魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
視界に映るのは、半袖短パンの男の子スタイルの姿の焔ちゃんと、長く艶の髪を結ってきちんとしたスポーツウェアを着ている澪。二人とも走っているが、余裕がある焔ちゃんと対照的に澪の方は今にも倒れそうな姿だった。
「あれ、八雲おにいさん!? みおみお! 八雲おにいさんいるよ!」
「ぜ〜はぁ〜ぜ〜はぁ……」
わぁ、すごい既視感。
なんか最近行く先々で焔ちゃん達と会う気がするな。これ、もしかして主人公としての引力に引き寄せられているのか?
焔ちゃんはすごい勢いでこちらへと走ってくる。すごい、フリスビー投げられた犬みたいに一直線だ。止まるとき、キキーッてブレーキ音がなるくらいすごい。
「八雲おにいさん、こんにちは!!! こんなところで会うだなんてすごい偶然ですね!」
「あぁ、二人は何を?」
「走り込みです! 朝からみおみおと走ってるんです!」
「えっ、朝から?」
子どもの体力ってこわぁ。よく、朝から走り込みできるな。
焔ちゃんから遅れて、汗だくの澪がやってくる。
「ぜぇ、ぜぇ、ごっ、ごぎげんよう、じじょう……!」
「あぁ、うん。ご機嫌よう。息整えてからで良いよ」
「もー! みおみお! これくらいでへばっちゃだめだよ! まだゴールにも辿り着いていないんだから!」
「この、体力おばけ……! トワイライト学園から天川ストリートまでとか、どれだけ距離あると思っているのよ……! あと、みおみお言うのやめなさい……!」
いや、ほんとう。
あそこまで走るの剣道部の体力作りでやらされたことあるけど、途中脱落者何人もいたぞ。それも体力的に年齢的にも最盛期の男子高校生が。
やっぱ途中の坂道がキツいんだよな。歩きならそうでもないんだが。
俺は近くにあった自販機でスポーツドリンクを二つ買うと、二人に差し出す。
「ほら、二人ともこれを飲んで」
「わぁ〜! いいんですか? ありがとうございます!」
「い、いえ。そんな、わるいです」
「良いから良いから。そのまま倒れられたら困るしさ。少しは年上らしさを出させておくれよ」
遠慮する澪に、スポーツドリンクを握らせる。
「でも……」
「ぷはぁ〜! おいしい!」
「焔、貴方は……もう。ありがとうございます、師匠」
お礼を言って、澪はスポーツドリンクへ口をつける。腰に手を当てて一気に飲む焔ちゃんと対照的にお淑やかに飲んでいた。やっぱお嬢様だな。育ちの良さが垣間見える。
走っていたから疲れただろうと、俺の座っていたベンチを開け渡す。
「それで? どうしてふたりして朝から走っていたんだ?」
「それは体力をつけるためです!」
「へぇ? どうして?」
「あっ、そ、それはえっとぉ〜」
「……もうじき体育でテストがあるのでそれに備えているんです」
「そ、そうそう! そうなんです!」
相変わらず誤魔化すの下手だなぁ。澪の方は、やっぱり冷静だ。内容も違和感がない。まぁ、本当は学校の体育じゃなくて、十中八九《ヤミノマ》に向けての体力作りの方だろうけども。
「八雲おにいさんはどうしてここに?」
「あぁ、友達と遊んでいたんだ」
「これは……すごい荷物ですね。何を買ったんですか?」
「あぁ、実はちか……くの…………」
そこで気付く。
いま、俺の持ってる荷物は魔法少女グッズだということに。外から見れば袋でわからないが、中身を見られたら一発でわかる。
…………やっべぇ〜〜〜!!?
メーデーメーデー!
助けてムラサメ! 助けて寧々子!
こんな大量の魔法少女グッズを買っているとバレたら、今ふたりの中にある頼れるお兄さん像が木っ端微塵に砕け散る!
い、いやだ。
あの天真爛漫な焔ちゃんや慕ってくれる澪に、ごみを見る目で蔑まれるのは。俺にそっちの方の性癖はない! だが、これは親友である嶺から頼まれたモノ。人から預かったモノだと言うのは簡単だが、それは嶺を売り渡すのも同義。そもそも、俺も多少はグッズを買ってしまっている。
親愛をとるか。
友情をとるか。
うおぉぉ、何という二択!
俺にこの究極の二択を選べというのか……!
「おにいさん?」
「どうかしましたか?」
二律背反、答えの出ない永久の難題に苦悩する俺。
その様子を不思議そうに見ているふたり。どうすべきか、この危機を乗り越える為に頭を悩ます。
「待たせたな、ハチ。いやはや、手持ちの金でラストワン賞までいけた。おかげで最後のグッズも手に入れることが……」
「あ、まて!」
間が悪く戻って来る嶺。
確かに助けて欲しいと願っていたが、お前はまずい! だってここには、澪がいる!
「お兄様……?」
「澪?」
あかん、出会っちゃったよ。
お互いに固まる兄妹。時が止まったかのようだ。嶺もさっきまでのホクホクとした雰囲気は何処へやら、空気が冷え込んでいく。
「え、だれなんですか?」
「月詠嶺。名前の通り、澪の兄だよ」
「みおみおのお兄さん!? に、似てない!」
こっそり尋ねて来る焔ちゃんに、耳打ちで答える。
アニメ特有の『家族でも髪色違いすぎ問題』があるから気持ちはわかるけど、あんまり大声で言うのはやめようね。
実際月詠兄妹は同じ青髪という分類でも、澪はブルーブラックなのに対して、嶺はブルーアッシュに近い。一目では、兄妹とは思えないだろう。
「澪、なぜ此処にいる?」
「お兄様こそ、どうして此処にいるのですか?」
「質問を質問で返すのは良くないが良いだろう。僕が友人と一緒にいてはおかしいか?」
「友人。し……八雲さんとお兄さまが……?」
あっ、こいつ話しながらさりげなく俺の袋に一番くじの景品入れやがった! 澪も俯いているから気付いていない。
「そっちもどうやら友だちと一緒にいるようだな。だが、あまり楽しそうではなさそうだが」
「い、え。それ、は……っ!」
「付き合う友だちは選んだ方が良い」
あちゃー。
これは誤解されるわ。意訳すると、運動が得意ではない澪を無理に焔ちゃんが付き合わせたと思ってる。まぁ、実際は、二人は魔法少女として頑張るために、体力をつける為の修行だ。無理強いしたわけじゃなくて、自発的な行動なはず。
だけど、魔法少女でない以上裏事情を話せるわけがない。
かと言ってさっき俺に語った体力テストのための練習と言う言葉も、嶺ならすぐ嘘だと見破るだろう。澪も澪で、兄相手に萎縮してるから楽しそうではないと言葉に大きく否定もできない。
気まずい雰囲気が流れる。
確か似たような場面で、嶺に自分の友だちは自分で選ぶと啖呵切っていたが、それすらもできないようだ。
「……あの! さっきから聞いてましたけどその、そんな言い方はないとおもいます!」
代わりに憤るのは焔ちゃん。嶺は冷ややかな目線を向ける。
「失礼だけど、きみの名前は?」
「天照焔です! はじめまして! みおみおのお友達です、よろしくお願いします! それで、そんな風に否定ばかりしないで、少しは澪ちゃんの気持ちを思いやってください!」
「なら、天照さん。きみも友だちと名乗るなら澪が運動できないことぐらいわかるだろう。この疲弊ぶりを見て、思うところはないのか?」
「そ、それはっ……」
「
「う、うぅ」
お、大人げない。中学生相手に容赦ねぇ。
焔ちゃんも、最初は烈火の如く噛み付いたけど、もう蚊取り線香くらいの火の勢いしかない。
ふたりとも黙ってしまい、空気が重たい。
え? これオレが仲裁しないといけないの?
なんだこの地獄みたいな空気。勘弁してくれよ。
嶺ももう少し言い方を考えろよな。
「まぁ、そこまで言うなよ。過干渉は嫌われてるよ」
「きみもひどいぞ、ハチ。なぜ、澪と知り合ったのならば僕に教えなかった」
じとりと見られるので、わざとらしく肩を竦める。
「そりゃ、語る前に出会ってしまったからさ。それと擁護するけども、少なくとも澪は自らの意志で焔ちゃんと一緒に居るんだ。だから、口出しするのはいくら兄とは言え、よくないぞ」
「変な輩と連もうとするのであれば、正すのは当然のことだろう」
「それ言ったら、単なる凡人の俺と月詠家の跡取りが友人なのも変な話だろ?」
「む、それを言うのは卑怯ではないか」
俺の言葉に歯切れを悪くする。
よし、なんとか宥めることはできた。
しかし空気の重さは変わらない。う〜む、どうしたものか。
「うおっ!?」
「わわっ、地震!?」
「いえ、これって……!」
その時、突然起きる揺れ。
付近が赤く染まり、周辺地域が現世と分断される。間違いない、《ヤミノマ》が現れる前兆だ。オレたちに周囲の人々は、
「あれってまさか、《ヤミノマ》!?」
《ヤミノマー!》
やがて現れたのは一体の《ヤミノマ》。時計を模した《ヤミノマ》は周囲を威圧するように叫ぶ。焔ちゃんが驚いたように叫んだ。
まさかのここでくるか! いつもなら、すぐにでも斬りたいところだが、今だけは感謝してやろう!
おかげでなんとか誤魔化せそうだ。
それに、魔法少女がすぐそばにいるところに出て来るとは運のない奴だ。どこかで焔ちゃんと澪が離れたらすぐに変身して倒されるだろう。
「そんなまさか。あっちにも……!」
《ヤッミノマー!》
別の所を澪が見て、声を出す。
そこには先ほどとは別の信号機のような《ヤミノマ》がいた。
……ん?
「ばかな、向こうにもいるだと……!?」
《ヤミノマー?》
冷静な嶺の、焦燥に満ちた声色。
そこにはまた別の個体。木に似た《ヤミノマ》。
……えーと、あの、なんか数多くないっすか。
目に見えるだけで既に3体いるんですけど。いや、確かに《ヤミノマ》自体はかなり稀にとはいえ、複数体現れることも『魔法少女マギアイリス』にはあったがそれにしたって異常な数だ。
その数はどんどんと増し、結果総勢
「いや、多すぎるんだが!?」
なんだこの数!? パーティでもおっ始めるつもりか!?
『魔法少女マギアイリス』でもこれだけの数が出てきたことはなかったぞ!?
「なんで、《ヤミノマ》がこんなに一度に現れるなんてなかったのに!」
「まずいわ、焔。周辺を囲まれている!」
魔法少女の2人も慌てている。まだ一体倒すのにも手こずる2人にこの数は荷が重いどころの騒ぎじゃない。
なら俺が、と思ったところでムラサメは手元に無い。護衛の寧々子は側にはいない。二人は別の場所に現れた《ヤミノマ》を退治させに、行かせてしまった。
救援を頼んでも、二人が来るのにどれだけかかるか。他の魔法少女が来たとしても、あの数は対処できない。
敵のど真ん中で丸腰の俺。
あれ、これ詰んだのでは?