魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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vs 魔法少女アネモス

side:凪沙

 

 『影なき死神(ペイルライダー)』。

 

 それは《魔法執行機関》でまことしやかに囁かれている存在。

 

 曰く、何処からともなく現れては《ヤミノマ》を狩る存在。

 曰く、その姿を見た者は居らず監視カメラにも映らない。

 曰く、その手際は鮮やかで極めて短期間で《ヤミノマ》を駆逐する。

 

 眉唾な話ではあるが、確かなのは《ヤミノマ》を倒せる存在だということ。

 

 《ヤミノマ》を倒せる存在、それは魔法少女に他ならない。

 

 だからこそ、《魔法執行機関》も『影なき死神』の仕業と思われる痕跡があれば、付近に出歩いていた少女はいないかと探し回った。それだけ強力な魔法少女、是非とも接触したかった。

 

 結果は空振り、いつまで経っても正体は掴めなかった。

 

 このことから余程用意周到な魔法少女だと、目されていた。

 

 でも、その考えは覆された。

 

 新米魔法少女サンシャインとオーロラミストからもたらされた報告。『影なき死神(ペイルライダー)』は、男だった。

 

 すぐさま《魔法執行機関》は接触するように、私にも命じた。

 

 ……命じるだけの立場の人は良いわよね。こっちは砂漠の中で針一本を探すようなものなのに。ただでさえ、自由な時間が少ないのに。

 

 そのせいで、先輩と会う時間もない。

 せっかく久々に昨日会えたのに、全然良いところを見せられなかった。それどころか……うぅ、思い出したら恥ずかしくなってきました。

 

 そんな時、肌でピリリとした感覚が走った。

 

「また《ヤミノマ》? こんなところで……もう」

 

 《ヤミノマ》を召喚できる《トライデント》のアクラーツという者が『影なき死神(ペイルライダー)』によって始末されたとサンシャインとオーロラミストに聞いて以降急激に《ヤミノマ》の発生率は増えた。

 

 もっとも、強力な《ヤミノマ》ではないし、そもそも人気(ひとけ)の少ないところに現れたりと杜撰なものではあったけど。それでも放っておけば、人が襲われる可能性がある。

 

 《ヤミノマ》の気配を感じて、すぐさま現場に急行すれば、件の男がそこに居た。

 

 如何にもな素性を隠す目元だけの仮面に、肩と腕を覆う武者鎧めいた装備。そして腰に差した日本刀。まるで時代錯誤の侍みたいだ。

 

 けれど、会えたのはよかった。

 

 そうして警戒をしつつ彼と会話をする。

 

 更に言葉を交わすと向こうは私が《魔法執行機関》の者であると気付いていた。その時点で警戒を強めた。《魔法執行機関》は一般人には知られていない組織だったから。

 

 だからこそ、私は対象との接触から捕縛へと切り替えた。 

 

 その判断は間違いだと思っていない。

 

「〝ウィンドカッター〟!」

 

 だから間違っていたのは。

 

「無駄だ」

 

 最小限に、自分に迫ってくる風の刃だけを鞘に納めた日本刀で打ち払った。容易く打ち消された己の技に、冷や汗が流れる。

 

 ──男の強さが想定以上だということだ。

 

「っ……! これも受け流されますか。なら……!」

 

 私はすぐに動揺を打ち消し、切り替える。そのまま彼の周囲を旋回するように走り出す。

 

「〝ウィンドミル・スラッシュ〟!」

 

 何度も蹴り上げることで放つ、不可視の風の刃の連撃。走りながら放つことで、あらゆる方向から『影なき死神(ペイルライダー)』へと迫り来る。

 

「む、まずいな……」

 

 『影なき死神(ペイルライダー)』は、初めてそう呟くと同時に自ら目を閉じた。

 

 そしてあの日本刀の縁頭(ふちがしら)の部分に小さな火が灯った。攻撃に利用する訳ではない、謎の行動に微かに疑問に思う。

 

「なっ……!?」 

 

 そしてすぐさま目を疑った。

 

 『影なき死神(ペイルライダー)』は、背後から迫る〝ウィンドミル・スラッシュ〟を、見もせずに身体を逸らすことで躱した。それだけじゃない。複数の、周囲を旋回しながら放たれた風の刃の連撃を、すべて最小限の回避だけで避け切る。

 

「まさか、そんなことが」

 

 震える声。目の前の光景を信じられない。

 

 目を閉じたのは、風によってもたらされる火の揺らぎをわずかでも肌で感じ取るために、自ら視覚を封じたというの?*1

 

 なんて男なの……!

 

「随分と手荒いじゃないか。魔法少女の力は、《ヤミノマ》に向けて行使するもので人に向けて使うモノではないと君自身が言っていたはずだが?」

「冗談を。私の攻撃を防いでおいて、何を言っても説得力がないですね。まさに『影なき死神(ペイルライダー)』に相応しい呼び名の強さです」

「む、これでも一般的な男性のつもりなのだがな」

 

 確かに出立ちは怪しいが、服の上からわかる肉体も鍛えあげられている。でも私は油断しない。

 

 あの日本刀。

 

 純白な鞘とは裏腹に纏わりつく気配(・・)。それに対して私の本能が警鐘を鳴らしていた。

 

 あれは《ヤミノマ》以上の危険物だと。鞘から抜かれていないのに、感じる気配は邪悪そのもの。まるで《ヤミノマ》が集める負のエネルギーを濃縮したような存在感。見ているだけで気分も悪くなる。

 

 そしてそれを難なく扱っているあの男に対して、警戒をしない訳がない。

 

「このままでは(らち)があきません。ですので、もてる最大の技であなたを捕らえます」

 

 『影なき死神(ペイルライダー)』の強さは、この数分でよくわかった。あれは培われた強さ(・・・・・・)だ。敵と戦う時に、どのようにすれば攻撃が当たらないのか熟知した動きだ。センスによるものじゃない。

 

 『影なき死神(ペイルライダー)』の攻撃はすべてあの日本刀に依存しているけども、あの動きだけは自らの技術だ。

 

 一体、どれくらいの間戦い続けてきたの……?

 

 5年か、10年か。

 

 これまで存在が割れていなかったことを考えると、ともすれば私以上に《ヤミノマ》を葬ってきた可能性が高い。そしてそれは、私の魔法少女としてのキャリアを遥かに(しの)ぐ相手だということ。

 

 そんな相手に持久戦は分が悪い。今は向こうが防御に徹しているから拮抗しているだけで、向こうが反撃し始めたら、均衡が崩れる可能性が高い。

 

 なら、その前に決着をつける。

 

 今の私が持つ最大火力で押し通る。

 

 即断即決。

 

 最短で道を走り抜く。それが私の流儀。

 

 私の良い所は、思い切りが良い所だって先輩(・・)が褒めてくれた長所。だから迷わない。

 

 剣の振る速度が速すぎるのなら、それが関係ないくらいの面で制圧する。

 

 

 ──先輩、どうか私に力を貸してください……!

 

 

「舞うは風のうねり、奏でるは大気の輪唱──」

「その構えはっ」

「〝ウィンドストーム〟!」

 

 驚いたような声をあげるけど遅い。

 

 上空に手を掲げ、振り下ろすと同時に巻き上がる竜巻。ミラクルパワーが共鳴して、風の周りに花が弾ける現象が巻き起こる。

 

 勿論、付近の工場まで吹き飛ばさないように威力を抑えているけれども、これでもう相手は風の檻に閉じ込まれて、出ることはできない。

 

 勝利確実。これで倒れなかった《ヤミノマ》はいない。

 

「だというのになぜ……っ!」

 

 だけど、どうしてか不安が拭えなかった。

 

 そしてその予感は的中する。

 

 

「〝禍災烈祓(かさいれっぷう)〟」

 

 

 静謐な声と同時に、竜巻が炎を纏った。

 

 いや、違う。

 

 炎に風が焼かれてる(・・・・・・・・・)

 

 サンシャインとオーロラミストから聞いていた《ディスナンド》の幹部を包み込み焼き尽くした紫の炎。

 

 思わず腕で顔を覆い、やがて炎が収まると同時に件の男の姿が見えてくる。

 

「随分と手荒いじゃないか。おかげで手札を一枚切ることになってしまった」

 

 当然のように、無傷。

 

 その光景に、私は冷や汗を隠せない。

 

 無理に抜け出そうとした《ヤミノマ》を切り刻む必殺技を、『影なき死神(ペイルライダー)』は容易く振り解いた。

 

 その強さに戦慄する。《ヤミノマ》を生み出していたという《トライデント》のアクラーツを倒したという、その手腕は紛れもなく本物だと、芯の髄まで理解できた。

 

「この人、私よりもッ……!」

 

 戦慄する私とは対照的に、男は自らの身体についた汚れを払う。

 

「きみがすべきだったのは俺を閉じ込めることではなく、風の力で圧倒することだった。だが、最大の技でありながら俺を捕縛するのを目的に、威力を弱めていた。随分とお優しいことだ」

「皮肉ですかっ……!」

「いいや、事実だとも。……ほんとうに、それだけの努力を重ねてきたんだな」

 

 なぜか、こちらを(ねぎら)うような言葉に怪訝(けげん)な表情をしてしまう。男は誤魔化すように、咳払いをする。

 

「とはいえ、これ以上は暴れすぎだ。先の竜巻で流石に他の魔法少女も集まってくるだろう。あまり人目につきたくない。ここらで決めさせてもらおう」

 

 『影なき死神(ペイルライダー)』が腰を低くし、一度抜いた刀身を鞘に納め柄に手をかける。その構えを、私は知っている。

 

 居合切り。

 

 最速の剣術。これまで受けばかり回っていた相手の初めての攻勢の構え。すぐさま距離を取って、攻撃に備える。

 

 相手が剣を抜いたと同時に、明らかに刀の長さ以上の紫の炎が、斬撃としてこちらに襲い来る。だから、私は回避した。それでも、吹き荒れる紫の炎が迫り来て思わず手で顔を覆うけども。

 

熱くない(・・・・)……? しまったッ!」

 

 あの炎はフェイク。派手な炎は、私から意識を逸らすため。

 私の〝ウィンドストーム〟が焼かれたからこそ、警戒していたのが仇となった。

 

 まんまとしてやられたことに歯噛みする。

 すぐさま男のいる方へ、攻撃を放つが空振る。

 

「今日はこれまでにしておこう。《ヤミノマ》を駆逐する魔法少女には今はまだ役目がある。これ以上の戦闘は、互いに不利益なのでな」

 

 その言葉を最後に、私が炎を吹き払った頃には『影なき死神(ペイルライダー)』の姿は消えていた。

 

 逃げられた、いや見逃された。

 

 久しく味わっていなかった敗北感。それが私を包み込む。

 

「『影なき死神(ペイルライダー)』……いえ、サンシャインとオーロラミストの話では、無頼という名でしたか。首を洗って待っていてください。必ずあなたは私が捕まえます」

 

 屈辱を噛み締め、私はそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「ぶぇっくしょん! くそっ、寒いし臭いし最悪だっ!」

《川に飛び込んで撒くとか力技にもほどがあるじゃろ! ワガハイも臭いんじゃが!? いやじゃいやじゃ、油でワガハイの刀身がぬるつくぅ!》

「どうやら工場からの廃液も混じっていたようだね……おぇ、気分悪くなってきた」

《おのれぇ、全てはあやつのせいじゃ! 主様、次会ったらぎったんぎったんにしてやれ!》

 

 憤るムラサメを宥めつつ、俺は凪沙にバレないように手早く離れていく。

 

「ここなら、大金持(・・・)の整備したインフラが使える。ちょうど良い、()にも会うとしよう」

 

*1
単に凪沙が激しく動きすぎるので、下着を見ないようにしただけ

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