【スターウォーズ】ロスト・エンパイア 作:バケツ頭 小説もどき家
緑の月エンドア。
太陽の光は無数の葉に遮られ、細かな光の筋となって森の底へ降り注ぐ。地面は厚く積もった落ち葉と苔に覆われており、踏みしめても音はほとんど立たない。倒木には鮮やかな緑の苔が張り付き、名も知らない虫や鳥達の鳴き声が森に木霊していた。
TK-4413とTK-7821、それからTL-1142。三人のトルーパーはゆっくりと森の中を進んでいた。E-11ブラスターライフルを両手にしっかりと握りしめ、野生動物の声や風の囁きに耳を傾けるTK-4413。先頭を進み、地面を這う虫や泥を避けつつその手に持った端末を注視するTK-7821。医療品が入ったバックパックを背負いながら静かに二人の後に続くTL-1142。
彼らの任務は単純だった。無茶なバイカーの尻拭いだ。自信過剰のスカウト・トルーパーが森の奥深くで事故を起こし、救難ビーコンを送ってきたのだ。既に負傷したスカウトトルーパーのバディが側にいるそうだが、搬送の為には応急処置と人手が必要だ。
スカウトトルーパー救出程度なら一個分隊もいらない、三人で十分だろう。それが上の“合理的”な判断だった。
TK-7821。彼はコア・ワールドの都市惑星出身で、この月に配属される前までは落ち葉一つ触れたことがなかった。空以外の自然を肉眼で目にしたのはシャトルからエンドアに降り立った初日のみ。このまま月での任務を空調の効いた基地内で退屈に過ごすのかと思っていた彼にとって“選抜隊”への抜擢は予想外の出来事だった。
海賊との小競り合いで出来たアーマーの右胸のブラスター痕は彼の誇りで、修復せずにそのままにしている。
「端末を見すぎて転ぶなよ」
「……分かってるよ」
彼の相棒のTK-4413はアウターリムの片田舎出身だ。空を飛び交うエアスピーダーの列や光輝く夜景に驚き、複雑な都市システムに不満を述べる彼をTK-7821はよく笑い、からかったが、今では立場が完全に逆転している。
「目的地までおぶってくのはごめんだからな」と笑うと、TK4413は後ろを振り向いた。「ついてきてるか?」
「ええ、何とか」
TL-1142。部隊内で一番若い彼女は正式な衛生兵ではないものの、応急処置と看護を任せられている(“押しつけ”られたといった方が正しい)元々は大学の奨学金の為に入隊したらしい。
「二人のどちらかが荷物を持ってくれたら私としては凄くありがたいんですがね」
「ハハッ、任務を放棄するな。ルーキー。お前に与えられた責務だろ」
「後少しの辛抱だ」TK-7821が言った。「もう少しでビーコン信号の発信地点に到着する」
「了解」
TL-1142は短く返事をすると、背負った医療パックの位置を直し、空を見た。
巨大な木々の隙間から見える宇宙要塞。
第二デス・スター。
未完成の骨組みを宇宙空間へ晒しながら、それでもなお圧倒的な威圧感を放っていた。エンドアの空に浮かぶその姿は、まるで人工の月だった。
「完成はいつになるんでしょう?」
「ああ?──ああ」
TK-4413は立ち止まり、ルーキーの視線の先を見つめた。
「さぁな。だが工事はかなり進んでる。情報筋の話によると、完成は間もなくだって話だ」
「上に友達でもいるのか?」
TK-7821は二人に近づいて笑った。
「いるんだったら俺達をこの衛星から脱出させるよう頼んでくれ」
そして、さりげなくTL-4413が背負っているバックパックを外し、その手に持つ。
「あっ、どうも」
「いいって」
TK-7821はバックパックを背負うと、先に進んだ。
「行くぞ」
「了解」
TL-1142はTK-4413を見た。
「良かった。親切なベテランが“一人”はいて」
肩をすくめるTK-4413。
三人は森の中を進み続けた。
◇
後少しで目的地だというところでTK-4413が急に立ち止まった。
「止まれ」
ヘルメットの通信装置が二人に4413の声を届ける。
「どうした?」
TK-7821が振り向く。
「声がした」
TK-4413は森の奥を睨んでいた。
「近いぞ」
「声?」
TL-1142は耳を澄ませる。しかし、何も聞こえない。
「何も聞こえませんが……ふっ、あなたの勘違い──」
「静かに」
TK-4413はルーキーを遮り、ライフルを構えた。
その声は先程までの軽口混じりのものではない。
森で育った者特有の、獣道へ踏み込む猟師の声だった。
TK-7821はすぐに端末を腰へ戻し、E-11を構える。
三人は音に集中する。
森の静けさが急に重く感じられた。
耳を傾けていると、微かに音が聴こえてきた。
物音ではない。何かの鳴き声だ。
その声は不安と悲痛に満ちていた。
三人は顔を見合わせた。
「……一体何なんでしょう?」
「さぁな。だが、我らがバイカーのわめき声ではないことは確かだ」
TK-4413は低く答えた。
再び鳴き声が響く。
今度は先程よりはっきり聞こえた。
TK-7821は二人にハンドサインを出し、横隊の隊列を作る。
──前進。
右手を前に出すTK-7821。三人はライフルを構え、慎重に森の奥へ進み始めた。
落ち葉を踏み、湿った倒木を跨ぎ、巨大な木の根の間を抜ける。霧が装甲服の白い表面を薄く濡らし、枝葉から落ちる水滴が肩当てを小さく叩いた。
鳴き声は徐々に近づいてくる。
今度は怒鳴るような響きで、その声は近い。
目の前で揺れる物体。何かが巨木に吊り下げられ、揺らめいている。
三人はライフルの射撃モードを安全から殺傷に変更した。
「……こいつは一体?」
声の発生源まで近づいた時、TK-4413が笑い混じりに呟いた。
巨木に吊り下げられ、鳴き声をあげる一匹の原住生物足首に縄が絡まり、毛むくじゃらの身体が枝からぶら下がっている。
“それ”は三人に気づくと、目を見開き、さらに激しく暴れ始める。
「ウブッ! ウブウブーッ!!」
毛むくじゃらの小柄な生物は逆さ吊りのまま必死に暴れ、吊り縄がぎしぎしと音を立てる。
「何だよ、この毛むくじゃら」と、TK-4413。
「しらん。お前のほうが詳しいんじゃないか? こういうの物知りだろ?」
「流石にこんなのは知らねぇよ」
「この星の原住生物ですよ……ただの噂だと思ってた」
TL-1142は言った。
「……かわいい」
「かわいい? この毛むくじゃらが?」
TK-4413は呆れたように言った。
「危険性はあるのか?」と、TK-7821。
「ないはずです。この星の他の生物に比べたら知的で文明的な種族のようです」
「知的で文明的ね……」
TK-4413は逆さ吊りになっている原住生物を見て、鼻で笑った。
「とてもそうは見えないが」
「少なくとも脅威ではなさそうだ」
TK-7821はライフルの射撃モードを安全に切り替えた。
「目的地に急ぐぞ」
「ああ」
「ちょっと待って……! このまま行くんですか? 彼を放置して?」
「ああ、触らぬ神に祟りなしだからな」
TK-4413は言った。
「下手に触って噛みつかれでもしたら面倒だ」
「でも、このままじゃ死んじゃいますよ!」
TL-1142は逆さ吊りになった毛むくじゃらの生物を指さした。
「助けてやりましょうよ」
「嫌だね。俺達はもっとやる事があるんだ。そんな毛むくじゃら──」
「……いいだろう」
TK-7821が了承した。
「えっ?」
TK-4413は思わず相棒を見た。
「本気か?」
「数分で済む話だ。それに、ルーキーがこのまま延々と罪悪感を引きずる方が厄介だ。後で恨まれるよりいい」
「そうですよ」
TL-1142は即答した。
「お前らなぁ……」
TK-4413は呆れたようにヘルメットを振った。
毛むくじゃらの原住生物は、三人のやり取りを不安そうに見下ろしている。丸い黒目が忙しなく動き、鼻先がひくひく震えていた。
「で、どう助けます?」
「えーと、待ってろ……確か装備に縄を切る──」
「こうしちまえば早いさ」
TK-4413はライフルを構え、撃った。
原住生物の悲鳴。
ドサッと落ちる音。
縄を切られ、原住生物は仕掛けごと地面に落ちた。
「問題解決」
「ちょいと乱暴すぎやしませんか?!」
声を荒げるルーキーと、呆れたように首を振る相棒。
「何だよ。罠から解放すればいいんだろう?」
「まったく」
TL-1142はしゃがみ込み、原住生物の様子を確認する。毛むくじゃらは縄が絡まった足をバタつかせている。
「待ってて……今切ってあげる」
「俺がやる」
TK-7821はバックパックからブレードを取り出した。
「切ってやる」
原住生物はびくりと身体を震わせたが、抵抗はしなかった。
「動くなよ」
TK-7821は淡々と言いながら刃を縄に当てた。
数秒後、最後の縄が外れた。
毛むくじゃらの原住生物は自由になると、直ぐに後ろへ走り、木の陰から三人を睨みつける。。逃げるでもなく、襲いかかってくるでもない。ただ警戒の視線を三人に向けていた。
「警戒してるようだ」と、7821
「助けてもこれだもんな」
と、TK-4413。
「行こうぜ、早いとこ任務に戻ろう」
「ああ、そうだな」
TK-7821はルーキーの肩を叩く。
「行くぞ」
「……ええ」
原住生物を心配そうに見つめた後、TL-1142は小さく手を振って、ベテランの後に続いた。
残された原住生物はじっと三人の後ろ姿を見ていた。
(助けられた……命の借り……)