったら、たぶん笑って誤魔化すし」

 

「なるほど」

 

「だから、そっちも言わないで」

 

「承知いたしました」

 

松下は少し不思議そうに影を見る。

 

「なんか、あんた変わってるね」

 

「よく言われます」

 

「それは本当に言われてそう」

 

松下はそう言って歩き出した。

 

影はその背中を見送る。

 

軽井沢の周囲には、彼女をただ利用する者だけではない。

 

見ている者がいる。

 

気づいている者がいる。

 

けれど、踏み込まない者もいる。

 

松下はその一人なのだろう。

 

影は静かに思った。

 

強がる少女。

 

それを見守る友人。

 

そこに伸びようとしている龍園の手。

 

そして、まだ姿を見せないX。

 

糸は複雑になってきている。

 

だからこそ、面白い。

 

 

翌日。

 

軽井沢グループの空気は、少しだけ変わっていた。

 

昼休みの教室移動中、軽井沢はいつも通り笑っていた。

 

佐藤と話し、篠原に軽く返し、森の言葉に笑い、松下の言葉に肩をすくめる。

 

だが、影と目が合った瞬間、ほんの少し表情が硬くなった。

 

「……」

 

軽井沢はすぐに視線を外す。

 

それを佐藤が見て、不思議そうに言った。

 

「軽井沢さん、大丈夫?」

 

「別に?」

 

軽井沢はいつもの調子で返す。

 

「何でもないし」

 

その声は明るい。

 

だが、少しだけ早い。

 

森も心配そうに軽井沢を見る。

 

「本当に?」

 

「本当だって。森さんまで何?」

 

「いや、ちょっと気になっただけ」

 

「気にしすぎ」

 

軽井沢は軽く笑った。

 

その笑顔を見て、佐藤も少し安心したように笑う。

 

篠原は影の方をちらりと見て、少し不満げに眉を寄せた。

 

松下だけは、何も言わずに軽井沢の横顔を見ていた。

 

影は遠くからそれを見る。

 

自分の言葉が軽井沢の内側に少しだけ触れたのだろう。

 

深くはない。

 

傷を開くほどではない。

 

ただ、膜の表面に触れただけ。

 

しかし、それで十分だった。

 

軽井沢は、他人に見られることを恐れている。

 

正確には、見られたくない部分を見られることを恐れている。

 

龍園がそこに気づけば、彼は迷わず突くだろう。

 

そして、おそらくもう気づき始めている。

 

 

放課後。

 

影はCクラスへ戻る途中、校舎の端にある人気の少ない廊下へ足を向けた。

 

理由があったわけではない。

 

ただ、昼休みの軽井沢の反応を見た後、真鍋たちの様子を確かめておきたかった。

 

空き教室が並ぶその廊下は、人通りが少ない。

 

放課後になると、部活動へ向かう生徒の声も遠くなり、足音だけが妙に響く。

 

その奥に、三人の姿があった。

 

真鍋。

藪。

山下。

 

三人は小さな声で話していた。

 

影は足音を立てすぎないように歩く。

 

完全に隠れるつもりはない。

 

偶然、通りかかった。

 

そう見える程度の距離で立ち止まる。

 

「軽井沢のこと、龍園に言うの……?」

 

藪の声が聞こえた。

 

山下が小さく言う。

 

「でも、言わなかったら私たちが……」

 

「黙ってればいいでしょ」

 

真鍋の声は強い。

 

だが、その強さは本物ではない。

 

焦りを隠すために、無理やり尖らせた声だった。

 

「龍園だって全部は分かってない。こっちが変に動かなければ――」

 

「何を、分かっていないのですか?」

 

影が声をかけた。

 

三人の身体が、同時に固まった。

 

藪は露骨に肩を跳ねさせ、山下は顔を青くして真鍋を見る。

 

真鍋だけが、すぐに表情を作った。

 

「……あんた、また?」

 

「はい。お久しぶりです」

 

「別に久しぶりじゃないし」

 

真鍋は強気に返す。

 

だが、その声は少しだけ硬かった。

 

影は三人の前まで歩み寄る。

 

「軽井沢さんの名前が聞こえました」

 

藪の視線が床へ落ちる。

 

山下は口を結んだまま、何も言わない。

 

真鍋は影を睨んだ。

 

「盗み聞き?」

 

「通りかかっただけです」

 

「嘘っぽい」

 

「よく言われます」

 

真鍋は舌打ちする。

 

「私たちが誰の話をしてようが、あんたには関係ないでしょ」

 

「はい」

 

影は静かに頷いた。

 

「私には関係ありません」

 

「なら放っといて」

 

「ですが、怖がっているように見えました」

 

その一言で、真鍋の顔がわずかに強張った。

 

藪は視線を落とし、山下は唇を噛む。

 

「……何それ。私たちが?」

 

「はい」

 

影は三人を責めるようには見なかった。

 

ただ、確認するように見ていた。

 

「龍園さんに知られることを恐れているのか。あるいは、別の誰かに知られることを恐れているのか。そこまでは分かりません」

 

真鍋は言い返そうとして、言葉を止めた。

 

影は続ける。

 

「ですが、恐れている人にさらに刃を向けるのは、あまり美しくありません」

 

「……意味分かんない」

 

真鍋の声は低かった。

 

けれど、さっきより少しだけ弱い。

 

影は穏やかに言った。

 

「あなたたちを責めに来たわけではありません」

 

藪が顔を上げる。

 

「じゃあ、何しに来たの……?」

 

影は少しだけ考える。

 

「見に来ました」

 

「やっぱり気持ち悪いんだけど」

 

真鍋が睨む。

 

影は小さく笑った。

 

「よく言われます」

 

そして、少し声を柔らかくした。

 

「ただ、壊れそうな糸を見つけた時、強く引くべきではないと思っています」

 

山下が小さく呟く。

 

「糸……?」

 

「はい」

 

影は三人を見る。

 

「あなたたちは、龍園さんにも、別の誰かにも、引っ張られているように見えます」

 

真鍋の表情が止まった。

 

藪は完全に黙り込み、山下は目を伏せた。

 

影はそれ以上、踏み込まなかった。

 

「話したくないことを、今ここで話す必要はありません」

 

「……じゃあ、龍園に言うの?」

 

真鍋が低く聞いた。

 

その問いに、藪と山下が息を呑む。

 

影は静かに首を横に振った。

 

「今は、言いません」

 

「今は?」

 

「はい。今は」

 

真鍋が警戒を強める。

 

けれど、影は淡々と続けた。

 

「あなたたちを龍園さんに差し出せば、糸は切れます。そうなれば、その先にいる方も見えなくなる」

 

「結局、あんたも利用するんじゃん」

 

「はい」

 

影は否定しなかった。

 

「ですが、壊すためではありません」

 

真鍋は黙る。

 

影は少しだけ目を伏せた。

 

「私は、あなたたちが何を恐れているのかを見たい。ですが、恐怖で無理に吐かせるつもりはありません」

 

藪が震える声で言う。

 

「……本当に?」

 

「はい」

 

影は頷いた。

 

「少なくとも、私からは」

 

真鍋は苦い顔をする。

 

「信用できない」

 

「当然です」

 

影は静かに答える。

 

「信用は、今ここで差し出すものではありませんので」

 

その言葉に、三人は何も言えなかった。

 

影は軽く頭を下げる。

 

「ただ、一つだけ」

 

三人が影を見る。

 

「軽井沢さんの名前を、龍園さんの前で不用意に出すのはお控えください」

 

「……なんで」

 

「彼は、そこを引きます」

 

影の声は静かだった。

 

「そして、引く時に力加減をする方ではありません」

 

真鍋の顔から、わずかに血の気が引いた。

 

藪も山下も黙り込む。

 

影はそれ以上言わなかった。

 

「失礼いたしました」

 

そう言って、影は背を向ける。

 

背後から、真鍋の声がした。

 

「……あんた、敵なの? 味方なの?」

 

影は足を止めた。

 

少しだけ考えてから、振り返らずに答える。

 

「まだ、どちらでもありません」

 

「何それ」

 

「ですが」

 

影は静かに続けた。

 

「少なくとも今は、あなたたちが壊れるところを見たいわけではありません」

 

その言葉を残して、影は廊下を歩き出した。

 

背後で、三人が何も言えずに立ち尽くしている気配がした。

 

影は振り返らない。

 

軽井沢。

真鍋。

藪。

山下。

X。

 

それぞれが細く繋がり始めている。

 

その糸は、まだ弱い。

 

強く引けば切れる。

 

火を近づけすぎれば焼き切れる。

 

だが、丁寧に辿れば、いずれ先へ届くかもしれない。

 

白き影は、その細い糸を壊さないように、ただ静かに見つめていた。

 

 

その日の夕方。

 

特別棟の階段踊り場。

 

龍園は手すりにもたれ、石崎、伊吹、アルベルトを前にしていた。

 

影は少し遅れて到着する。

 

「軽井沢を見たか」

 

龍園は開口一番に言った。

 

影は静かに頷く。

 

「少しだけ」

 

「どう見えた」

 

「強く振る舞うことに慣れている方だと思いました」

 

龍園は笑う。

 

「つまり、弱い場所がある」

 

「強く振る舞う人すべてが弱いとは限りません」

 

「だが、あいつにはある」

 

龍園は断言した。

 

伊吹が不快そうに眉をひそめる。

 

「それを探すの?」

 

「もう探し始めてる」

 

龍園は答える。

 

「真鍋たちは軽井沢を知ってる。過去に何かある。そこを使えば、軽井沢は揺れる」

 

石崎が少し言いにくそうに口を開く。

 

「龍園さん、それ……結構きついやり方っすね」

 

「今さら何言ってんだ」

 

「いや、分かってますけど」

 

石崎は拳を握る。

 

「でも、女子相手にそういうのって……」

 

龍園の視線が石崎へ向く。

 

石崎はすぐに黙った。

 

だが、完全に納得した顔ではない。

 

影はそれを見た。

 

石崎は龍園に従う。

 

それは変わらない。

 

けれど、何も感じていないわけではない。

 

伊吹も同じだ。

 

彼女は龍園に反発しながらも、結局はCクラス側で動く。

 

アルベルトは黙っている。

 

だが、その沈黙の奥に何があるのかは、まだ分からない。

 

「影」

 

龍園が言う。

 

「お前はどう思う」

 

「合理的だと思います」

 

「だろうな」

 

「ですが、美しくはありません」

 

龍園は楽しそうに笑った。

 

「それも聞き飽きた」

 

「失礼いたしました」

 

「謝るな。お前はそれでいい」

 

その言葉に、影は少しだけ目を開いた。

 

龍園は続ける。

 

「お前は見てろ。俺が軽井沢を揺らした時、Xがどう動くか」

 

「Xが動かない可能性もあります」

 

「その時はその時だ」

 

龍園は軽く肩をすくめる。

 

「軽井沢が壊れるだけだ」

 

階段踊り場の空気が冷える。

 

伊吹が低く言った。

 

「最低」

 

龍園は笑う。

 

「最低で結構」

 

石崎は何も言わない。

 

アルベルトも黙っている。

 

影は龍園を見つめた。

 

この男は、本当に止まらない。

 

目的のためなら、誰かの強がりの膜を破ることに躊躇がない。

 

その膜の下に何があるかを知る前に、破ってしまう。

 

影は、軽井沢の笑顔を思い出した。

 

明るく、軽く、周囲に合わせて揺れる笑顔。

 

その奥にあるもの。

 

そして、真鍋たちの怯えた顔。

 

引かれる糸の両端にいる少女たち。

 

どちらも、すでに誰かに動かされ始めている。

 

「見届けます」

 

影は静かに言った。

 

「ですが」

 

「あ?」

 

「壊れるところを見たいわけではありません」

 

龍園は一瞬だけ黙った。

 

それから、面白そうに笑った。

 

「なら、壊れねぇように祈っとけ」

 

「祈りは得意ではありません」

 

「だろうな」

 

龍園は手すりから身を離す。

 

「なら、見てろ」

 

影は静かに頷いた。

 

「はい」

 

狩りの準備は、少しずつ整っていく。

 

龍園は獲物を見つけた。

 

真鍋たちは怯えている。

 

軽井沢はまだ、強がる膜の中にいる。

 

そしてXは、まだ姿を見せない。

 

白き影は、そのすべてを見ていた。

 

糸が切れないように。

 

しかし、目を逸らすこともなく。

 




今更ですが多少の原作改変はありますが基本ベースは原作にしようと思ってますがこの先もしかしたら完全に原作改変はあるかもしれないので、それだけはご了承ください^ ^
それでも大丈夫な方はこれからもよろしくお願いします^ ^
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