魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
「それじゃあ、付近の《ヤミノマ》の掃討は頼んだよ」
「むふー、任せて。ボスの周りには近付けさせないから」
「こやつ放っておくとボロが出そうじゃから、ワガハイも着いて行っておく」
そんな会話をして、寧々子とムラサメを見送る。
最近頻発する《ヤミノマ》の発生。2人に魔法少女が間に合いそうにないなら、被害を抑えるように頼んだ。
本来なら俺も行きたいところだったが、あいにくそれは無理だった。何故なら今日は友人との約束があったからだ。
ガヤガヤと多くの人が行き交う。路上では、電話片手にサラリーマンが歩き回り、小さな女の子が魔法少女のコスプレをして親がその様子を微笑みながら見ていた。
前に凪沙と共に訪れた天川ストリート。他の区域では《ヤミノマ》が現れたのに、ここはいつも通りだ。良くも悪くも、
以前とは別の場所で俺はとある人物を待っていた。そして、件の人物がやってくる。
「来たか。相変わらずきっちり10分前だな」
「無論。全てにおいて早すぎるということはない。なすべきことを完璧に遂行することで初めて余裕というモノが生まれるのだ。間に合いさえすれば良いなどという考えは愚か者の考えだ」
「その考えには同意するな。特にこれ行く場所に関しては、早く行くことが重要だしな」
「その通りだ。では行くとしようか。我々の戦場に」
堅苦しい言葉と共に現れたのは眼鏡をかけた、七三分けのいかにもインテリ系の男。
名前からわかると思うが、魔法少女オーロラミスト……月詠澪の兄貴だ。
正直月詠の名前聞くまで、『魔法少女マギアイリス』のキャラだって思い出せなかった。
それだけなら、あー確かにこんなキャラいたなというぐらいなのだが、何故俺がそんな堅物と一緒にいるのか。
率直に言うとめちゃくちゃ気があった。
その理由は、今俺たちがいる場所にある。
「うはー! 見渡す限りの魔法少女グッズだらけ! 流石はまほメイトといったところか!」
「オタク全開だな嶺」
そう、こいつ
そこにあるのは画集、写真集、フィギュア、漫画、DVD、ゲームありとあらゆる魔法少女グッズの数々。魔法少女専用グッズ店、通常〝
魔法少女の存在は国民がよく知っている。
その正体こそ明かされてはいないが、それでも《ヤミノマ》との戦い、人々を守ってくれる存在に対して好意的でないはずがない。
あれよこれよとあらゆる企業が魔法少女関連の商品を生み出し、そういった商品をまとめて販売する企業、〝まほメイト〟が出来上がった。
そもそも魔法少女というだけに、見た目が可憐な少女なのだ。
人気が出るのも必然と言える。因みに、元の世界ではもっと幅広く商品展開されていた。それこそコスプレからグッズまで幅広く。コラボ商品に映画まで。
そしてそんな場所に興奮を隠せない嶺。
こいつとの友人関係は高校一年生にまで遡る。
元々高校では真面目で堅物と言ってもいいほどの優等生だった。
だが奴は
あれだな、親に娯楽を抑圧された子が自立すると同時にゲームやアニメにハマるのによく似ている。というか、まさにその状態だ。
そしてそんな嶺と、魔法少女グッズを販売している店で偶然出会い、その後意気投合した俺たちは、時折こうして魔法少女グッズを漁りに出かけることがあった。
「見たまえ、ハチ! この魔法少女のフィギュアは最新作だぞ! ディテールもきめ細かい……流石はフィギュアの老舗なだけはある。仕事が丁寧だ」
「本当だ。こりゃ、以前嶺が買っていたヤツよりも良いな」
因みに、ハチとは俺のことだ。
八雲だから、あだ名としてハチ。単純だろと思うが、友好の証だと思えば悪い気はしない。
ふっ、良いよねあだ名って。
『魔法少女カーバンクル』とか『妖刀ムラサメ』、『金融王』とか映画ボスの異名もよかったが、遂に俺も『
無頼も、即興にしては良い名だと思ってる。寧々子はなんかびみょーな顔するけど。具体的にはフレーメン反応をしてる猫みたいな顔をする。なんでだ。
テンション高めな嶺と共に俺は魔法少女グッズを拝見する。
「お、これは」
俺は並べてあるグッズの一つを手に取る。
それは魔法少女サンシャイン……つまりは天照焔のモノだった。側には魔法少女オーロラミストのもある。
最も、まだまだ知名度がないからか缶バッジであり、それもたまたまテレビに映った姿を切り抜いたに過ぎない。側にある有名な他の魔法少女と比べても雲泥の差だ。
「む? ハチも興味があるのが見つかったのか……魔法少女サンシャイン? 聞いたことないな」
「いやいや、ここ何日か話題になっていたじゃないか。トワイライト学園周辺に現れた《ヤミノマ》も、彼女たちのおかげで倒されたとニュースでやっていたろう」
「知らんな。大体毎年どれだけの魔法少女が
それ貴方の妹なんですけど。
なんでピンポイントでそれ選んじゃうかな。
「だがまぁ、彼女達はまだまだ若い。頑張ってもらいたいものだな」
「なんだ。厳しいことをいう割には応援しているじゃないか」
「無論。僕は魔法少女箱推しだからな。どうしても人気に偏りが出てしまうとはいえ、頑張ってもらいたいとは思っている。それに……、僕たち《ディスナンド》に無力な民衆を守る為に戦ってくれるのだから、応援したいと思うのは至極当然だろう」
うーん、素直だ。その素直さを、妹にも出してやれば良いのに。
月詠澪と月詠嶺。
この兄妹、ちょっと複雑な関係なのだ。まず澪は文武両道の兄に対してコンプレックスを抱いていると同時に尊敬している。対して嶺の方は、澪に冷たい対応をしているが、その実かなり気にかけている。
しかし、他の月詠家の面々が澪に対して期待していないが故に、表立って寄り添うこともできないのだ。
こんな関係なので、俺は澪に対して嶺に頼めば知り合うことはできるが怪しまれるため、行動を起こせなかったのだ。
しかしこのふたり、原作アニメではどう和解したんだっけな。
確か自らを疎んでいると思っていた兄が、実は家族の誰よりも心配してくれていると気付いたのまでは覚えているが、その後の会話と展開を覚えていない。
確か焔ちゃんのおかげで澪の自己肯定感が増したからこそ、和解できたはずだが。
俺が首を捻っている間に、嶺はその間に別の魔法少女フィギュアの細部、それこそひっくり返してパンツまで見ている。
すげぇな、こいつ。
公衆の面前で良くできるな。いや、良く見たらこいつ以外も何人か同じことしてる奴いるわ。
「パンツ覗くとか普通にきもいわ」
「ひどい言われようだな。でも、こんなにも造形に力を入れているフィギュアなんだ。細部も気になるのは当たり前だろ?」
「う〜ん、わかる」
実際推しのキャラのフィギュアが発売されたら、買うのがファンの鏡だ。
今まで女性のフィギュアを買って、下から覗き込んだことがない者だけが嶺に石を投げるのです……、多分女の子はともかく男は全員したことあるだろう。
俺も前世でした覚えがある。
流石に今はしていないが。だって、創作のキャラクターじゃなくて実在する人のグッズだし。流石に良心が咎める。
あほな男子小学生みたいな会話をしつつ、魔法少女グッズを物色する。
「いや〜、随分と買ったな」
「買い過ぎだろ。両手塞がってるじゃないか」
「そういうハチこそ、こっそりグッズ買ってただろ?」
「うぐっ、み、見られてたのか」
こっそり魔法少女サンシャインとオーロラミストの缶バッジを購入したのを見られていたようだ。普段こういうのはあまり買わないのだが、ついね。
仲間になっている映画ボスの中に、自分の変身した姿の写真集やらを押し付けてくる
魔法少女アネモス?
いや、流石に後輩の変身したセンシティブな姿のグッズを持つのはちょっと……。寧々子の情操教育にも悪いし。
よく考えたら、アニメとか漫画のキャラがフィギュアにされてパンツ覗かれても結局は作品のキャラだから良いが、実際に実在している魔法少女達は己の
普通にセクハラとして訴訟ものでは?
まぁ、そんな話聞いたことないが。《魔法執行機関》もその辺どうしてんだろ。正直実態も良くわからないんだよな。少なくとも完全な正義でも、一枚岩でないのは確かだが。
「こうしてハチとの友好関係がここまで続くとはな」
「どうした急に」
「いや、なに。中学時代には、こうして肩を並べて歩く友はいなかった。居たのは、いつも月詠家としてしか僕を見ていない人たちばかりだった。高校に入ってからも、そうだと思っていた。……きみだけさ。僕を個人で見てくれたのは。だからこうして趣味にも付き合ってくれるのだろう?」
急に湿度出してくるじゃん。
なんだよ、そんな真顔で言われたら照れるだろ。
「まぁ、でもそれだけ頑張って集めた魔法少女グッズも卒業と同時に手放さなきゃならないのは残念だな」
「ふっ……その時は数々の魔法少女グッズはすべてハチに譲るさ」
「いや、流石に一部屋埋め尽くす量のグッズをもらっても困るんだが」
お前コレクションの量考えろよ。
いくら俺の自宅が一軒家でも、一部屋埋め尽くす量もらっても困るわ。
「なっ!? 僕に、魔法少女グッズを捨てろというのか!?」
「そこまでは言ってないが」
「ばかもの! 僕にきみ以外に託せる友人がいると思うのか!?」
「それ言っていて悲しくならないか?」
「悲しくならないが? 寧ろ生涯で唯一無二の親友ができたことに対して誇らしくある」
無敵かこいつ。
まぁ、これほど仲良くなるとは予想外だったが悪い気がしない。
「む!」
「どうしたよ」
「あそこのコンビニ、一番くじをやっている。あれは、まさか……最新の魔法少女シリーズの一番くじか!? 付近のコンビニは既に終了したあとだったのに……!」
視線の先には、コンビニが一番くじをやっていた。
すげーな。この位置から見えたのか。
「行ってきたら良いよ。荷物は見といてやるし、俺はここで待っているからさ」
「悪いな、ハチ。頼んだぞ!」
走り去る嶺の背中を見ながら、近場の椅子に座る。
本当、まさか嶺があそこまで魔法少女推しだとは知らなかったな。
でもまぁ、当たり前か。この世界に来て、よくわかった。アニメで観ていたキャラクター達の活躍はほんの一部。誰も彼もが生きているからこそ、皆それぞれ趣味嗜好も考えもある。
にしたって嶺の魔法少女推しはすごいがな。
「まぁ、でもわからなくないけどさ」
可憐で、可愛らしい女の子が恐ろしげな怪物と戦うのだ。その姿を見たなら応援したくなる。
それだって俺が焔ちゃんと仲良くなったのは、偶然もあるけど実際初代『魔法少女マギアイリス』の主人公の戦う姿を見てみたい気持ちもあったからな。
実際アニメでしか見たことない姿だったが、実際に見てより一層まだ若いといっても良い子が戦うのには一ファンとしてテンションがあがると同時に、やはり色々と思うところがある。
視界に映ったのは、走っている女の子の姿。
そう、ちょうどあれくらいの身長の女の子が、《ヤミノマ》と戦う羽目になるだなんてな……。
「ほらほら、澪ちゃん! ゴールまであと少しだよ! わんつー! わんつー!」
「はぁ、はぁ、そ、それさっきも言ってた……っ」
「そうだっけ? でも、さっきよりもゴールには近づいているのはまちがいないよ! だからがんばろ! ふぁいや〜、いっぱ〜つ!」
「むぅりぃぃ……!」
いや、本人だったわ。