魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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魔法少女アネモス、見参

 

 生憎の曇り空。曇天の隙間から零れる月明かりが、川沿いの廃工場をぼんやりと照らしている。

 

 かつては働く人々の声で賑わっていたのだろう。だが今では錆びた鉄骨と崩れかけた外壁だけが残り、人の気配はない。川の流れる音だけがやけに大きく聞こえる。

 

 夜に訪れるには少々不気味な場所だ。

 こんなところに近付くのは、よほどの物好きくらいだろう。

 

 まぁつまり、俺のことだ。

 

「終わりだ」

《ヤ、ヤミノマーッ!》

 

 トンカチの形をした《ヤミノマ》が、その持ち手が折れて跡形もなく消えていく。その姿を見た俺は、ふぅと息を吐いた。

 

《やれやれ《ディスナンド》も暇なんじゃな。こんな辺鄙なところにまで《ヤミノマ》を仕向けるとは》

「どうだろうね。むしろ切羽詰まっているからこそ、なのかもしれない。非効率でも、わずかな人間から負のエネルギーを集めないといけないほどに」

 

 《ヤミノマ》を始末した後に、日本刀となったムラサメがカタカタと鞘を鳴らしながら語りかけてくる。

 

 今更だが俺のメインウェポンである妖刀ムラサメだが、人間形態と刀形態の二つある。

 

 刀形態の時はわかりやすく、《ヤミノマ》を切り裂くことができる。

 

 逆に人間形態の場合、ムラサメは刀としての特性を一切使えない。自由に動けるだけ。つまるところ、ただ口うるさいのじゃロリになるのだ。

 

《おい! また失礼なこと考えておるじゃろ!》

「いやいや、そんなことないさ」

《ふんっ。本当かのぉ? ワガハイがいなければ主様が《ヤミノマ》と渡り合うことなんてできないのじゃぞ。それをわかっておるのか?》

「無論、理解しているさ。俺が戦えるのは君のおかげだ」

 

 男である俺はミラクルパワーを扱えず、ムラサメを使うことで《ヤミノマ》に対して対抗手段を得ている。

 

 じゃあ、そもそもなんでムラサメが《ヤミノマ》に対抗出来るのか。

 

 古来より呪いや祟りという言葉があるが祟りも呪いも、謂わば人間の負のエネルギー。つまりは、《ディスナンド》が集めているものと同等ということ。

 

 〝妖刀(・・)〟ムラサメ。

 文字通り、過去数多くの人命を奪った妖刀であり、染みついた数多の負のエネルギーの集合体が形を得たのがムラサメだ。それにより、負のエネルギーを喰らう(・・・)ことができる。まさにこれ以上ない、対《ディスナンド》用の武器だ。

 

 話を戻して、ここ最近《ヤミノマ》数が急増していた。

 

「《ヤミノマ》の出現率が高まっている、か。大金持(・・・)の報告通りだ」

《どうやら、よほど向こうの幹部がやられたのが腹に据えかねたようじゃの。その下手人を(あぶ)り出そうとしておる。或いは、《ヤミノマ》の強化のためか。おかげで魔法少女も対応に追われ気味じゃ。人手が足りておらん》

「当然。だからこう出歩いているんじゃないか」

 

 元々『魔法少女マギアイリス』、《二人のオーレオール》が始まってから、目に見えて星見ヶ丘では《ヤミノマ》の出現率が増していた。

 

 ここ最近は特に多い。おかげでこうして魔法少女が対処できない、漏れ(・・)が出てしまっている。

 

 前日の夜に焔ちゃんと澪が出歩いていたのも、その対応に追われてだろう。

 

 やはりアクラーツを倒した影響か。

 

 だが、かろうじて朗報があるとしたら悪知恵の働くアクラーツがいなくなったことで良くも悪くも現れる《ヤミノマ》は力押し、つまりは数で補おうとする。

 

 結果、人通りの多い所ではなくこうした人気のない場所に、召喚された後に野放しにされていることが多々あった。

 

 しかも召喚したは良いが、人気が無さすぎて、肝心の負のエネルギーも集められていない有様だ。

 そしてそれは、肝心の《ヤミノマ》を使役できる幹部がいないという証左に他ならない。

 

 現に人が多い箇所でなく、こんな廃れた工場に《ヤミノマ》を仕向けている時点で統率で奴らも混乱しているのがよくわかる。

 

 何せ残りの《トライデント》は二人とも頭脳戦に長けていない。脳筋と変な美学を持った奴なのだ。

 

 ……よく考えなくても《ディスナンド》、よく幾つもの惑星を闇に包めたな。

 

 世界を暗闇にするという割には、シリーズ全体でも構成員は総勢二十人未満だぞ。

 しかも、この星以外の銀河系は大抵制圧できたとはいえ、この広大な宇宙に闇をもたらすには人員不足にもほどがある。

 

《のう、主様よ。見られておるぞ》

「あぁ、そのようだね」

 

 さて、そろそろ気付かないふりはやめておくか。

 

 先程から感じる視線。

 

 それに気付かない訳がない。俺はわざと広い空間の方へ歩みを進めて、足を止めた。

 

「そろそろ姿を表したらどうだ? それとも、こっちから出向くのが好みか?」

「……その出立ち、間違いない。貴方ですね。例の《トライデント》のアクラーツとやらを始末したという人物は」

 

 声は上から聞こえた。

 放置されているクレーン車のクレーン先端部分に立っている人影。月光を背に、滔々(とうとう)と語りかけてくる。

 

 やがて曇天の雲が途切れ、月光が話しかけてきた者の正体を映し出した。

 

 衣装の所々に、鳥の羽のような装飾や装い。

 

 何よりも目立つのはキュッと引き締まったお腹周りとは対照的に、むちむちな太ももと服の上からでもわかる大きなお尻。それに、やたらとスリットがあって、肌の露出面積の多い格好。

 

「正義の御旗をたなびかせ、悪しき闇を吹き飛ばす! 魔法少女アネモス!」

 

 名乗りと共に、風が(いなな)いた。

 

 それは正に、正義降臨というべき威風を携えた風格がある様であった。魔法少女であれば感嘆し、《ディスナンド》であれば思わず唸るほどの風格。

 

 で、俺はというと。

 

「すぅ〜……きっつぅぅ……、よりによって凪沙かぁ……」

 

 思わず顔を覆って、小声で呟いた。

 

 突然だが、魔法少女の姿は際どい姿であることが多い。

 

 とくに魔法少女はお腹を出しがちだ。なんなら、腋も見える衣装であることも『魔法少女マギアイリス』では、よくあることだ。

 

 例に漏れず、魔法少女アネモスの衣装も際どかった。しかも、焔ちゃんや澪といった中等部ではなく、高等部なので発育もそれ相応に成長している。具体的には胸と尻がきつそうだ。

 

 その上で、魔法少女アネモスを語る上で避けられないのがある。

 

 

 

 彼女の腹筋(・・)だ。

 

 

 

 元陸上部であるが故に、明らかに割れているのがよくわかってしまうのだ。公式イラストでも、都度ネタにされるほど立派に割れている。なんなら、公式イラストはまだデフォルトされていたんだなってくらいだ。

 

 しかも衣装がヘソだしなので、隠さずに(さら)け出している。

 

 凪沙が前日あれだけ泣いたのも、然もありなん。魔法少女の衣装は、映画とかでスペシャルフォームとかにならなければ、最初の衣装で固定だしな。

 

 いや、繰り返すが様になってはいるんだよ? 露出が多いとはいえ、魔法少女アネモスの衣装はスマート寄りだし。普通にカッコいい。

 

 でも、あれ俺の後輩なんよ。

 

 そして俺は凪沙の普段の姿も知っている訳で。昨日会ったばかりだし。

 

 普段は清楚でおとなしい格好をしているのに、魔法少女となった途端に開放感溢れる格好はその、目のやり場に困る。

 

《ぶひゃひゃひゃひゃ! なんじゃあやつ! 魔法少女はどいつもこいつもキテレツな格好じゃが、あやつのは最早痴女ではないか!》

 

 物凄い品のない笑い方をするムラサメ。

 

 あと、きみも人のこといえた格好じゃないと思う。そんな風に現実逃避していると、凪沙がじっとこちらを見ていることに気付いた。やべ、なんかアクションしないと。

 

「魔法少女アネモス。現役最強の魔法少女か。なるほど、とんだ大物が来たものだな。だが悪いが、もう用事は済んだんだ。見逃してくれると助かる」

 

 努めて冷静を装いつつ語りかける。

 

 そもそも《ヤミノマ》も既に討伐終えている以上、此処に留まる意味はない。

 

 とっとと退散しよう。そう思ったんだが、踵を返した先に遮るように凪沙が着地する。うおっ、みえ……じゃなかった!

 

 帰り道塞がれたんだが?

 

「用はないと言ったが?」

「あなたになくても、私にはあります。この星見ヶ丘では《ヤミノマ》を、魔法少女がたどり着く前に消されていることが数多くありました。誰がやったか、どのような手口で倒したのかわからない、『影なき死神(ペイルライダー)』と私たちが呼んでいる存在……それは貴方ですね?」

 

 なにそれかっこよ!

 

 『影なき死神(ペイルライダー)』って、俺は《魔法執行機関》でそう呼ばれてるの!? いつの間にそんな風に名づけられたんだ。

 

 いや、ほんとうにかっけぇな!

 

《のう、主様よ。なんか喜んでおらぬか……? 主様も、男の子よのぉ》

 

 おっといけね。

 俺の心の中の男の子な部分の高揚がムラサメにもダイレクトに伝わってしまった。

 

 今の状態だと文字通り俺とムラサメは一心同体の関係だから、内心はともかく感情の起伏はムラサメにバレてしまう。

 

「何を笑っているのですか?」

 

 むっ、とした顔でこちらを見てくる凪沙。

 

 いけない、にやけを抑えようとしたら不敵な笑みみたいな感じになってしまった。誤魔化さないと。

 

「なに。態々そんなコードネームをつける余裕があるとは、《魔法執行機関》とやらは随分と暇なのだと思ってな」

「なっ、どこでその名前を……!」

 

 あかん、墓穴掘った。

 

 《魔法執行機関》は一般人には周知されてないんだった。こちらを見る目が厳しくなる。だめだ、ちょっと迂闊が過ぎた。俺の少年心のせいでピンチになった。

 

「やはり貴方は詳し過ぎる。先の《トライデント》なる存在も知っているような口ぶりだったという報告に、《魔法執行機関》まで……。申し訳ないですがご同行を願います」

「断る、と言ったら?」

「当然、力づくで。本当はこの力は《ヤミノマ》に向けるべきモノであり、怪しいとはいえ人に向けるものではないのですが……。上からの指示で『影なき死神(ペイルライダー)』の件についてせっつかれていますので」

 

 あぁ、わかるよ。

 

 公務員の辛いところだよね。魔法少女って公務員なのか知らないけど。しかし、そうか。《魔法執行機関》に目の敵にされていたのか。

 

 なんでだ、俺は別に何も悪いことしてないぞ。敵対的な行動も今は(・・)してないし、むしろこうして魔法少女が対処できていない《ヤミノマ》を狩ってるくらいだ。

 

「やれやれ、女の子を斬る趣味はないのだがな。だが、我が道を阻むというのであれば、断ち切らせてもら」

「〝ウインドウキック〟ッ!」

 

 判断が早いって!!! まだ言葉最後まで言えてないよ!

 

 一気に距離を詰められる。そのまま乱気流のような風を(まと)った蹴りが、俺の顔面に向けて放たれた。殺意高いなオイ! 俺はすぐさまムラサメで受け止める。

 

《ぬぅ、重いのう》

 

 唸るように呟くムラサメ。 

 

 本当にね。しかも風を纏っているせいで、ガリガリとチェンソーみたいに削るような衝撃まで来ている。すげぇな、単なる蹴りとは思えない威力だ。

 こんなの食らったらミンチになるぞ。やっぱ現役最強の魔法少女なだけはある。

 

《賞賛しとる場合か? 相手は、現役最強の魔法少女。《ヤミノマ》以上の脅威じゃぞ。紛れもなく、これまで戦ってきた中で最強じゃ》

 

 確かにそうだね。

 

 きみと俺ならば、切り拓けない未来はないだろう?

 

《くはははっ! 言いよる! じゃが、その通りよの! ワガハイと主様であれば斬り通せぬモノなぞない!》

 

 機嫌良く笑うムラサメ。よしよし、戦意も充分だ。

 

「悪いが先に刃を抜いたのはそちらだ。抵抗させてもらうぞ」

「もとより織り込み済みです!」

 

 風が唸る。俺はムラサメを構えた。

 

 凪沙と戦うのは初めてのことだ。現役最強の魔法少女の実力を、確かめさせてもらうとしよう。

 




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