魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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少し短いかも。ごめんね。


月詠兄妹

 

side 澪

 

「次! 右に曲がるぞ!」

「は、はいっ」

《ヤミノマーッ!》

 

 背後から苛立ったような雄叫び。

 

 お兄さまは冷静に、《ヤミノマ》の視線を切るように道を進んでいる。でも《ヤミノマ》は障害物を物ともせずこちらへと向かって来ている。いくらお兄さまが《ヤミノマ》から逃れるために、細かく曲がっても向こうはそれを無視できるのだからいずれ追いつかれるのは自明の理だった。

 

「し……八雲さんと、焔はだいじょうぶでしょうかっ」

「心配なのは確かだが、今は自分の心配をしろ。また来るぞ!」

《ヤミー!》

 

 再び路地を曲がると、すぐそばを《ヤミノマ》が通り過ぎた。

 

 先程から同じことの繰り返し。魔法少女も、アネモスさん以外はまだ誰も来ていない。お兄さまの前じゃ、わたしは変身できない。

 

 だけどこのまま逃げていても、いずれ捕まる。どうすれば……?

 

「む? 何の音だ?」

 

 お兄さまが呟く。

 

 何かが倒れるような音。そして、心なしか《ヤミノマ》の追手の数が減ってる?

 

「そりゃあぁぁッーー!」

《ヤミノマッ!?》

 

 遠くから聞き覚えのある声。

 同時に《ヤミノマ》が倒される大きな音が聞こえてくる。

 

「あれは……!」

 

 遠くに見えたのは、焔の変身したサンシャインの姿。

 

 なぜ変身しているのだとか、師匠と一緒だったんじゃという疑問に満ちる。そしてお兄さまはこれを好機と捉えたようだった。

 

「どうやら別の魔法少女も来たようだ。はやくこの場を」

《ヤミノマー!》

 

 わたしたちが魔法少女サンシャインに気を取られた一瞬の隙をつくように、《ヤミノマ》がこちらに向かって突進してきていた。

 

 だめ。この距離、かわせない。

 

 魔法少女に変身しなきゃやられる。

 

 けれど、人にバレてはいけないとアネモスさんも言っていた。それが魔法少女の掟だって。

 

 でも、このままじゃ2人揃って。

 

 けど、だけど。

 

 

 

 焔は戦っているのに、わたしは。

 

 

 

 ドンっと押される感覚。なにが、と思ったら自らを突き飛ばすお兄さまの姿が。

 

「お兄さま……っ!?」

《ヤミミ〜!》

 

 思わず叫ぶも、時すでに遅く。

 《ヤミノマ》が繰り出した攻撃に兄が巻き込まれた。その光景を見た瞬間、秘密だとか、規則だとか全てが吹き飛んだ。

 

「変身ッ!」

 

 衣装が変わると同時に力がみなぎってくる。衝動のままに、わたしは《ヤミノマ》に向かう。

 

「お兄さまに、なにをしているの!!!」

《ノマッ!!?》

 

 そのまま蹴りの波状攻撃を繰り出し、《ヤミノマ》の装甲を剥いだ後に柔らかい腹部に力一杯の拳を叩き込んだ。

 《ヤミノマ》はそのまま倒れ伏し、消滅していった。

 

 わたしはすぐさま、お兄さまの元へと向かう。

 

「お兄さま!」

「まさか、澪……きみが魔法少女だったとはね……」

 

 《ヤミノマ》からの攻撃で吹き飛ばされたお兄さまは、全身に怪我をしていた。動かない身体で、驚いたような顔でわたしを見ている。眼鏡も、割れてしまっていた。

 

「お兄さま! しっかりしてください! どうして、わたしなんか……!」

「驚きはしたが、不思議ではないか……きみは、昔から努力を重ねていたからな」

「え……」

 

 その言葉に、わたしは言葉を失った。どうしてわたしが努力していたことを知っているの……?

 

「なにを驚いている? 知っていたさ、夜遅くまで勉強していたことくらい。よく眠らないようにと、苦手なコーヒーを無理して飲もうとしていたな……」

「どうしてそのことを……お兄さまは、わたしに興味がないとばかり……」

「家族だぞ。何年一緒に居たと思っている。……親や親族の手前、口にはできなかったが、ずっと見ていたさ。そして、わかっていたさ。きみが僕に憧れていることくらい。だから僕は、きみを見はしたが、言葉にしなかった。僕は僕、きみはきみだ。僕に、依存して欲しくなかったからだ……」

「お兄さま……」

 

 兄は知っていたのだ。

 

 わたしの努力を、わたしの憧れも、何もかも。わざと冷たい態度をとっていたのは、わたしのためだと。

 あの時、焔にだってキツい言い方をしていたのも、お兄さまなりにわたしを心配してくれていたのだと、今わかった。

 

「澪諦めるな。きみが魔法少女なら……諦めることだけは諦めるな。僕が知っている魔法少女たちならば、そう……して……いる……」

「お兄さま!」

 

 そのままお兄さまの力が抜けていく。

 

 生きている。

 

 だけど、《ヤミノマ》の一撃を食らったことに怪我、そして負のエネルギーを吸われたことによる気絶だ。

 

 ミラクルパワーによる中和。魔法少女にはそれができる。だけど、その為には先ずはこの隔離空間(コンサート)を解除しなければならない。そしてその為にはこの場の《ヤミノマ》の退治、そしてあの二人組を倒さなくては。

 

「待っていてください、お兄さま。すぐに決着をつけて参ります」

 

 その瞳には、もう揺らぎはない。

 

 わたしは魔法少女オーロラミスト。

 人を守り、《ヤミノマ》を倒す者。お兄さまが守ろうとしてくれたものを、今度はわたしが守る。

 

 そんな思いを胸に、わたしは戦闘の音が鳴る方へ、サンシャインの元へと駆け出していく。

 

「あははははッ! 所詮は未熟な魔法少女! それも一人ならば、このエレガンシアの敵ではないのよぉ!」

「う、くぅぅ……!」

 

 焔は追い詰められていた。

 あのやたらと派手な女が《ヤミノマ》に指示を出している。

 

「やってしまいなさい、《ヤミノマ》! 生意気な魔法少女を倒すのよ!」

《ヤミノマー!》

《ヤミノマー?》

「うわわっ!? ずるいぞこのぉーっ!」

 

 2体同時に囲まれ、焔も焦っていた。

 

 一体はどうにか押し返すも、もう一体が襲いかかって来た。このタイミング。やられる。だからこそ、わたしはそこに割って入った。

 

「はぁぁぁっ!」

《ヤミーッ!!?》

 

 回転しながら、《ヤミノマ》を蹴り飛ばす。

 不意打ちだったからか、モロに食らった《ヤミノマ》はそのまま消滅していった。

 

 わたしの姿を見た焔が、喜んだ表情を浮かべた。

 

 ほんと、喜怒哀楽がわかりやすい娘ね。

 

「オーロラミスト!」

「ごめんなさい、もう大丈夫。一緒にあいつを倒しましょう」

「……うん! ありがとう!」

 

 わたしの変化に気付いたのか、焔は何も言わずに二人で並ぶ。

 

「あらあら、今度は随分と可愛らしい魔法少女が来たじゃない。ですが、それでこの《トライデント》のエレガンシアを倒せるとでも?」

「筋肉も、体格も何もかも足りない未成熟な卵だな! このキンニバベールが手を出すまでもない、そのまま《ヤミノマ》で捻り潰してくれようぞ!」

 

 この事態を引き起こした怪人たちが邪悪な笑みを浮かべる。《トライデント》、あのアクラーツと同じダークネスとやらに仕える幹部。その強さは未知数。

 それに《ヤミノマ》だってまだまだいる。だけど、わたしも焔も微塵も怯えていなかった。

 

「さぁ、ここから反撃です!」

「あなたたちの思い通りにさせないよ!」

 

 必ずコイツらの思い通りにはしない。

 二人ならばきっと切り抜けることができる。わたしと焔は戦いに身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「……嶺」

「ぬぅ。随分と負のエネルギーで吸われておるのう。纏わりついておる。はよう、せねば目覚めんくなるぞ」

 

 一際大きな揺れが起こり、その方向へ視線を向ければ、そこには倒れ伏す嶺の姿があった。

 

 俺はすぐに嶺の調子を確認する。

 ひどい状態だ。周りに澪はいない。だが、周囲の荒れ具合や嶺の傷を見ることである程度の事情は察せた。

 本当に素直じゃないやつだ。だけど、()としての務めを果たしたその姿に、俺は敬意を抱く。

 

「ムラサメ、祓うぞ」

「良いのか? これから幹部と戦うの力を使ってしまって」

「良いんだ。確かに、力は少しでも抑えるべきだけど……彼は、俺の親友なんだ」

「左様か。なら、仕方ないのう」

 

 俺の言葉にムラサメはすぐに、嶺に纏わりつく負のエネルギーを祓い始めた。これで何とかなるだろう。あとは、傷の方だが大金持に頼むか。

 

 そのまま通信機のスイッチを入れて、大金持に連絡を取ったあとオレは顔をあげる。

 

「ボス。やるの?」

「あぁ」

 

 寧々子が見上げて来る。

 さっきまで俺に合流するなり、抱きついて離さなかったが落ち着いたようだ。そんな寧々子からの言葉に、オレはいまだに戦闘音が鳴る方向へ視線を向ける。

 

「目標は《トライデント》。奴らを駆逐する」

 

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