救急隊員が猫を受け取ろうとして。
少し困った顔をした。
「……えっと。」
「この子も救助対象なので。」
真面目な顔で言うエアロ。
猫。
腕の中で小さく鳴く。
ブレイズ。
数秒黙る。
「いや。」
「そうなんだけどよ。」
「そうなんだけど……。」
カインは静かに笑った。
風で少し髪が揺れる。
「いい救助だった。」
エアロ。
「ありがとうございます。」
「ただ。」
カイン。
少しだけ現場を見回す。
「任務は。」
「救助して終わりじゃない。」
ブレイズが即座に理解する。
「あ。」
エアロ。
「……あ。」
通信。
シーラス。
『ようやく気付いた。』
『現場管理。』
『二次崩落確認。』
『報告。警察連携。周辺安全確保。』
『仕事は残ってる。』
ブレイズ。
「行くぞ新人!!」
炎が弾ける。
「現場ヒーローの仕事は!!」
「ここからだ!!」
⸻
二十分後。
現場封鎖。
負傷者確認。
救助隊引き継ぎ。
周辺避難誘導。
エアロは少し息を吐いた。
……終わった。
と思った瞬間。
『終わってない。』
シーラス。
即通信。
『書類。』
エアロ。
「……書類?」
『救助報告書。』
ブレイズ。
顔が死んだ。
「あー……。」
エアロ。
「?」
カイン。
「WINDWARDへ戻ろうか。」
その言い方が。
少しだけ優しかった。
少しだけ。
諦めた人の声だった。
⸻
WINDWARD事務所。
夕方。
ロンドンの空はオレンジ色だった。
エアロは窓の外を見る。
……綺麗だね。
事務所内。
ブレイズ。
机に突っ伏している。
「書類嫌いだ……。」
通信モニター越し。
シーラス。
『現場は突撃。』
『書類は瀕死。』
『いつものこと。』
「うるせぇ!!」
カインが書類を整理しながら笑う。
「ブレイズ。」
「報告書。」
「あと二枚。」
「鬼か……。」
「違う。」
シーラス。
『法令遵守。』
「お前ほんと容赦ねえな!!」
エアロは少し笑った。
……変な事務所だ。
でも。
嫌じゃない。
その時。
カインが一枚の紙を差し出す。
「エアロ。」
「初任務報告書。」
エアロ。
「……はい。」
受け取る。
数秒。
沈黙。
ブレイズ。
横から覗く。
「どうした?」
エアロ。
ゆっくり紙を見る。
そして。
「……何を書けばいいんですか?」
沈黙。
一秒。
二秒。
三秒。
ブレイズ。
爆笑。
「ははははは!!」
「新人ーーーー!!」
「そこからか!!」
通信越し。
シーラス。
『予想通り。』
カインは少し肩を揺らして笑った。
「大丈夫。」
「教えるよ。」
椅子を引く。
「座って。」
エアロ。
少し驚く。
「……はい。」
カインは報告書を開いた。
「救助人数。」
「状況。」
「判断理由。」
「危険要因。」
「次回改善点。」
エアロ。
書きながら少し考える。
……改善点。
風が窓を揺らした。
「……もっと。」
「速く状況判断できたと思います。」
カイン。
「うん。」
「他は?」
エアロ。
少し悩む。
ブレイズ。
横から。
「あと。」
「最初に猫探し始めたらオレ止める。」
「え。」
「冗談だ。」
少し笑う。
「……半分。」
エアロ。
「救助対象だったよ?」
「分かってる。」
ブレイズ。
椅子にもたれる。
「分かってるけど。」
「優先順位。」
「それも現場だ。」
エアロ。
黙る。
カイン。
穏やかに続ける。
「今日の判断。」
「私は良かったと思う。」
エアロ。
顔を上げる。
「でも。」
「もっと経験を積めば。」
「助けられるものは増える。」
静かな声。
押し付けない。
でも。
ちゃんと前を向かせる声。
「私の個性にできて。」
「君の個性にできないことはない。」
エアロは少し笑った。
……いいね。
その時。
事務所警報が鳴る。
ブレイズ。
「は?」
シーラス。
通信。
『都市南部。』
『空域異常。』
『未登録飛行体。』
カインの空気が変わる。
穏やかなまま。
でも。
ヒーローの顔になる。
「……エアロ。」
「はい。」
「二件目だ。」
ブレイズ。
立ち上がる。
笑う。
「歓迎会は後回しだ新人!!」
夕焼けのロンドン。
風が少し強くなっていた。