魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:火星人マーズ

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風羽凪沙

 

「……なんか寒気がしたな。もうちょっと厚着をすべきだったか?」

 

 わいわいがやがや、歩く人々の喧騒が絶え間なく聞こえる今日この頃。

 

 俺が今いる場所は、星見ヶ丘の観光スポットが一つ《天川ストリート》。

 

 おしゃれなカフェから、高級なお食事処。カジュアルなファッションショップから流行最先端のトレンドアイテムを揃えるアパレルショップまで。本屋に、映画に、食事に、ゲームセンターに、なんでもござれの正に星見ヶ丘を代表する観光名所だ。

 

 実際『魔法少女マギアイリス』では、此処に訪れるお話も数多く存在した。夏は七夕、冬はクリスマスツリーだって飾られるしね。

 

 そこのポール時計の下で俺は待ち人を待っていた。

 

「お久しぶりです、先輩(・・)

「あぁ、久しぶりだね。凪沙(・・)

 

 声をかけてきたのは、うなじにかかるくらいのふんわりカットの髪にベレー帽。肩出しノースリーブに、スリットのある黒いタイトスカートを履いた一人の女性。

 

 風羽凪沙。

 

 俺が中学の時の後輩だ。高校生になってから、会うのはかなり久しぶりだ。

 

 なぜなら、何を隠そう彼女こそ、現存する魔法少女の中で最古参にして、現役最強の魔法少女アネモス(・・・・・・・・)

 

 つまり、天照焔と月詠澪の先輩にあたる。

 

 もっとも、彼女自身は『魔法少女マギアイリス』でも次の2ndシーズンからの登場だった為、今の時点ではあの二人と面識はないだろう。

 

「先輩?」

 

 それにしても、まさかこのタイミングで凪沙から誘いの連絡が来るとは思わなかったが。

 

 だが、俺としても改めて凪沙と会えるのは望むところだった。そう思った俺は、渡りに舟とばかりに凪沙の誘いに乗った。

 

 黙って考えていた俺を、首を傾げた凪沙が問いかける。

 

「あぁ、すまない。随分と雰囲気が変わったね。思わず見惚れてしまったよ」

「当たり前ですよ。私もこの春から高校生になったんですから。それで先輩、何かいうことはないんですか?」

 

 くるくると、何かを見せつけるようにその場で回転する。

 

 彼女が何を求めているのか察した俺は、笑みを浮かべながら口を開く。

 

「すごいね。凪沙によく似合っている。確かその帽子とか、最新のファッション誌に載っていたやつじゃないか?」

「ふっふっふ、わかりますか? その通りです。運良く手に入れることができたのですよ」

「流石陸上部。流行だろうと先端を走るのは得意だね」

()、ですよ。今はもう違いますから」

 

 そう言って少し寂しそうに笑う凪沙。

 

 やはり魔法少女になって、高等部にあがってから完全にやめてしまったのか……。頑張っていた凪沙を知るだけに物悲しい気持ちになる。

 

「すまない、不躾(ぶしつけ)だった。その代わりと言ってはなんだけど、実はプレゼントがあるんだ。受け取ってくれるかい?」

 

 俺は懐から包装紙に包まれ、可愛らしいリボンも巻かれたプレゼントを取り出す。

 

「わぁ、良いのですか? ありがとうございます。中身を見ても?」

「あぁ、もちろん」

「では失敬しまして、……ってえ!? これってあの大金持コーポレーションの出している限定のバックじゃないですか!? 売り切れ続出で、手に入らない〜って友達も言ってましたよ!?」

 

 まぁ、これもツテによるものだから俺個人の力という訳ではないが。それでも、凪沙が喜びそうなモノを最近の女性向け雑誌を見て選んだ代物だ。

 

「一目見た時に、凪沙に似合いそうなバッグだと思ってね。気に入ってくれてよかったよ」

「い、いやいや受け取れませんよ!? いくらすると思っているんですか!?」

「なら遅めの卒業祝いと入学祝いだとでも思ってくれ。先輩としてカッコつけたいのさ」

「……先輩、まさか他の女子にもこうやって口説いているんじゃないですよね?」

「まさか。そんな訳ないさ。後輩の中で一番仲が良い凪沙くらいさ」

 

 実際、寧々子ら俺の同胞や焔ちゃん達を除けば、歳の近い友人は限られている。

 

 俺の方が、来たるべく《ディスナンド》との戦いに向けて映画ボスの救済に動いていたから、あまり学校の方で交友関係を広げてこなかった。中学の時も、部活にも入らずに駆けずり回っていた。

 

 凪沙以外にも何人か中学の時の後輩らと連絡はとっているが、会うまでは至らない。そのくらいの距離感だ。

 

 だからこうして会ってくれる後輩には、可愛がりたい。

 

 そう思っていると凪沙に、はぁ〜、とため息を吐かれた。

 

「そーゆー態度、よくないですよ。私でなくちゃ、勘違いしてしまいますから」

「そうか?」

「そうですよ。もうっ」

 

 呆れたようにぷりぷりと怒られてしまった。喜んでくれると思ったのに、少し悲しい。

 

「ありがとうございます。大切に使いますね」

「気に入ってくれてよかったよ。……それにしても意外だな」

「何がですか?」

「いや、こうして凪沙の方から誘ってくれると思わなかったからね。最近、忙しかったんだろう? そっちは落ち着いたのかい?」

 

 実は俺の方でも何度か凪沙を遊びに誘ったことがあるが、その(ことごと)くが断られた。毎回、こちらが逆に申し訳なくなるほどに謝られたのを覚えている。

 

「えぇ。大丈夫です。ご心配をおかけしました。その頃は色々と立て込んでまして……」

 

 多分魔法少女関連だろうなぁ。『魔法少女マギアイリス』はあくまで主人公目線で語られているだけで、《ヤミノマ》自体は昔からずっと発生しているし。

 

「《ヤミノマ》めぇ。本当になんであのタイミングばっかりで出てくるのよぉ……! 先輩との貴重な時間をことごとく邪魔してきてぇ……!」

 

 何やら不服そうに小さな声で呟く。まぁ、聞こえてるけど。やっぱりそうだったか。

 

 中学の頃からちょくちょく凪沙は、姿をくらませることがあった。しかも大抵学校のイベントがある時に。十中八九《ヤミノマ》相手にゴタゴタがあったのだろう。

 

 実際『魔法少女マギアイリス』シリーズじゃ、夏祭りやクリスマスだと必ず《ディスナンド》が邪魔してくるしな。

 

 ニチアサのお約束(・・・)とも言える。

 

 もっとも、邪魔される側はたまったもんじゃないが。

 

 大抵のイベントに参加出来ない凪沙を不憫に思った俺は、何かと理由をつけては彼女に接触して、交流を図った。結果、それなりに友好関係を結ぶことができた。こうして別の高校に通うのに、いまだに連絡をとるくらいに。

 

 無論、魔法少女側の情報を知れないかという打算があったのは間違いないが、それ抜きでも楽しい思い出を作ってやりたかった。

 

「さ、ならそろそろ行こうか」

「そうですね。それじゃあ、どこから行きます?」

「実はもう色々とプランは考えているんだ。エスコートは任せてくれよ」

「……やっぱり手馴れていません?」

「さぁどうだろうね」

 

 映画ボス達を自陣に引き込む際に、色々と下準備をした経験からこの程度のことは造作もない。

 

 訝しむ凪沙にとぼけながら俺は彼女を連れ、天川ストリートを歩き出したのだった。

 

 俺の今日の目標は、魔法少女アネモスとしてどこまで無頼(おれ)のことを知っているのか、確かめることだ。無頼として名乗ったのは、魔法少女サンシャインとオーロラミストだけだが、以前から活動して自体はしていた。

 

 これを機にどれほど知っているのか、探りたいものだ。

 

 

 

 

 

「すごかったですね、あの映画! アクションシーンもさることながら流れてくる音楽も綺麗で!」

「あぁ、流石は話題作なだけはあるな。特にあのプールのシーン。元々漫画の方も良かったが、映像化したことでより魅力が際立っていた」

「わかります! あそこで二人の仲がグッと縮まったんですよね」

 

 普通に楽しんでしまった。

 

 元々凪沙が楽しめるように、彼女好みのプランを考えていた。結果、想像以上に楽しんでもらったようで、映画を観た後の食事の最中もまだその映画の感想で、話が弾んでいた。

 

「此処の料理も美味しいですし、先輩よく知っていましたね?」

「あぁ、知り合いに教えてもらってね。値段も高校生の財布には優しいんだ」

 

 エビと明太子のスパゲッティを、フォークで巻きながら口に運ぶ。ぷりぷりとしたエビの食感に、明太子の辛味が混ざり合って美味い。

 

 因みに凪沙の方は、カルボナーラだ。一口食べるたびに、凪沙は顔を綻ばせる。お気に召したようだ。

 

 その後、会話もそこそこに、注文していたものが食べ終わる。凪沙はメニューのデザートと睨めっこしている。

 

「デザート……あ、ここチョコレートもあるんですね。どうしましょう」

「チョコレート……。そういえば間違ってビターチョコを食べた凪沙の顔は、今でも覚えているな。この世の全ての憎しみを煮込んだみたいな顔だった」

「ちょっと!? やめてくださいよ! いつの話しているんですか!?」

「中3の頃の話かな。いやぁ、あの頃のことは今でも思い出せるよ」

 

 普段キリッとした凪沙がそれはそれはすごい表情だっただけに、記憶に強く残っている。あの時は思わず大笑いしてしまった。

 

 懐かしんでいると、凪沙がむっすぅとした顔をしたのが見えた。

 

「決めました。リベンジします。私はこれをいただくことにします」

「凪沙!? からかったのは悪かったから無理しないほうが」

「いいえ、します。すみません、店員さん! このウイスキーボンボンをください」

「いや、ウイスキーボンボンってアルコール入ってるよ? 流石にいきなりそれは無理あるって」

 

 それに対して凪沙は自信ありげな顔をする。

 

「知ってますか、先輩。私は既に16歳なんですよ? そもそも、ウイスキーボンボンは確かにアルコールが入ってますけど、未成年でも食べて良いんです。大人になった私の魅力、みせてあげますよ!」

 

 

……

 

………

 

「せんぱぁ〜い、あれせんぱいがふたり……さんにんいるぅ! すご〜い! あはは、ひとりくらい持って帰ってもおこられないぃ、やったぁ〜!」

 

 知 っ て た。

 

 そこにはべろんべろんに酔った凪沙が完成したのであった。

 

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