魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:火星人マーズ

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劇場版ボスに取り入ったら、何故か全員に重く愛されてるんだが?

 

「おうぇぇぇっっっ」

 

 開幕の濁音付きの嗚咽は誰だって?

 

 俺だよ。吐いてるんだよ、言わせないで欲しい。

 

 あまりのストレス過多な状況に、胃の中全部吐き出す。全て吐き出したのに吐き気が止まらないから、胃酸まで出して喉が痛くてすっぱい臭いがする。

 

「はぁ……はぁ……うぷっ、なんでこの場に《ヤミノマ》が現れるんだよ」

 

 『魔法少女マギアイリス』。

 

 それは前世で一世を風靡した超人気アニメの名前だ。

 

 若い少女たちがミラクルパワーと呼ばれる不思議な力で魔法少女へと変身し、世界を脅かす悪の組織と戦う――そんな、王道の女児向け作品。

 明るい作風に、可愛らしい魔法少女たち。どこかユーモラスな敵を相手に、笑って泣いて成長していく。

 

 子どもたちに人気が出ない訳がない。

 

 

 そんな世界に俺──須佐八雲は転生した。

 

 

 『魔法少女マギアイリス』には敵組織がいる。

 

 《ディスナンド》。

 

 数々の惑星を征服した侵略者だ。

 

 そして彼らが行使する、人間の負の感情を集める《ヤミノマ》という存在。そいつらは、負のエネルギー……人々の恐怖や苦痛といったものを集める為ならなんだってする。

 

 今だって、家ほどの大きさの《ヤミノマ》が、悲鳴を上げる人々を追い回し、壊れた玩具みたいに街を踏み潰していく。

 

 それがこの世界の日常だ。

 

 とはいえである。流石に子どもたちが見るアニメなので、そんな人がばんばか死ぬような展開はなかった。

 

 ……が、それはつまり死なないだけであり、当然記憶した耐え難い精神的苦痛(トラウマ)は残るわけで。そもそも、奴らの目的が《ヤミノマ》を利用して負のエネルギーを集めることなのだから。恐怖も、絶望も、苦痛も、奴らにとっては全部必要な過程なのだ。

 

 そう。考えれば当たり前のことだった。

 

 なのに俺は、楽観視していた。

 

 所詮は女児向けアニメだと。

 

 悪の組織は世界を闇に染めるだの、絶望の音楽で地球を包むだの、大層なことを口にしても、結局は魔法少女に倒される存在。大したことはないのだと。

 

 わかっていなかった、理解していなかった。

 

 ゆるい作画と明るい作風に騙されていたが、その実態は異世界の侵略者との生存競争だ。子ども向けだと舐めていたのは俺の方だった。

 

 ある日突然、人間よりも大きな存在が明確な悪意を持ってこちらを害するために襲いかかってくるんだぞ?

 

 ふざけるなよ、普通に怖いに決まっているじゃないか!

 

 しかも、当然こちらには防衛手段がない。

 

 何故ならこの世界は魔法少女が活躍する世界。漢である俺が戦える道理がない。

 

 それでも魔法少女が《ヤミノマ》さえ倒してくれたら、襲われていた恐怖といった感情もミラクルパワーで消し去ってくれる。

 

 だが、俺にはその力が効かなかった。

 

 なんで、と思うがおそらく転生というイレギュラーのせいだろう。異なる世界の魂が混ざった結果、ミラクルパワーの作用を受け付けなくなった

 

 つまり俺は──ずっと《ヤミノマ》から受けた精神的苦痛(トラウマ)を忘れることができない。

 

 次はいつ、あの苦痛を味わうことになる?

 

 《ディスナンド》はいきなり現れて《ヤミノマ》を放つ。そこに予兆も前触れもありはしない。そして負のエネルギーを集める為に襲い掛かってくるのだ。その度に、俺はまたあの地獄を味わうことになる。

 

 怖い。

 

 怖くて堪らない。

 

 いつか来る魔法少女の助けを、待つことしかできない。その間の恐怖も、俺は忘れることができない。魔法少女にも、頼れない。

 

「おれ自身がなんとかするしかない……だが、どうやって……」

 

 男は、魔法が使えない。

 

 当たり前だ。

 

 『魔法少女マギアイリス』というタイトル通り、この世界で選ばれるのは少女だけだ。

 

 くそっ。年若い女の子たちが輝く為の世界観が、完全に俺に牙を剥いている。

 

 未来の主人公たちに守ってもらうにしたって、その時代になるのはまだ10年先。それまで《ヤミノマ》に出会わずに生活できるか?

 

 無理だ。

 

 確かに魔法少女は他にもいる。

 

 だけど、それはモブで主人公らみたいに確実に《ヤミノマ》に勝てる保証はない。そもそも、ミラクルパワーの庇護を受けられないのに、そんな彼女らに助けを求めたところで意味がない。

 

 頼るなら《ヤミノマ》を確実に倒せる強者だ。

 

 でも、そんなストーリーに影響がなく、尚且つ強い人材なんてそうそういる訳が……

 

「……いる(・・)!」

 

 劇場版(・・・)。或いは映画版(・・・)

 

 古今東西、人気アニメや長寿アニメとなると映画が作られる。

 

 例にも漏れず『魔法少女マギアイリス』も劇場版が上映されていた。

 

 流石に全ては観てないが、映画だけは行くという家庭も少なくなかった。そうして上映された数々の映画。名作、迷作、駄作……色々と作られてきた。

 

 この話の論点は、その映画ボスたちは、本編勢力に属していないということだ。

 

 奴等を味方にする。

 

 これだ、これしか無い。

 

 何故なら映画のボスは、悲しき過去を持つ者が多かった。

 

 純粋な悪人……悪役もいるがその割合は低い。これも、あくまで女児向けのアニメだからだろうが、どうでも良い。

 

 正直いくらボスを担ったキャラとはいえ、ほとんどが女の子(・・・)

 

 そんな少女らに守ってもらおうとすることに、忸怩(じくじ)たる思いがない訳ではないが、あの恐怖を身に感じた今となっては手段を選んではいられない。

 

 俺が生き残る為に。安寧に生きる為。

 

 利用できるものはなんだって利用してやる……!

 

 

 

 

 

 

 

「ボス。ねぇ、ボス。お膝の上に行って良い?」

 

「のう、主様よ。はよう、ワガハイを使って《ヤミノマ》共を根絶やしにせんか? なに、ワガハイと主様ならば造作もなかろう?」

 

「《魔法執行機関》もこちらを嗅ぎ回っている。やれやれ、金にもならんことを良くやることだ。自らの利権を守ろうと必死らしい。ですがご安心を。奴らが何をしようと、マスターには指一本触れさせません。金の力でねじ伏せてみせましょう」

 

「あーっはっはっは! 実に刺激的でファンタスティックじゃないか! 魔法少女と《ディスナンド》、二つの陣営から同時に睨まれるなんて、流石は我らがスターだね!」

 

 なんかすっごい慕われているんですけど。

 

 しかも、どうやら魔法少女側と《ディスナント》側の両組織から敵視(マーク)されているらしい。

 

 俺の安寧はどこへ……?

 

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