魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
皆様への感謝を込めて、本日も更新いたします。
空に虹が架かることの多いことで観光地として有名な星見ヶ丘。
そこより西へと向かった場所に、ビル群が立ち並ぶオフィス街が存在する。その中でも一際大きく目立つビルが存在する。
何処からでも目に入るほど高いそのビルは、その威容を余すことなく周囲へと見せつけている。
俺はそのビルに、地下に張り巡らされた入り口から最上階までエレベーターであがる。
「お待ちしておりました、我がマスターよ」
俺を出迎えたのは見るからに高級な金のスーツに身を包む、髭の生やした男。
大金持 財参であった。
「ふぃ〜、さっぱりしたのう。お! 良いモノを用意してあるではないか。うむうむ、褒めてやるぞ!」
機嫌良さげにシャワーを浴びたムラサメが、大金持が用意した銘酒とつまみを楽しむ。見た目はのじゃロリだから犯罪臭半端ないな。実態は妖刀だし、年齢も俺たちの中じゃ一番上だけど。
とはいえ、サッパリしたのは俺もだ。
「いや、助かったよ。あの後逃げ切るために、きみの作ったインフラを使わせてもらった」
「現役最強魔法少女アネモスとの戦いであれば仕方ないかと。それに《魔法執行機関》の目を欺くとなれば、監視の目を潜り抜ける必要がございますから」
「そう言ってもらえると助かるよ」
本当、大金持が居てくれてよかった。
そうじゃなきゃ、俺の活動はもっと制限されたものとなっていただろう。
「貴方様の対戦した《ディスナンド》の幹部、《トライデント》の一人との戦闘データですが、解析は進んでおります。特に、アクラーツとやらが持っていた杖は興味深い。うまくいけば、奴らの《ヤミノマ》を生み出すメカニズムを解明できるかもしれません」
「流石だね。だけど、未知の技術というのは危険が付きものだ。熱意は買うけど、気をつけてくれよ。きみも、解析してくれている技術者たちも」
「ありがとうございます」
大金持は俺の言葉に、嬉しそうに微笑んだ。
「それと申し訳ない。これまで以上に、きみの整備した隠し通路を使わせてもらうことになりそうだ。きみにも負担をかけてしまうね、すまない」
「ご安心ください。この程度、何の負荷にもございません」
「しかし、《魔法執行機関》からの接触もあるだろう? 協力しろ、と」
まがいなりにも俺が今まで《魔法執行機関》に存在がバレていなかったのは、向こうが男が正体だと把握していなかったこと。それと、大金持が自らの企業を使ってインフラを整える傍ら、専用の隠し通路を至るところに整備してくれたからだ。
「たかだか《魔法執行機関》如きがこの私に手を出せるはずがございません。何せ、この国随一の大企業、大金持グループの総帥兼CEOの私に何が出来るというのでしょう?」
あまりにも不遜、傲慢な言葉だが彼にはそれを許されるだけの権力──いや、
劇場版『魔法少女マギアイリス』の5作目、『黄金の摩天楼/エル・ドラード』の映画ボスだ。
彼のコンセプトは『世界屈指の超金持ち』。そして、『魔法少女マギアイリス』では珍しい
金で買えないものはないと豪語し、経済界、財政界、政界、あらゆる界隈において影響力を持つ正に権力の権化。夢と希望を糧にする魔法少女とは対立する生粋のリアリストだ。
キャラクター説明では、《ディスナンド》の被害が発生し始めた時にインフラ企業にてその存在感を露わにし、瞬く間に他のインフラ企業を合併・吸収、あるいは廃業に追い込んで掌握した。
電力、水道、物流、交通、医療、建設、あらゆるインフラをだ。結果、大金持グループというものが出来上がった。国内流通資産の15%をグループで独占するという異常値。映画ボスでの異名は『金融王』である。
うん。
女児向けだからわかりやすい大金持ちとしても限度あるだろ!?
いや、ここが日本と全く同じ地形じゃないし、いろいろと変わっているのだろうけど、とんでもない資産だ。
まぁ、おかげで色々と便宜を図ってもらえるんだけどな。金の力ってすごい。
いやー、恩を売っといてよかったよかった。
俺が売った恩は、彼の恋人であり、
8年前、本来の歴史では彼は自らの恋人である魔法少女を失った。金さえあれば、権力さえあれば彼女を救えたと、後悔と狂気に取り憑かれた妄執の怪物が『金融王』の大金持だ。
恋人が魔法少女だったからこそ《ディスナンド》との戦いで矢面に立たされたと、魔法少女という存在そのものを疎み、自らがその力を掌握することですべてを支配しようと目論んだ。
それこそが魔法少女が
そして、それゆえに《魔法執行機関》に言いように使われている魔法少女たちを、贋作と称して排除しようと追い込んできた。
結果は映画ボスである以上わかりきっていた敗北。彼は、警察に捕まった。金と愛と狂った男、それが大金持 財参だ。
そんな男も今や見る影もない。愛妻家へと変化した。一度妻について口を開けば1時間は止まらない。
正直哀しき悪役としても有名なキャラクターだったし、やり方も強引で歪んでいたとはいえ、魔法少女を自ら管理する形で保護しようともしていた。だから、そんな彼が幸せを謳歌しているのであれば、これ以上のことはない。
……何故か映画の時よりも金持ちになっているのは謎だが。
流通資産が20%になったって聞いたぞ。もはやこいつがこの国の王なのでは?
「それと、頼まれていた寧々子殿の戸籍の件。こちらで準備が整いましたよ」
「本当か?」
「えぇ、こちらをどうぞ」
大金持の言葉に俺は頬を綻ばせる。
かねてから頼んでいた寧々子の戸籍。その件の解決の目処がたった。
《魔法執行機関》に売られた時点で、寧々子は既に戸籍を失っている。当然、そんなのをいつまでも放置し続けたくない俺は、大金持に頼んでその辺をどうにかしてもらっていた。
「寧々子殿ですが貴方様の親戚筋の子として、この度都合があって預かっているという体でよろしいかと。細かな設定はお二方にお任せいたします」
「ふっ、まるで寧々子が俺の家にずっといるのを前提にしているね」
「当たり前でしょう。それとも、何処かに養子にでも出すのですか?」
「ギャン泣きされて、爪で引っ掻かれそうだからその予定は今のところないかな」
「それはそれは。随分とお転婆なことで」
互いに笑い合う。
女の子に苦労するのはお互い同じだな。
「幸い……ではないが、《ヤミノマ》の被害によって親のいない子自体はいる。だから、親が存在しないことに不審がることはないだろう」
「確かに《ヤミノマ》による被害は加速していく一方です。いくら魔法少女が居ようとも取りこぼしは出てしまう。ミラクルパワーで中和されなくては、人は廃人となってしまう」
「あぁ、だからこそ新たな魔法少女を待つのではなく、生み出す。《魔法執行機関》はそう考えた。その思想自体は間違いではない。最も、やり方は間違っているけどな」
そう、それは『魔法少女マギアイリス』では語られることのなかった側面。
《ヤミノマ》による被害。
それによって親が再起不能となってしまい、孤児となる存在は作中でも語られていた。確か『魔法少女マギアイリス』の2ndシリーズにも、孤児となってしまった魔法少女が主人公の仲間として登場する。
だが寧々子の場合は、少し事情が異なる。
寧々子は、親自身によって売られた。そして《魔法執行機関》から逃げ出した脱走者だ。
魔法少女はミラクルパワーを扱う力に覚醒した人間だ。
そしてその力に覚醒する割合は、《ヤミノマ》に襲われた時の比率が非常に高い。《ヤミノマ》は人の負のエネルギーを集めるために襲う。
だからこそ、人為的に魔法少女を生み出せたならば人はより《ディスナンド》に対抗できる。
なるほど、コンセプトは素晴らしい。
だが、その手段を《魔法執行機関》は間違えた。
まず、魔法少女へと目覚めさせる為に恐怖を与えるというやり方がだめだ。公式設定では、魔法少女になるには負とは正反対の正に目覚めるのが必要不可欠だ。
友情、愛情、信頼、家族……とにかく
あくまで《ヤミノマ》に襲われた時に目覚めやすいのは、それによって誰かを失いたくないから、助けたいからというきっかけに過ぎない。
だが、《魔法執行機関》はその前提を無視し、恐怖だけを与え続けた。
それでは純粋な魔法少女の力が、目覚めるわけがない。
結果、数少ない目覚めた魔法少女もどこか歪んだ状態となってしまい敵として現れたりした。よくある闇堕ちというわけだ。
「しかし、ムラサメ殿の方はよろしかったのですか?」
「今のムラサメには人としての具現は出来ても、そう長くは持たない。そんな状態で戸籍をつくっても、枷になるだけさ」
ムラサメもあくまで本体は妖刀自身。作ったところであまり役には立たない。それよりか、戸籍がないからこそ任せられることもある。
俺は大金持から受け取った書類をまとめ、席を立つ。
「おや、もうよろしいのですか?」
「あぁ、聞きたいことも貰いたいものも済んだからね。お邪魔者は退散させてもらうとしよう」
「お邪魔者など。貴方様の為ならばいくらでも時間をつくりますのに」
「"時は金なり"を座右の銘にするキミらしくない言葉だな。こんな若造と話していたって得るものは大してないだろう。むしろ、こっちがお願いする立場だよ」
「いいえ、貴方様との対話はそれだけの価値があります。たとえ、他所との契約を切ろうとも」
買い被り過ぎて怖いんだけど。
俺と会話しても一文も金にならないよ。すまない、情け無いボスですまない……。
「それに、予定はきちんと組んでいるのですよ? 貴方様との出会い記念日に、誕生日にはメンバーを集めた誕生日記念パーティー。我々の組織の結成記念日に、夏に行われるフェスティバルに、ハロウィンパーティーに、クリスマスパーティー。それと……」
「長い長い長いッ! どれだけパーティーする気なんだ!?」
大金持から並々ならぬ熱量で語られる記念日予定。やべぇ、笑っているけども目は本気だ。このままじゃ、本当に毎回パーティー開かされる羽目になる。
ともかく、このままじゃ本当にいつまでも時間を取ってくれそうなので、強引にお暇させてもらおう。
「時間がある時、是非に我が一家にも遊びに来てください。妻もですが、娘も会いたがっています」
「機会があればそうさせてもらうよ。すまなかったね。ムラサメ! 帰るよ」
「ぬっ、待たれよ主様。せめてこの日本酒を飲んでから……」
「持ち帰って良いから、早く行こうか」
俺はムラサメを連れて、ビルを出た。
そのまま外に出て、俺は先ほどまで自分がいたタワーを眺める。
「俺はいつだって、自らの身を優先するひどい奴さ」
君たちと助けたのだって打算ありきだ。
俺は
キラキラと夜空と海原を照らす光から背を向け、俺は夜道を歩き出して行った。
◇◇◇
「相変わらず、謙遜なさる御方だ。本当に自らの安全のみを求めるならば、態々あの妖刀の担い手になり戦う必要なんてないでしょうに」
須佐八雲を見送った私は、ひとりそう零した。そのままワインを飲みながら思い返す。
今はまだ魔法少女という存在が身近でなかった頃。
人々は襲い来る《ヤミノマ》に対して、無力であった。突如として襲われ、負のエネルギーを吸われる恐怖が蔓延していた。そこに現れたのが魔法少女。
《ヤミノマ》を倒せる希望の光。民衆は誰も彼もが救いを求めた。
そこまでは良い。
だがそこに話題性というだけで、押し寄せて来るマスメディアどもに野次馬ども。奴らが魔法少女の正体を暴こうと動き出した。
そんな彼らですら、魔法少女は助けたというのに奴らは魔法少女の私生活まで踏み込んできた。
結果、正体がバレた《ディスナンド》に四六時中狙われるハメになった。
挙句の果てに、《ディスナンド》があえて魔法少女だけを狙って襲撃がされるようになると、掌を返したように疫病神とさえ罵るものさえいた。
何故そうなる。
何故、《ディスナンド》ではなく守ってくれる魔法少女を責める。理屈ではわかっている。異形の、わからない存在である《ディスナンド》よりも、力を持つとはいえ、同じ人間の魔法少女に文句を言う方が容易かったからだ。
私の恋人も、魔法少女だった。
いわゆる幼馴染にあたる恋人とは、向こうからのアタックで付き合いを始めた。4歳差という歳の差があったが、それでも私たちは愛し合っていた。
しかし恋人は自らの正体が露呈してしまった時、私を巻き込みたくないからと、離れていった。
あの頃の私には、力がなかった。金がなかった。権力がなかった。だから恋人を助けることは敵わなかった。
そうして孤立無援となった恋人を、《ディスナンド》は《ヤミノマ》による数の暴力によって葬ろうとした。孤立無援の彼女は、それを凌ぐことはできない。惨たらしい死が、訪れる。
実際、そうなるはずだった。
なんとか恋人を探し、やっとの思いで私がたどり着いた時には、恋人を襲おうと集結した
辺りに紫の炎が炎上する中、私の恋人を守るように立ち塞がった一人のこども。
『彼女はもはや魔法少女としての力は使えない。
そう既に負傷した身体で、10歳未満のこどもであるがゆえに、身の丈よりも大きい妖刀を構えながら告げた。そして妻を私に預け、増援として現れた《ヤミノマ》を一人で殲滅し切ったのだ。
あの御方がいなければ妻は死んでいた。
弱い人々を守る正義の味方が魔法少女だ。
その答えをその身でもって体現したその姿に私は、黄金の輝きをみた。
その後、妻を匿いつつも私はどうすればこの恩義に報いられるかを考えた。
後に知ったが、魔法少女を動かしているのは《魔法執行機関》だ。即ち、国だ。であるならば、この国すら動かせる存在になる。
大企業の御曹司である私は事業を継承後、がむしゃらにひた走り、グループを巨大化させた。そして遂には、この国を
並行して、あの御方を探し、見つけ出し、そして彼の
あの御方の為ならば、都市の中心に記念碑の一つや二つ建てても良いというのに、本人は決して許可しない。なんとも謙虚な御方だ。
だからこそ、あの御方に救われた者は多い。私もその一人だ。
私は今でも人を信用していない。妻を追い込んだ身勝手な民衆たちには吐き気がする。
だが、あの御方だけは別だ。
あの御方は見返りもなく人を救う。だからこそ、私はあの御方を信じるのだ。金で買えない、信頼というものを。
惜しむべくは、あの御方は一人しかいない。故にその手を伸ばすことが出来るのにも限りがある。
故に私はあの御方の力となる。財力を持ってして。
「全ては、金で買えないモノを守って下さった。ならば、私は私の持つ金で買えるモノであの御方を支えるのみだ」
そう決意していると、部屋の扉が空いた。
誰だ、と視線を向けると途端に私の顔がだらしがなく緩む。
「あなた、ごめんなさい。この娘、どうしても会いたいって聞かなくて」
「ぱぱ〜!」
現れたのは、最愛の妻。その腕に抱えられた小さな女の子。
「パパでちゅよ〜♡ どうしましたか〜?」
私は、自らの妻と
親バカと称されようとも、関係ない。
一度はこぼれ落ちそうになった幸せが今手元にあることを私は深く噛み締めた。
そこには、ただ一人の妻子を愛する男がいた。
かつてあったかもしれない未来にて金に狂った男は、この手にある何物にも変えられない幸せを噛み締めるのだった。
大金持 財参
映画では、巨大ロボットを駆り、魔法少女たちを追い詰めた。魔法少女を否定し、魔法少女を叩き潰そうとしたが、人を信じ、己を信じる魔法少女に敗北した。野望が潰え、敗れるその瞬間、微かにだが笑みを浮かべていた。
その瞳に映る魔法少女の輝きは、きっと在りし日の恋人と同じだったのだろう。
思いが重い男の登場でした。