魔法少女だけが戦う世界で、男が生き残る術とは? A.映画ボスを集めます   作:異星人アリエン

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事件の終幕、そして暗黒の胎動

 

「とりゃあぁぁっっっ!」

 

 気迫の雄叫びをしながら拳を振りかざすのは、魔法少女サンシャイン。

 しかしその拳を向けられた《トライデント》のエレガンシアは、やたらと豪華絢爛の衣装をたなびかせながら、流麗に躱す。

 

「躱された!?」

「あ〜ら、隙だらけねぇ! 〝エレガント・ナップ〟ッ!」

 

 エレガンシアは手に持つ鞭で、サンシャインを迎え討とうとする。空中で躱すことができないサンシャインに、防ぐ手段はない。

 

「させないわ!」

 

 サンシャインを追撃しようとしたエレガンシアを、魔法少女オーロラミストが妨害した。防がれたエレガンシアは不愉快そうに眉を顰める。

 

「ありがとう、オーロラミスト!」

「あまり出過ぎてはダメよ、サンシャイン。二人で倒しますのだから!」

「うん! ごめんね!」

「粘るわねぇ……、散る時は美しく。そう思いませんこと?」

 

 わざとらしいエレガンシアの挑発。

 それに対して、二人は自信満々に答える。

 

「あいにくと、あたしはたとえ土まみれになっても最後まで諦めない派だから!」

「結構です。わたしは綺麗に負けるより、みっともなくとも勝つ方が好きなのですので」

「ほんと、生意気ね。あなたたち。でも、そうね。そういった生意気な奴らを絶望させるのが、何よりも楽しいのよ!」

 

 再び振るわれる鞭の嵐。

 それを躱しつつ、二人は会話する。

 

「カーバンクルが他の《ヤミノマ》を受け持ってくれたおかげで、なんとか対抗できるわね」

「だからこそ、あたしたちはあいつを倒さないと!」

 

 周囲の《ヤミノマ》は全てカーバンクルが受け持ってくれた。

 

 おかげでエレガンシアとの戦いに集中できている。

 

 状況は互角。ただし、こっちが二人がかりであることを踏まえるとやはりエレガンシアがやや優勢。だが、向こうも時間が経つにつれてコンビネーションが洗練されていく二人を攻め切れていない。

 

 しかし、より先に別のところで状況が動いていた。

 

 巨大な衝撃と共に、紫色の火柱があがる。思わず両者とも、その音の発生源を見てしまう。その時、火だるまとなって何かが三人の間に、転がってきた。

 

「が、がががががっ……!」

「キンニバベール!!?」

 

 紫の炎に焼かれて火だるまになっているキンニバベール。エレガンシアは驚愕し目の前の二人から目を離してしまう。

 一方でその光景に見覚えがあるサンシャインとオーロラミストは動揺しない。

 

「いまよ!」

「うん!」

「しまっ」

「「〝ダブル・マギアイリス・キック〟!」」

 

 呼吸を合わせての、背中合わせで放つ二人のキック。

 その合体技は、エレガンシアに直撃してそのまま吹き飛ばした。

 

「うー、やったぁ! 練習した甲斐があったね!」

「あのアクラーツを見てから編み出した合体技……効いてよかったわ」

「うんうん、オーロラミストも何度も失敗して転んだ甲斐があったね!」

「そ、それは言わなくても良いでしょう!? それよりも、早くトドメを」

 

 しかし、土埃が晴れた時にはエレガンシアの姿が消えていた。

 

「ってあれ!? いない!?」

「逃げられたの!? でも、あれだけの重症でどうやって?」

 

 二人して困惑する。そしてみすみす取り逃したことを悔やむ。

 

「あれ、もうおわったの?」

 

 そこへカーバンクルが現れた。

 

 そのほかの《ヤミノマ》たちを一手に引き受け、その全てを倒し切った魔法少女は傷らしい傷も見当たらず、意外そうに目を丸めた。

 

「ふぅ〜ん、てっきりカーバンクルが倒さないといけないと思ってたから意外だね」

「へへん、どう? あたしたち、ちょっとはつよくなったんだよ!」

「えぇ、その通りです。だから、あの言葉を取り消しなさい!」

「むぅ〜……。しょうがない。認めてあげる。カブトムシのふたり」

「カブトムシ!?」

「だから、なんでムシで例えるのですか!?」

 

 相変わらず、変な例えをしてくるカーバンクルに二人揃って抗議の声を上げた。

 

「カーバンクル。ご苦労だった」

「ボス!」

 

 そんな三人の元に、現れたのは無頼。

 

 その姿を見たカーバンクルはすぐさま側に駆け寄る。そのままよしよしとされていた。

 

 そしてサンシャインとオーロラミストは、驚きの表情で見ていた。

 

 無頼がやってきた方向を見れば、地面が陥没し、車や信号機が余波で壊れているのが見えた。それだけでも、戦闘の激しさを物語っていたにも関わらず、ほとんど傷ひとつない状態の無頼を見て衝撃を受けていた。

 

「そちらも終わったようだな」

「無頼さん、えっと、あのキンニク? は……」

「あぁ、問題ない。すぐに終わる」

 

 キンニバベールの名前を覚えていなかったサンシャインの問いに、無頼は答えると同時に日本刀(ムラサメ)の鯉口を鳴らした。

 やがて炎上していたキンニバベールが完全に紫の炎に包まれ、その炎は無頼の持つ日本刀へと還っていった。

 

 あの時と同じ。

 

 《トライデント》のアクラーツが倒された時と同じ現象だ。

 その光景に二人は気圧される。二人とて何度も《ヤミノマ》を倒したことはあるが、人型の相手が凄惨な最期を迎える光景はやはり中学生の少女には刺激が強かった。

 

 その様子を見た無頼は、内心ちょっと見せるべきではなかったかと悔やむ。そして、それを誤魔化すように、空を見上げる。

 

「目的は達した。じきに、隔離空間(コンサート)も閉じるだろう。我々がこの場に留まる理由はない。行くぞ」

「わかった!」

 

 なんの感慨もなく、去ろうとする無頼。それについて行こうとするカーバンクル。

 

「待ちなさい」

 

 そこに待ったをかける声。

 

 《ヤミノマ》が倒されたことで気絶から復活したアネモスだった。無頼は胡乱げに、アネモスを見る。

 

「まだなにか?」

「……ありがとうございました。あなたのおかげで、被害を防ぐことができました」

 

 アネモスは頭を下げた。きっちり九十度、見事なおじぎだった。

 

 誠心誠意を体現したかのような姿勢に、無頼も虚をつかれたような顔をする。

 

「だからこそ、もう一度言います。私と来てください。あなたのその力、そしてそちらにいる魔法少女について尋ねたいのです」

「悪いが、それはできない」

「しゃー!」

 

 明確な拒絶だった。

 

 隣にいるカーバンクルも、本当の猫のように威嚇している。

 

「あわわ……」

「いったいどうすれば……」

 

 和やかだった空気が、緊迫感漂うものになっている。

 まだ魔法少女となって日の浅いサンシャインとオーロラミストは、固唾を呑み、緊張しながらその様子を見守る。

 

「どうしてですか? 前の会話から予想するに、あなたは《魔法執行機関》を知っていますよね? なら魔法少女が《魔法執行機関》に属する理由も、ご存知のはずです。魔法少女を守るため(・・・・)だということを」

「確かに俺は知っている。だが、その上で拒否する。なぜなら俺は魔法少女を好ましく思ってはいるが、《魔法執行機関》は信用に値しないからだ」

「それは一体……」

「悪いが語る気はない」

 

 無頼は多くを語らず、頑なに拒否だけを貫いている。

 

(カーバンクルを見ているの……?)

 

 しかしその時、サンシャインは気付いた。無頼の視線は、カーバンクルに向けられていた。短い会話だが、カーバンクルの慕いようから無頼がカーバンクルを大切にしているのはわかった。

 

 なら、無頼がアネモスの同行を拒否するのはカーバンクルのため? でも、《魔法執行機関》は魔法少女のための組織だと聞かされているサンシャインは、なぜ無頼が拒否するのかがわからなかった。

 

 カーバンクルを大切に思っているのなら、話を聞く方が良いのにである。

 

 アネモスは向こうが譲る気がないと悟ったのか、やがてため息を吐いた。

 

「……わかりました。では、次会ったときにこそ問いたださせてもらいます」

「意外だな。今すぐに力づくにでもくるかと思ったが」

「自身の不手際で周囲に危険が及んだのに、尻拭いをしてもらった相手にそのような不義理はできません。サンシャイン、オーロラミスト。あなたたちも、ありがとうございました。不甲斐ない私に代わって、人々を守ってくれて」

「え、いや、そんな! あたしは、なんとかしなくちゃと思っただけで褒められるなんて。えへ、えへへ」

「えぇ、結局あのエレガンシアとやらは逃げられてしまいましたし……」

 

 サンシャインはデレデレと、オーロラミストは悔しそうに顔を顰めた。しかし、それでもアネモスは二人を褒めた。

 

 やがて空が青くなっていく。

 隔離空間(コンサート)が本格的に解除され始めていた。

 

「また会おう、魔法少女たち。君たちが平和に過(・・・・)ごせること(・・・・・)を祈っている」

「じゃあね、カブトムシなふたり」

 

 二人が去っていく。

 

 サンシャインもオーロラミストも、アネモスもその背中を見送ろうとし──

 

「あと、腹筋おばけ」

「誰が腹筋おばけですか!!?」

 

 最後にカーバンクルが悪意なく思ったままに言ったことで、追いかけっこが始まったが、結局無頼たちは去っていった。

 

 

 こうして、《ヤミノマ》十体の同時出現、《トライデント》二人との戦闘という、今までにない一連の事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「ちくしょう、なんでこんなことに……! こんなの、エレガントじゃない……!」

 

 命からがら逃げ出したエレガンシア。

 彼女は、《ディスナンド》の本拠地である《ダーク・ディストピア》で悪態つく。

 

「動員した《ヤミノマ》は全滅。キンニバベールも……くそっ、どれもこれも、アイツのせいだ……!」

「随分と手ひどくやられたようだな、エレガンシア」

「ッ!? ダ、ダークネス様!!?」

 

 声が響いてきた。

 

 元々灯りに乏しい《ダーク・ディストピア》であるが、それすらもかき消え、周囲が真っ暗になる。凍てつく寒さの中、ただ突如として暗闇に浮かぶ、双眸のみが爛々と輝く。

 

 《ディスナンド》の首魁、ダークネス。

 

 彼でもない、彼女でもない、生命といえるかも怪しい超常の存在がその場に現れた。

 

「キンニバベールはどうした」

「は、はっ。キ、キンニバベールは、そのっ、た、倒されてしまいましたっ……!」

「ほう。魔法少女に遅れを取るとは。どうやら余は《トライデント》を過大評価していたようだな」

 

 聞くもの全ての命が震えあがるであろう、おどろおどろしい声。

 落胆、その目が自身に向けられていることに気付いたエレガンシアは咄嗟に否定してしまう。

 

「ち、違います!!! 魔法少女はあくまで《ヤミノマ》相手に後手後手でした! その力も、わたくし達には遠く及びませんでした! キンニバベールが、いえアクラーツも殺されたのは妙な力の宿った刀を振るう男のせいです!!!」

「なに? 男が?」

 

 僅かに面白そうな声色で、ダークネスが興味を示す。 

 

「……其奴もまた興味深いが、やはり邪魔なのは魔法少女の方か。ミラクルパワーを十全に扱えるのは、あの星の若い女のみ。奴らに対抗できぬと言うのであればば、より負のエネルギーで満たせば良い」

「ダークネスさま……?」

「貴様に力をくれてやろう。その力を持ってして魔法少女と《トライデント》の二人を殺したという不穏分子を排除せよ」

 

 暗闇が、エレガンシアに迫る。

 

 敬愛すべきダークネスからの指令。

 

 しかし、どうしてかエレガンシアには死刑告知にしか聞こえなかった。

 

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