魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます 作:異星人アリエン
空が赤く染まっている。
《ヤミノマ》が現れ、人々を閉じ込める〝
「《ヤミノマ》だぁ!?」
「囲まれているぞ!」
「きゃーっ!」
付近に大量に現れた《ヤミノマ》の群れ。途端に周囲に混乱が広がっていく。
これは……かなりまずい。この数は尋常じゃない。
状況を理解した俺は、後ろ手で隠し持っていた
「ハチ、この辺りなら近くに地下鉄へと繋がるところがある。そこに避難しよう」
「あぁ、それが良いな。ふたりもそれでいいな?」
「八雲おにいさん、でも……!」
嶺の言葉もあり、すぐさま焔ちゃん達へ語りかける。しかし、焔ちゃんは迷った表情をする。
まぁ、そうだよね。
魔法少女サンシャインとしてなら、ここで《ヤミノマ》と立ち向かうのが正しい。
でも今の俺は、焔ちゃんの正体を知らない近所のお兄さんなんだよね。流石に一人で行動させるのは看過できない。
というか、それ抜きにしてもあれだけの数の《ヤミノマ》相手に突っ込ませるのは怖い。あれだけの数、1stシーズンの最終回か映画でしか見たことないぞ。
対して今の焔ちゃんと澪はまだ魔法少女としてひよっこも良いところだ。
あんなのに突っ込んだところで勝ち目がない。せめて他に魔法少女がいればよかったんだが、すぐに現れない辺り、この辺にいるのはこの二人だけか。
「み、澪ちゃん。どうしようっ、あんな数の《ヤミノマ》放置できないよ」
「わかってますっ。でも、お兄さまたちの前では変身できません。凪沙さんが言っていたことを忘れたのですか?」
「おぼえているけど……!」
こそこそと何か話し合うふたり。
多分、どうにかして俺たちの目を盗んで魔法少女として戦いたいんだろうけど、やめてほしい。
ムラサメがいないから、無頼としても力を発揮できないから助けられないしな。
「行くぞ、不可解だがまだ奴等は動こうとはしていない。その間に、この場から離れる」
「そうだね。早いところここから」
「ワァーハッハッー!!!」
俺と嶺が相談している時に、場違いに響く笑い声。
気付けばいつのまにか、近くのビルの上に並ぶ2つの影。
「見よ! 慌てふためいておるぞ! その姿を見ただけで萎縮しておる! 刃向かおうとする気概のあるやつはおらんようだ! 所詮は脆弱なやつらよのう! アクラーツはこんな脆弱な奴らにやられたのか」
「お黙り! この脳みそまで筋肉でできてるお脳筋が! アクラーツが負けたのは、彼が小賢しく策を練るばかりで自ら戦おうとしなかったからよ。やはり、エレガントに美しく戦ってこその勝利こそが至高なのよ!」
やたらと肉体美を見せつけてくる、筋骨隆々の赤い皮膚の男。
目が痛くなるくらい派手派手な服装に身を包んだ、豪華絢爛な女。
あれは間違いない。
ダークネスの配下、《トライアングル》のキンニバベールと、エレガンシアだ!
おいおい、なんでこんなところに。
これまずくないか?
流石に二人同時は、きつすぎる。10体の《ヤミノマ》もだがキンニバベールが直接戦っても強い肉体派だから尚のことだ。
そもそもなんでこんなところに《トライアングル》が二人同時に出てくるんだ!? 原作だと一人ずつしか現れて来なかっただろ!
そもそも、アクラーツが度重なる失敗(大体5話くらい失敗)のあとに出てきたはずだろ! その時も、キンニバベールが2番手でエレガンシアは3番手のはずだ。
「……ん?」
いや待て。アクラーツはもうオレが始末した。
向こうからしてもいきなり幹部の一角が消息を絶ったことになるのだ。そりゃ警戒するし、たとえ仲が悪くとも実力自体は認めていた奴がいなくなったらその原因を探ろうとするわ。
じゃあ、何か?
今回の騒動は元を辿れば俺の所為だってか!? くっそ、警戒はしていたのにまんまとしてやられた! タイミングも最悪だ、ムラサメがいればすぐに斬ってやるのに。
「ま、魔法少女がいないのなら好都合ね。手始めにそこにいる4人から負のエネルギーをいただくとしようかしら」
げぇ! しかも目をつけられた!
なんでよりにもよって俺たちから狙うんだよ!
『魔法少女マギアイリス』の主人公だからお約束ってか? ざけんな!
「ハチッ!」
「わかっている! ふたりとも、逃げるよ!」
「は、はい!」
「わかりましたっ」
すぐさま逃走を図る。だが、当然簡単にとはいかない。
《ヤミノマーッ!》
「くっ、道が……!」
「まぁ、そう簡単にはいかないよな」
立ち塞がる《ヤミノマ》。更には囲むように、2体の《ヤミノマ》も周囲に降り立つ。
まずい。
さすがに、この数相手に打つ手がない。
「澪、このままじゃっ……!」
「わかってますっ、でもっ……!」
俺らがいなければ、多分二人はいますぐにでも変身したいんだろうな。でも、変身したところで流石にあの数は無理がありすぎる。
万事休すか……!?
「〝ウインドカッター〟!」
突然俺たちの前に立ち塞がっていた《ヤミノマ》の一体が弾け飛んだ。
「今までにないほどの巨大な
《ヤミノマー!》
「邪魔です。〝ウインドナックル〟!」
更にもう一体、風を纏った拳で《ヤミノマ》を倒す。そして、飛ばされた《ヤミノマ》が別の《ヤミノマ》を巻き込み、消滅していった。あっという間に、3体の《ヤミノマ》を葬り去る。
あ、あれはもしかして!
俺の期待を体現するように、洗練されたポーズを取る一人の魔法少女。
「正義の御旗をたなびかせ、悪しき闇を吹き飛ばす! 魔法少女アネモス!」
うぉぉぉぉ! キタァァァッッッ!
魔法少女アネモス! 風羽凪沙! 俺の後輩! 現役最強の魔法少女!
勝ったな、風呂入ってくる。……とは冗談として、心の中で大喝采をあげる。
「魔法少女アネモス! 《ヤミノマ》を圧倒するその姿、神風といって差し支えない。まさかこんなところで出会えるとは……!」
「お、お兄さま……?」
「──はっ。んん、とにかく彼女が来てくれたならばこの場もなんとかなるかもしれん」
誤魔化したな。
すごい早口で語り出した嶺を、びっくりした様子で澪が見ていた。
「アネモスさん! 来てくれたんだ!」
焔ちゃんは明るい表情で、笑顔を浮かべる。
……やっぱ知ってるよねぇ。うーむ、正直、何がどうなって凪沙と焔ちゃんと澪ちゃんがこの段階で知り合いとなったのかひじょーに気になるが、今はとにかく来てくれたことを喜ぼう。
ひとりで《ヤミノマ》十体くらい倒せばいけるかって?
いけるんだな! 魔法少女アネモスなら!
凪沙は周辺の被害を確認するように、歩道橋の上から眼下を見下ろす。
「ひゅっ」
そんな凪沙だが、俺の方を見て固まった気がした。なんで?
「なんという鍛えあげられた
「あいつは知ってるわ! この辺りでもっとも強い魔法少女よ! きぃー! 生意気だわぁ! 《ヤミノマ》たち! あいつを始末しなさい!」
対して《トライデント》の二人は声をあげ《ヤミノマ》を仕向ける。
「な、ななな、なんでこの場に先輩が!? ば、バレてないよね? バレて……見てる! すっごいみてる! せ、先輩の前であんなむりむりむり! 見えちゃう! お尻とか下着とか色々見えちゃうっ」
《ヤミノマーッ!》
「うぐっ!」
何やら小声で呟いて、太ももやらお腹やらを隠そうとしていた凪沙が《ヤミノマ》に弾き飛ばされ、ビルに激突する。
は? ちょ。アネモス? アネモスさん!? 凪沙さぁぁぁん!!?
貴女、映画でも複数の《ヤミノマ》相手に完勝じゃないですか! そのせいでメッタメタに対策練られて封じられたせいでろくに活躍できなかったけど!
なんなら、じっくりねっとりと責められたせいで
それでも万全の状態なら映画ボスさえ倒せる存在とパンフレットでも記述されていたじゃないですか!
なんでそんな映画の時ほど強化もされていない《ヤミノマ》相手に、防戦一方なんですか!?
「そんなっ……!? アネモスさんが!」
絶望を滲ませる焔ちゃん。
いや、ほんとうに映画ボスならともかく《ヤミノマ》に遅れをとるはずじゃないだろうに! 一体どうしたんだ……!?
「あら、思ったよりもこっちが優勢みたいね。くすくす現役最強と言っても所詮は人間。わたくし達《トライデント》には敵わないのよ!」
「どうやらあの筋肉は
「くっ……!」
《ヤミノマ》が群がっていく。
当然、凪沙も応戦するもその動きは、先ほどと違ってキレがない。それでも、あれだけの数の《ヤミノマ》相手に、戦えていること自体が凪沙が卓越した技量を持つ魔法少女である証左に違いない。
「決まらんな。なら、やはり直接筋肉で叩き潰すのが早いな!」
「うぐっ!?」
そしてそれを良しとしないキンニバベールが跳躍、不意を突き圧倒的パワーで凪沙を地面へと殴って叩きつけた。そして周囲を取り囲む《ヤミノマ》。
「しまっ……!」
《ヤミノマー!》
雄叫びと共に《ヤミノマ》が集めていた負のエネルギーを直接凪沙へと叩き込んだ。
「風羽さん!」
「そんなっ!」
「まさか魔法少女アネモスが負けるとは……そこまで強力なのか、今ここにいる《ヤミノマ》は」
悲痛そうに叫ぶ焔ちゃんと澪。普段は冷静な嶺も、唖然と呟いた。
俺も同じだった。
凪沙が負けた。
凪沙ほどの魔法少女であれば姿が解除されることなく、気絶しただけのようだがそれは致命的だ。
「ま、魔法少女が負けた!」
「わたしたち、ここであいつらに襲われるの!?」
「まま〜!」
魔法少女が現れたことで湧き上がっていた周囲の人々が、これまで以上に絶望する。
まずいな。恐怖が蔓延している。
周りを囲む《ヤミノマ》たちが心なしか大きくなっていっている。周辺の恐怖と絶望という負のエネルギーを集めて強化されていっているせいだ。
今すぐこの場から離れなければ。不意に、頭上に影ができた。
「焔ちゃん!」
「きゃっ!?」
「ハチッ!」
「焔! 師匠!」
咄嗟に焔ちゃんを抱き抱え、その場を横に回避する。俺たちのいた位置に《ヤミノマ》が着地し、辺りに風圧と衝撃が駆け巡る。
「嶺! 澪! くっ、すまないがこのまま走るよ焔ちゃん!」
「あわわわっ、八雲おにいさん!?」
《ヤミノマ》によって遮られて、嶺と澪と分断された。焦燥感が募る。だが、それにかまけている暇はない。
追いかけてくる《ヤミノマ》から焔ちゃんを抱えたまま逃げる。
《ヤミノマッ!》
「ぐあっ!?」
「うきゅっ!?」
しかし、それを良しとしない《ヤミノマ》が付近にあった車を飛ばしてくる。
それに足を取られ、転がる。咄嗟に焔ちゃんの頭は庇ったから彼女は大丈夫だが、俺の方はすごくいたい。
《ヤミノマァ!》
俺たちを見る《ヤミノマ》が醜悪な笑みを浮かべた。
人間の負の感情を集める《ヤミノマ》だが、その役割からか人を痛めつけることに快感を覚える嗜好の存在も多い。
だからやつらは嗤ってやがる。嘲ってやがる。
「ふざけるなよ……!」
何が楽しい、何が面白いんだ。
いやでも思い出す。
初めて《ヤミノマ》に襲われたことを。あの時もそうだ、お前らはそうやって簡単に人を傷つける。泣いている小さな女の子に向かって、同じように車を投げつけたんだ。
『ねぇー! ──ちゃん! 一緒に、魔法少女マギアイ──の映画──観に行こうよー!』
記憶が蘇る。蘇ってしまう。
思い出したくない
『──さんの、ご家族で間違いないですか?』
場面が変わる。
知らない誰かの声。警察だったか、医者だったか、もう覚えていない。
『信号待ちの最中に、突然車が──』
ただ、その言葉だけは覚えている。
嫌というほど、吐き気がするほどに。
『あなたの──さんは、即──』
……やめろ。
『──体は、見ない方が──』
やめろ。
『損傷が激し──、骨そ──オススメしま──。その方が──』
やめろ!
やめろやめろやめろォッ!!!
頭が掻き乱れる。ぐちゃぐちゃになって、吐き気を催すほどの、強い不快感と後悔に押しつぶされそうになる。
二人で寝るには小さすぎた布団、ずぼらに洗濯せずに脱ぎ捨てられたままの服、血で汚れたお菓子、線香の香り、テレビから流れている『魔法少女マギアイリス』の主題歌、黒い服の人たち、出しっぱなしな魔法少女マギアイリスのおもちゃ、大好物だったプリン、散らばったままの映画のパンフレット、木魚の音、持ち主のいなくなった静かすぎる部屋。
その中心であまりにも軽かった
あらゆる記憶がフラッシュバックする。順番も場面もぐちゃぐちゃだった。俺の心情を表すように。
《ヤミノマー!!!》
うるさい、黙れ。
お前らが、《ヤミノマ》が無差別に人を襲うその姿を見るたびに。
俺は思い出してしまう。
あの日のことを。一番大切だった
「お、おにいさん?」
「はっ」
焔ちゃんの言葉に我にかえる。
「すまない、怪我はないか?」
「は、はい。あたしは大丈夫です。八雲おにいさんのおかげで……あの、八雲おにいさんこそ大丈夫ですか?」
見れば、焔ちゃんが俺の様子を見て戸惑っていた。
しまった。俺は誤魔化すように、笑みを浮かべる。怖がらせてしまったか。今はこんなことをしている暇はない。
無理やりに動揺を押さえつけ、この場を切り抜ける方法を考える。
「ん……? あれ…………」
焔ちゃんが何かを視線で追っている。
何が、と俺も追うとそこにあったのはやたらとでかい箱に包まれた魔法少女のフィギア。
「え゛っ」
どうやら《ヤミノマ》から逃げた際の衝撃に、俺は持っていた袋をそのまま中身をぶちまけてしまったようだ。
い、いやぁぁぁ! 見ないでぇ!
焔ちゃんの中の、お兄さん像が変態お兄さんになっちゃう!
焔ちゃんは散乱した魔法少女グッズ──魔法少女サンシャインの缶バッジを手に取る。
「買ったんですか……?」
「アッ、ハイ。応援したい気持ちがあったので」
うおぉぉ、こんなことしてる場合じゃないってわかってるのに、顔をあげられねぇ。いやだいやだ、焔ちゃんにゴミを見る目で見られるのは。
「……八雲おにいさん、あたし決めました」
通報する覚悟ですか?
恐る恐る顔を上げると、焔ちゃんは何か決心をした表情をしていた。
「あたしは迷ってました。役割と規則に。でも、わかりました。それは傷つく人を、傷つける《ヤミノマ》を見逃す理由にはならないって」
「焔ちゃん?」
「だから、あたしは戦います。明日をつかむために!」
すると焔ちゃんの身体が光に包まれる。
まさか変身するのか!?
「人々の希望を照らす太陽の光、魔法少女サンシャイン!」
赤く燃え上がるような髪色と衣装の変わった焔ちゃんを唖然と見る。
「ほ、焔ちゃん」
「お兄さん、言いたいことはわかります。でも、いまだけは何も言わずにいてください」
《ヤミノマーッ!》
「そりゃっ!!!」
サンシャインへと変身した焔ちゃんは、迫り来る《ヤミノマ》を弾き返した。
「やらせないよ! もうこれ以上、人を傷つけさせないんだから!」
そう指を指し、決意を露わに戦いへと挑む。
アニメならば間違いなく盛り上がるシーン。だが俺は、別のことに気を取られていた。
「アニメだと謎の光があったけど、流石にこの至近距離だと
次からどんな顔してあの娘に会えば良いの?
俺は居た堪れない気持ちになりながらも、遠くから焦りを滲ませた