魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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無頼、再び

 

「青二才の夢見がちな小娘たちめ! 舐めるんじゃないわよ!」

 

 エレガンシアは癇癪を起こしたように怒鳴り、《ヤミノマ》を差し向ける。

 

 サンシャインとオーロラミストはそれに対抗する。気持ちは負けていない。力も漲っている。しかし、純粋に手が足りなかった。

 

《ヤミノマー!》

《ヤッミミ〜!》

《ヤ〜ミ〜!!!》

「うぐぐ、数が、多すぎるッ……!」

 

 手をこまねけば、こまねくほどに《ヤミノマ》は破壊を撒き散らし、そしてその姿を見た人々から負のエネルギーを集め、更に強化される。だからその前に止めないといけない。

 

 幸いと言って良いのか、周囲の人々は二人が戦っている間に避難したおかげで《ヤミノマ》の強化も緩やかだった。しかし、それもいつ均衡が崩れてもおかしくない。

 

「サンシャイン、焦らないで!」

「オーロラミスト。でもっ、このままじゃ」

「わかってる! けれど、焦って闇雲に戦っても勝機はないわ!」

 

 とは言ったものの、オーロラミストとしても、現状を打破できる術を思いつくことができない。

 

 せめて、アネモスが目覚めてくれれば状況が改善どころか逆転できるのだが、相手もそれはわかっているのか《ヤミノマ》がずっとアネモスの周りで負のエネルギーを送って、目覚めるのを阻止している。

 

「ふふふ、どうやらこっちの勝ちは揺らぎそうにないわね。実際に見て信じられないわねぇ。こんな、おちびな魔法少女にアクラーツが倒されただなんて。やっぱり、鈍っていたのかしらねぇ」

「どちらにせよ、ここでヤツらを倒せれば問題はなしッ! やはり鍛え方が足りんなァッ! ゆけい! 我が《ヤミノマ》よ! 奴らを倒すのだァ!」

 

 キンニバベールの号令の下、更に《ヤミノマ》が二人に向かって走り出す。その光景を見て、サンシャインとオーロラミストは顔を苦しそうに歪め──

 

《ノマッ!?》

 

 不意に、《ヤミノマ》の身体に影が出来て何かが押し潰した。

 

 謎の闖入者(・・・)に、全員が固まる。

 

 なぜならそこにいたのは、魔法少女ではない。一匹の猫科の生物。

 

 一振りするだけでコンクリートの道路に深い爪痕を残すであろう巨大な爪とは裏腹に、ぷにぷにと柔らかそうな肉球。二本に分かれた大きな尻尾は、それだけで巨大な木を彷彿とさせるくらい太い。《トライデント》は知らず、対してサンシャインとオーロラミストは知っている生物。

 

「ラ、ライオン(・・・・)!!?」

「どこから現れましたの!?」

 

 そう、百獣の王のライオンであった。

 

 最も、あの特徴的なたてがみはなく()の方であったが恐ろしい風貌には変わりない。ライオンがギョロリとふたりを見る。《ヤミノマ》とは違う、本能的な恐怖に思わず二人がすくむ。

 

「相変わらず、よわよわだね。あれだけ言ったのに、まだそれだけしか強くなってないの?」

「しゃべったぁ!? あれ、その口調……!」

 

 覚えがあった口調に驚く暇もなく、目の前のライオンが姿を変えていく。やがて現れたのはあの日、同じく一撃で《ヤミノマ》を葬った存在。

 

「あの時のケモ耳さん!」

「……ちがう。魔法少女カーバンクル。それが名前」

 

 サンシャインの言葉に、カーバンクル──寧々子は不服そうに耳を絞る。

 

「そっか。ならカーバンクル! いっしょに《ヤミノマ》を倒そう!」

「やだ」

「うん、なら一緒に……ってえぇ!?」

「うるさい」

 

 きゅっと、自らのケモ耳をしぼる寧々子。しかし、サンシャインの衝撃は収まらない。

 

「な、なんで!? あなたも魔法少女なら《ヤミノマ》から人を守るために戦うんじゃないの!?」

「知らない。あたしが此処に来たのは、ボス(・・)の頼みだったから」

ボス(・・)?」

 

 聞き慣れない言葉に、サンシャインは首を傾げた。

 逆に、カーバンクルは鼻息を荒くして語り始める。

 

「そう。かっこよくて、やさしくって、つよつよで、カーバンクルを甘えさせてくれる人。毎日ごはんも用意してくれるし、お布団だって準備してくれる。寝れない時は子守唄だってしてくれるもん」

「は、はぇ〜」

「それって最早飼育員なんじゃ……?」

 

 サンシャインは、お口をぽかーんとし、オーロラミストの突っ込みにも寧々子は耳を貸さない。

 

《ヤミノマー!》

「会話の途中で、うるさい」

 

 三人の隙をついて襲いかかる《ヤミノマ》。

 

 思わず回避を選択した二人とは対照的に寧々子はその場で迎撃を選んだ。

 

「〝つよパンチ〟」

《ノマッ!? ノ〜マ〜……!》

 

 安直なネーミング。

 しかし、その威力は軽く街灯をへし折るほどだ。《ヤミノマ》の攻撃を負けじと相殺したが、《ヤミノマ》は倒れない。

 

「む、まだ倒れない」

「むっはァッ! 人間どもの負のエネルギーを集めて強化された《ヤミノマ》! その程度ではビクともせ……いや、ぬぅ。結構きいておるな……しかし! どの道、その程度の力で倒すことは不可能ぞっ!」

「なら〝つよつよパンチ〟」

《ヤ、ミ、ノ、マッ!?》

 

 更に連続パンチ。

 

 一撃は耐えられた《ヤミノマ》も、連続の拳に身体中に肉球の痕が出来て倒された。それを見たキンニバベールが嘆く。

 

「ぬおぉぉぉぉっ!? しっかりしろォッ! ワレと血が滲む努力をした過去を思い出すのだぁ!!!」

「いや、今生み出したんだからそんな過去ないでしょうに。でも、そうね。あの娘、厄介ねぇ? なら、優先的に始末するとしましょうか」

 

 エレガンシアが指を鳴らすと同時に、周囲の《ヤミノマ》が一斉に標的をカーバンクルへと変える。

 

「たいへん! こっちを狙ってきてる!」

「3体同時……、ここは力を合わせましょう」

「必要ない」

「「えぇっ!?」」

 

 またも拒否。

 しかし、寧々子だけは動じず自然体で《ヤミノマ》を見ている。

 

だって(・・・)もう来てるから(・・・・・・・)

 

 3体の《ヤミノマ》が一瞬で斬り刻まれる。

 

 そして、残骸を紫の炎が覆い尽くした。

 

「うおぉぉぉぉ!!? 鍛えあげたワレの《ヤミノマ》たちがぁッー!?」

「どういうこと!? 魔法少女アネモスは無力化したはず……!?」

 

 その光景に驚く《トライデント》の二人。

 だが、サンシャインとオーロラミストには見覚えがあった。《ヤミノマ》を切り捨て、紫の炎の先から現れた人物。その姿を二人は忘れない。

 

「貴方はッ……!」

「無頼!」

 

 燃え盛る紫の炎を携えた日本刀を持つ仮面の男。

 当然のように、魔法少女カーバンクルが無頼の側に寄り添う。

 

「また会ったな、魔法少女サンシャインとオーロラミスト。君たちはまるで台風のようだな。いつだって騒ぎの中心にいる。だが、それでこそ」

「ボスッ!!!」

 

 言葉の途中で遮られる。

 

 あっとういう間に距離を詰めたカーバンクルが、無頼へと抱きついた姿に呆気に取られたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 大仰な雰囲気で語りかけようとしたら、駆け寄ってきた寧々子によって空気が壊れてしまった。

 

「ねぇ。ねぇねぇねぇ、カーバンクル待ってる間に一体倒したよ。えらい?」

「あぁ、あとでうんと褒めてあげるから、とりあえず、あとにしてくれないか」

「だめ。いま褒めて。いま!」

「すごく食い下がるな……」

 

 ぐいぐい迫る寧々子をよしよししてあげる。むふー、とご満悦そうだった。

 一方で焔ちゃんと澪は物怖じせず、親しげに話しかけるカーバンクルに呆気に取られているようだった。そりゃそうだよね。

 

「ボ、ボス?」

「随分と親しげですね。いったいどういう関係……?」

「ううん、そんなの関係ない」

「サンシャイン!?」

 

 焔ちゃんが臆することなく俺に近づいていく。

 

 澪はそれに驚いた表情を浮かべるが、内心俺も同じだ。かつてアクラーツを倒した際に会ったが、その時は警戒心を露わにしていた。今も澪の方は、俺の方を警戒と僅かな恐怖を宿して見てくる。

 

 しかし、焔ちゃんはそのまままっすぐとやってきて。

 

「お願い、あいつらを倒すために協力してください!」

 

 頭を下げて頼みこまれた。

 

 ……あぁ、この娘は本当に主人公なんだな。こんな怪しい人物に、それでも人々を助けるために頭を下げられるだなんて。

 

「良いだろう。元より奴らを倒すつもりだからな」

 

 だからその頼みを受け入れる。

 

 今回の騒動が、俺がアクラーツを倒したことに起因するというのであれば、その尻拭いをすべきだ。

 

「倒すぅ? わたくしたちを? あははは! 冗談もおよしなさいな! 《ヤミノマ》相手にも手こずるアンタたちに何ができるっていうのよ!」

「なめないでもらおうか」

 

 嘲るように笑うエレガンシア。それに対して、俺はすぐさま声を遮る。不服そうにエレガンシアが顔を顰めた。

 

「確かに彼女たちの力は未だ発展途上。せいぜい時間稼ぎが関の山だろう。しかし、稼いだその時間が数多くの命をお前たちから逃した」

 

 俺は知っている。

 

 焔ちゃんと澪が戦っているおかげで、逃げられた人がいることを。隔離空間(コンサート)がある限り、本当の意味で逃げられることはできないが、それでも《ヤミノマ》に直接襲われることはなくなった。

 

 それは全てこの子たちのおかげだ。

 

「そして何より、俺を誘き寄せた。わからないか? やりすぎたんだよ、貴様らは」

 

 平和に過ごす人たちを、自分勝手に人を襲い。

 

 俺に──(・・)のことを思い出させ。

 

 挙げ句の果てに、人の親友まで手を出しやがって。

 

 ゆるさん。ゆるさねぇぞ。

 

「貴様たちは、俺が裁く。誰でもない、俺がそう決めた。あのアクラーツと同じように、後悔する暇すら与えず叩き潰す」

「はぁ〜ん? それじゃ、貴方があのアクラーツを滅した張本人って訳ぇ? はっ、そっちから出てきてくれたのなら上等よ! 始末してやるわ!」

「侮るなエレガンシア! ワレの筋肉が震えておる。舐めてかかるべきではないゾよ! 筋肉的直感(・・・・・)が告げておる!」

筋肉的直感(・・・・・)ってなによ」

「〝鬼祓門〟」

 

 揉めている二人を他所に、紫の炎をムラサメに纏わせた俺は、炎の斬撃を放った。空気を切り裂き、焼き尽くす炎に《トライデント》の二人は慌てて回避する。

 

「ちょっと!? 離れているのに、何この威力!?」

 

 その威力を見たエレガンシアが驚く。一方でキンニバベールは戦意を漲らせる。

 

「侮ってもらっては困るな! 《ヤミノマ》を操るこのワレが、《ヤミノマ》よりも弱いとでも!?」

 

 《トライデント》の中でもキンニバベールは、本人で戦う武闘家でもある。

 

 最新の『魔法少女マギアイリス』では、幹部格も戦うのが最早お約束となっていたが、初代ではキンニバベールだけだ。

 

 迫り来る音速の拳。

 

 俺はそれを身体を逸らすことで躱す。返す返す形で、ムラサメで斬りつけるがキンニバベールはすぐに腕を交差し、硬い筋肉に阻まれる。

 

「ふっはぁ! まだまだ鍛え方が足りないなぁ!」

 

 浅い。

 

 斬れているが、両断に至っていない。どうやら想像以上に厄介なようだ。

 

《ぐぬぅ、たかが筋肉にワガハイの刃が通じぬとは》

「人間に似ていても根本的に違う存在なんだ。見た目で判断してはいけないよ」

「何をボソボソ喋っておるのだ! もっと腹から声出せいッ!」

 

 俺がムラサメと会話していると、キンニバベールが勘違いして重い一撃を繰り出す。ぐっ、見た目通りパワーだけは一丁前だな。

 

「エレガンシアァッ! こやつはワレがぶっ潰ぅーす!!! そ奴らは任せたぞ!!!」

「はぁ? 何を勝手な……!」

 

 キンニバベールがエレガンシアに告げると同時に、俺に向かって拳を突き出してくる。その威力は、ムラサメで受けたにも関わらず大きく俺が吹き飛ばされるほどだった。

 

「ボスッ!」

 

 寧々子が心配そうな声をあげる。

 

 だが見かけほどのダメージはない。ムラサメでうまく防御したこと、わざと飛ばされたことで威力を受け流すことができている。

 

 俺は手で合図(サイン)をして、寧々子にその場で《ヤミノマ》を倒すように指示を出す。寧々子は、それに気づき頷いた。

 

 そのまま数秒ほど吹き飛ばされる。

 やがて人気のない交差点に着地する。

 

 良い具合に、焔ちゃんと澪から離れることができた。ポキポキと指を鳴らしながらキンニバベールが迫る。

 

「ぬぁはははッ! 謝っても許さんぞ! ギッタンギッタンのぼっこぼこにしてくれるわ!」

「あぁ、別に構わない」

 

 腰に携えるムラサメに手を置く。

 

「こっちも最初からオマエを逃すつもりはないからな」

《くははは! ワガハイらに刃向かおうとする愚か者め! 見せてやるのじゃ、主様!》

 

 さて、生粋の武闘派であるキンニバベールにどこまでやれるか。これからの戦いの試金石になるだろう。なにせ、今後現れる敵はほとんどが《ヤミノマ》だけでなく、自らも戦える武闘派だからな。

 

 お前でオレの戦闘能力を見定めさせてもらう。

 

 だから、簡単にはくたばらないでくれよ?

 

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