警報。
屋上の空気が変わる。
カインが通信機を耳に当てる。
「状況」
即座。
通信越しに落ち着いた声。
シーラスだった。
『テムズ川沿い建設現場。』
『クレーン倒壊。』
『高層部作業員取り残し。』
『救助対象四名推定。』
ブレイズがもう前に出る。
「行くぞ!!」
「ブレイズ」
カイン。
「先走らない。」
「うっ……はい。」
エアロは少し驚く。
返事。
早い。
そのまま三人は空へ飛び出した。
⸻
ロンドン上空。
風が速い。
ブレイズは一直線だった。
考えるより先に身体が動いているみたいな飛び方。
速い。
熱い。
真っ直ぐ。
その少し後ろ。
カイン。
静か。
安定。
風と喧嘩しない飛行。
エアロは自然とその二人を追う。
……速い。
でも。
追える。
風が教えてくれる。
⸻
『現場映像接続。』
シーラスの声。
『右支柱不安定。』
『上層部二名。』
『中腹一名。』
『内部反応曖昧。』
『煙が強い。』
現場が見えた。
崩れた鉄骨。
粉塵。
悲鳴。
傾いたクレーン。
ブレイズ。
「オレ上行く!!」
「頼む。」
カイン即答。
連携が速い。
ブレイズが爆発的加速で上層へ向かう。
カインがエアロを見る。
「見える?」
エアロ。
目を閉じる。
風。
熱。
煙。
空気の流れ。
……いる。
「三人。」
「上二人。」
「中腹一人。」
「……あと。」
風の奥。
わずかな呼吸。
小さい。
不規則。
「内部。」
「一人います。」
通信。
一瞬沈黙。
シーラス。
『センサー不明瞭。』
『だがエアロ判断優先。』
カインが笑う。
「いいね。」
「エアロ。」
「内部救助。」
胸が少し鳴る。
初現場。
初指示。
「……はい。」
「大丈夫。」
カインの声。
落ち着いていた。
「君のピンチには私たちが駆けつける。」
「だから。」
「行っておいで。」
エアロは頷く。
内部へ飛び込んだ。
⸻
熱い。
視界が悪い。
鉄骨が軋む。
でも。
風が道を作る。
……いた。
「大丈夫ですか!?」
作業員。
脚が挟まれている。
意識あり。
救急優先。
エアロは風を操作する。
荷重。
重心。
ほんの少しだけずらす。
持ち上がる。
抜ける。
成功。
『崩落予兆。』
シーラス通信。
『十五秒。』
カイン。
『エアロ。離脱。』
「了解!」
作業員を抱える。
上昇。
崩落。
その直前。
ブレイズの火炎が鉄骨を弾き飛ばした。
「新人!!」
「ナイス救助!!」
エアロ。
少し息を吐く。
着地。
救急隊へ引き渡す。
カインが近づく。
「お疲れ様。」
ブレイズ。
「初現場でやるじゃねえか!」
エアロは少し首を傾げた。
「……まだですよ。」
二人。
「?」
エアロ。
現場を振り返る。
風。
煙。
……いる。
小さい。
震えてる。
金属音の奥。
「まだ。」
「残ってます。」
そのまま。
再び飛ぶ。
「エアロ!?」
ブレイズの声。
内部。
狭い鉄骨の隙間。
震える小さな影。
灰色の猫だった。
「……あ。」
猫。
警戒。
威嚇。
でも。
逃げられない。
エアロはゆっくりしゃがむ。
「大丈夫。」
「迎えに来たよ。」
風を弱める。
安心させるみたいに。
少しだけ。
猫が鳴いた。
⸻
数分後。
現場外。
エアロが猫を抱えて戻ってくる。
ブレイズ。
沈黙。
カイン。
数秒無言。
通信越し。
シーラス。
『……猫。』
エアロ。
「はい。」
「救助対象です。」
ブレイズ。
「いや……。」
「そうだけどよ……。」
カイン。
少し笑う。
優しく。
誇らしそうに。
「いいヒーローだね。」
エアロは猫を抱えたまま。
灰色の空を見上げた。
……綺麗だね。
WINDWARDの空は。