ここだけピナに憑依転生したのがリィナじゃなくて   作:淵深 真夜

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星の乙女が中の人

 ふわふわ。暖かいものに包まれていた感触からそっと持ち上げられたような。ぬくぬく冬の布団の中で過ごしていたところから起き上がって、スッキリした朝の空気に触れたような感じ。

 私はほんの少しの肌寒さに意識がだんだんはっきりしてきた。なんだかとても長く眠っていたような気がする。

 

 気が付いたら……私は花畑の中に立っていた。何処だろう、と思う間もなく、目の前にいた女神様みたいに綺麗な美人と、天使のように可愛い美少女に目が釘付けになる。

 

 え、いやちょっと待って! 美人の方にも見覚えはあるけど、それ以上に美少女に見覚えしかない!

 

 この子は……私を信じてくれた、救ってくれた、救いたかったあの子。

 私と同じ、死んじゃってから訳もわからないままピナちゃんの体に憑依して、一緒に救世の旅を頑張ろうと約束した––

 

「……初めまして、エミさん。

 わたしは、ピナ・ブランシュ」

「え?」

 

 目頭が熱くなって、泣きながら抱きついて謝ろうとした私より先に、その子は少しだけ困ったように笑って言った。

 

 あの子の名前じゃなくて、その体の名前。

 私達が楽しんで、泣いて、いっぱい頑張った、同一視というより友達や保護者のような視点でプレイしていた主人公の名前を。

 

「……ピナ……ちゃん?」

「ちょっとピナ。わたくしより先にエミに挨拶なんてズルいわよ!」

「ごめんごめん。でもレミリアさん、ちゃんと名乗らないとエミさん勘違いしちゃうでしょ」

「れ、レミリアたん?!」

 

 私が混乱しながらオウム返しすると、美女がちょっと拗ねたように唇を尖らせてピナちゃんに抗議して、ピナちゃんはゲームのスチルで見たのと全く同じ、可愛いテヘペロで謝った。

 その親しい相手に見せる謝り方をしている相手の名前に、思わず私はひっくり返りそうになりながら叫んでしまう。

 

 れ、レミリアたん?!

 いや確かに私の記憶よりいくつか年上になってるし、私が中にいた時の間に抜けた感じは全然ないけど、この迫力のあるキツめ美人は散々鏡越しに見てきたレミリアたんだ!

 うん、この美女がレミリアたんなのはまだ納得できるけど、ピナちゃんと仲が良いの!?

 

 いきなり情報量の洪水にあわあわする私を、レミリアたんとピナちゃんはクスクス笑って、レミリアたんの方が今度は私に話しかける。

 

「初めまして……になるのかしら。顔を合わせるのも、言葉を交わすのもこれが初めてですもの。

 もう分かってると思うけど、わたくしがあなたが守ってくれていたレミリアよ。エミ、あなたはどこまで覚えている? わたくしの中にいて、レミリアとして生活していた記憶はあるかしら?」

 

 レミリアたんのご尊顔と美声に心臓が爆発しそうになりながら、私は混乱したまま答える。

 夜会でウィル様に婚約破棄されて、誰も、あの子の言葉さえもウィル達には届かなくて……と、そこまで語って私は今更なことに気づく。

 

「!? あの子は!?

 レミリアたん! ピナちゃん! あの子はどうしたの!? どうなったの!?」

 

 あぁ、私は最低だ。

 あの子に救われたからこそ絶望したのに、推しと出会えたことに喜びっぱなしてあの子がどうなったかを疑問にも思わないなんて。

 

 そんな私の自己嫌悪を許すように、二つの手が私の頭を撫でる。

 レミリアたんとピナちゃんが、系統が真逆の美人なはずなのに、よく似た優しい笑顔を浮かべて二人は唱和する。

 

「「大丈夫」」

 

 その柔らかな声音の言葉に、優しい笑顔に、私の不安も絶望も自己嫌悪も溶けるようになくなった。

 

「大丈夫よ、エミ。あの子はちゃんと救われて、今も幸せに過ごしているわ」

 

 レミリアたんが私の頭を撫でながら、私が一番欲しかった言葉をくれる。

 私の頭を撫でるのはレミリアたんに譲って、ピナちゃんは私から手を離して、お花畑の中に座り込んだまま笑って語ってくれた。

 

「教えてあげるね、エミさん。

 あなたが眠ってから何があったか。わたし達が迎えた『オトキシ』とは違うエンディングであり、始まりのお話を」

 

 ニコニコと、もしかしたらゲームでプレイしていた時よりも楽しそうで幸せそうな笑顔でピナちゃんは話してくれた。

 どんな辛い出来事も、それを乗り越えて幸せになったと確信できる笑顔だった。

 

* * *

 

「よ、よ"がっだ〜〜! あ"の"子が……ぢゃんど……し、幸せにな"っで〜〜!!」

「……予想はしてたけど、やっぱりハンカチでは足りなかったわね」

「バスタオルでも多分足りませんよ、これ」

 

 私はレミリアたんとピナちゃんのハンカチを一瞬でびちょびちょにするぐらい泣きながら、あの子がどうなったか、どんな幸せを掴んだのかを知って安堵の雄叫びをあげる。

 うん、困らせてごめんね二人とも。

 

 でも、ピナちゃんの笑顔で幸せに終わると確信してたけど! それでもあの子が消える気だったと知った時は息ができなくなったの!!

 しかもそれが、私が眠ってレミリアたんが目覚めたからこそあの子が気づいちゃったことだって知ったら、私の方がもう今すぐに消えたくなった!!

 本当にピナちゃんとレミリアたんの笑顔がなければ、私はまた昏倒して今度はそのまま魂消滅してたと思う。

 

 ひとまず私が思いっきり泣いて泣いて喜んで一息つくまで、二人は根気強く待ってくれた。

 女神と天使かな? 心が美しすぎでは?

 

「ご、ごべんね……二人とも……」

「いいのよ、エミがそこまで喜んでくれる人だから、わたくしもあの子もピナも、あなたが大好きだからこそあの結末があって、そして今があるの」

 

 とりあえず話が出来る程度に落ち着いたけど、まだ涙どころか鼻水もぐちょぐちょの私にレミリアたんは慈愛に満ちた笑顔で言ってくれた。

 あの、優しすぎて申し訳ないからレミリアたん、もう少し女神っぷりは加減してください。

 

 そんなことを思いながら、ようやく少しは冷静になった私がふと気づく。

 

「あの……すごい今更だけど、ここはどこでなんでレミリアたんとピナちゃんは一緒にここにいるの?」

 

 本当に今更すぎて恥ずかしいけど、スルーしちゃダメな状況だと気づいて私が問うと、また二人は少しおかしげに顔を見合わせて笑う。

 その様子はどう見ても、ゲームのような関係じゃなくて、長い年月で築き上げた絆がはっきりと感じられる関係。

 親友の距離感だった。

 

 そんな二人が話してくれた説明によると、ここは精霊界という場所らしい。周りに見える光の球は、ひとつひとつが精霊なんだそう。

 それによく見ると、ゲームでよく見る幽霊っぽく青白い半透明の私の体からは胸骨のあたりから白い紐が伸びて、反対側はレミリアたんの爆乳の谷間に埋もれている。……たぶん胸骨同士……心臓のあたりで繋がってるんだと思う。レミリアたん側はおっぱいで見えないだけで。10代のころよりけしからん成長を遂げている……。

 

 そしてピナちゃんの方も胸から白い紐らしきものが伸びてるけど、それはどこか遠くにまで伸びていて繋がっている先は見えない。

 ……あの子が今、どんな大人になったのか見れないのはちょっと残念。

 

「エミは、生まれ変わりたい? それとも、このまま精霊のような存在になって過ごしていきたい?」

「もしくは、ゴーレムやホムンクルスの応用で器を用意して、エミさんとして生きることも可能ですよ。

 ……これなら、子供とかは望めないですけど、ウィリアルド様と結ばれることは可能だと思います」

 

 それはレミリアたんとピナちゃんが私を心配して用意してくれた選択肢だった。

 特にピナちゃんが上げてくれた選択肢と可能性に、現金なことに私は夢見てしまった。

 頑張ったけど叶わなかった恋。嫌われたと絶望した、失ったと思っていた恋を思い出す。

 

 あの子の話で、ウィル様達に私は本気で嫌われた訳じゃなかったことも教えられた。

 私の護衛騎士だったロマノと、そしてあの子やスフィアさんと同じぐらい信頼してた彼女によって、みんな騙されていたこと。

 魔国との国交樹立記念の夜会による断罪で、みんなちゃんと何が悪かったかを反省して謝ってくれたこと。

 特にウィル様は、あの子を王家から解放する王太子として最後で最高の仕事をしてくれたこと。

 ……泣きながらウィル様は、レミリアたんのことが……私のことが好きだと言ってくれたことを知ったことで、蘇った恋心。

 

 でも、蘇ったからこそ私は、この恋にはもう手を伸ばせない。

 

 だってウィル様達があの子に私が嫉妬してるという誤解をしたのは、香水の効果と悪意ある偽証だけじゃなくて、あの人たちが私のことを知っていて、信頼していたからこそ、私たち側の事情を知らなければ私らしくないことをしてたから、嫉妬だと思ってしまった事にも納得してしまったから。

 あの夜会での婚約破棄は、私側の自業自得な部分も大きいって、どんなにレミリアたんやピナちゃんやあの子がそんな事ないと否定してくれても、私自身が強くそう思うから、この蘇った恋はもう失うしかないの。

 

「ピナちゃん……、ありがとう。でも、私はウィル様とはもう会えない。会うべきじゃないと思うの。

 レミリアたんじゃない私が、ウィル様のお眼鏡に適うとは思わないっていうのもあるけど……、私はウィル様に罪悪感を抱えてしまったから、好きよりもその罪悪感がいつも先立って、きっと私はウィル様を幸せにすることはできないから……。

 だから、ウィル様がレミリアたんと決別したのなら、もう私のことなんか忘れてウィル様は別の誰かと幸せになるべきだよ」

 

 罪悪感を抱えて相手に対して卑屈な関係なんて、健全から程遠い。

 そんな関係だと、せっかく良い方向にやり直せているウィル様をまた捻じ曲げるから、私はウィル様と同じように好きだからこそ決別する。

 

 さようなら。ウィリアルド様。

 レミリアたんの為ではなく、いつしか「私」として愛していた人。

 どうか、お幸せに。

 

 私の答えに、ピナちゃんとレミリアたんは少し悲しげだけどどこかホッとした様子で微笑んで、「そう」と納得してくれた。

 そして私は、頭を抱えて悩む。

 

 どうしよう……。体を得てしまうとこの決別した恋心が再燃するのが怖いし、そもそもスフィアさんとかアンヘルとかあの子の友達のマリーちゃんとかに私がレミリアたんの中の人だった事に気づかれちゃうかもしれない。

 一応、あの子が夜会で話した「自分はピナちゃんの体に憑依した別人」って話は結局、「辛すぎた境遇からの現実逃避による妄想」という扱いになったらしいけど、たぶんスフィアさんやアンヘル、そして何より店主さんはあの子の罪悪感を刺激しない為にそういう扱いにしてるだけで、あの子の話が事実だと察してるはず。

 

 そんな人たちの前に私が現れたら、絶対にバレる!

 そして話がややこしくなる!

 これも私だけが苦労するのならそれはしょうがない、するべき苦労だけど、絶対にレミリアたんとあの子に迷惑をかけるのが目に見えている。

 

 だけど、何もかも忘れて生まれ変わりたくはない。

 こんなにも幸せそうなレミリアたんと、レミリアたんと気安い関係になっているピナちゃん。

 そして何より、大好きな人と結ばれたあの子から私は離れたくないし、忘れたくない。

 

 でも私の記憶が、あの子の話では消しきれない、むしろあの子のせいじゃないけどあの子の話で気づいてしまった私自身の罪が、私としての生を歩んでいけない重みとなっている。

 

 あの子が幸せになって良かったけれど、私は私が諦めてしまった事による、あの子が消える方法を教えてしまったことや、私の想像力のなさがあの子を追い詰めていたことが、ウィル様に対してと同じぐらいの罪悪感となっている。

 

 だから私はあの子に会いたくて会いたくてたまらないのに、会えない。

 もう私はあの子を守る保護者にも、対等な親友にもなれない。

 

 お互いが自分自身を許せず、謝り続けて傷つき続ける関係に堕ちることがわかってる。

 

 だから、何もかも忘れて真っ白になって生まれ変わるのが一番だって分かってるのに、それでも身勝手な私は手放せない。

 ウィル様は初めからレミリアたんの為の人という認識があったから、心が引き裂かれるほどの痛みはあるけど、それでも諦められるの。

 でも、この人たちは失いたくない。レミリアたんも、ピナちゃんも、あの子も私は失いたくないよ……。

 

 私は私のわがままで答えられずにいるのに、二人は優しい微笑みのまま、私のわがままを予想できていたのか、レミリアたんが全て叶える提案を口にする。

 

「ねぇ、エミ。わたくしの子供にならない?」

 

「レ、レミリアたんの……?」と戸惑う私に、レミリアたんは説明してくれる。

 私が最初から宿っておけば、体を奪うことにはならないし、宿る時の未発達な赤ちゃんの器では魂からほとんどの記憶が無くなるから、私の罪悪感とかそういう記憶はなくなる。

 でもある程度、ぼんやりとした懐かしさを感じる程度には記憶を……あの子やウィル様たちと過ごした幸せな記憶、そしてエミとしての記憶は残すことが出来ると言ってくれた。

 

「エミさん! そして今ならなんと!

 私がエミさんの幼馴染として一緒に育つことが確定しています!!」

「えぇっ!?」

 

 そしていきなり立ち上がって胸を張ってピナちゃんはあの子のようなテンションで、衝撃的なことを言い出した。

 

 あの子の影響と思えるピナちゃんのテンションにレミリアたんはちょっと苦笑しながら、また補足してくれた。

 どうやらそもそも二人がここに来たのは、ピナちゃんが生まれ変わるのを期に、精霊王と交渉して私も私が望むのなら同じように転生させる為だったらしい。

 そして……ピナちゃんが生まれ変わるお家は……

 ピナちゃんの両親は……

 

「……あの子なの?

 あの子と……店主さん……なの?」

 

 私の問いにレミリアたんは女神のような穏やかな微笑みで

 ピナちゃんは嬉しくて嬉しくてたまらないという満面の笑顔で

 

 コクリと頷いた。

 

* * *

 

 ピナちゃんがあの子の子供として生まれるのは、あの子も了承済みらしい。

 あの子はピナちゃんの願いが届いたことで、ピナちゃんの体で生きてくれているけど、やっぱり罪悪感は消せない、ずっとずっと苛み続けるのがピナちゃんも辛くて辛くて、それを精霊に相談して出した結論。

 

 ……初めは精霊、『星の乙女が辛いのなら、他の人の体貰っちゃおう。幸せそうな人の体を貰って幸せな所を見せたらいいよ』とか言い出して、ピナちゃんの要望を理解してもらうのが本当に大変だったらしい。

 うん……なんていうか、お疲れ様です。

 

 まぁ、ある意味その提案はヒントとなった。

 どうしてもあの子がピナちゃんへの罪悪感を無くせないなら、あの子に幸せにしてもらう存在になればいいという結論に辿り着いた。

 

 私もピナちゃんもレミリアたんも、ある意味ではあの子にずっと騙されっぱなしだったけど、これだけは確信している。

 誤解なんてない。あの子は絶対にこうするってわかってる。

 

 あの子は生まれてきた命に対して、罪悪感による卑屈さて接することなんてしない。

 絶対にその罪悪感を親としての愛情に昇華して、その無限大の愛で包み込んでくれることを知っている。

 だから私は、ピナちゃんの選択もあの子の未来もレミリアたんの提案も、全てに安心して答えることができた。

 

「私、レミリアたんの子供になりたい!」

 

 私の答えにレミリアたんもピナちゃんと同じ、嬉しくて嬉しくてたまらないという笑顔を浮かべて、男の子と女の子どっちに生まれたいかを聞いてくれた。

 

「あ、ちなみにわたしは男の子です」

「えぇっ!?」

 

 そしてまたしてもピナちゃんからの衝撃発言。

 ピナちゃん、あの子にだいぶ似てきてない?

 

 ピナちゃんが男の子を生まれるのは、ピナちゃんの魂自体が「星の乙女」なので、女の子で生まれると自動的にその子が次代の星の乙女になるらしい。

 だから本来なら血縁なんて関係ないけど、あの子から星の乙女が生まれたら、ピナちゃんの来世やその子孫が権力争いに巻き込まれるかもしれないから、今は星の乙女が必要となる世界の危機の予兆もないのもあって、男の子として生まれるというバグ技でそこを回避するみたい。

 

 そんな理由で性別を強制するのはピナちゃんには可哀想だし、またあの子が気を病むんじゃないか心配だったけど、その心配は杞憂だった。

 だってピナちゃんは凄く嬉しそうに笑って言ったから。

 

「わたし、お父さんみたいな大好きな人を守れる強い男の子になりますから!!」

 

 間違いなくピナちゃん自身が楽しみで仕方ないと言わんばかりの笑顔でそう言ったから。

 だから私は、レミリアたんと前世のお母さんみたいなやりとりがしたいって理由だけじゃなくて、ピナちゃんに守ってもらえる、ピナちゃんが好きになってくれる素敵な女の子になりたいなっていう思いで、来世も女の子になることを選んだ。

 

「エミがこの世界でわたくしを愛して、わたくしのために頑張ってくれた事はわたくしが全部覚えているから。

 

 ––だから安心してお眠りなさい、愛しい子」

 

 レミリアたんはそう言って、私を抱きしめる。

 その傍でピナちゃんは両手を握り合わせて祈る。

 その祈りに呼応するように、光の珠がシャランシャランと綺麗な音を立てながら私の体に触れて、シュルシュルと私の体は小さくなっていく。

 

 ずっと包まれていた温かい感覚。私を守ってくれていたレミリアたんの愛情に包まれながら、安心しながら、それでも私は少しだけ、一つだけ残念だと思う。

 

 私とあの子とレミリアたんとピナちゃん。

 四人が揃っておしゃべりすることができなかったことだけが心残りだけど、それはすぐに楽しみに変わっていく。

 

 もう私は日本人で大学生だった「エミ」じゃないけれど

 ピナちゃんなんて男の子になってるけど

 

 それでも、私たちは今度こそ四人が出会って幸せになるんだ。

 だって、レミリアたんはあの子に言ったから。

 

『絶対に一生許さないから、一生離してやらない!!』

 

 私だって許してないんだからね。

 だから、ずっとずっと一緒だよ。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「嬉しい……嬉しい、嬉しいっ、やっとエミともう一度過ごせるのね。今度は……ずっと一緒よ」

 

 自分のお腹にエミさんが宿って、ボロボロ泣きながらレミリアさんは自分のお腹を優しく、慈しみながら撫でる。

 

「良かったね、レミリアさん」

「……えぇ。……ありがとう、ピナ。精霊王を説得してくれて」

 

 わたしの言葉にレミリアさんは顔を上げて、お礼を言ってくれた。

 

「お礼なんかいりませんよ。説得なんかしてませんし、そもそも精霊にそんなのは通じません。

 わたしは……ただ伝えただけですよ。わたしが幸せになるには、エミさんが必要だって」

 

 レミリアさんはエミさんを取り戻そうと様々な研究をしたけど、やはり人の身で魂を無傷で取り出すのも、他の器に宿すのも無理だったから。

 だからわたしは、わたし自身がもう彼女が苦しまないように、わたしも彼女を苦しませたくないから、前々から考えていたこの転生を実行するタイミングで、精霊王に直訴した。

 

 精霊は本当に人の心がわかってない、好意や善意で悍ましいことを平然と行いかねない存在ではあるけど、わたしというか星の乙女に対しての寵愛は確かだったから、わたしが望み、そして天界の主を討伐して、レンゲ様を救い、創造神を浄化したレミリアさんは精霊にとっても好感度が高かったから、この願いは叶えられた。

 

 精霊は別に人の為に何かをしてくれない。

 それは寵愛を受けているはずのわたし、星の乙女も例外じゃない。

 わたしの願いは叶えてくれるけど、それは向こうがしたいからしてるだけで、わたしの気持ちを本当に理解することはないし、きっとする気もないことは、ここ数年のやりとりで嫌になるほど思い知った。

 

 なんか、精霊とやりとりすればするほど精霊が嫌いになるって、星の乙女としてどうよ?

 そしてこんなに嫌われてるのに、気にせず寵愛し続けるから、余計にわたしは精霊が嫌いになる悪循環。

 正直わたしが来世は男の子を選んだのは、もう精霊とは関わりたくないからが大きい。

 

 エミさんは自分の選択、失いたくないものや忘れたいものを自分のわがままだと自責してたけど、そんなの「わたし達」からしたら可愛いものだと思う。

 

 ……ごめんね、エミさん。

 そして、大好きなわたしのお母さんになる人。

 

 あなた達が望んだ、「四人で仲良くなりたい」を、わたしとレミリアさんはお互いのわがままで叶えなかった。

 

「じゃあ、レミリアさん。……さようなら」

「……えぇ。さようなら……ピナ」

 

 わたしとレミリアさんは、彼女とエミさんのような、彼女とエミさんが望んだような、親友という関係になれたと思う。

 でも、その関係を決別する言葉を告げて、わたし達は別れた。

 

 ……わたしは、エミさんが大好き。

 そしてレミリアさんも、彼女が大好き。

 

 でも、わたし達はそれぞれお互いが宿った人、あまりに尊い愛をくれて、ずっとずっと守ってくれた人が何より一番大事で愛してる。

 独り占めしたいくらいに。

 

 だからわたし達は、エミさんとわたしのまま四人が出会うのではなく、別の存在に生まれ変わることを選んだ。

 親子という、誰にも付け入る隙のない関係、エミさんにもレミリアさんにも奪われない彼女をわたしは手に入れ、同じようにレミリアさんはわたしにも彼女にも奪われないエミさんを手に入れた。

 

 もちろん四人で顔合わせできる手段が簡単にあるのなら、流石に一度くらいはお茶会みたいなことをしたと思う。

 わたしもレミリアさんも、二人を再会させてあげたかった気持ちに嘘はない。

 

 それでも……わたし達はその手段が見つけられなかったことを言い訳に、積極的に探さずこの結末を選んだ。

 

 歪んでいるのは自覚してる。

 レミリアさんは愛を知ったけどやはり悪役令嬢で、わたしは自分の味方の精霊を嫌いながら利用する、星の乙女失格だ。

 でも、そんなわたし達だからこそ、ゲームのわたし達と違って仲良くなれたの。

 親友になれたの。

 

 その関係に決別しておきながら、それでもわたしはもうすぐ忘れてしまう親友に、言葉にしなくてもお互いに知っている想いを心の中で告げる。

 

 大好きだよ。

 エミさんのレミリアさんじゃない、苛烈で残酷な悪役令嬢としてのあなたが。

 

 別れても、忘れても、それでも消せない想いを抱きながらわたしはまた祈って、エミさんと同じように精霊の力を借りて、わたし自身の存在を浄化して、忘れたいことを忘れて、手放したくないものを握りしめて帰り着く。

 

「! 今、動いたんじゃないか!?」

「いや絶対に無理です! 動いたとしても感じ取れませんよ!

 もう、気が早すぎますよソーンさん」

「……しょうがないだろ。早く会いたくて仕方ないのだから」

「ふふっ……そんなの、私だってそうですよ」

 

 お母さんのお腹の中で、わたしは少しの間だけ眠りにつく。

 

 私も早く会いたいな。

 お母さんとお父さん、そして二人の親友に。





本編はとりあえずこれでお終い。
スフィアさんやエルハーシャ様視点とか、書きたい小ネタはいくつかあるのでまた気まぐれ更新になると思いますが、番外編も更新していこうと思います。
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