暗黒巨大ショッピングモール“セイオーマート”。読者諸君はこの名を知っておられるだろうか。
セイオーマートの話をする前にオットセイの話をしよう。オットセイはこの世界最強の戦闘種族だ。古の時代に魚やイルカやクジラを狩猟して生きてきたこの種族は、知的生物として陸へ進出するにあたって、戦闘力を生かした傭兵となった。戦争。紛争。内戦。テロ。ありとあらゆる鉄火場に現れた彼らは、海での狩猟経験に基づく組織的な戦闘ドクトリンを生かし、大量の外貨と膨大なコネクションを得る。
オットセイ強し。その風評は瞬く間に広がり、種族としての最強はオットセイだというオピニオンが世間に形成される。だが順風満帆な傭兵ライフとは裏腹に、オットセイたちは焦りを持っていた。傭兵として活動するだけではいずれ行き詰まる。度重なる実戦を経たオットセイたちは種族が置かれた状況を正確に把握していたらしい。
ならば、と傭兵で得た金とコネを存分に用い、今度は悪徳に満ちた軍需産業に乗り出した。最強の傭兵はセカンドキャリアとして裏の世界で非人道的武器を売り捌く最悪の武器商人となる。悪辣な武器商人として始まったオットセイたちのビジネスは、百年そこらの時を経てより洗練された。
度重なる資金洗浄。政治献金。恐喝。誘拐。拷問。暗殺。世界各地の戦場で培った血塗られた技術をビジネス拡大のために情け容赦なく活用した。傭兵活動の支援目的で結成されたオットセイたちの互助組織は、やがて“セイオーマート”という巨大企業へと変容する。
搾取による低価格な日用雑貨や食用品から始まり、個人携帯火器や紛争用兵器、あとは麻薬と臓器。ありとあらゆる裏社会のアイテムをコーディネートした。扱う商品に垣根はない。金になるなら何でも用意して売った。それゆえにセイオーマートは暗黒巨大ショッピングモールの二つ名で嫌悪され、同時に畏怖される。
オットセイは強かった。平均体高二メートル超。体重二トン弱。完全な肉食性。極めて好戦的。最強の戦闘種族。それがオットセイである。だが強いだけなら恐ろしくはない。単純な強さだけを拠り所にするならば人喰いカマキリの方が上だ。オットセイが種族として最強と謳われる所以。恐ろしさ。それは何といっても種そのものが一丸となって暴力を振るう強固な組織力にこそあった……。
時は流れる。厳しい冬はとうに終わった。雪は消え去り、例年の通り暖かな季節が訪れる。気づけば四月も半ばを過ぎていた。何気なしに空を仰ぐと視界の端に淡い色の花弁がそよぐ。桜だ。暴力とは縁遠い土地で桜が咲き誇っていた。とある商店街に続く道に植えられた並木の桜が満開を迎えている。
風に煽られて散ったのだろう。落ちた花びらで地面がピンク色に染まっていた。血の気配などそこにはない。穏やかな日差しが注ぐぽかぽかとした春の昼下がりの光景だった。
よく晴れた陽射しを謳歌する桜並木を道沿いに辿れば、大した時間もかからず近隣では多少名の知れた商店街に辿り着くことができる。商店街。老いたヨークシャーテリアが統べる小さな勢力だ。春の盛りを迎えた商店街は活気に満ちていた。八百屋。服屋。クリーニング店。薬局。お団子屋。和菓子屋。ゲームセンター。肉屋。パン屋。居酒屋。本屋。レンタル裏ビデオ屋。様々な店が立ち並ぶ商店街の通りを真っ直ぐに歩けば、日常生活に必要な物資をおおよそ揃えることができる。周辺地域の根幹をなすエリア。それが商店街だ。大規模な経済活動とは言えないが、それでも商店街は確かな賑わいを見せていた。
そんな平和な商店街に――
ぶぉんぶぉんぶぉおおおおおおん!
――凄まじい爆音を轟かせるヤクザ高級車が迫る!
それも一台や二台ではなかった。数十台だ。ああ。何たることか。堅気の商売では明らかに購入できないカスタム仕様のヤクザ高級車の軍勢が平和な商店街にカチコミを仕掛けてきた。
ヤクザ高級車の群れは商店街の入り口を閉鎖するかのように傍迷惑な縦列駐車を行う。春の昼下がりに轟いた爆音に住民たちは各々で反応を示した。
「なんだこの音は? 暴走族の親戚か?」
「見るからに暴力的な気配を漂わせるあのヤクザ高級車の群れは一体……?」
「団体のお客さんか」
「違う! お客さんじゃない! あれは、オットセイだ!」
「オットセイの群れが攻めてきたぞ! 総員警戒態勢を取れ!」
「オットセイだ! オットセイが来やがったぁ!」
「戦えない女子供は避難させろぉおお! 戦える連中は武器を取って表に出るんだぁああ!」
暴走族が裸足で逃げ出すヤクザ高級車の恐ろしい爆音。耳を劈く暴力のビートを聞いた商店街の住民たちは避難誘導と警戒を並行して行う。彼らの動きには訓練の跡を多少見つけることができる。とはいえ所詮素人の動きだ。一般人の段取りとしてはそこまで悪くないがプロ軍人の俊敏さとは比べ物にならない。
事実として、ヤクザ高級車の「ぶろろろろろろぉん! ぶろろろろろぉおおおおおおおおおおん!」という恐るべき嘶きが静まるのと素人丸出しの商店街住民たちがようやく警戒態勢を整えたのはほとんど同時だった。緊張感漂う商店街に一瞬のしじまが訪れる。
ふと気づけばヤクザ高級車の群れは大人しくなっていた。静けさが訪れたことでこの場の脅威は去ったのであろうか。否。これからより恐ろしい脅威が現れるのだ……。
ばたーん!
凄まじい膂力でヤクザ高級車のドアが開け放たれた。
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
そして“暴力"が出現する。
ヤクザ高級車の爆音と比してなお一層の根源的な恐怖を掻き立てる暴力的な音がこの場に響いた。仮に心の弱い女子中学生が近所にいれば、びっくりした挙句の心停止で即死していたかと思われる。恐ろしい怒声だった。
オットセイ。
世界最強の戦闘種族――オットセイの群れがこの場に現れた。
商店街の入り口を塞ぐように駐車されたヤクザ高級車からオットセイたちがぞろぞろと降りてくる。出現したオットセイたちは、どいつもこいつもバリバリに糊の効いたヤクザ背広を身に纏っていた。極大の暴力を見る者に想起させる装いだ。
軍人を思わせるスピード感で車から降り立った凶暴極まるオットセイの群れの後方。そこにはひと際大きなヤクザ高級車が聳えていた。
ヤクザリムジンだ……!
おうおうおうと凶暴に吼え立てるオットセイのなかで、眼鏡をかけた一人のオットセイがヤクザリムジンの後部ドアを開く。
「どうぞ。親分」
恭しく開かれた大きなドアから――突出して巨大なオットセイがぬるりと這い出た。ひと目見ただけで誰もが理解する。それは“暴力”の化身だ。極大の暴力の塊だ。
クジラの腑だって容易く引き裂けるであろう獰猛極まりないヒゲ。常人が纏えば皮膚から出血しそうなほどバリバリに糊の効いたパールホワイトヤクザ背広。
体高三メートル超。体重六トン超。最強の戦闘種族オットセイを統べる――親分級オットセイである。
「おうおうおう。いいお日和じゃねえか」
春の日差しを浴びた親分級オットセイが口を開く。親分の言葉に呼応したオットセイたちは弾かれたチャカのように動き始めた。巨体に似付かわしい鈍重さなどない。素晴らしい敏捷性で機動したオットセイたちは、絶対の支配者たる親分を導く雪囲いのように整列した。
「ひ、ひぃいいいいっ!?」
「に、逃げろぉおおおおお!」
「うわぁああッ! 喰い殺されりゅぅうう」
商店街の住民たちが情けない声を漏らす。肉眼で認識した親分級オットセイの恐ろしさに心が折れてしまっていた。この一瞬で住民の何割かは失禁と脱糞を伴って逃走する。また何割かはその場で失神した。
「おうおう。さあて。商談と行こうか」
配下のオットセイを並べた親分級オットセイ――“オヤブーン”は、たっぷりの脂が蓄えられた巨体を揺らして悠然と進む。
今日は四月の半ば。商店街に事前通告していた立ち退きの最終日である。平和で牧歌的な雰囲気を漂わせていたこの商店街は、なんとオットセイに狙われていたのだ。
圧倒的で絶対的な暴力の気配で春の平和を踏み潰したオットセイたちは、商店街を物理的に潰すためこの場に現れた。ずしん。ずしん。親分級オットセイことオヤブーンに従属するオットセイたちが進軍する。強靭な外皮のなかにたっぷりの脂を蓄えたオットセイたちの足音は、耳にした者の心をそれだけで枯れ枝のようにへし折った。無人の荒野を行くかの如く商店街の道路を踏み潰してゆくオットセイらの眼前には、商店街を守らんとする哀れな抵抗勢力たちが陣取る。
涙ぐましい警戒態勢で武器を手に取るか弱い彼ら彼女らと会話ができそうな距離でオットセイの群れは立ち止った。
そして群れの先頭に立つオヤブーンが――
「おうおうおうおうおうおうおうおうおうおうおうッ!」
――凄まじい凶暴さを滲ませた怒声を迸らせる。
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
彼に率いられるオットセイたちも追従して吼えた。凶悪極まる暴力性を滲ませて……。
「ひぃいいい!?」
「おわ!?」
「無理だー!」
「オットセイに勝てるわけなぁあ!?」
オヤブーンの怒声に真正面から相対した一般人たちの反応は様々だった。その場で失神する者。恐怖のあまりへたり込む者。逃げ出す者。少なくとも怒声に対して怒声を返そうとする者は誰一人としていなかった。この世界におけるオットセイは凄まじい凶暴さと暴力性を兼ね備えた完璧な戦闘種族である。相対しただけで老いた小鳥の骨を思わせて反抗意欲が粉砕される。
「親分。どうぞ」
「おう」
じゅッ。ぼう。眼鏡をかけた配下のオットセイが手際良くナイフで切った葉巻に、傍らに侍るもう一人のオットセイが高級マッチ棒で火をつけた。オヤブーンの側近――若頭級オットセイたちだ。すぱー。オヤブーンは葉巻を美味そうに吸う。恐ろしいほどに彼はリラックスしていた。高級な煙と共にオヤブーンは暴力的な言葉を吐く。
「段取りの悪い連中だぜ」
オヤブーンはこの上なくリラックスし、そして苛立っていた。
「今日は立ち退きの期限日だ。さっさと荷物をまとめて出ていきな」
葉巻の煙をオヤブーンは旨そうに貪る。そんな親分級オットセイの背後――
「ぶろろろろろろろぉおおおおおおおん!」
――整列した軍勢の背後から巨大なインテリジェンスロードローラーが複数台現れる。相当に大型の個体だ。
インテリジェンスロードローラー! 読者諸君はこの種族をご存じだろうか。
インテリジェンスソードというものがある。意思を持つ刀剣だ。インテリジェンスロードローラーとはインテリジェンスソードのロードローラー版と考えて問題なかった。
商店街を今すぐ更地にする気満々のインテリジェンスロードローラーたちは各々で適度なウォーミングアップを開始する。彼ら彼女らが準備を整えるあいだにオヤブーンは二本目の葉巻に手を付けた。じゅッ。ぼう。一本目の葉巻はとうに灰と化している。凄まじい肺活量だ。
「お前らが立ち退き次第、この商店街を更地にしてハイウェイにする。そういう段取りになってる。新規オープン予定の“セイオーマート”に繋がる道路になれるんだ。嬉しいだろう?」
すぱー。オットセイらの大規模経済組織の最高権力者オヤブーンは商店街を更地にする旨を躊躇うことなく宣告する。オットセイたちは単に商店街の利権を奪おうとしているのではない。更地にしてからハイウェイにしようというのだ。何という暴力性!
金と暴力を背景にした恫喝に商店街の住民たちは何を思うか。
「ふざけるな! この商店街は先祖代々受け継いできた由緒ある商店街なんだ!」
「そうだそうだ。ぽっと出の暗黒巨大ショッピングモールなんかより温かみのある商店街の方がいいに決まってる!」
「野蛮なオットセイは出ていけ!」
「うちの店はオットセイお断りだ! 海に戻って魚でも捕ってろ!」
オットセイたちの背後で作業前のアップを行うインテリジェンスロードローラーたちの姿に危機感を覚えたのかもしれない。オットセイに対する恐怖をかろうじて乗り越えた商店街有志たちはオヤブーンへの反論を言い募った。
「おうおうおうおうおうおうおうおうおうおうおうおうッ!」
有志たちの囀りをオヤブーンは一喝する。
「ひぃいいいいいい!?」
「オットセイ怖いよぉおおおお!」
「オットセイに勝てるわけないだろ! 俺はおうちに帰らせてもらう!」
貫目がまるで違った。有象無象を黙らせたオヤブーンは鼻から煙を吐いてから暴力を前提とした脅しを継続する。
「お前らは商店街を売って立退料を得る。俺たちオットセイは平和的にこの商店街を頂いてハイウェイにする。交渉として何度も話したはずだ。簡単な話だろ? 理解したか? これはビジネスだぜ」
オヤブーンの狂暴な口から上等な煙と共に放たれたのはあまりにも傲慢な物言い。すぱー。二本目の葉巻が灰と化した。じゅッ。ぼう。これで三本目。異常な肺活量だ。
「何がビジネスだ! このビジネスヤクザめ!」
あまりにも暴力的な言い分に我慢の限界が来た商店街有志の青年がついに声を上げる。悪辣な暴論を振り翳すオットセイのヤクザな在り様に彼は憤っていた。青年は一人突出する。戦斧を構えて。
「俺は大学時代に対ヒグマ白兵戦部に所属していたんだッ」
春の昼下がり。屈強な青年がオットセイに迫る。身長百九十センチ。体重百十五キロ。大学時代の彼は対ヒグマ白兵戦部員として汗を流していた。構えた戦斧の握りはなかなか堂に入っている。並みのヒグマなら仕留めることができるはずだ。青年にはパワーとガッツがある。流石は大学時代にヒグマと戦っていただけはあり、白兵戦で彼に勝てる“素人”はそういないだろう。鍛えた肉体を十全に操る彼は、大上段に構えた戦斧を先頭のオットセイ――オヤブーンに向けて振り下ろした。
会心の一撃。
並みのヒグマを一刀両断できるほどの威力がオヤブーンに叩き込まれる。
「…………」
青年が繰り出した必殺の一撃と相対する親分級オットセイは身動きしない。瞬きすらしていなかった。まさか反応できなかったとでも言うのか。
ばぃいいいいいん!
そうではない。反応する必要がなかったのだ。親分級オットセイの強靭な外皮と分厚い脂肪は、大学時代に対ヒグマ白兵戦部に所属していた青年の戦斧の一撃を軽々と弾き飛ばした。
「うぎゃぁあああああああああ!?」
ぶちぶちぶちぃいいい。弾き飛ばすだけではない。肉の凄まじい弾力によって、攻撃した青年の腕が両方ともいとも容易く千切れ飛んだ。
「何かしたか?」
すぱー。勝手に戦闘不能になった青年を退屈そうな目でオヤブーンは見下ろした。ハエが止まった以下のダメージすら与えられていない。比喩抜きに無意味な攻撃で文字通りの無意味な負傷だった。近所の青年の両腕が勝手に千切れ飛ぶというスプラッタな光景に薬局店主の奥さんが恐慌状態に陥る。
「ひ、ひぃいい!?」
錯乱した奥さんは、太腿のホルスターから愛用のハンドチャカを流れるような動きで引き抜いて構えた。即座にファニング。ババババババババ。高速連射だ。学生時代にハンドチャカ狩猟部でインターハイに出たこともある奥さんの腕は相当に良い。確かなトレーニングに裏打ちされた高精度の射撃がオヤブーンの背後のオットセイたちに浴びせられた。
ばいんばいんばいんばいんばいんばいん!
しかし、ああ、何としたことであろうか。薬局店主の奥さんが放ったチャカ弾丸はオットセイたちにばら撒かれて全弾ヒットした。ヒットした上で全て弾き返された。
「おうおうおう! 何かされたか?」
「おうおうおう! 俺は何も感じなかったぜ!」
「おうおうおう! ハエが止まったのかもしれねえな!」
薬局店主の奥さんから銃撃を受けたオットセイたちがゲラゲラと嗤う。怒りの笑いではない。嘲笑の嗤いだ。チャカをまともに受けたにもかかわらず、強靭な外皮と分厚い皮下脂肪のおかげでオットセイたちは完全にノーダメージだった。これがオットセイである。
「ひぃいいいいいいい!?」
がちゃこん。薬局店主の奥さんのファニングが無効化されたのと時同じくしてオットセイの強さを見て恐慌状態に陥った男子高校生がロケットランチャカを肩に担いだ。ロケットランチャカとは無反動でロケット弾を射出する兵器である。オットセイへの恐怖のあまり彼は錯乱していた。確かにこの少年は高校でロケットランチャカ部に所属している。部活の練習で習っているのでロケットランチャカの扱いにはある程度慣れていた。だが使用者のメンタルが崩れた状態で火を噴いたロケットランチャカはあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。
ばうッ。ぴょいん。
「おうおうおう」
ばぃいいいいいん!
錯乱した男子高校生が放つ狙いが逸れたロケットランチャカ弾頭。三トンの巨体を蚤のように跳躍させてそれを追いかけたオヤブーンは、普通に二次被害が出そうだった弾頭を自らの腹で受け止めた。クリーンヒットしたロケットランチャカ弾が空中で炸裂する。爆発を浴びた親分オットセイが凄絶に着地した。
どしーん!
「近所迷惑だろ。ちゃんと狙えあんちゃん」
ロケットランチャカの直撃を受けたオヤブーンは、強靭な外皮と分厚い脂肪のおかげで当然のようにノーダメージだった。女子供のロケットランチャカで手傷を負うオットセイなどいない。世界最強の戦闘種族の異名に違わぬ凄まじいタフネスだ。
「ああぁ。もうダメだ……」
「やっぱりオットセイになんて勝てるわけねえよ……」
「商店街を捨てて他の働き口を探そう……」
オットセイの圧倒的な戦闘力を見せつけられた商店街の住民たちの心が折れてゆく。これがオットセイの手口だった。
オットセイは世界最強の戦闘種族である。しかし同時に巨大企業を運営するビジネスマンでもあった。現代社会に適応した彼らは無駄な暴力を不用意に振るわない。圧倒的な暴力性と同時にクレバーな冷静さも兼ね備えていた。
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
「おうおうおうおうおう!」
絶望する商店街住民たちへ向け、オットセイの群れが怒声を浴びせる。巨大な暴力を想起させる鳴き声だ。あえて手を出さないことで心を折る。これなら弾薬代も節約できるし後のゲリラ化も防ぐことができた。最新のオットセイタクティクス。後の支配統治で有効な恫喝手段だ。クレバーなやり口と言えよう。勝敗はここに決した。
そして勝敗が決したこの場に超大口径のチャカ弾頭が音速の五倍の速度で飛来する。
「おごぁ!?」
捉えたのはオヤブーン――の側頭部。装甲車両の前面を貫通する超威力の狙撃をまともに喰らったオヤブーンは、突風に煽られた大型クレーンが崩れるように倒れ行く。巨大な肉と丈夫な外皮が商店街メインストリートのアスファルトに打ち付けられる音が響いた。遠方の建物の二階から長身の紳士がその様を双眼鏡で覗く。
「頃合いだ! 訓練の成果を発揮しろ! 武芸者たちよ!」
同時。スピーカーモードにしたスマホに向けて国亜商事の支配者――玖忍が叫んだ。
そう。この場が整えられた時点で死合の勝敗は既に決していたのだ。オットセイたちの敗北という形で……。